リミックス 神奈川県警少年捜査課

リミックス 神奈川県警少年捜査課』とは

本書『リミックス 神奈川県警少年捜査課』は『神奈川県警少年捜査課シリーズ』の第三弾で、2024年9月に小学館からハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。

超常的な出来事の起きる伝奇小説と警察小説との合体作品で、今野敏の作品群の中でもどちらかというとあまりお勧めできないと感じた珍しい作品でした。

リミックス 神奈川県警少年捜査課』の簡単なあらすじ

一気読み必至のエンタメ警察小説! 神奈川県警少年捜査課の高尾と丸木のもとに、旧知の高校生・賀茂が失踪したという報せが届く。賀茂は古代の霊能者・役小角の呪術力を操る不思議な少年だった。賀茂は失踪前、半グレに追われていたという。高尾たちが失踪の経緯を調べると、外国にルーツをもつ若者たちと半グレ集団の間で抗争が起きつつあることが判明する。事態はやがて、カルト的人気を誇る女性ボーカル・ミサキを巻き込んだ誘拐事件へと発展しーー!?(内容紹介(出版社より))

リミックス 神奈川県警少年捜査課』について

本書『リミックス 神奈川県警少年捜査課』は『神奈川県警少年捜査課シリーズ』の第三弾となる長編の警察小説です。

今野敏の作品としてはストーリ展開は平板であり、登場人物のキャラクターも今一つであって、あまりお勧めできないと感じた珍しい作品でした。

 

もちろん、本書のような作品が好みだという人も当然多くおられることと思います。

私も、役行者が登場人物の人格を乗っ取り現代社会に現れる、という神秘的な現象をメインとするような伝奇的な物語自体はどちらかというと好きな方です。

しかし、本書では役行者というキャラクターもあまり活躍するわけではなく、伝奇的な要素がどっちつかずです。

また敵役となる半グレたちも現実に聞く半グレとは異なり、普通の不良少年としか思えない存在で、物語としての魅力があまり感じられませんでした。

 

今野敏の著作では、たまにストーリーは進んでいるような印象ではあるものの、その実物語の展開はほとんど見られない、ということがあります。

本書はまさにその典型と言ってもよさそうな物語であって、頁は進んでもストーリー自体はじれったいほどに進みません。

こうしたことは、今野敏の作品群の中でも超自然的な出来事、現象がテーマになっている作品ほどその傾向が強いように思えます。

本書『リミックス 神奈川県警少年捜査課』でも修験道の開祖と言われる役小角が降臨し、その呪術力を操る高校生である賀茂晶の行動が中心的な謎となっていて、物語自体の展開は本書中盤まで殆どありません。

 

本書では役小角の行動の先に「一言主」の存在が見えます。「一言主」とは日本の神の一人であり、『古事記』や『日本書紀』、『日本霊異記』などの書物にその名が記されていて、時代が下るたびに「一言主」の地位が低下しているそうです( ウィキペディア : 参照 )。

当然のことながら上記のことは本書でも説明してあります。加えて登場人物も、役小角の依巫女であり歌手でもあるミサキや、保護司の葛城氏などが登場し、現場の刑事を混乱させています。

この有言実行の神だと言われる「一言主」の登場は、本書の半グレたちの存在についての主張の一つかもしれません。

つまり、半グレという存在の根っこには会話すらないままでの差別などが存在していて、「一言」の会話こそが大事だという思いです。

 

でもそうした印象が物語自体の魅力を増幅させるものではありません。物語自体の魅力はやはり物語自体の持つストーリーた登場してくる人物たちの造形にかかっているのであり、その点で本書は今一つだと言わざるを得ないのです。

天狼 東京湾臨海署安積班

天狼 東京湾臨海署安積班』について

本書『天狼 東京湾臨海署安積班』は『天狼 東京湾臨海署安積班』の第23弾で、2025年3月に角川春樹事務所から360頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。

物語の設定が既存の作品を彷彿とさせるものでしたが、安積班シリーズの一冊として普通に面白く、ただそれ以上のものではありませんでした。

天狼 東京湾臨海署安積班』の簡単なあらすじ

須田巡査部長が、臨海署管内のスナックのマスターから相談を受けた。ミカジメ料を要求されたという。安積と須田は暴力犯係の真島係長に相談し、見回りを強化してもらうことに。一方、管内で立て続けに傷害事件が発生する。湾岸エリアが物騒な空気に包まれる中、速水小隊長が救急搬送されたとの連絡が入って…。(「BOOK」データベースより)

天狼 東京湾臨海署安積班』とは

本書『天狼 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』の一冊として痛快小説としての色合いがかなり強い作品であり、痛快警察小説と言ってもいいような作品でした。

気になったのは、物語の設定が既存の作品を彷彿とさせるものだったことです。

天狼 東京湾臨海署安積班』の登場人物

登場人物は、安積剛志警部補を中心とした東京湾臨海署刑事組対課強行班第一係の須田三郎村雨秋彦水野真帆の三人の部長刑事、それに黒木和也桜井太一郎といった安積班の面々がまず挙げられます。

その他の常連組では交機隊小隊長の速水直樹ほかの交機隊隊員、強行犯第二係係長の相良啓や係員がいます。

その他の東京湾臨海署関係では署長の野村武彦や暴力犯係係長の真島喜毅、地域課の末永課長やその他の署員たちです。

また、相馬義継警部補という監察官室員も登場し、わざわざ氏名を告げていったところを見ると、今後も登場するかもしれません。

本書の敵役としては速水に「根っからのワル」と言わしめた三十二歳の暴走族の篠崎恭司や彼の配下の高野耕一石毛琢也といった半グレ達がいます。そして、最近臨海署の管内に進出してきたのが新藤進という男です。

天狼 東京湾臨海署安積班』の感想

ただ、本書には物足らないと思った点があるのも事実です。

というのも、まずは物語の構造がこのシリーズの第八弾の『残照』と似ているということです。

残照』では台場起きた少年たちの抗争で死者が出るという事件が起き、その容疑者としてスカイラインGT-Rに乗る風間智也の名前が浮かびます。

しかし、交機隊の速水直樹警部補は風間の過去の動向からみて風間が犯人だとは思えないというのです。

一方、本書においても近時台場で起きている小競り合いの背後に篠崎という男の存在が浮かび上がります。

しかし、やはり速水はそのことに納得がいっていないようで、篠崎と直接に話をしようとするのでした。

もちろん、この二作では『残照』の風間は孤高の存在であるのに対し、本書の篠崎は集団を積極的に利用としていて、そのありようは全く異なります。

しかし、速水にしてみれば、『残照』の風間は他人から利用されることを嫌い、本書の篠崎もまた他者の指示は受けないという点では同じだと考えます。

そして速水はその一点で風間を犯人ではないと言い、本書では篠崎を臨海署管轄内で起きている暴力行為の指示役ではあるにしても、第三者からの指示を受けているとは考えにくいというのです。

 

そうした不満点があるうえに、大ボスの位置にいる存在が弱い点も気になる点です。

本書全体が次に述べるように小気味いいものであるにもかかわらず、敵役の存在が弱い点はとても残念でした。

もう少し魅力的な敵役であれば本書はさらに爽快なものになったかもしれないと思うと残念な気もします。

 

と、いろいろ不満点を書いてはきましたが、それでも今野敏の人気シリーズでありやはり面白く読んだというのが事実です。

本来、本『安積班シリーズ』は刑事個人の活躍を描く作品ではなく、安積剛志警部補を中心とした東京湾臨海署安積班のメンバーの活躍を描き出している作品です。

ところが、本書はそうではなく、東京湾臨海署全体が主役といってもいい物語になっています。

東京湾臨海署の管轄寧で起きている異常な出来事について、臨海署に対する挑戦であり、そうした出来事に対しては一丸となって戦うというのです。

具体的に言うと、東京湾臨海署の刑事組対課強行班の第一班と速水直樹小隊長率いる交機隊の隊員たちはいつもの通りにまとまり、相良啓係長と第二班のメンバーも加わります。

それに加え、暴力犯係の真島喜毅係長率いるマル暴の刑事たち、そして普段はあまり登場しない末永課長率いる地域課の課員たち、さらには東京湾臨海署の野村武彦署長までも「売られた喧嘩は買う」と宣言するのですからたまりません。

こうした小気味よさがこのシリーズの魅力でもあるのですが、今回はその程度が一段階増しているのです。

それはともかく、湾岸署一丸となって暴力に立ち向かう姿は実に痛快でした。

昇華 機捜235

昇華 機捜235』とは

 

本書『昇華 機捜235』は『機捜235シリーズ』の第三弾で、2024年12月に光文社から336頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。

今野敏の作品ではたまにあまり十分に練られたとは思えない作品が登場することがありますが、まさに本書がそうだ、と思われる物語でした。

 

昇華 機捜235』の簡単なあらすじ

 

警視庁機動捜査隊渋谷分駐所の名コンビ、高丸卓也と縞長省一。彼らの機捜車のコールサインは235だ。衆議院解散に伴う総選挙が決まった中、SNSに法務大臣・坂本の殺害予告が投稿された。高丸・縞長は機捜231の大久保実乃里とともに特別捜査本部に呼ばれ、坂本の選挙区・川越で彼の選挙事務所に潜入捜査に入る。次々に浮かびあがる容疑者たちを懸命に捜査する三人だったが、さらに新たな予告がー。読者を引き込んで離さない熟練の語り口が大人気のシリーズ第三弾登場。(「BOOK」データベースより)

 

昇華 機捜235』の感想

 

本書『昇華 機捜235』は『機捜235シリーズ』の第三弾の長編の警察小説で、今野敏の作品らしく読みやすい作品ではあるのだけれど、なんとも評しにくい作品でした。

 

本シリーズの主役は、警視庁機動捜査隊渋谷分駐所の235のコールサインを持つ機捜車に乘る高丸卓也縞長省一という名コンビです。

衆議院解散に伴う総選挙で、法務大臣の坂本玄に対する殺害予告がSNS上に掲載されたことから、大久保実乃里巡査が坂本法務大臣の近くに私設秘書という形で張り付いて情報の収集をすることになります。

そこで、主役の二人は大久保巡査のバックアップのために坂本大臣の選挙事務所のある埼玉県の川越に詰めることになったのです。

 

ただ物語として、高丸たちの警備のありかたや、殺害予告犯人の捜査自体に見るべきものはなく、物語としての山はないと言っても過言ではありません。

ただ、途中で主役の一人が行方不明になることが大きな出来事と言えば出来事なのですが、それすらも物語の展開としては見るべきものとも言えないのです。

今野敏の作品自体は、殆どの作品が謎解きに重きを置いているとは言えず、その代わりに登場人物たちの人間関係の妙が面白いのだと言えます。

その最たるものが今野敏のベストセラー作品である『隠蔽捜査シリーズ』であり、『安積班シリーズ』だと思うのです。

前者は異色のキャリア警察官である竜崎伸也の原則論を貫く姿が爽快な作品で、後者はチームで行う捜査を前面に出した心温まる警察小説です。


 

本書『昇華 機捜235』の場合、そうした個性豊かな捜査員がいるわけでもなく、チームで捜査するわけでもありません。

そもそも、機捜すなわち機動捜査隊とは「犯罪発生の初期段階で犯人を検挙することを目的としている組織」であり、事件の初動捜査を行う組織であって犯罪の捜査自体を行うことはその存立目的ではありません。

ただ、主人公の高丸の相棒である縞長が見当たり捜査の達人であるところから、本シリーズの『石礫 機捜235』では縞長の活躍がメインであり、独特の面白さを感じたものです。

そうした特色が本書にはないのです。ただ、大久保巡査が他人の口を軽くする情報収集にはもってこい特殊能力があるのが見どころだとは言えます。

だからこそ、外務大臣に張り付く職務を与えられ、高丸たちも大臣の地元へ出張することになったのです。

それ以外に見るべきところはなく、結局は大久保の活躍も明確なものではなく、物足りなく感じてしまいました。

従って、冒頭に述べたような「十分に練られたとは思えない作品」という評価になったものです。

今後の展開に期待したいと思います。

架空犯

架空犯』とは

 

本書『架空犯』は、2024年11月に幻冬舎から460頁のソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。

この作者の作品にしては感情移入のしにくい、どうにも物語の世界に入り込むことができにくい印象の作品でした。

 

架空犯』の簡単なあらすじ

 

誰にでも青春があった。被害者にも犯人にも、そして刑事にもー。燃え落ちた屋敷から見つかったのは、都議会議員と元女優夫婦の遺体だった。華やかな人生を送ってきた二人に何が起きたのか。『白鳥とコウモリ』の世界再びーシリーズ最新作。(「BOOK」データベースより)

 

架空犯』の感想

 

本書『架空犯』は、2024年11月に幻冬舎から460頁のソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。

この作者の作品としては感情移入のしにくい、どうにも物語の世界に入り込むことのできない作品となってしまいました。

 

本書は、2021年4月に出版された『白鳥とコウモリ』の続編という位置づけだそうです。

白鳥とコウモリ』の内容を覚えていなかったので、本書が何故シリーズの続編だと言われているのかよく分かりませんでした。

そこで、本サイトの『白鳥とコウモリ』の項をよく見なおして見ると、登場してくる刑事が本書と同じ五代努刑事だったのです。

この五代刑事の登場をもって同一シリーズということになったのでしょうが、前著では五代刑事は探偵役ではなかったところを見ると、若干強引という気がしないでもありません。

とすれば、今後五代刑事を主人公とする作品が刊行されるということかもしれません。


 

話を本書『架空犯』に戻します。

本書では冒頭で放火殺人事件が起き、すぐに被害者の都議会議員と元女優の妻夫婦は、誰に、そして何故殺されなければならなかったのか、が一人の刑事の努力で解明されていきます。

本書の登場人物を整理すると、本書の探偵役は『白鳥とコウモリ』にも登場していた五代刑事です。

この五代刑事が所轄の生活安全課の山尾陽介警部補と組んで被害者の人間関係を調べる艦取り捜査班に組み入れられることになります。

被害者は都議会議員だった藤堂康幸と元女優だった藤堂江利子という夫婦です。

この二人の間には榎並香織という妊娠中の娘がいます。その夫の榎並健人は榎並総合病院の副院長です。

そして、榎並香織から藤堂江利子の近況についての情報を知るためにと紹介されたのが今はシアトルにいるという本庄雅美という女性であり、本庄からの教えられたのが今西美咲という東都百貨店の外商の女性です。

そして、事件は過去の出来事へと結びついていき、そこで登場するのが永間和彦という高校生だったのです。

 

さすがに東野圭吾の作品らしく、過去の出来事が遠因となって数十年後にとんでもない事件を引き起こすこととなる様がうまいこと描かれていると思います。

でも、シリーズの前巻とされる『白鳥とコウモリ』でも思ったのですが、東野圭吾らしい物語の面白さを持っているかと言えば、普通でしかないと思ってしまいました。

 

本書『架空犯』では、冒頭から殺人事件が起き、その捜査の様子が逐一語られていくなかで、事件の裏に隠された真実が少しづつ明らかにされていきます。

しかし、この詳細な捜査の状況がしばらくの間続くので、物語のストーリー展開の面白さという点で私の好みとは違ってたと思われるのです。

つまりは、新事実が小出しにされ、そのことが新たな謎に結びついてまた新たな事実が提示されるということの繰り返しであって、一編の物語のストーリー展開としての醍醐味に欠けると感じたのです。

ただ、推理小説としては少なからずそうした展開は見られるところであり、なのに本書では受け入れ難く感じたのか、肝心なところがよく理解できていないのが残念です。

 

そしてかなり無茶な感想ですが、「誰にでも青春があった。被害者にも犯人にも、そして刑事にも。」という帯の文句自体が物語の展開を暗示していて、それは推理小説のネタバレにも近いことだと感じてしまいました。

そのため、推理小説の醍醐味である意外性に欠けるところが多くあった、と感じてしまったのです。

さらに言えば、事件現場の作出の一因とされる事柄も納得のいくものではなかったことも不満が残るところではありました。

 

こうしてみると、本書が感情移入のしにくい作品だった、という私の印象は、かなり個人的な好みを前提とした強引なものになったと思われます。

蛇足ですが、個人的読書感想ブログですので、それもありかとそのままに乗せることにしました。

金子 玲介

金子玲介』のプロフィール

 

1993年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。『死んだ山田と教室』で第65回メフィスト賞を受賞。他の著作に『死んだ石井の大群』『死んだ木村を上演』がある。

引用元:作家の読書道

 

金子玲介』について

 

『死んだ山田と教室』が第65回メフィスト賞を受賞するとともに、2025年本屋大賞の候補作となっています。

変な家

変な家』とは

 

本書『変な家』は『変な家シリーズ』の第一弾で、飛鳥新社から2021年7月に刊行されて、2024年1月に256頁で文庫化された長編の推理小説です。

あまりの評判のために読んではみたのですが、期待が高すぎたのか私の好みとはかなり異なる作品でした。

 

変な家』の簡単なあらすじ

 

知人が購入を検討している都内の中古一軒家。開放的で明るい内装の、ごくありふれた物件に思えたが、間取り図に「謎の空間」が存在していた。知り合いの設計士にその間取り図を見せると、この家は、そこかしこに「奇妙な違和感」が存在すると言う。不可解な間取りの真相とは!?YouTubeで話題となった「変な家」の全ての謎が解き明かされる完全版。設計士栗原による文庫版あとがきも収録。(「BOOK」データベースより)

 

変な家』の感想

 

本書『変な家』は『変な家シリーズ』の第一弾で、映画化もされるほどに話題を呼んだホラーチックな作品です。

その評判の高さのために読んではみたものの、肝心の謎解きの部分に入るととたんに興味が薄れてしまいました。

 

本書『変な家』はその独特な視点といい、ホラーチックな語り口といい、読者の期待値を上げる技術は感心するばかりでした。

そもそも本書は作者の雨穴氏がYouTube上に仮面で登場して語るという独特な手法で登場し、語られる内容もこれまでにない斬新な観点からのものであるところから人気を博し、書籍化されたものです。

すなわち、本書は語り手のもとに奇妙な建物の間取り図が持ち込まれることとから始まります。

その後、語り手の知り合いの建築士の栗原が探偵役として問題の間取り図の違和感、そして異常さを指摘、その謎を解き明かしていく物語です。

 

この冒頭での異常さの指摘から謎解きへと移行するまでは、建築士の栗原による妄想という前提で示される謎解きに突然すぎる奇妙さを感じながらも、かなり惹き込まれて読み進めることができました。

それでもこの栗原による謎解きも根拠のないひらめきが示されているだけだったのですが、その裏付けがあとで提示されるだろうとの思い込みからそのまま読み進めたものです。

 

確かに、本書冒頭から示される建築図の間取りの異常さは読者の関心を惹き付けるには十分なものがあります。

まず、二階にある、外壁には全く接しておらず、出入り口は二重扉であり、トイレもあってまるで監禁部屋としか思えない子供部屋の存在は異常です。

さらには、一階部分との兼ね合いから見えてくる二階の子供部屋のさらなる異常性は読者を惹き付けて離しません。

 

しかしながら、一旦謎が明かされていく場面になると、提示された謎がそれまでの期待を一気に裏切るものとして変化したのです。

でもこの変化は一般的には受け入れられたものであり、だからこそYouTube上、そして書籍化されてからも人気を博し、さらには映画化までされたのです。

ただ、謎解きが私の好みと違ったということです。残念でした。

また、本書には『変な家 2』という続編も出ています。私も一旦は手に取ったもののやはり最後まで読み終えることができませんでした。

雨穴

雨穴』のプロフィール

 

名前・年齢・性別も非公開のWebライター・YouTuber。主にホラー作品を手掛け、初の書籍「変な家」は映画化された。

引用元:WEBザテレビジョン

 

雨穴』について

 

YouTube上で奇妙なマスクをかぶり、ある間取り図の奇妙さを報告する映像が人気となりました。

その人気となった不動産ミステリー作品を書籍化した『変な家』がベストセラーとなり、さらには映画化もされています。

存在のすべてを

存在のすべてを』とは

本書『存在のすべてを』は、2023年9月に472頁のハードカバーで朝日新聞出版から刊行された長編小説です。

2024年の本屋大賞で第三位となっており、かなり惹き込まれて読んだ作品でした。

存在のすべてを』の簡単なあらすじ

前代未聞「二児同時誘拐」の真相に至る「虚実」の迷宮!真実を追求する記者、現実を描写する画家。著者渾身の到達点、圧巻の結末に心打たれる最新作(「BOOK」データベースより)

存在のすべてを』の感想

本書『存在のすべてを』は、ある幼児誘拐事件を背景に、その事件を追いかける記者の姿を借り、被害者である幼児や事件に絡む画家らの人生を描き出した力作です。

本書は第9回「渡辺淳一文学賞」を受賞し、「本の雑誌が選ぶ2023年度ベスト10」の第1位となり、さらには2024年の本屋大賞で第三位になっています。

松本清張を彷彿とさせる社会派の作品と言ってよく、久しぶりにかなり惹き込まれて読んだミステリーでした。

 

本書『存在のすべてを』では、冒頭の「序章」で同時に起きた二件の幼児誘拐事件への警察の対応の描写が実に緻密であり、緊迫感をもって描かれています。

そのため、この誘拐事件の犯人を探す過程が他の作品以上に手厚く描かれているのだろうと勝手に思い込んで読み進めることになりました。それほどに重厚感を持った描写が続くのです。

ところが、この二件の誘拐事件を描いた「序章」は意外な結末をもって犯人も捕まらないままに終わります。

そして三十年という年月が経ち、冒頭の誘拐事件に奔走した一人の刑事の葬儀の場面から本編が始まるのです。

 

そこで登場してくるのが本書の狂言回しとなる大日新聞宇都宮支局長の門田次郎です。

以降、この物語は門田の行動を追いかけると同時に、写実画家の野本貴彦と誘拐された幼児の一人である内藤亮、そして内藤亮の高校時代の同級生の土屋里穂といった人物たちの動向が記されていきます。

冒頭で起きた誘拐事件での捜査員の緊張感などを感じさせる濃密な描写とは異なり、次第に絵画、それも超写実主義の絵画に焦点が当たっていきます。

次第に写実を至高とする画家の内面に深く斬り込むようになり、少なくとも本書の途中まではこれらのテーマのどこに収斂していくのか見当もつかないのです。

 

読了した今では、本書は写実画という対象物の存在理由までも明らかにする絵画手法を通して、一人の写実画家の人生を顧みる作業だと思えます。

写実画家の画家の人生をあらためて追体験する、言い換えればこれらの画家の人生を明るみに出すことことにより、一人の人間と、その関係者の人生を俯瞰し再検討する物語なのではないか、と思います。

「存在のすべてを」というタイトルもそのことを示していると思うのです。

写実の画家である貴彦がある人物に対して言った、うまい絵を描こうとしなくていい、「大事なのは存在」だと言う言葉が心に残っています。

そしてその十数頁後には、便利な世の中になるとわざわざ触らなくても思い通りになると勘違いする人が増える、「だからこそ『存在』が大事」になり、「世界から『存在』が失われていくとき、必ず写実の絵が求められる。」という言葉が出てきます。そして、それは「考え方、生き方の問題だから」と続くのです。

 

また、本書『存在のすべてを』では、こうした写実絵画の意義についての主張と同時に、絵画の世界における有力者による不正問題も取り上げられています。

つまり、絵画の実力だけでは、画家の名を知らしめることのできる「民展」という展覧会への出展さえもできない状況が描かれています。

しかし、そのことは小説の中だけの虚構の出来事ではなく、現実にもあった出来事でした。

現実には2009年の朝日新聞の調査報道により「日本美術展覧会」、通称「日展」の不正審査問題が発覚して大問題となったのです。( ウィキペディア : 参照 )

こうした現実の社会的な不正をも物語の背景に置き主人公の人生を追体験させる手法が、社会派推理小説の代名詞ともいえる松本清張を思い出させたのです。

 

絵画そのものをテーマとした作品を挙げるとすれば、やはり原田マハの『暗幕のゲルニカ』などの作品をまず挙げるべきなのでしょう。

しかし、本書の内容からすると絵画をテーマとした作品と言うよりも、やはり松本清張やその系譜にあると思われる横山秀夫東野圭吾らといった社会派推理小説家の名を挙げるほうがしっくりくると思われます。

いずれにせよ、本書の迫力は今挙げた各作家の作品にも並ぶ面白さを持った作品だと思いました。

夏空 東京湾臨海署安積班

夏空 東京湾臨海署安積班』とは

 

本書『夏空 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』の第二十二弾で、2024年3月に324頁のハードカバーで角川春樹事務所から刊行された短編の警察小説集です。

シリーズ中の短編集の役割ともいえるシリーズ本編の間隙を埋める短編集としてとても面白く読んだ作品集です。

 

夏空 東京湾臨海署安積班』の簡単なあらすじ

 

ドラマ化もされた大ロングセラー「安積班」シリーズ熱望の最新刊!

外国人同士がもめているという通報があり現場に駆けつけると、複数の外国人が罵声を上げて揉み合っていた。
ナイフで相手を刺して怪我を負わせた一人を確保し、送検するも、彼らの対立はこれでは終わらなかった……。(「略奪」より)
高齢者の運転トラブル、半グレの取り締まり、悪質なクレーマー……守るべき正義とは何か。
揺るぎない眼差しで安積は事件を解決に導いていくーー。

おなじみの安積班メンバーに加え、国際犯罪対策課、水上安全課、盗犯係、暴力犯係など、ここでしか味わえない警察官たちのそれぞれの矜持が光る短編集。(内容紹介(出版社より))

目次
目線 | 会食 | 志望 | 過失 | 雨水 | 成敗 | 夏雲 | 世代 | 当直 | 略奪

 

夏空 東京湾臨海署安積班』の感想

 

本書『夏空 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』の第二十二弾の、シリーズに色々な方面から光を当てた作品集です。

長編を基本とするシリーズものの中での短編集となれば、シリーズ本編で構築される物語世界の間隙を埋める役割を担っているものでしょう。

本書もその点は同様であり、『安積班シリーズ』の登場人物の横顔紹介的な話の場合もあれば、一般論としても言えそうな視点の話であったりと様々なテーマの作品が並んでいます。

 

安積班のメンバーの側面を紹介するものとして第一話の「目線」で須田を、第二話の「会食」で湾岸署の野村署長と瀬場副署長を、第八話の「世代」では交機隊の速水の人となりを紹介してあります。

第四話「過失」では強行犯第二係の相良を紹介しているとも言えそうです。

 

目線」 第三者から見るとトラブルのようであっても当事者本人にしてみれば何でもない事柄であるという話で、視点を変えればものの見方も変わってくるという話です。

 

会食」 安積警部補は、榊原課長から瀬場副署長が野村署長が暴力団幹部と会食をしたらしいとの噂のことで悩んでるらしく、何とかしてほしいとの相談を受けます。

「案ずるより産むが易し」を地で行く物語であり、同時に安積警部補の人柄を示す作品でもあります。

 

志望」 安積警部補は、榊原課長から地域課にいる武藤和馬という巡査長を刑事課に、それも村雨移動で空いた席に引っ張りたいとの相談を受けます。

 

過失」 地域課から、ゆりかもめの駅からの応援要請に強行犯第二係の相良が自分が行くと言い出した。行ってみるとテレビタレントの堺わたるが人の靴を踏んでしまい、治療費を要求されているというのだった。

 

雨水」 闇バイトの強盗グループを追っていた警視庁はあるグループに眼をつけていたが、そのグループがお台場にあるマンションをターゲットにしているという情報が入った。

 

成敗」 高速湾岸線の道路上で被害者が三十五歳の自称建設業の津山士郎という男であり、被疑者は丸岡孝之という七十歳の無職の男だという傷害事件が発生し、交機隊の速水小隊長を通して安積達にも呼びだしがかかった。

「強いほど、他人を受け入れて許せるようになるでしょう」という水野の言葉が残ります。

 

夏雲」 地域課地域第二係の蔵田英一巡査部長が、飲食店でスマホで撮影しながらクレームをつけている川島博史という客に対し、無断で撮影すると肖像権侵害になると注意すると、蔵田巡査部長を訴えると言ってきたという。

 

世代」 速水の車に同乗して遺体が見つかったというお台場の公園へ行くと、速水が野次馬のなかから不審な男を見つけた。細井貴幸という二十八歳の男であり、被害者は川崎逸郎四十八歳で、二人とも同じ食品会社に勤務していた。

 

当直」 今日の当直管理責任者は組対係の真島善毅係長で、一般当直は四名、刑事当直も第一強行犯係の須田、第二強行犯係の荒川、組対係の真島係長、そして知能犯係からの一名の四人だった。

 

略奪」 外国人同士の揉め事の通報があり、強行犯第一、第二係共に制圧のための出動し怪我人等を確保したところに、国際犯罪対策課から立原という警部補がやってきた。

警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル 新装版

警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』とは

 

本書『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』は『警部補・碓氷弘一シリーズ』の第三弾で、2004年2月に中央公論新社刊行され、2016年5月に427頁の新装版の中公文庫として刊行された長編の警察小説です。

今野敏の伝奇的な世界を描くいくつかの作品の主人公たちが登場し、彼らが力を合わせて事件を解決するという珍しい構成の、しかしそれなりに楽しめた作品でした。

 

警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』の簡単なあらすじ

 

横浜、池袋、下高井戸ー。非行少年が次々に殺された。いずれの犯行も瞬時に行われ、被害者は三人組でかつ外傷は全く見られないという共通点が。一体誰が何のために?おなじみ碓氷部長刑事も広域捜査の本部にかり出された!警察、伝奇、武道、アクション…。今野敏がこれまで書き続けたジャンルを融合した、珠玉のエンターテインメント、待望の新装改版。(「BOOK」データベースより)

 

警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』の感想

 

本書『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』は『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』の第三弾で、今野ワールドの主役級の役者たちが一堂に会する珍しい作品です。

本書では上記のように登場人物が多くその関係性も多岐にわたるため、先に事件発生の時間軸に合わせて人間関係を整理した方がいいと思われます。

 

最初に、横浜市緑区の路上で三人の少年が殺され、一人の女性が車で拉致されるという事件が発生します。

この事件に関係するのが、神奈川県警生活安全部少年課所属の丸木正太巡査と丸木巡査の少年課の先輩である三十五歳の高尾勇巡査部長です。

そして、この二人の捜査を助けるのが、南浜高校教諭の水越陽子であり、生徒の赤岩猛雄賀茂晶です。

水越は神奈川最大の暴走族の相州連合初代総長の彼女であり、また赤岩猛雄は相州連合の元ヘッドであって情報収集に力を貸し、賀茂は役小角の人格保有者として超常能力を発揮し問題解決を助けます。

彼らが登場するのは『わが名はオズヌ』という作品です。

 

次に、西池袋で起きた未成年殺人事件に加わるのが本シリーズの主人公の碓氷弘一部長刑事であり、同じ捜査一課ですが班が異なる赤城竜二部長刑事です。

この赤城部長刑事の知り合いが元麻布にある整体院の院長で武道の達人の美崎照人です。

そして、赤城と美咲が活躍するのが『襲撃』や『人狼』といった作品の『美崎照人シリーズ』です。

 

三番目として、甲州街道沿いのコンビニ近くで三人の若者が殺されるという事件が起き、この事件に警視庁少年犯罪課の富野輝彦巡査部長も関わることになります。

この富野輝彦巡査部長の情報提供者して登場するのが、お祓い師であり鬼道衆の鬼龍光一安倍孝景です。

そして、富野巡査部長と鬼龍光一、安倍孝景が活躍するのが『鬼龍』を始めとする『鬼龍光一シリーズ』です。

 

本書『パラレル』は、『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』の第三弾とは言いながら、実際は主人公である筈の碓氷弘一は脇に回っています。

代わりに活躍するのが高尾勇巡査部長や赤城竜二部長刑事、そして富野巡査部長といった警察官たちです。

そして、彼らを助けるのが役小角が憑依(?)している賀茂晶や、武道の達人の美崎照人、そしてお祓い師の鬼龍光一や鬼道衆である安倍孝景といった伝奇的な世界の住人達なのです。

というよりも、人智を越えた世界に棲む彼らこそが主役というべきなのでしょう。

 

こうした超常的な世界を舞台にした作品群の主役たちが一堂に会して、各事件の背景にいると思われる「亡者」などと呼ばれる存在を退治するために行動する姿が描かれています。

オカルト的物語がそれほど好きではない人には受け入れがたい作品かもしれませんが、それぞれに人気シリーズなので今野敏の物語が好きな人はその面白さは受け入れやすいと思います。

碓氷弘一が活躍世界を一旦忘れて、非日常の世界への第一歩を踏み出してみるのもいいのではないでしょうか。

 

ところで、どうでもいいことではありますが、このシリーズは『警部補・碓氷弘一シリーズ』とも呼ばれるシリーズであるにもかかわらず、碓氷刑事は未だ部長刑事のままです。