豊後、坪内藩の城下町にある青鳴道場。神妙活殺流の遣い手だった先代の死から早一年、道場は存亡の危機にあった。跡を継いだ長男の青鳴権平はまだ二十歳と若く、その昼行燈ぶりから、ついには門人が一人もいなくなってしまったのである。米櫃も底をついたある日、「鬼姫」と巷で呼ばれる妹の千草や、神童の誉れ高い弟の勘六に尻を叩かれた権平がようやく重い腰を上げる。「父の仇を捜すために道場破りをいたす」。酔って神社の石段で足を滑らせて亡くなったとされる先代の死には不審な点があり、直前には五つの流派の道場主たちと酒席を共にしていた。三人は、道場再興と父の汚名を雪ぐため、まずはその一つ、新当流の柿崎道場に乗りこむ―。(「BOOK」データベースより)
葉室麟のいつものタッチとは異なる、軽妙な長編時代小説です。
神妙活殺流の青鳴道場では先代の死から一年が経ち、明日の米も無い状態にありました。そこで青鳴道場の跡取りである青鳴三兄弟は、道場破りをしようということになるのでした。
というのも、収入の確保のほかに、先代の死に不審な点があり、道場破りをしながら先代の死の謎をも探り出そうというのです。
しかしながら、弟の勘六は神童と呼ばれるほどの頭脳の持ち主ではあるものの剣の方はさっぱりで、妹の千夏は「鬼姫」と呼ばれているほどの達者ではありますが他の道場主を倒すには心もとなく、頼りの長男の青鳴権平は二十歳と若いながらかなりの使い手ではあっても、彼の秘剣は三本に一本しか決まらないという欠点があったのです。
葉室麟という作者の作品はは、直木賞を受賞した『蜩の記』を始めとする一連の作品のように、清冽な生きざまの侍の姿を緊張感のある文体で描き出しているところにその特徴を見ることができます。
しかしながら、本書はその対極にある、ユーモラスな筋立ての物語です。本書のようなコミカルな葉室麟の作品としては、私は他に初期に読んだ『川あかり』という作品を思い出すだけです。家老の暗殺を命じられた藩で一番の臆病者の伊東七十郎という若者が、川止めにより足止めされた宿で様々な人に触れ、成長する物語で、爽やかな印象を持ったものです。
残念なことに、本書ではそうした印象はありません。というよりも、物語として不都合な点のほうが多く見られ、残念な印象でした。
青鳴三兄弟のキャラクター設定はなかなかに面白そうに思ったのですが、例えば長男権平之秘剣が三本に一本しか決まらないという設定が生かされているとは思えないところや、結局は青鳴道場と他の五つの道場との争いでしかない点など、あまり物語の世界観の構築が上手くいっているとは思えなかったのです。
最終的には先代の死の謎とあわせて他の道場との絡みの意味も明らかにされるのですが、歯切れが悪いと感じてしまったのです。
ただ、ネットで読む本書の評価にはかなり高いものがありました。私のように否定的に感じているものは殆どなかったように思います。つまりは、個人的な好みとしての印象でしかなかったようです。