『誓いの証言』とは
本書『誓いの証言』は『佐方貞人シリーズ』の第五弾で、2026年3月にKADOKAWAから384頁のハードカバーで刊行された長編の推理小説です。
事件の背景に職人と経営者との対立を抱えた人間ドラマですが、作者のデビュー当時に書かれていたこのシリーズ作品は青くはあってももっと読み応えがあったような気がします。
『誓いの証言』の簡単なあらすじ
東京・中野に弁護士事務所を構える佐方貞人のもとに、警察から一本の電話が入った。さきほど逮捕した男が、佐方を弁護人に指名しているという。男は大学時代の同期・久保利典で、行きつけのクラブの女性から不同意性交等罪で訴えられたらしい。無実を主張する久保を信じ、事件の経緯を調べはじめた佐方だったが、女性が久保を嵌める動機が見当たらない。隠された接点があるはずだと二人の過去を探るうち、約二十年前に香川で起きた、ある石職人の死亡事故が浮かび上がる。(「BOOK」データベースより)
『誓いの証言』の感想
本書『誓いの証言』は『佐方貞人シリーズ』の第五弾で、職人と経営者との対立を抱えた人間ドラマを事件の背景にしたミステリーです。
確かに佐方貞人の物語ではありますが、作者のデビュー当時に書かれていた本シリーズ作品は、もっと青くさかったような気がします。
つまり、シリーズ当初の作品はもっと読みがいがあったように思えるのです。
本書は七年ぶりに刊行されたシリーズ作品だそうで、『佐方貞人シリーズ』の中でも弁護士としての活躍を描いたのは十六年ぶりということでした。
その『佐方貞人シリーズ』は、柚月裕子の作品の中では『孤狼の血』に次いで私が好きな作品です。
久しぶりに読んだ『佐方貞人シリーズ』ですが、中野に法律事務所をかまえているとか、事務員として小坂千尋という法科大学院で勉強中の事務員がいるとか、シリーズ第一作の『最後の証人』では明記してあったはずなのに、十六年もたつとすっかり忘れてしまっていました。
しかし、佐方貞人の弁護士としての心構えは全く変わっていないようです。
すなわち、「罪はまっとうに裁かれなければいけない」という信念を持ち、また「事実と真実は異なる」として真実の追求をやめず、意外な真実が明らかにされるのです。
物語は、『砂の器』と同様に、法廷の場面と当事者の過去の様子とが同時並行的に描かれていて、こういう描き方は若干多用されすぎか、などと思いつつも、物語自体は特に目新しいことは感じませんでした。
ただ、物語の作り方は変わらずにうまいもので、単に登場人物が理不尽な仕打ちにあう物語というだけでは終わらないところはさすがだとは思います。
でも、この作者ならば弁護士の「青臭い」主張をもう少し展開してくれるかと期待はしていました。その点は残念です。
そのような物足りなさの印象の理由がどこにあるのか、未だはっきりとはしません。
現在の物語において佐方貞人の弁護活動を描きつつ、同時に過去の物語で本書のもう一人の主役の過去を描き出すという二つの時系列を書き分けるという手法は多分妥当なのでしょう。
でも、蕃永石事業協同組合での、その意見に重きを置かれている晶の祖父の原じいと、丁場を仕切っている児玉興業グループの代表取締役である児玉勝也との対立の場面での勝也の真意も今一つ分かりにくいものがあったのは残念でした。
とは言いながらも、過去の物語に登場してくる「蕃永石」をめぐる香川県蕃永町を舞台とした物語はこの作者らしく、読者の心を惹くものではありました。
ちょっとした残念な点はありましたが、それでもなおこの物語の面白さを否定できるものではありません。
昨今の検察の不祥事などを思うたび、このシリーズの信念に燃える佐方貞人の物語をずっと読み続けたいと思うのです。