小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた―。極上のラブ・ストーリー。「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。(「BOOK」データベースより)
個人的な好みから言うと、若干外れた小説でした。読後に少しですが、暗さ、それも前を向いた考察などを感じることもないやるせなさを感じたからです。
中編二編からなる物語ですが、この二編のありかたに仕掛けが施してあって、その点も評価の分かれるところではないかと思います。
そもそも本書は「Story Seller」というアンソロジーのための作品「Side:A」があって、本書のために「Side:B」が書き加えられたのだそうです。
「Side:A」は、小説家の妻が、小説を書くことは文字通り自分の命をとるか小説を書くことを選ぶかという命がけの選択になるという話で、この妻に対する夫の愛情はあるものの、それ以外の人間による強烈な悪意に襲われて特殊な病に罹ってしまうなど、けっこう悲惨な状況に陥る女性の姿が描かれています。
「Side:B」もまた小説家の妻と、献身的な夫との物語なのですが、今度は夫の方を不幸が襲います。とはいえ、夫婦二人の暖かみのある物語としても読めるのですが、やはり悲恋というか、ある種の陰鬱さを感じる要素はつきまとっています。
読書は「幸せなひと時、楽しいと思える時間」を過ごすためのものと考えている私には、本書のように美しいかもしれないけれど、つらさをも感じる小説は受け入れにくいのです。
確かに、この二編の物語に施された仕掛けは、やはり有川浩という作家はただ者ではないという印象を持たせてくれます。この仕掛けに関しては何も言うことはないのです。
ただ、若干の分かりにくさがあり、結局、読者の感じるであろう曖昧さこそが狙いだったのか、などとも思ってしまいます。
ラブストーリーは決して得意ではない私ですが、雫井脩介の『クローズド・ノート』などは結構面白いと思って読んだのですから、本書に対する感情はラブストーリー故の苦手意識というわけではなさそうです。やはり、悲恋なら悲恋でもいいので、読了後に感じる、本書にある曖昧さ、割り切れなさが原因だと思われます。
どうも書いていてもこの文章自体が分かりにくいと思うのですが、そこを書くとネタバレになってしまうので、あとは読んでもらうしかありません。