『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』とは
本書『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』は『レーエンデ国物語シリーズ』の第三弾で、2023年10月に講談社から352頁のソフトカバーで刊行された長編のファンタジー小説です。
これまでの二巻とはまた異なるタッチで展開される革命の物語であり、特に後半の展開はかなり惹き込まれて読んだ作品でした。
『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』の簡単なあらすじ
ルミニエル座の俳優アーロウには双子の兄がいた。天才として名高い兄・リーアンに、特権階級の演出家から戯曲執筆依頼が届く。選んだ題材は、隠されたレーエンデの英雄。彼の真実を知るため、二人は旅に出る。果てまで延びる鉄道、焼きはらわれた森林、差別に慣れた人々。母に捨てられた双子が愛を見つけるとき、世界は動く。(「BOOK」データベースより)
『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』の感想
本書『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』は『レーエンデ国物語シリーズ』の第三弾となる物語ですが、これまでの二巻とは異なり「演劇」を通した革命の物語でした。
これまでの二作品の持つ恋愛の要素や戦いの場面もほとんどないという全く異なる作風でもあり、あまり期待せずに読み始めたものです。
本書中盤までは、当初の印象のとおり前二作品との関連性もあまり感じられないままに、これといった見せ場もないため、今一つという印象さえ持っていました。
ところが、中盤以降、主役の二人がテッサの物語に触れるあたりからは俄然面白くなって来ました。
アクションはありません。古代樹の森などのファンタジックな要素さえもありません。
それどころか、本書の時代においては蒸気機関車さえ走っていて、イジョルニ人とレーエンデ人との間にはこれまで以上の落差がある時代です。
そうした時代を背景に、この物語は語られます。
本書『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』は、役者のアーロウと劇作家のリーアンという双子の兄弟の物語です。
というよりも、アーロウの視点で語られる兄弟の物語というべきでしょう。
アーロウとリーアンとはは幼いころからいつも一緒にいて互いに互いを必要とし、かばい合って生きてきていました。
しかし、二人が成長してルミニエル座に受け入れられ、そこでリーアンの劇作家としての才能が開花すると、アーロウは役者として生きていながら、リーアンに対しては嫉妬、妬みの気持ちを押さえられなくなっていくのです。
そのうちにリーアンはレーエンデの英雄テッサの物語を戯曲として書く機会を得るのでした。
つまり、テッサの物語から120年以上を経て、テッサたちの話は闇に葬られ歴史から消し去られていたのです。
しかし、テッサたちの物語を知ったリーアンが彼らを主人公にした戯曲を書くことを思いついたあたりから物語は大きく動き始め、私も大いにこの物語に惹き込まれていきます。
先に述べたように、心惹かれる恋愛要素も、また派手なアクションはないのですが、二人の兄弟の運命の展開に読者もまた巻き込まれ感情移入せざる得ない面白さを意識せざるを得なくなるのでした。
これまでの二巻とは全く異なる観点からレーエンデの独立を語る本書は、よくぞこうした物語を書けるものだと感心するばかりです。
次はどんな物語を提供してくれるのかと期待は膨らみます。
ちなみに、「多崎礼 公式blog 霧笛と灯台」によれば、本『レーエンデ国物語シリーズ』は全五巻であり、第四巻『レーエンデ国物語 夜明け前』、第五巻『レーエンデ国物語 海へ』は2024年刊行予定だということです。
期待して待ちたいと思います。