知念 実希人

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新刊書

双葉社

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本書『ムゲンのi』は、ファンタジーの形を借りた仕掛け満載の、ソフトカバー版で上下二巻(上巻349頁、下巻364頁)という長さを持つ長編推理小説です。

さまざまなジャンルの物語が詰め込まれた作品で、2020年本屋大賞候補作として、まあ面白く読めた作品でした。

 

若き女医は不思議な出会いに導かれ、人智を超える奇病と事件に挑む―。夢幻の世界とそこに秘められた謎とは!?予測不可能な超大作ミステリー。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

眠りから醒めない四人の患者、猟奇的連続殺人、少年Xの正体。すべては繋がり、世界は一変する。一気読み必至、感動の結末。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

本書『ムゲンのi』の主人公は、神経精神研究所付属病院に勤務する識名愛衣という女医です。

日本では数年の間発症例がなかった通称「イレス」と呼ばれる「特発性嗜眠症候群」の、それも同じ東京の西部に住み、同じ日に発症した患者が四人、愛衣の勤務する病院に入院していました。

彼女が担当するのはそのうちの三人の患者であり、四人は四十日間も眠り続けています。

彼女自身、幼いころの事件で受けたトラウマに悩まされている身ですが、何とか治療法を模索していました。

そんな愛衣に対し沖縄の霊能力者の「ユタ」である祖母は、マブイグミ、つまり患者のマブイ(魂)を元に戻してやると目が覚めるというのでした。

そのためには患者の魂の救済が必要で「ユタ」の血を引く愛衣にはそれができると言います。そして、愛衣に力を分けたと言うのでした。

 

そうして愛衣は病気で眠る患者の夢の中に入って病気の原因を探り出すのですが、最初の夢は親子の情愛、次が法廷ものと異なるミステリーの形態を取っています。

また、上巻での二話ははファンタジーそのものであり、なんとも違和感ばかりを感じる物語でした。

例えば、急患として運び込まれた少年に対し行う捜査一課の刑事の訊問はかなり強引に過ぎると思われるのです。

また、四番目のイレス患者の担当である先輩が、同じ症例を担当する愛衣と情報を共有しようとしないのも疑問です。

更には、愛衣が潜り込んだイレス患者の意識の中ではない、現実の場面でも何故かファンタジーの香りがするのも違和感があるのです。

下巻になると、同じファンタジーでも少々趣が異なってきます。夢はより切迫性、不気味さを増していき、クライマックスへとなだれ込んでいくことになります。

そして、それぞれの夢の物語の間には幕間が挟まれていて、愛衣が潜り込んでいた夢ではない愛衣にとっての現実が語られ、その現実で起きている連続殺人事件や「少年X」のことが示されていきます。

 

こうして本書『ムゲンのi』は、全体としてミステリーらしい大仕掛けの中で物語が展開していきます。

そして最終的にイレスや、同時進行的に起きている連続殺人事件、「少年X」などの謎が明かされていくのです。

 

ところが、クライマックスでの謎の解明の過程にはいり、意外な事実が明らかにされていくのには驚きました。

特に、本書の読み始めに感じた本書の雑な印象すらも仕掛けの一環であることまで示されたのは、驚きを超えたものがありました。

華先輩の行動に感じた疑問や、現実場面の描写に感じたファンタジーの香りも見事に説明が為されています。

 

しかしながら、個人的な好みから言うと、本書『ムゲンのi』のような作品は、面白いとは思うのですが微妙に私の好みとは違うと言わざるを得ません。

それは、一つには本書『ムゲンのi』でのファンタジーの場面が今一つありきたりに過ぎることです。ファンタジー世界の有りようが文字どおりの単なる夢物語で終わってしまっています。

また、本書で主人公が患者の夢の中で出会う自分の分身ともいえるククルは、『ライラの冒険』に出てくるデイモンを思い出させる存在です。

そして、ククルが〈無〉だという物語に登場する「闇」は、映画『ネバーエンディングストーリー』の原作となったミヒャエル・エンデの『はてしない物語』でいう「虚無」に相当する存在だと思え、物語の独自性を感じませんでした。

 

 

次に、本書『ムゲンのi』の分量がこれほどの長さが必要なのか疑問に思えたことがあります。もう少し短くても良かったのではないか。もしかするとその方がキレがよく仕上がったのではないかという思いを抱いてしまいました。

最後に、本書のような解決方法自体はミステリーの一つのあり方としてあるのでしょうが、個人的好みとして違和感を持ったことがあります。

 

とはいえ、本書『ムゲンのi』は2020年本屋大賞の候補作となるほどに読者の支持を集めているのですから、私の感想はあくまで素人の個人的な感想に過ぎず、他の読者の助けになるかは疑問です。

結論として、全体として面白い作品であること自体は否定しないのですが、個人的な好みとは少し外れた作品だった、ということになりました。

[投稿日]2020年12月05日  [最終更新日]2020年12月5日
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