朝井 リョウ

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新潮社

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就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて…。直木賞受賞作。

現代の就職活動事情に光を当てた小説であり、現代の若者の青春小説で、平成24年度上半期の直木賞受賞作です。

端的に言えば、還暦を過ぎた歳になった私だからなのか、少々理解がしにくい物語でした。物語の筋立てが、ではなくて、登場人物たちの生活そのものについての話です。

一番の驚きは若者たちの生活そのものです。私たちの世代の多くの学生は風呂なし、共同トイレの四畳半の部屋というアパートに住んでいました。そんな学生生活を送った人間には本書の若者たちの生活はスマートに過ぎます。でもそれは時代の差であり、広げる話でもないのでしょう。

やはり一番はインターネット社会下での若者事情です。本書で展開されるインターネットを駆使した社会生活、その一環としてある就職活動の態様の変化についての違和感は無視できないものがあります。

個人的に理解できないのはツイッターという通信手段です。仲間内に限られたツイート(つぶやき)ならばまだ分かるのですが、一般個人が、意図しない第三者に読まれることを見越したツイートを前提とした情報交換は理解できません。

このような状況下でのツイートなど、情報の信憑性を欠いた空虚な言葉としか思えないのです。そうした中身のない言葉を通して得られる人間のつながりにどれほどの意味があるのでしょう。

とは言え、本書で描かれている若者たちの生活が普遍化できるかどうかは別にしても、現実の生活の一側面であることに間違いはないのでしょう。ツイッターを使うかどうかとは関係なく、若者同士の心の交流や正面からの対立があり、もう一歩踏み込むとそこには陰口を叩く仲間や、表面だけの言葉の交換があって、そこに気付いた時に傷つく人がいて、というドラマは時代や世代を越えた人間のありようそのものです。

本書はその点をリアルに描き出しているからこそ直木賞の受賞作ともなりえたのだと思います。

普通の若者の普通の日常を描き出した作品と言えば、何といっても庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』があります。第61回芥川賞を受賞したこの作品は、一見誰にでも書けそうな文章で、大学受験を間近に控えた、庄司薫という作者と同じ名前の高校三年生の冬の一日を描き出した秀作です。東大紛争のために1969年の東京大学入試が中止となるという時代を背景にした作品です。

日本各地の高校にまでも学生運動の波は押し寄せており、我が熊本の高校も例外ではなかったのです。そうしたこともあってか、私にとってはかなりインパクトの強い作品でした。

インパクトという意味では、その少し後、私が学生になってから読んだ小説で柴田翔の『されど我らが日々』という作品もあります。1960年代の大学生の苦悩を描いた作品で、この作品を読んだ当初はかなりの衝撃をうけた小説です。第51回芥川賞を受賞しています。

この時代の若者を描いた作品で私が傾倒した作品としてもう一冊。巨匠石川達三の『青春の蹉跌』という作品もありました。司法試験を目指す若者の物語で、萩原健一主演で映画化もされました。

これらの作品と、本書『何者』とはかなり内容が異なります。勿論時代背景も異なり、それは当たり前のことではあるのですが、上記の三冊が強い政治性、社会性を持っていることを考えると、時の変化を痛切に思い知らされ、若干の寂しさを感じないではありません。

[投稿日]2017年02月05日  [最終更新日]2017年9月1日
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