金子弥一郎は慶応3年に異例の若さで定町回り同心となったものの、幕府は瓦解して町奉行も消滅。新政府に仕官した同僚の誘いにも気が進まず、元岡っ引の始めた料理茶屋に居候を決め込んだが、ひょんな縁で佐幕派の「中外新聞」で種取り記者として探索にあたることに。元「八丁堀」同心の矜持を描く傑作長編。(「BOOK」データベースより)
主人公金子弥一郎は、若くして定町回り同心に抜擢されたが、直ぐに明治維新を迎える。新政府のもとで仕える気も無く、日々を無為に過ごしていた主人公金子弥一郎だったが、思いがけなく「中外新聞」の種取り記者として働くこととなった。
表題から想像される内容とは異なり捕物帖ではありません。
御一新により家屋敷は勿論同心職も失ってしまうまでの話を、捕物も交え描いた「つかみぼくろ」。
かつての手下の常五郎の料理茶屋に世話になり無為に過ごしているうちに、とあることから「中外新聞」の種取り記者として働くこととなるまでを描く「ミルクセヰキは官軍の味」。
明治の新政に不満を抱く者達の不穏な動きを追う金子弥一郎の活躍を描く「東京影同心」。
以上の三章からなる、江戸から東京へと変わりゆく時代を背景に、主人公の生き様が描かれています。
何といっても一番の魅力は、雰囲気にあふれる「時代」の描写でしょうか。また、登場人物の会話も実に魅力的です。別に検証したわけではありませんが、明治初期の東京の町の描写もかなり調べて書いておられるのだろうと思います。出身は福岡県ということなのですが、江戸ッ子の会話が小気味よく響きます。
ただ一点、薩摩示現流の初太刀を鍔もとで受けたかのような描写があるのですが、示現流の初太刀を受ける、そのことが困難だと他の本で読んだ気がします。改めて調べるようなことでもないのでそのままですが、思い違いかもしれません。
彩りに添えられた芸者の米八とのこれからの行く末も気になるところです。シリーズ化されないのでしょうか。待たれるところです。