時は幕末・維新の動乱期、近代日本の運命を背負った勝海舟の半生を、同時代に輩出した幾多の英傑たちとともに描く大河小説。嘉永六年、浦賀沖に来航したペリー率いる四隻の黒船は、徳川三百年の泰平の夢を破り、日本は驚愕と混乱の極に陥った。そのころ勝麟太郎少年は、父の小吉はじめ愛情あふれる人生の師に恵まれ、蘭学を志しながら豪放磊落かつ開明的な英才へと育ちつつあった。(「内容紹介」より)
勝海舟の幼少期から咸臨丸による渡米、軍艦奉行としての第二次長州征伐と将軍家茂の死去、徳川慶喜と為した大政奉還、西郷隆盛相手の江戸開城、そして明治新政と全六巻で語られる一大長編小説です。
明治維新を幕府側から描いた物語でもあります。というよりも勝海舟個人から見た維新といった方が良いかもしれません。
特に一巻目は麟太郎の青春記とも言え、麟太郎の父小吉の挿話と共に、物語としての面白さは無類のものがあります。勿論、二巻目以降の物語も十分以上に面白いのですが、その面白さの質が若干異なる気がします。「父子鷹」「おとこ鷹」と合わせた親子像も是非読んでみてください。
司馬遼太郎の「竜馬がゆく」他の作品も明治維新期を描写してありますが、あえて言うならば司馬遼太郎の作品よりも子母澤寛作品の方がより物語性が強い、と言えると思います。
歴史の一大変動期における勝海舟という人間の特異性がよく分かります。その特異な人間の周りにはまた特異な人間が集まります。
まずは杉純道という人でしょうか。この人がいなければ勝海舟もあんな活躍は出来なかったと思えるほどです。勝家の内情全般まで面倒を見ているのですからたまりません。
ついで、幕府の内部で勝の後ろ盾ともなった大久保忠寛、この人も幕府内部で筋を通し紆余曲折があった人です。
更に坂本竜馬や岡田以蔵も勝に惹かれたし、薩摩の益満休之助もそうです。挙げていけばきりがありません。
一方で女にはだらしなく、少なくとも勝家の女中なども含め5人の妾を囲い二男三女をもうけたそうです。妻民子はその妾の子まで引き取り育てたといいます。この正妻民子という人もまた特異な人と言えるでしょう。