結城 充考

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友人をかばい、犯罪集団に追われる身となった17歳の少女・ジョウ。決死の逃避行の中、彼女はかすかな希望を胸に、最後の賭けに出る―。疾走感120%!ノンストップ・ハードボイルド・ミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

「ノンストップ・ハードボイルド・ミステリー」という惹句は決して当てはまるものではないけれど、一人の少女の渋谷の裏街での必死の逃亡、そして反撃を描く長編の物語です。

 

ジョウは、友人である佐藤翡翠(サトウヒスイ)の頼みで、数日間の住い(隠れ家)を探してやったお礼にと、小さな円筒形のライターを貰う。

しかし、何か裏を隠していると感じたジョウは、ヒスイの言葉の裏を探るべく動き始める。と、貰ったライターが実は記憶装置であることに気づく。その後、ヒスイから聞かされていた男が殺されるところに遭遇するのだった。

 

以前読んだ結城充考の作品の「クロハ・シリーズ」でもそうでしたが、どこかサイバーパンクの雰囲気を持った背景設定が為されています。

サイバーパンク特有の脳と機械の融合のような舞台設定はありませんし、篠突く雨が降っている訳でもないのですが、決して抜けるような青空が広がっている風景は想像できません。つまりは、モノトーンの風景の中で、薄暗いビルの谷間を這いずりまわっているイメージなのです。

ここで言う「サイバーパンク」とはSFで言われる言葉で、正確ではありませんが、ネットワーク(仮想空間)を重要な概念とする一つの表現方法や考え方のことを言います。そして、全編小雨の降っている印象の「ブレードランナー」という映画のイメージで語られることが多いようです。

しかし、きらびやかなのですが、少しの倦怠感を感じさせる本書の装丁を見ていると、どこかサイバーパンクの雰囲気を持っている物語の無機質感とは若干異なる気もします。

 

 

タイトルにもなっている主人公である17歳の少女ジョウが、誰にも好かれるヒスイという女の子からの頼みごとを受け入れてしまったことから、正体不明の敵に追われ、逃げまわる姿が描かれています。

相手が自分のことを小娘だとなめてかかるそのことが逆に自分の強みだと自覚し、必死で生き抜こうとするジョウの姿は、それなりに魅力的であり、感情移入の対象になり得ます。

しかし、小娘なりの弱い腕力を助けてくれる人物が登場する訳でもなく、アクション性もそれほどないその設定は、どこか中途半端に思ってしまいました。クロハシリーズの時に感じた主人公の力強さは無く、その印象は作品自体の印象となってしまったのです。

 

当初思ったこの作家の作品にしては、面白いのですが、期待していた程ではないという、少々残念な物語でした。

[投稿日]2015年11月02日  [最終更新日]2019年2月8日
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