背望会テロ事件から一年。警視庁鑑識課・原麻希のもとに、公安部の広田達也から「背望会リクルーターの指紋が見つかった」という連絡が入る。捜査のため奈良県に向かったふたりだったが、そこで知事選候補者が誘拐され、身代金の運び人に麻希が指名されたという一報が。脅迫状の送り主、「スワン」の正体とは―!?大阪府警vs.警視庁の熾烈な捜査バトルが展開される、人気長編警察小説シリーズ第2弾。(「BOOK」データベースより)
女性秘匿捜査官・原麻希シリーズの第二巻目です。
前作『アゲハ』から一年が経っています。原麻希の夫の則夫も潜入捜査を終え、久しぶりに家に帰っています。しかしながら、娘の菜月との間はうまくいかず、原麻希とも何かと齟齬を感じるのでした。
そんな折に公安部の広田達也から、リクルーターの指紋が見つかったという連絡が入り、麻希は奈良県へと向かいます。そこでは、見つかった指紋の持ち主で、既になくなっている警察官の墓を掘り返したり、おりしも行われていた奈良県知事選挙の候補者の一人である櫛田という男が誘拐され、麻希が身代金の運び人として指名されたりするのです。
その誘拐でも「背望会」の名が使われていて、麻希らはリクルーターを追って奈良県南部の海天村まで来るのですが、そこで映画を撮っていた南条リリスという女優らに絡み新たな事件が起きます。
奈良では、原麻紀は奈良県警のはみ出し者であるマル暴の吾川刑事とコンビを組むことになりますが、加えてもう一人ユニークな人物が登場します。
それが大阪府警刑事部捜査一課の嵯峨美玲警部補であり、まるで逢坂剛の禿鷹シリーズの第四弾『禿鷹狩り』に出てくる神宮署生活安全特捜班所属の岩動寿満子警部を思い出させる存在です。この岩動警部は、ハゲタカこと禿富鷹秋刑事の女版と言えそうなキャラクターだったのですが、本書の嵯峨警部補もそれに劣らない強烈な個性の持ち主です。
体格もさることながら、この女は、警察官であろうとヤクザであろうと、自分に敵対しそうな人物の弱みを握り、もし自分に逆らえば徹底的に叩きのめすという性格の持ち主です。なかなかに面白そうなキャラであり、本シリーズでの活躍が楽しみな人物だと思えます。
しかし、この人物も本書が進むにつれ存在感が薄くなっていったのは残念でした。本書の後のシリーズでも登場するかどうかは不明ですが、もう少し活躍させて欲しい存在です。
とにかく、次から次へと時間が起きる割にはあまり疾走感を感じない物語でした。物語自体が整理されていない印象しかなく、少々筋立てを整理した方がよさそう、という印象しか持てませんでした。
ただ、本書のラストは意外性に富み、それもかなり強烈な意外性であり、出版社の思惑に乗ってしまう終わり方ではありました。
もうひとつ感情移入しにくい物語ではありましたが、キャラクターも筋立て自体も決して面白くないわけではなく、シリーズとしてもう少し追ってみたい作品ではあります。