金子 成人

付添い屋・六平太シリーズ

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大名の上屋敷は、藩主も居住する公的な場所である。それに比べて監視の目が薄い下屋敷の風紀は乱れやすい。酒を呷り、女を連れ込んで大騒ぎする者もいた。また、参勤交代でやって来た国元の侍と常時江戸詰めの侍の諍いも絶えなかった。付添い稼業を営む秋月六平太は、四谷・相良道場の門弟でもある。道場に隣接する笠松藩石川對馬守下屋敷の使い方、横田邦士郎が相良道場に駆け込んできた。笠松藩は刃傷沙汰を起こした邦士郎の引き渡しを要求。道場側の交渉役となった六平太に、藩剣術指南役の唐沢信兵衛は剣での決着を挑む―。日本一の王道時代劇第八弾! (「BOOK」データベースより)

付添い屋六平太シリーズの第八弾です。第三部の第二巻目ということになります。

第一話 大根河岸
青物問屋「加島屋」の主人・幸之助から下赤塚にある富士塚までの付添いを頼まれた六平太は、片道四里半(18キロ)を同行することになった。ここ三、四年、幸之助は道中で体調を崩してしまうというのだ。
第二話 木戸送り
六平太が稽古に通う四谷の相良道場に、常陸国笠松藩石川對馬守下屋敷の使い方、横田邦士郎が助けを求めて駆け込んだ。屋敷内で喧嘩から刃傷沙汰を起こした邦士郎は、なんとか無事外に逃がしてほしいと懇願する。
第三話 評判娘
六平太がなにかと世話を焼いている博江が、「当世 評判女」に東の前頭八枚目で番付入りした。物見高い男たちが勤め先の代書屋へやってくることに、武家出身の未亡人である博江は戸惑っていた。
第四話 二十六夜
妹佐和の夫音吉から付添いの相談を受けた六平太は鉄砲洲にいた。音吉の幼なじみ巳之助は、四年前に人を殺めた罪で遠島となっていたが、恩赦で江戸に戻ってくるという。音吉は巳之助が復讐に向かうことを恐れていた。(「内容紹介」より)

間が空いたため、以前の物語がどうであったか判然とはしないのですが、少なくとも本書は痛快時代小説というよりは人情物語といったほうがいいような構成になっています。

まず、第一話の「大根河岸」という話から、青物問屋「加島屋」主人の幸之助の人情話になっています。富士講に行くと、必ず旅先で数日間寝込むことになるという幸之助の体を心配した家族が付き添いをつけるようにしたのですが、目的地に着くと、六平太には家族には内緒にするようにと言い残し、どこかへと消えてしまったのです。

この物語は、六平太がいなくても成立する、加島屋主人幸之助の物語です。幸之助の秘密の行動が描かれ、人情話が展開されるのですが、六平太は幸之助の人生の一こまに立ち合ったに過ぎないのです。

また第三話「当世 評判女」は、「当世 評判女」という見立て番付で大関、関脇に載った女が三人、立て続けに襲われ顔を傷つけられる事件が起きます。そこに博江が載ったことで、博江の困惑は大きくなるばかりでした。ただ、物語は、六平太の得意客の「飛騨屋」の娘登世につきまとう、もと亭主の吉三郎のストーカー行為が主な話になっています。

第四話の「二十六夜」も、恩赦で島から帰ってくることになった元板前の巳之助の心情に思いを馳せる人情物語です。巳之助が島送りになった原因である、かつて恋仲だった娘に迷惑をかけるのではないかと心配する音吉に頼まれて、巳之助に付添う六平太でした。

ただ、第二話の「木戸送り」だけは違います。石川家下屋敷から逃げてきた横田邦士郎がもとで、六平太が通う相良道場と軋轢を生じますが、この横田という侍を守ろうとする六平太と相良道場との姿が描かれます。この物語だけは、剣士としての六平太が主に描かれています。

そして、石川家の剣術指南役である唐沢信兵衛がこの物語を通して六平太と立ち合おうとつきまとい、このあと、第三話、そして第四話と少しずつ顔を見せ、山場へとつながっていくのです。

 

この『付添い屋・六平太シリーズ』は、人情話が主ではありますが、腕利きの用心棒という六平太の稼業のアクション場面も適宜に配置し、時代小説の面白さを満喫できるシリーズの一つとして育ってきていると言えると思います。

あとは、もう少し情感を豊かにして欲しいし、六平太のかつての主家である十河藩の問題を明確にして欲しいなどの注文点もありますが、これらは個人的好みの問題として挙げておくにとどめておきます。

今後の展開を楽しみにできるシリーズの一つです。

[投稿日]2018年05月28日  [最終更新日]2018年5月28日
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