三浦 しをん

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本書『まほろ駅前番外地』は、『まほろ駅前多田便利軒シリーズ』の番外編として位置づけられる短編集ですが、内容面でも時系列的にも、そのままシリーズを構成している作品だと言えます。

全七編からなる短編集ですが、多視点で構成された少々毛色の変わった作風になっていて、そういう意味では「番外編」なのかもしれません。

 

東京都南西部最大の町・まほろ市の駅前で便利屋を営む多田と、高校時代の同級生・行天。汚部屋清掃、老人の見舞い、庭掃除に遺品整理、子守も料理も承ります―。多田・行天の物語とともに、前作でお馴染みの星、曽根田のばあちゃん、由良、岡老人の細君が主人公となるスピンアウトストーリー七編を収録。(「BOOK」データベースより)

 

三浦しをんという作家の新たな側面を見たと思ったのが、二作目の『星良一の優雅な日常』です。

というのも、読みやすい点は変わらなくても、文体が少しですがハードボイルドタッチなのです。まほろ市の「裏社会の貴公子」星良一の、恋人の新村清海に振り回されながらも「業務」をこなす、とある一日を描いた作品です。

どことなく石田衣良の『池袋ウエストゲートパークシリーズ』に出てくるG-Boysのリーダー安藤崇を思わせるこの男の、思いがけない側面が描かれていて、個人的には一番好きな作品です。

 

 

始めの短編は「光る石」。

前作に登場し、横中バスの運行本数に異常なまでの執着を見せたのは岡氏でした。その夫人の視点で描かれる話が「岡夫人は観察する」。

まほろ市民病院に入院中の曾根田のばあちゃんの青春を描く「思い出の銀幕」。

第一作にも登場した田村由良の視点の短編が「由良公は運が悪い」。

今後のシリーズの中でも重要な位置を占めるであろう柏木亜沙子が登場する「逃げる男」。

それに「なごりの月」。

 

それぞれに、ちょっと笑えたり、思わず自分の内面を見返したり、と、なんとなく自分の来し方を振り返ってしまうような、バラエティに富んだ多視点の作品集です。

[投稿日]2015年03月26日  [最終更新日]2020年8月22日
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