結城 真一郎

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#真相をお話しします』とは

 

本書『#真相をお話しします』は、2022年6月に224頁の単行本(ソフトカバー)として刊行された短編の推理小説集です。

かなりひねりの効いた全部で五編の物語が収録されていますが、個人的には今一つの印象の作品集でした。

 

#真相をお話しします』の簡単なあらすじ

 

ミステリ界の超新星が仕掛ける、罠、罠、罠、罠、罠。家庭教師の仲介営業マンとしてしのぎを削る大学生。娘のパパ活を案じながらも、マッチングアプリに勤しむ中年男。不妊に悩んだ末、精子提供を始めた夫婦。リモート飲み会に興じる学生時代の腐れ縁。人気YouTuberを夢見る、島育ちの小学生四人組。微笑ましくて、愛おしくて、時に愚かしい。令和を生きる私たちにニュー・ノーマル。-本当に?読みながら覚えるかすかな違和感と確かな胸騒ぎ。それでも、あなたの予想は必ず裏切られる!緻密で大胆な構成と容赦ない「どんでん返し」の波状攻撃に瞠目せよ。第74回日本推理作家協会賞“短編部門”受賞作「#拡散希望」を収録。(「BOOK」データベースより)

 

 

#真相をお話しします』の感想

 

本書『#真相をお話しします』は、それぞれに日常生活の中での出来事をテーマにちょっとした「ずれ」から始まる違和感を導き出した作品集です。

それぞれの物語では、「なるほど」という小気味よい納得感を引き出す、それも現代的な仕掛けが生きています。

 

ただ、個人的には各短編それぞれにおいて物語のリアリティーを感じることができず、作者の仕掛けのための舞台設定のような印象をぬぐい去ることができません。

どうしても、いわゆる本格派の推理小説ではないのにもかかわらず、「わざとらしさ」を感じてしまいました。

例えば第一話の「惨者面談」では、子供との会話の不自然さはどうしても違和感が残るし、明確にある番号を示してある以上はほかに考えようはないと思えます。

第二話の「ヤリモク」にしても状況設定に無理があると思うのです。

 

以上のような点が気になる私は、推理小説では「動機」が重要でであって、動機に不自然さが残っているとその物語自体に違和感を感じてしまいます。

物語の犯行や捜査の状況に不自然さが残っていてはリアリティーを欠くことになるのは勿論です。

ただ、そうではなく、物語の流れそのものを見る読者にとっては、動機や状況はもちろん大事にしてもそれは物語の一要素に過ぎないこととなり、全体としてまとまっていればいいという流れになりそうです。

本書『#真相をお話しします』の場合、個々の物語の仕掛けはよく考えられており、日常の暮らしの中でのちょっとした出来事を取り上げて物語として仕上げているのですから十分に面白い作品だとの評価が出てくると思います。

ですから、これも何度も書いてきたことですが、客観的には本書の評価が高いものである以上は、私の言うような問題点はあくまで個人的な好みのレベルでしかないことになると思われます。

 

また、本書『#真相をお話しします』について指摘されているのは、物語の仕掛けが現代的だということです。

マッチングアプリ、リモート飲み会、ユーチューバーといった現代的な言葉がテーマとして出てきます。ほかの派遣家庭教師や精子提供などという言葉も現代的と言えばそう言えるかもしれません。

そうした「新たな価値観」が出てくれば、新たな動機も出てくるというわけです( ORICON NEWS : 参照 )。

 

本書を読んでいて思い出した短編の推理小説集としては、米澤穂信の『満願』などの作品集や、また長岡弘樹の『傍聞き』などの作品集があります。

共に「このミステリーがすごい!」の一位や、日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した作品が収められています。

そして、両作品ともに仕掛けのうまさや、その仕掛けにはまったときの爽快感が見事でした。

 

 

本書『#真相をお話しします』もその仕掛けはよく考えられているとは思うのですが、この「爽快感」が今一つでもありました。

確かに現代的なテーマで、新しい視点ではあるものの、読後のしてやられた感が上記の作品ほどではなかった気がします。

とは言っても、個人的な好みを欠くのが素人の個人のブログですからそれは仕方ありません。

単純に、私の好みとは少しずれた作品だったというしかないのです。

 

結局、どの話もよく練られていて、客観的にみると傑作短編ミステリーとして評価の高いのも分からないでもなく、あらためて自分の好みの偏りを思わないでもありません。

ただ、今後この作家の作品を読み続けるかは微妙と言うしかなく、積極的に面白いとまでは言えない作品でした。

[投稿日]2022年10月05日  [最終更新日]2023年5月6日
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