妻は、くノ一シリーズ(2019年07月18日現在)
妻は、くノ一 シリーズ 蛇之巻(2019年07月18日現在)
- いちばん嫌な敵 妻は、くノ一 蛇之巻1
- 幽霊の町 妻は、くノ一 蛇之巻2
- 大統領の首 妻は、くノ一 蛇之巻3
ここで紹介しているシリーズは、すでに最終巻まで出ている「妻は、くノ一シリーズ」の二巻を一巻として加筆・修正をした“最終版”として出版されている「完本」版を挙げています。
この作家の作品は爆発的な面白さを持っているというわけではないのですが、どの作品もはずれはないと言えると思います。
そうした作品群の中で、本書『妻は、くノ一シリーズ』はかなり面白い方に属するのではないでしょうか。
本書はこの作者の『耳袋秘帖シリーズ』と似た構成です。
『耳袋秘帖シリーズ』では南町奉行の根岸肥前守鎮衛が、実際書いていた「耳袋」に似た「耳袋秘帖」なるものを設定して、そこに記されている日常に潜む小さな不思議を解いていきます。
一方本書『妻は、くノ一』では、元平戸藩主の松浦静山が記しているという「甲子夜話」という随筆集に記されている謎を主人公の雙星彦馬が解き明かしていきます。
といっても、似ているのはその点だけでそのほかは全く異なります。
主人公の雙星彦馬は三十俵一人扶持の軽輩で、剣術などの争いごとは好まず、しかし算術は得意で蘭語も読め、星とその運航はほとんど頭に入っている天体好きの変わり者です。
ただ、今では江戸で商人になっている安藤千之助だけは彦馬のことを分かってくれていました。
そんな彦馬のもとに美しく気が合う織江という女性が嫁に来ることになりました。しかし、そんな織江はひと月もするといなくなります。
彦馬は密偵だったと思われる織江を探すために隠居をし、今では西海屋千右衛門と名乗っている千之助のすすめもあって江戸へと出るのでした。
この千右衛門は、元平戸藩主の松浦静山とつながりがあり、彦馬もまた松浦静山のもとに出入りするようになります。
こうして、それぞれの話の中で日常に潜む謎や「甲子夜話」の謎を解明しながら、彦馬と織江との物語が展開するのです。
主人公の剣劇が売り物の時代小説ではなく、主人公の知恵と、それを見守る妻織江の武術とで難題を解決しながら物語は進みます。
勿論、人情話を盛り込みながらもいろいろな分野の細かな知識をも併せて読み知ることのできる楽しい物語になっています。
「妻は、くノ一」シリーズは当初は十巻、その続編として「蛇之巻」が三巻の全十三巻のシリーズでした。それが「完本」という形で再刊され、今のところ「蛇之巻」を除いて全五巻として刊行されています。
ちなみに、本シリーズは2013年4月からNHK BSプレミアムのBS時代劇枠で市川染五郎主演でテレビドラマ化されています。詳しくは「BS時代劇「妻は、くノ一」」を参照してください。