『夏空 東京湾臨海署安積班』とは
本書『夏空 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』の第二十二弾で、2024年3月に324頁のハードカバーで角川春樹事務所から刊行された短編の警察小説集です。
シリーズ中の短編集の役割ともいえるシリーズ本編の間隙を埋める短編集としてとても面白く読んだ作品集です。
『夏空 東京湾臨海署安積班』の簡単なあらすじ
ドラマ化もされた大ロングセラー「安積班」シリーズ熱望の最新刊!
外国人同士がもめているという通報があり現場に駆けつけると、複数の外国人が罵声を上げて揉み合っていた。
ナイフで相手を刺して怪我を負わせた一人を確保し、送検するも、彼らの対立はこれでは終わらなかった……。(「略奪」より)
高齢者の運転トラブル、半グレの取り締まり、悪質なクレーマー……守るべき正義とは何か。
揺るぎない眼差しで安積は事件を解決に導いていくーー。おなじみの安積班メンバーに加え、国際犯罪対策課、水上安全課、盗犯係、暴力犯係など、ここでしか味わえない警察官たちのそれぞれの矜持が光る短編集。(内容紹介(出版社より))
『夏空 東京湾臨海署安積班』の感想
本書『夏空 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』の第二十二弾の、シリーズに色々な方面から光を当てた作品集です。
長編を基本とするシリーズものの中での短編集となれば、シリーズ本編で構築される物語世界の間隙を埋める役割を担っているものでしょう。
本書もその点は同様であり、『安積班シリーズ』の登場人物の横顔紹介的な話の場合もあれば、一般論としても言えそうな視点の話であったりと様々なテーマの作品が並んでいます。
安積班のメンバーの側面を紹介するものとして第一話の「目線」で須田を、第二話の「会食」で湾岸署の野村署長と瀬場副署長を、第八話の「世代」では交機隊の速水の人となりを紹介してあります。
第四話「過失」では強行犯第二係の相良を紹介しているとも言えそうです。
「目線」 第三者から見るとトラブルのようであっても当事者本人にしてみれば何でもない事柄であるという話で、視点を変えればものの見方も変わってくるという話です。
「会食」 安積警部補は、榊原課長から瀬場副署長が野村署長が暴力団幹部と会食をしたらしいとの噂のことで悩んでるらしく、何とかしてほしいとの相談を受けます。
「案ずるより産むが易し」を地で行く物語であり、同時に安積警部補の人柄を示す作品でもあります。
「志望」 安積警部補は、榊原課長から地域課にいる武藤和馬という巡査長を刑事課に、それも村雨移動で空いた席に引っ張りたいとの相談を受けます。
「過失」 地域課から、ゆりかもめの駅からの応援要請に強行犯第二係の相良が自分が行くと言い出した。行ってみるとテレビタレントの堺わたるが人の靴を踏んでしまい、治療費を要求されているというのだった。
「雨水」 闇バイトの強盗グループを追っていた警視庁はあるグループに眼をつけていたが、そのグループがお台場にあるマンションをターゲットにしているという情報が入った。
「成敗」 高速湾岸線の道路上で被害者が三十五歳の自称建設業の津山士郎という男であり、被疑者は丸岡孝之という七十歳の無職の男だという傷害事件が発生し、交機隊の速水小隊長を通して安積達にも呼びだしがかかった。
「強いほど、他人を受け入れて許せるようになるでしょう」という水野の言葉が残ります。
「夏雲」 地域課地域第二係の蔵田英一巡査部長が、飲食店でスマホで撮影しながらクレームをつけている川島博史という客に対し、無断で撮影すると肖像権侵害になると注意すると、蔵田巡査部長を訴えると言ってきたという。
「世代」 速水の車に同乗して遺体が見つかったというお台場の公園へ行くと、速水が野次馬のなかから不審な男を見つけた。細井貴幸という二十八歳の男であり、被害者は川崎逸郎四十八歳で、二人とも同じ食品会社に勤務していた。
「当直」 今日の当直管理責任者は組対係の真島善毅係長で、一般当直は四名、刑事当直も第一強行犯係の須田、第二強行犯係の荒川、組対係の真島係長、そして知能犯係からの一名の四人だった。
「略奪」 外国人同士の揉め事の通報があり、強行犯第一、第二係共に制圧のための出動し怪我人等を確保したところに、国際犯罪対策課から立原という警部補がやってきた。