志坂 圭

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ディスカヴァー・トゥエンティワン


滔々と紅』とは

 

本書『滔々と紅』は、松本大介氏の解説まで入れて475頁の、第一回本のサナギ賞優秀賞を受賞した長編の時代小説です。

江戸末期の吉原を舞台とし、売られてきた一人の娘の成長を描いており、気になるところはあるものの読みごたえのある作品でした。

 

滔々と紅』の簡単なあらすじ

 

天保八年、飢饉の村から九歳の少女、駒乃が人買いによって江戸吉原の大遊郭、扇屋へと口入れされる。駒乃は、吉原のしきたりに抗いながらも、手練手管を駆使する人気花魁、艶粧へと成長する。忘れられぬ客との出会い、突如訪れる悲劇。苦界、吉原を生き抜いた彼女が最後に下す決断とは…。―全国の書店員が選んだ「世に出したい」新作!第1回本のサナギ賞優秀賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

駒乃は、父幸助、母ヌ衣の間の七人兄弟の長女だったが、1833年の冷夏から始まったいわゆる天保の大飢饉で家族は死ぬか逃亡し、母親と長男の松吉が残されているだけだった。

そのため、殆ど病人のような母親と寝付いている松吉を残し、駒乃は女衒の伊佐治に連れられて故郷の奥州田村郡朝月村を出立することとなった。

途中、他の村から連れられてきた娘二人を引き取った伊佐治は江戸へ向けて出立する。

何とか吉原へたどり着いた伊佐治や駒乃は、亡くなった娘の代わりに大見世扇屋へと届けられた。

扇屋では楼主の宇右衛門とに“しのほ”という新しい名前を付けられた駒乃は、翡翠花魁預かりの禿としてこの吉原で厳しく躾けられることとなるのだった。

 

滔々と紅』の感想

 

本書『滔々と紅』は天保八年(1837年)、主人公の駒乃が九歳の時から始まります。

先にも書いたように、いわゆる「天保の大飢饉」で吉原に売られてきた九歳の駒乃が、吉原で成長し花魁となりゆく姿を描き出してあります。

綿密な調査で調べあげた吉原の実情を背景に、吉原で生きていく駒乃の姿は他の吉原を舞台にした作品とは異なる魅力がありました。

 

本書の読み始めは吉原という特殊な社会をよく調べ上げ、説明していると、作者の下調べとその情報を物語に乗せるさまをなかなかのものだと思いながら読み進めていました。

始めの方では天保の頃の吉原女郎の階級や花魁や上級女郎の生活の一端、そして遣手という言葉の説明までを二頁も使って説明してあるのです。

こうして吉原という世界のしきたりや生活の説明がかなり詳細に語られ、そうした特殊世界の中での駒乃が暮らしていく様子が描かれるのです。

ただ難点もあります。本書を読み進めるなかで中ほどまでは、その詳しさから小説の形を借りた吉原紹介書であるかのような印象になりそうで、もう少し物語としてのストーリー展開の面白さを持ってほしいと思ったものです。

 

本書『滔々と紅』のような吉原を紹介した作品としては、何よりも松井今朝子の『吉原手引草』と『吉原十二月』とを挙げるべきでしょう。

吉原手引草』は、一人の花魁の失踪事件の謎を追いながら吉原そのものを鮮やかに描き出した時代ミステリーの傑作で、選考委員絶賛の第一三七回直木賞受賞作です。

また、『吉原十二月』は、籬の楼主、四代目舞鶴屋庄右衛門の月ごとのひとり語りという形態で舞鶴屋のふたりの花魁を中心に描かれる、四季風俗を織り込んだ、絢爛たる吉原絵巻で、吉原案内の上級編と言えます。

 

 

それに対し、本書『滔々と紅』は、一人の少女の成長の背景として吉原という町そのものが持ついろいろなエピソードを織り込んでいるエンターテインメント小説です。

本書冒頭にも天保の大飢饉の様子を具体的に描きながら、路傍に転がる餓死者の体から小指を切り取る女衒の伊佐治の姿があります。

それは、遣手(やりて)のお豊から頼まれたものであり、お豊は後に花魁に売り渡すのです。

つまりは、花魁がお客の心をつかむための手段である小指を切り落とすという手管のための偽物の指を準備しておくということです。

こうした豆知識、エピソードが挟まれ、吉原の具体的な生活やしきたりが示されていきます。

また、吉原で起きたであろう事件、つまりは火事で見世が丸焼けになった時に許される仮宅や女郎の足抜け、足抜け女郎に対する拷問など定番のエピソードが駒乃が成長する中で遭遇する事件として物語に組み込まれているのです。

さらには遊郭での客の姿も、町人そして商人、侍と種々であり、例えば侍の刃傷沙汰など、それぞれの身分に応じた事件が巻き起こされます。

こうしたさまがかなり詳しく描写されていくために味気なさが勝つ場面があり、吉原紹介書という感想が出てくるのです。

 

吉原の駒子の成長の面での変化も見どころです。

まずはお職の翡翠(かおとり)花魁のもとでの禿のときの“しのほ”と名付けられます。

次いで、衣食住にかかる費用すべてを楼主が持つ引込新造となって“明春(あきはる)”と変わり、その後、附回の花魁として“艶粧(たおやぎ)”となっていきます。

その間、“なつめ”という禿をかわいがり、ずっとともにいることになるのですが、この“なつめ”が物語の上でも重要な位置を占めています。

 

この“なつめ”が物語に登場してくるあたりから物語の展開に面白さを感じるようになりました。

勿論、種々の背景の描写は相変わらずに詳しいのですが、その詳しさに慣れてきたのかもしれません。

とはいえ、隠れキリシタンの話など、姦淫をしない筈のキリシタンの登楼の話など、微妙に変だと箇所もありましたが、次第に物語世界を堪能できるようになってきたのです。

今後、この作者の作品を少しは追ってみようかと思わせられるだけの力を持った作品ではありました。

 

ちなみに、本書『滔々と紅』は宮島葉子の手によってコミック化されています。ただ、私の探し方が足りないのか電子書籍版しか見当たりませんでした。

 

[投稿日]2021年12月07日  [最終更新日]2021年12月7日
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