『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』とは
本書『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』は『警部補・碓氷弘一シリーズ』の第三弾で、2004年2月に中央公論新社刊行され、2016年5月に427頁の新装版の中公文庫として刊行された長編の警察小説です。
今野敏の伝奇的な世界を描くいくつかの作品の主人公たちが登場し、彼らが力を合わせて事件を解決するという珍しい構成の、しかしそれなりに楽しめた作品でした。
『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』の簡単なあらすじ
横浜、池袋、下高井戸ー。非行少年が次々に殺された。いずれの犯行も瞬時に行われ、被害者は三人組でかつ外傷は全く見られないという共通点が。一体誰が何のために?おなじみ碓氷部長刑事も広域捜査の本部にかり出された!警察、伝奇、武道、アクション…。今野敏がこれまで書き続けたジャンルを融合した、珠玉のエンターテインメント、待望の新装改版。(「BOOK」データベースより)
『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』の感想
本書『警視庁捜査一課・碓氷弘一3 パラレル』は『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』の第三弾で、今野ワールドの主役級の役者たちが一堂に会する珍しい作品です。
本書では上記のように登場人物が多くその関係性も多岐にわたるため、先に事件発生の時間軸に合わせて人間関係を整理した方がいいと思われます。
最初に、横浜市緑区の路上で三人の少年が殺され、一人の女性が車で拉致されるという事件が発生します。
この事件に関係するのが、神奈川県警生活安全部少年課所属の丸木正太巡査と丸木巡査の少年課の先輩である三十五歳の高尾勇巡査部長です。
そして、この二人の捜査を助けるのが、南浜高校教諭の水越陽子であり、生徒の赤岩猛雄と賀茂晶です。
水越は神奈川最大の暴走族の相州連合初代総長の彼女であり、また赤岩猛雄は相州連合の元ヘッドであって情報収集に力を貸し、賀茂は役小角の人格保有者として超常能力を発揮し問題解決を助けます。
彼らが登場するのは『わが名はオズヌ』という作品です。
次に、西池袋で起きた未成年殺人事件に加わるのが本シリーズの主人公の碓氷弘一部長刑事であり、同じ捜査一課ですが班が異なる赤城竜二部長刑事です。
この赤城部長刑事の知り合いが元麻布にある整体院の院長で武道の達人の美崎照人です。
そして、赤城と美咲が活躍するのが『襲撃』や『人狼』といった作品の『美崎照人シリーズ』です。
三番目として、甲州街道沿いのコンビニ近くで三人の若者が殺されるという事件が起き、この事件に警視庁少年犯罪課の富野輝彦巡査部長も関わることになります。
この富野輝彦巡査部長の情報提供者して登場するのが、お祓い師であり鬼道衆の鬼龍光一と安倍孝景です。
そして、富野巡査部長と鬼龍光一、安倍孝景が活躍するのが『鬼龍』を始めとする『鬼龍光一シリーズ』です。
本書『パラレル』は、『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』の第三弾とは言いながら、実際は主人公である筈の碓氷弘一は脇に回っています。
代わりに活躍するのが高尾勇巡査部長や赤城竜二部長刑事、そして富野巡査部長といった警察官たちです。
そして、彼らを助けるのが役小角が憑依(?)している賀茂晶や、武道の達人の美崎照人、そしてお祓い師の鬼龍光一や鬼道衆である安倍孝景といった伝奇的な世界の住人達なのです。
というよりも、人智を越えた世界に棲む彼らこそが主役というべきなのでしょう。
こうした超常的な世界を舞台にした作品群の主役たちが一堂に会して、各事件の背景にいると思われる「亡者」などと呼ばれる存在を退治するために行動する姿が描かれています。
オカルト的物語がそれほど好きではない人には受け入れがたい作品かもしれませんが、それぞれに人気シリーズなので今野敏の物語が好きな人はその面白さは受け入れやすいと思います。
碓氷弘一が活躍世界を一旦忘れて、非日常の世界への第一歩を踏み出してみるのもいいのではないでしょうか。
ところで、どうでもいいことではありますが、このシリーズは『警部補・碓氷弘一シリーズ』とも呼ばれるシリーズであるにもかかわらず、碓氷刑事は未だ部長刑事のままです。