ついに妻・織江の正体を知った彦馬。だが彦馬の想いは変わらず、手習い所の先生をしながら妻との再会を願う。一方、抜け忍となることを決意した織江の前には、お庭番頭領の川村真一郎が立ちはだかる。そんな織江に手を差し伸べたのは、かつての凄腕くノ一、母・雅江だった。川村の企みに満ちた「お化け屋敷」で壮絶な戦いが繰り広げられる中、織江の驚くべき過去も明らかに―。特別書き下ろし短編「牢のなかの織江」も収録。(「BOOK」データベースより)
「妻は、くノ一 シリーズ」完本版第三巻の長編痛快時代小説です。
あいかわらず、身の回りで起きる不思議や、それに見合う「甲子夜話」記載の話の謎を兄妹している彦馬らでした。
彦馬の手習い所に通う寛太の家の開かずの間の話(第一話 開かずの間)、「足のような顔をした男」に殺された男(第二話 猫のような馬)、甘味屋「五の橋」の親父の失踪の謎(第四話 お化け屋敷)、「一」と書かれた陶器のかけらの秘密(第五話 ちぎれても錦)などが続きます。
また、鳥居燿蔵はお庭番頭領の川村真一郎と共に、いろいろな仕掛けが満載の幽霊屋敷を新たに建て静山に売りつけようと企み、その間に、織江の母雅江も織江と共にお庭番組織から抜けることを決意します(第三話 お化け屋敷)。
その後、例のお化け屋敷でのお庭番同士の戦いがあり(第六話 お化け屋敷ふたたび)、意外な事実が判明します。
そして、ある商人の突然の放蕩に隠された謎(第七話 むなしさの理由)、庭石にペッちゃんこされた隠居の話(第八話 ぺっちゃんこ)、共に芝居を見に行った友人は既に死んでいた話(第九話 芝居好きの幽霊)、根岸の里で話題の人魚の話(第十話 陸の人魚)、柳原土手で見られた消えた辻斬りの謎(第十一話 殺しの蜃気楼)と続いていきます。
このように、相変わらずの謎解きをする彦馬ですが、いよいよ織江とそれを助ける母雅江の抜け忍としての活動が始まり、物語は大きく動き始めます。
と同時に、本シリーズの根幹に関わる重要な事実が二つも明らかにされます。
それはシリーズの色合いも変わったように感じられるほどです。
勿論、彦馬の謎解きもこれまで同様に続いていきます。
途中、お化け屋敷での闘争があったり、宵闇順平という新たな凄腕のお庭番も登場し、静山の寝所深くへと忍び込んだりする場面も見られたりと、アクション小説としての見どころも満載の一編になっています。
とはいえ、風野真知雄という作家の他の多くの作品と同じく、この作家の一番の魅力は細かな謎ときをちりばめたストーリーの展開にあると思われ、そうした観点から楽しむにはもってこいの作品だと思います。