彩瀬 まる

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文藝春秋

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別れた愛人の左腕と暮らす。運命の相手の身体には、自分にだけ見える花が咲く。獣になった女は、愛する者を頭から食らう。繊細に紡がれる、七編の傑作短編集。 (「BOOK」データベースより)

本書は第158回直木賞候補になった、全部で七編の短編が収められた作品集です。

「くちなし」別れた男が残していった腕だけを慈しむ女の物語。
「花虫」 運命のカップルにだけ見えるという幻の花をめぐる物語。
「愛のスカート」高校時代以来に再開した男への片想いを持ち続ける女の物語。
「けだものたち」 ケモノに変異したオンナが愛したオトコを喰らうのが当たり前の世界の夫婦の物語。
「薄布」 夫と会話が無く、北の国から避難してきた子供をおもちゃとする妻の話。
「茄子とゴーヤ」 不倫の末に逝ってしまった夫にひとり残され、普通の日常をおくる女が髪を染め、日常から踏み出す物語。
「山の同窓会」 産卵する気も無く、自分の役割を見つけられない女の物語。

いわゆる濡れ場は全くないのですが、全体的に淡く官能の香りが漂っています。私たちの住むこの現実世界とは異なる世界を舞台にした物語が多く、SF的な手法で様々な愛の形を描き出してあります。

本書を読み始めてすぐの第一話「くちなし」は、別れを切り出された女が男に対し、交換条件として男の腕が欲しいと言い、男は何のためらいもなく腕をはずし女のもとに腕を置いて立ち去るという話です。

残された女は、まるで恋人が腕を回すように体に巻いて出掛け、その腕を抱いてやすみ、その腕を水の入った花瓶にさし瑞々しい状態を保っています。

こうした情景が当たり前の光景として描写され、腕だけを慈しむ女の心情が描かれているのです。その後、男の妻と名乗る女が現れ男の腕をかえすように迫ります。

人間の体を細かく自在にパーツとして取り外すことのできる世界という前提は、勿論何の説明も無いままに話は進みますから、読み手は最初は戸惑うばかりです。

それでいて、登場人物、とくに女性の心象描写は丁寧です。第一話では残された腕だけを慈しむ女の満ち足りている心象を、そして押し掛けてきた妻の号泣を見つめる女の冷めた視線をただ淡々と冷めた目線で描写していますが、例えば第三話「愛のスカート」での主人公の女ミネオカのトキワに対する片想いの描写は過激です。

「ぼうぼうと燃える愛の彼岸で放たれる熱を浴びながら、こんな場所があったんだ、と思う。」「愛と憎悪の間をものすごいスピードで行き来する、子供のころにはなかった場所だ。」と、燃え上がるミネオカの心象を描きだしていて、その落差が目立ちます。

女は怒りの末にオトコを喰らうことも当たり前の世界(第四話「けだものたち」)や、妊娠はお腹に卵を抱えることである世界(第七話「山の同窓会」)があるかと思うと、難民の男の子をおもちゃとして楽しむ主婦の話(第五話「薄布」)や、不倫の末に残された一人の女の、日常を描く話(第六話「茄子とゴーヤ」)などの普通の世界での日常を描き出す話など、いろいろな世界の話が詰め込まれている作品集ですが、冒頭に書いたように全体的に官能の余韻に満ちた作品集です。

官能的な作品と言えば、 井上荒野の直木賞を受賞した作品の『切羽へ』を思い出します。九州のとある離島の小学校で養護教諭をしているセイという女の日常を描いた作品ですが、なんということもない、普通の情景を描いている文章でさえ、官能の香りを放っている作品で、全編を通して官能的なのです。なんということもない、普通の情景を描いている文章でさえ、官能の香りを放っています。だからと言って、エロス満載ということではない、妙に心惹かれる作品でした。


また異なる観点から、異世界の異形の者などという点からみると、上田早夕里の『華竜の宮』のようなSF作品をすぐに思い浮かべます。しかし、『華竜の宮』などに出てくる海上民の異形態とも言うべき魚舟という異形のものは人類の生存のために自らの身体を改変した結果としての存在であり、本書のような異形の者が住むことが前提の物語ではありません。

作者の意図も『華竜の宮』では、来るべき人類のあり方、変貌を描くことが主眼であり、本書『くちなし』は様々な「愛」の形を描き出すことにあるようで、作品自体の書かれた方向性が全く異なります。

本書『くちなし』は決して私の好みの分野の作品ではありませんが、それでもほかの作品を読んでみようかと思う、妙な魅力のある作品でした。

[投稿日]2018年02月11日  [最終更新日]2018年2月11日
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