水田 勁

紀之屋玉吉残夢録シリーズ

イラスト1
Pocket


本書『いくさ中間』は、紀之屋玉吉残夢録シリーズの第二弾となる長編の痛快時代小説です。

父親としての玉吉の姿が垣間見える一編で、読みがいのある面白さ満載の作品でした。

 

深川は門前仲町の芸者置屋「紀之屋」の玉吉は、何者かに襲われ息絶えようとする浪人から、この金を娘に、と託される。届けに行った先で出会ったのは、たった十歳で天涯孤独になってしまった娘、ちづ。玉吉はかつて御家人だった頃に失った自分の娘とちづを重ね、浪人が殺された理由を調べ始める。その裏には、奉行所も頭を悩ませるある事件がからんでいるのだった…。苛烈な過去を持つがゆえに心優しき幇間が江戸を奔る、シリーズ第二弾。書き下ろし長編時代小説。(「BOOK」データベースより)

 

今回は幇間としての玉吉は影をひそめています。遊び人が好奇心から事件の背景を探る、という設定でも行ける程です。

しかし、たまに主人公玉吉の過去が垣間見え、やはり玉吉の物語ではあります。その玉吉の過去が少しずつ見えてくる点でも読み手としてはその後の展開に期待が持てます。

 

本書『いくさ中間』の作者水田 勁 雑感でも書いているように、この作家については何も分かりません。

しかしながらその分隊はなかなかにテンポの良く、とても気持ち良く読むことができます。続刊が出るのが待ち遠しいほどです。

そのリズムの心地よさについつい本が置けずに一気に読んでしまいました。

この文章のどこにそのテンポ良く感じる原因があるのか、私には分かりません。ちょっとゆっくりと分析してみたい気もするのですが、残念ながらそんな分析能力もないことに気付きました。

 

楽しく読めれば十分でありそれを解析する必要などない、という気もします。

ただ、読んでいて思ったのは時代背景や場面説明などの書き方のタイミングが良く、またその説明も簡潔で小気味良い、ということです。

そうした文章の過不足の無い簡潔さも心地よいりズを作っている原因の一つではないでしょうか。

とにかく、面白い小説です。今後の展開を待ちたいです。

[投稿日]2015年04月20日  [最終更新日]2020年7月30日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの痛快時代小説

吉原御免状 ( 隆慶一郎 )
色里吉原を舞台に神君徳川家康が書いたといわれる神君御免状を巡り、宮本武蔵に肥後で鍛えられた松永誠一郎が、裏柳生を相手に活躍する波乱万丈の物語です。
鬼平犯科帳 ( 池波正太郎 )
言わずと知れた名作中の名作です。
はぐれ長屋の用心棒シリーズ ( 鳥羽 亮 )
主人公は剣の達人だが、隠居の身です。だから立ち回りも時間を経ると息切れしてしまいます。だから、同じ年寄りたちが助け合い、戦うのです。隠居とは言えまだ五十歳代の登場人物です。還暦を過ぎたわが身としては、少しの寂しさが・・・。
剣客春秋シリーズ ( 鳥羽 亮 )
剣術道場主の千坂藤兵衛とその娘里美、その恋人彦四郎を中心に、親子、そして若者らの日常を描きながら物語は進んでいきます。
吉原裏同心シリーズ ( 佐伯 泰英 )
薩摩示現流の達人である主人公が、吉原の用心棒として、幕府中核の大物を相手に戦いを繰り広げる、痛快時代小説です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です