平戸藩御船手方書物天文係の雙星彦馬は、天体好きの変わり者。そんな彦馬の下に、織江という嫁がやってきた。彦馬は、美しく気が合う織江を生涯大切にすると誓うも、わずか一月で新妻は失踪してしまう―織江は平戸藩の前藩主・松浦静山の密貿易疑惑を探るため、幕府が送り込んだくノ一だった。そうとは知らない彦馬は、織江の行方を追って江戸へ。様々な謎を解きながら愛する妻を捜す、彦馬の新たな暮らしが始まった!(「BOOK」データベースより)
角川文庫から出ている「妻は、くノ一 シリーズ」第一巻と第二巻を加筆・修正をし、一冊の本として最終版と銘打った、長編の痛快時代小説です。
平戸藩御船手方書物天文掛の雙星彦馬は上司である赤松晋左衛門から嫁の話を持ち掛けられ、二つ返事でこれを受けます。
嫁の名は織江といい、屏風岳のせせらぎのように涼しげな女でした。織江は約束の日の夜中に、小さな風呂敷一つをもって、自ら小舟を漕いでやってきました。
それから一月後、毎日職場に弁当を届けてくれる筈の織江が来ません。織江は、七夕の願いに書いた「このままで」という言葉を残し、いなくなってしまったのです。
彦馬はさっそく隠居願を出し、織江を探しに江戸へと出立するのでした。
こうして彦馬と織江の物語が始まります。
彦馬は江戸への道中でも、相宿になった西国某藩の沢井小平太という武士の荷物であるサボテンが紛失した謎を解いたり、双子の泥棒の正体を見抜いたりと(第三話 奇談中身喰い)、その頭脳明晰なところを発揮しています。
江戸での彦馬は、幼馴染でもある西海屋の千右衛門の世話で、神田明神の裏手にあたる妻恋神社そばにある妻恋町の妻恋坂から入った佐平長屋に落ち着くことになります。
彦馬は法深寺の祥元という和尚のもとで手習い指南所の師匠をすることになりますが、その彦馬を陰から見守る織江の姿がありました(第四話 妻恋坂)。
千右衛門のもとで知り合った南町奉行所臨時廻り同心の原田朔之介の話を聞いた彦馬は、かどわかしに遭った娘の謎を解明し、千右衛門の仲介で松浦静山に会い、織江はくノ一であり密偵に違いないと言われます(第五話 月は知っている)。
その後、「甲子夜話」に書かれている不思議な話の謎を解いたり(第六話 墓場から来た女)、加賀百万石の前田家で起きた盗人騒動の謎を解明し(第七話 星の井戸)、自分が教えている子供に掛けられた疑いを晴らしたり(第八話 山茶花合戦)、踊る猫の謎を解いたり(第九話 踊る猫)、「甲子夜話」に書かれている話の秘密を解いたり(第十話 海の犬)していました。
その間、織江は同輩のお弓の妬心を買って毒殺されかけたり、上司の川村真一郎の命で松浦静山のもとへと潜入したりと忙しくしていたのです。
このように、彦馬による各話ごとの謎の解明の話と、物語を貫く織江による密偵の話とが流れており、そして全体として彦馬と織江との物語が語られています。
それぞれの話は重畳的に、しかし互いに邪魔をせずに併存しているのであり、エンターテイメント小説として非常に面白い流れになっています。
まだ第一巻ですので今後の展開を楽しみにしたいと思います。