本書『禿鷹狩り 禿鷹4』は、『禿鷹シリーズ』第四弾で最終巻となる作品で文庫本上下二巻で619頁にもなる長編の冒険小説です。
『禿鷹狩り 禿鷹4』の簡単なあらすじ
あんたの仕事は、ハゲタカを消すことにある。そう、神宮警察署の悪徳刑事・禿富鷹秋を狩り立て、この世から抹殺するのだ―ヤクザも南米マフィアも手玉にとるあの極悪刑事の前に、最強の刺客が現われた。巧妙に仕掛けられた執拗な罠を、果たして潜り抜けることは出来るのか!?息を呑む展開の警察暗黒小説、シリーズの白眉。(上巻 : 「BOOK」データベースより)
渋六興業と禿富鷹秋の癒着関係を暴き、警察組織から追い出しにかかる―ハゲタカを執拗に追い回す敵は、同じ神宮署生活安全特捜班に所属する、屈強でしたたかな女警部、岩動寿満子だった。寿満子は渋六の野田に、チャカ五挺と引き換えにある裏取引を持ちかけるが…稀代の悪徳刑事を衝撃のラストが待つ。(下巻 : 「BOOK」データベースより)
『禿鷹狩り 禿鷹4』の感想
本書『禿鷹狩り 禿鷹4』の最大の特徴は、新たな敵役の登場でしょう。それも神宮署生活安全特捜班所属の警部岩動寿満子という女性です。この女性が女版ハゲタカとも言うべき存在で、強烈な個性を持っています。
岩動寿満子とのコンビを組んでいる嵯峨俊太郎警部補もまたミステリアスな雰囲気を持っており、得体は知れないけれども魅力的な男ではありました。
あい変らずに物語の主な視点は渋六興業の水間ですが、指図をするのは禿富鷹秋刑事であり、周りは禿富刑事の思惑で動いていく、という構図は変わりません。
ただ、岩動寿満子という女刑事の登場が、この物語をこれまでとは異なった流れに導いています。
というのも、本シリーズは今まで南米マフィアのマスダが敵役として渋六興業と事を構えていました。しかし、本書でのマスダは敵役としては二番手に回り、この岩動寿満子がシリーズ最大の敵として禿富刑事の前に立ちふさがるのです。
この岩動寿満子警部と禿富刑事との対決は、文庫本下巻の取調室での直接対決の場面で山場を迎え、物語の勢いはそのままに衝撃のクライマックスへと突き進みます。
その後、ラストで新たな事柄が提示され、ある人物の独白でこの物語も終わります。この人物の独白の意味するところが不明ですが、本シリーズの外伝があるとのことですので、そちらで明らかにされるのでしょう。
禿富刑事のような悪徳刑事ものと言えば、近頃読んだ作品では何といっても柚月裕子の『孤狼の血』に尽きるでしょう。著者も自ら言っているように、一時代を築いた映画である『仁義なき戦い』の世界が再現されたと言っても過言ではない、非常にテンションの高い小説です。
『破門』の黒川博行が柚月裕子との対談の中で語っている言葉では、『孤狼の血』という物語は「情ではなく理で書いてい」て「リアリティ」があるのです。一気に引き込まれてしまいました。
他に岩動寿満子を思わせる女刑事として、吉川英梨が書いている女性秘匿捜査官・原麻希の第二巻『スワン~女性秘匿捜査官・原麻希』に出てくる大阪府警刑事部捜査一課の嵯峨美玲警部補という女刑事がいます。
ただ、こちらは、強烈な関西おばちゃんキャラではあるものの岩動警部ほどの悪徳刑事とまでは言えないようです。
この『女性秘匿捜査官・原麻希シリーズ』自体が痛快刑事ものとでも言えそうな作品であり、本書とはかなりその趣を異にしますが。