“共和国”の緑化政策船団の護衛のため、航空上の脅威となる人狗に対抗する生体兵器として生み出された対狗衞仕の員。数百年を戦いと孤独のうちに費やした彼女は、情報の涸れ果てた互聯網上を彷徨う中で、cyと名乗る人物に呼びかけられる。豊かな知識を所有する彼との対話に喜びを見出す員。だが、共和国が散布する細菌兵器の脅威が、cyに迫っていた。硬質な叙情に満ちた本格SF。(「BOOK」データベースより)
サイバーパンクの雰囲気を持った舞台設定のアクション小説、というところでしょうか。「員」や「cy」という登場人物の命名の仕方も含め、独特の世界観を持つ物語です。SFに関心の無い人はまず読まない作品だと思います。
「佐久間種苗」により創造された対狗防衛仕である主人公の員(エン)は、ある日互聯網(ネット)でcyと名乗る存在と知り合う。しかし、共和国の緑化政策は、cyのいる地域への攻撃を決定する。
cyを助けたい員は、「佐久間種苗」との契約の更新を拒み、共和国の艦隊を攻撃すべく出撃するのだった。
本書は舞台設定上の、個々の言葉の意味については何も説明しません。
しかし、言葉の通常の意味とは異なる使い方がされている個所も少なからずあり、読者が個別に持つ印象で読み進めていくしかありません。ただ、この”あいまいさ”こそが作者の狙いにも思えます。
このような、ある種の雰囲気だけを身にまといながら読み進めることになるので、かなり読み手を選ぶと思われます。この点で、どこか酉島伝法の『皆勤の徒』を思い出していました。
しかし、そちらは有機体の質感をグロテスクなまでに前面に出していたのに対し、本書は無機質です。物語の持つ全体としての雰囲気は全く異なります。
本書は、一歩間違えば、作者のひとりよがりの、読者不在の物語になりかねない危うさを感じます。世界観、表現する単語の説明の無さは、そうした危険性もあるのではないでしょうか。
説明のない世界観をイメージすることに面白さを感じない読者も、少なからずいると思います。常に詳しい描写が良いとは思いませんが、少なくとももう少しイメージを構築する手掛かりがあればと思いました。
勿論、これは個人的な好みに帰着する問題なので、ことの善しあしを言うつもりはありません。
個人的には、決して嫌いではない作風ですので、更に追いかけてみたい作者です。