『架空犯』とは
本書『架空犯』は、2024年11月に幻冬舎から460頁のソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。
この作者の作品にしては感情移入のしにくい、どうにも物語の世界に入り込むことができにくい印象の作品でした。
『架空犯』の簡単なあらすじ
誰にでも青春があった。被害者にも犯人にも、そして刑事にもー。燃え落ちた屋敷から見つかったのは、都議会議員と元女優夫婦の遺体だった。華やかな人生を送ってきた二人に何が起きたのか。『白鳥とコウモリ』の世界再びーシリーズ最新作。(「BOOK」データベースより)
『架空犯』の感想
本書『架空犯』は、2024年11月に幻冬舎から460頁のソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。
この作者の作品としては感情移入のしにくい、どうにも物語の世界に入り込むことのできない作品となってしまいました。
本書は、2021年4月に出版された『白鳥とコウモリ』の続編という位置づけだそうです。
『白鳥とコウモリ』の内容を覚えていなかったので、本書が何故シリーズの続編だと言われているのかよく分かりませんでした。
そこで、本サイトの『白鳥とコウモリ』の項をよく見なおして見ると、登場してくる刑事が本書と同じ五代努刑事だったのです。
この五代刑事の登場をもって同一シリーズということになったのでしょうが、前著では五代刑事は探偵役ではなかったところを見ると、若干強引という気がしないでもありません。
とすれば、今後五代刑事を主人公とする作品が刊行されるということかもしれません。
話を本書『架空犯』に戻します。
本書では冒頭で放火殺人事件が起き、すぐに被害者の都議会議員と元女優の妻夫婦は、誰に、そして何故殺されなければならなかったのか、が一人の刑事の努力で解明されていきます。
本書の登場人物を整理すると、本書の探偵役は『白鳥とコウモリ』にも登場していた五代刑事です。
この五代刑事が所轄の生活安全課の山尾陽介警部補と組んで被害者の人間関係を調べる艦取り捜査班に組み入れられることになります。
被害者は都議会議員だった藤堂康幸と元女優だった藤堂江利子という夫婦です。
この二人の間には榎並香織という妊娠中の娘がいます。その夫の榎並健人は榎並総合病院の副院長です。
そして、榎並香織から藤堂江利子の近況についての情報を知るためにと紹介されたのが今はシアトルにいるという本庄雅美という女性であり、本庄からの教えられたのが今西美咲という東都百貨店の外商の女性です。
そして、事件は過去の出来事へと結びついていき、そこで登場するのが永間和彦という高校生だったのです。
さすがに東野圭吾の作品らしく、過去の出来事が遠因となって数十年後にとんでもない事件を引き起こすこととなる様がうまいこと描かれていると思います。
でも、シリーズの前巻とされる『白鳥とコウモリ』でも思ったのですが、東野圭吾らしい物語の面白さを持っているかと言えば、普通でしかないと思ってしまいました。
本書『架空犯』では、冒頭から殺人事件が起き、その捜査の様子が逐一語られていくなかで、事件の裏に隠された真実が少しづつ明らかにされていきます。
しかし、この詳細な捜査の状況がしばらくの間続くので、物語のストーリー展開の面白さという点で私の好みとは違ってたと思われるのです。
つまりは、新事実が小出しにされ、そのことが新たな謎に結びついてまた新たな事実が提示されるということの繰り返しであって、一編の物語のストーリー展開としての醍醐味に欠けると感じたのです。
ただ、推理小説としては少なからずそうした展開は見られるところであり、なのに本書では受け入れ難く感じたのか、肝心なところがよく理解できていないのが残念です。
そしてかなり無茶な感想ですが、「誰にでも青春があった。被害者にも犯人にも、そして刑事にも。」という帯の文句自体が物語の展開を暗示していて、それは推理小説のネタバレにも近いことだと感じてしまいました。
そのため、推理小説の醍醐味である意外性に欠けるところが多くあった、と感じてしまったのです。
さらに言えば、事件現場の作出の一因とされる事柄も納得のいくものではなかったことも不満が残るところではありました。
こうしてみると、本書が感情移入のしにくい作品だった、という私の印象は、かなり個人的な好みを前提とした強引なものになったと思われます。
蛇足ですが、個人的読書感想ブログですので、それもありかとそのままに乗せることにしました。