泡坂 妻夫

泡坂 妻夫』のプロフィール

(1933-2009)東京・神田生れ。家業の紋章上絵師の仕事をするかたわら推理小説を書き、1976年「DL2号機事件」で第一回幻影城新人賞に入賞しデビューした。1978年『乱れからくり』で日本推理作家協会賞を、1988年『折鶴』で泉鏡花文学賞を、1990(平成2)年『蔭桔梗』で直木賞を受賞。マジシャンとしても著名で、創作奇術で石田天海賞を受賞している。

引用元:泡坂妻夫 | 著者プロフィール

泡坂 妻夫』について

この泡坂妻夫という作家は、私が若いころに何も知らずに面白い作品だと紹介され読んだ作家でした。

読後に作者を調べたところ、奇術師としてかなり高名な人だと知り、作品のトリックがユニークなことに納得した覚えがあります。

もうその中身も覚えてはいませんが、たしか『乱れからくり』か『11枚のとらんぷ』だったと思うのですが、そのトリックが秀逸だったことだけを覚えています。


職分

職分』とは

本書『職分』は『萩尾警部補シリーズ』の第三弾で、2025年9月に双葉社から264頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。

窃盗犯罪を取り締まる盗犯係の職務の説明をはさみながら、個々の事件を解決していく姿が描かれる実に読みやすい作品です。

職分』の簡単なあらすじ

独り暮らしの老女宅に空き巣が入りブランド品が盗まれた。捜査三課の萩尾秀一と武田秋穂の調べで、盗まれたのは偽物だと判明する。老女は詐欺師に偽物を買わされており、二課詐欺担当の舎人が捜査に介入。萩尾と舎人は捜査方針で対立するのだが…(「職分」より)。ほか、「正当防衛」「粘土板」など七編を収録。(「BOOK」データベースより)

目次
常習犯 | 消えたホトケ | 職分 | 正当防衛 | 目撃者 | 粘土板 | 手口

職分』の感想

本書『職分』は『萩尾警部補シリーズ』の第三弾で、主人公が所属する盗犯係の紹介をはさみつつ、場合によっては捜査一課からの支援依頼をこなしもする、読みやすい警察小説です。

盗犯係が主人公という珍しい設定の警察小説です。

 

登場人物としては、まずは主役として警視庁捜査第三課盗犯捜査第五係所属の四十八歳の警部補である萩尾秀一が挙げられます。次いで、萩尾の相棒として三十二歳になる武田秋穂がいます。

萩尾は盗犯係のプロとして、盗難現場を見ただけで、主にピッキングの手口などから誰が犯人かをすぐに断定します。

また、盗犯専門の捜査員としての知識をプロフェッショナルとして捜査に生かすことこそ彼らの矜持だと言います。

そんな彼らは、時には捜査一課の応援依頼に応じて殺人現場に出向き、盗犯捜査のプロとしての意見を明言します。つまり、捜査一課の見立てと異なる主張をしたりもするのです。

 

本書の魅力としては、萩尾秀一という盗犯捜査のプロと、相棒の捜査一課に対するあこがれを持っていそうな武田秋穂というコンビの魅力がまずあります。

萩尾の盗犯捜査とその知識は職人芸に近いとも言えますが、彼はそうした知識は盗犯を捕まえるためにあると言い切るのです。

そうした萩尾の下で、捜査一課の犯罪捜査に対するあこがれを指摘される武田秋穂もまた、窃盗犯人逮捕に対するひらめきを見せ、犯罪捜査に対して貢献をしています。

 

そうした盗犯関連の一連の流れとは別に、本書では窃盗犯の侵入の手口や犯罪現場での鑑識作業、また一課から七課まである盗犯捜査係などの説明がなされており、読者の好奇心をくすぐってくれるのです。

また、名の知れた窃盗犯人には犯の特徴などを端的に表す「牛丼の松」や「勝手タケ」、「アキバのモリ」などの二つ名があり、彼がもまた本書で活躍の場が与えられています。

 

ちなみに、本書の「粘土板」というで話では、本シリーズ第二作目の『黙示』で登場してきたIT長者の館脇友久や探偵の石神達彦らの名前も登場しています。

黙示』は「ソロモンの指輪」が盗まれたというものでしたが、今回は館脇友久が都内に作った博物館に展示予定だった「ギルガメッシュ叙事詩」の粘土板が盗まれたというのです。

黙示』は作者の今野敏の個人的に関心がある超古代文明について調べた結果を登場人物に語らせるという意味合いが強いものであり、警察小説としては中途な印象の作品でした。

それに比べると本書は萩尾と武田という盗犯係の仕事が前面に押し出されています。

 

また、今野敏の近時の警察小説ではよく見られますが、ミステリーというよりはお仕事小説的色合いが濃いともいえそうです。

話の気楽さ、読みやすさは言うまでもありませんが、しかし、ミステリーとしての物語の厚みはありません。

それでも、この人の作品は読みたいと思うのです。

萩尾警部補シリーズ

萩尾警部補シリーズ』とは

警視庁捜査第三課盗犯捜査第五係所属の萩尾秀一警部補と、萩尾の相棒の武田秋穂巡査部長の活躍を描く警察小説シリーズです。

強行犯担当の捜査一課ではなく、盗犯を担当する三課所属の刑事が主人公となっている珍しいシリーズです。

萩尾警部補シリーズ』の作品

萩尾警部補シリーズ(2025年12月06日現在)

  1. 確証
  2. 真贋
  1. 黙示
  2. 職分

萩尾警部補シリーズ』について

本『萩尾警部補シリーズ』は、盗犯と呼ばれる空き巣、引ったくり、万引きなどの窃盗事件を担当する警視庁捜査第三課盗犯捜査第五係所属の刑事が主人公となっている珍しいシリーズです。

主役は第五係所属の萩尾秀一警部補武田秋穂巡査部長というコンビであり、窃盗犯と対峙する職人気質の刑事という特色が前面に出ています。

 

まだ本シリーズの第一、二巻は読み終えていないので、このシリーズの詳しい情報がわかっているとは言えないでしょう。

というのも、第三巻の『黙示』は今野敏の『石神達彦シリーズ』の主人公である石神達彦も登場し、古代文明に関する蘊蓄が語られていて本『萩尾警部補シリーズ』に属する作品だと言うには若干ためらうところもある作品だからです。

でも、第四巻の『職分』という短編集では、二つ名を持つような様々な窃盗のプロが登場し、萩尾警部補の盗犯のプロとしての意地を見せてくれていますので、シリーズの特色がそれなりに出ていると言えるでしょう。

ですから、現時点(2025年12月)ではこのシリーズの情報は第四巻での情報しかないと言ってもいいほどなので、一、二巻も読み終えたときにこの項も修正したいと思います。

花散る頃の殺人

花散る頃の殺人』とは

本書『花散る頃の殺人』は『女刑事音道貴子シリーズシリーズ』の第二弾で、1999年1月に新潮社から刊行され、2001年8月に新潮文庫から313頁の文庫として出版された、連作短編小説集です。

謎解きメインではなく、主人公の日常を描くことで、音道貴子という女性刑事の人となりを浮き上がらせている読みやすい作品です。

花散る頃の殺人』の簡単なあらすじ

『凍える牙』で、読者に熱い共感を与えた女性刑事・音道貴子。彼女を主人公にした初の短編集。貴子自身がゴミ漁りストーカーに狙われて、気味悪い日々を過ごす「あなたの匂い」。ビジネスホテルで無理心中した老夫婦の、つらい過去を辿る表題作など6編。家族や自分の将来に不安を抱きつつも、捜査に追われる貴子の日常が細やかに描かれる。特別付録に「滝沢刑事と著者の架空対談」。(「BOOK」データベースより)

目次
あなたの匂い | 冬の軋み | 花散る頃の殺人 | 長夜 | 茶碗酒 | 雛の夜 | 特別巻末付録 滝沢刑事・乃南アサ架空対談

花散る頃の殺人』の感想

本書『花散る頃の殺人』は『女刑事音道貴子シリーズ』の第二弾で、主人公の日常を記すことで、音道貴子という女性刑事の人となりを描き出しているとても読みやすい作品です。

 

この『女刑事音道貴子シリーズ』は、発生した事件を通して社会で起きている問題を明らかにする社会派の推理小説という一面があります。

その中でも本書『女刑事音道貴子シリーズ』は、短編というジャンルで、事件というよりも音道貴子というキャラクターの日常を掘り下げることに焦点を当てているようです。

 

第一話の「あなたの匂い」では、自分のだしたゴミをあさられ、それにより近所に自分の職業が知られ、さらには職場でも何かといじられる主人公が描かれています。

次の「冬の軋み」では、ひったくりから始まり、主人公の近所の家庭の問題へと移り、何かと煩わしいと感じる近所づきあいを嫌い、引っ越しを考える主人呼応の姿があります。

次の表題作の第三話「花散る頃の殺人」では、場末のホテルで見つかった老夫婦の死体から始まります。他方、引っ越した先に訪れてくる妹の頼みを振り切り仕事に出かける主人公の姿もあります。

第四話「長夜」という物語は、音道貴子の知人である染色家の女性の変死体をめぐり、共通の友人であったおかまと共に染色家の死の真相を探る話です。

第五話の「茶碗酒」は、大晦日の夜に自殺者の遺体を家族に引き渡す刑事の様子を描いた掌編です。『凍える牙』での相棒の滝沢の姿が描かれていて、最後に音道が少しだけ登場します。

第六話「雛の夜」では、母親の雛人形の飾りつけを誰も手伝わないという愚痴を聞いた貴子がいます。また、ラブホテルで倒れている女性が警察が駆けつけるころには消えているという事件が続いていました。

 

第一、二話で貴子のプライベートの一端としての近所づきあいの様子を見せ、そのことが引っ越しへとつながる様子が示されます。

その後、新たな引っ越し先に妹が訪ねてきて自分をだしに使い、家を出ようと画策するのです。その一方で、夫婦のありようを考えさせられる事件が起きます。

次に、貴子の友人のおかまと共に一人の女性の死を通して、他人との付き合い方、繋がり方を示し、第五話では刑事という仕事の現実と、ここでも人の繋がりが描かれます。

最後に、雛飾りを通して親の子を思う気持ちの有難さと、親と子の姿が描かれます。

全体を通して、様々な他者との付き合い方の在りようがあり、その中に大切にすべき繋がりがあることを示しているようです。

 

この作者の文章は、平易な言葉で丁寧に描写されていることもあってとても分かりやすい作品です。

同時に、描かれている事件でもその背景で家族や友人、仕事上の付き合いなどの様々な人間関係の難しさも併せて書き込まれており、理解しやすいという意味でも非常に読みやすい作品になっています。

禁忌の子

禁忌の子』とは

本書『禁忌の子』は、2024年10月に東京創元社から320頁のハードカバーで刊行された、長編の推理小説です。

とてもデビュー作とは思えないうえに医者しか書けない内容であり、さらには第34回鮎川哲也賞を受賞作し、また2025年本屋大賞で第四位になった作品です。

禁忌の子』の簡単なあらすじ

救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とはー。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!第三十四回鮎川哲也賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

禁忌の子』の感想

本書『禁忌の子』は、第34回鮎川哲也賞の受賞作であり、また2025年本屋大賞で第四位になった、本格派の長編推理小説です。

現役の医者である作者の作家デビュー作だそうですが、物語の構成も、その達者な筆の運びも、とてもデビュー作とは思えないほどの完成度です。

 

そもそも、冒頭すぐに提起された謎にまず驚かされました。救急で搬送されてきた溺死体が主役である当直医師の武田航と瓜二つだというのです。

単に似ているというだけでなく、個人的な特徴の類似性まであるという滑り出しはこれまでにない謎の提起の仕方でした。

その後すぐに新たな殺人事件が起き、そこで密室殺人という謎が示されます。そこから本書の本格的な物語が始まるのです。

 

登場人物を見ると、主人公は先にも書いたように兵庫市民病院救急科の武田航医師です。そして、航の父親の浩司と母親の美由紀がいます。

また探偵役として、同じ病院に勤務する消化器内科の城崎響介医師が登場します。この人物は感情面で欠陥があり、感情が沸いてもすぐに消えてしまい、合理性だけで物事を考えてしまう人物です。

本書の主な舞台となるのが生島リプロクリニックであり、そこの理事長が生島京子医師で、院長が京子の息子の生島蒼平です。

そして、この医院の総務部主任が黄信一と言い、ほかに放射線技師の黒田稔や看護師の金山綾乃、そして緑川愛医師がいます。この緑川愛は武田航のK大学医学部野球部のマネージャーだったという人物です。

何より忘れてはならないのが、生島リプロクリニックで航が間違えられたのがタカハシユウイチという人物だったのです。

 

本書は、お医者さんが書かれた作品の中でも特異な位置を占めるのでないでしょうか。

というのも、本書で語られている内容は倫理的にも繊細な問題であって、医学的にもとても専門的なものだからです。

しかし、現役の医師である作者の筆は、難しいテーマを読者の興味、関心をそらすことなく描き切っています。

それだけ、読んでいて惹きこまれましたし、関心を持ったまま読み終えることができたのです。

 

話は変わりますが、作者自身の言葉では本書は新本格派のミステリーだということです。

たしかに、本書では密室殺人などの謎も設定されている上に推理を働かせる探偵役もいて、その点だけを見るとまさに謎解きメインの本格推理と呼ぶにふさわしい作品です。

しかし、本書は単純に本格派推理小説と言い切るには様々は要素が盛り込まれています。詳細は読んでもらうしかないのですが、社会派的な要素がかなりあると思えたのです。

医療小説であることはもちろんですが、かなり強烈なヒューマンドラマとしての一面も有していて、読後はかなり考えさせられる面もありました。

この点については担当編集者の紹介文がとても参考になると思います(小説丸 : 参照)。

 

これまでお医者さんが書いた推理小説はかなりな数に上り、その完成度はそれぞれにかなり高い作品が並ぶと思います。

例えば、本書同様に本屋大賞候補作となった作品として知念実希人の『ひとつむぎの手』があります。

良くも悪くも大学病院の医局を舞台にした小説で、絶対権力者の教授を頂点とする階層社会の中で苦闘する青年医師の姿が描かれています。

また、第四回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したチーム・バチスタの栄光は、やはり当時は現役の医師であった海堂尊の作品です。

この作品は「東城大学医学部付属病院」を舞台とした『田口・白鳥シリーズ』の第一作であり、海堂尊のデビュー作でもあります。


法廷占拠 爆弾2

法廷占拠 爆弾2』とは

本書『法廷占拠』は『爆弾シリーズ』の第2弾で、2024年7月に講談社から416頁のハードカバーで刊行された、長編のミステリー小説です。

相変わらずに物語はテンポよく展開していき、読者は一気に物語世界に取り込まれ、目が離せなくなりました。

法廷占拠 爆弾2』の簡単なあらすじ

東京地方裁判所、104号法廷。史上最悪の爆弾魔スズキタゴサクの裁判中、突如銃を持ったテロリストが立ち上がり、法廷を瞬く間に占拠した。「ただちに死刑囚の死刑を執行せよ。ひとりの処刑につき、ひとりの人質を解放します」前代未聞の籠城事件が発生した。スズキタゴサクも巻き込んだ、警察とテロリストの戦いがふたたび始まる。一気読み率は100%、面白さは前作200%増のノンストップ・ミステリー!(「BOOK」データベースより)

法廷占拠 爆弾2』の感想

本書『法廷占拠』は『爆弾シリーズ』の第二弾で、読者は一気にテンポよく展開していく物語世界に取り込まれていきます。

前作の『爆弾』の主役であったスズキタゴサクの裁判を行う法廷を舞台にしたサスペンスフルなミステリー小説です。

 

本書は、前作で狂気の振る舞いを見せたスズキタゴサクという爆弾魔の裁判を行う法廷を占拠し、理不尽な要求を突き付けるテロリストと警察との戦いが描かれます。

前作同様に、今度はテロリストと警察との駆け引きが見どころになっていますが、今回はさらにスズキタゴサクの立場が不明なために三つ巴の戦いという見方もできるのです。

さらには、テロリストたちの要求が確定死刑囚の死刑の執行というものであることからくる彼らの目的に対する不信感や、テロリストたちの正体のあいまいさなど、謎が幾重にも重なります。

そうした謎に直面する警察や、法廷にとらわれた傍聴人のなかにいた警察官たちとテロリストたちとの間で次第に満ちてくるサスペンス感など、どんどん惹きこまれて行きます。

 

本書の主役といえばまずは法廷占拠の犯人であり、その一人が柴咲奏多という被害者の会のメンバーの一人である若者です。犯人としては、ほかに正体不明の男が一人います。

この法廷には、傍聴席に前作にも登場していた野方署の二人の警察官もいます。それが倖田沙良伊勢勇気です。

法廷外の警察関係者としては、警視庁特殊犯捜査第一係の係長の高東柊作、その部下の猫屋がいて、前作でスズキタゴサクと渡り合った重要人物である類家を忘れることはできません。

同じく前作から引き続き登場する警察官として杉並署の刑事である猿橋忍や、倖田沙良の先輩である矢吹泰斗らを挙げることができます。

ほかにも傍聴人である遺族会の湯村峰俊など多くの登場人物がいますが、多数に上るためここではこれくらいにしておきます。

加えて、この『爆弾シリーズ』の中心人物であるスズキタゴサクがおり、この男の本作での立ち位置はよくわかっていません。

 

常に予想の上をいく展開には脱帽するしかありません。この点は前作の『爆弾』でもそうだったのですが、サスペンス感満載の物語を望む方には絶好の作品だと思います。

本書の中でも書いてあるのですが、犯人の一人の柴咲は、当初から自分の正体を明らかにしていて、自分が捕まることを前提とした行動のように思えます。

しかし、この柴咲は自分の情報を明かしているものの、正体不明のもう一人の犯人に関しては何も情報が開示されてはいません。

さらには、犯人の仲間がほかにいるのかなどもよくわかっていないのです。

先に本書は予想の上をいくと書きましたが、中心人物であるスズキタゴサクと法廷を占拠した犯人との関係など、スズキがこの事件とどうかかわっているのかも謎のままに進みます。

 

読者の心を深くつかむよくできたサスペンスやミステリーの物語は、登場者の言葉や会話などがよく練られているものです。

本書もそうで、詳しくは書けませんが、例えばある会話では互いの言葉、動作の裏には考え抜かれた物語の世界観を前提とした隠された意味があることを示してあったりしていて、この作品のリアリティを上げているのです。

作者は主要登場人物の発言の流れに明確な意図を忍ばせていますが、その作業は大変なものがあると思われます。

しかし、その作業のおかげで読者は展開の意外性に翻弄されつつも、その流れを楽しめているのです。

 

反面、法廷内に凶器を持ち込む方法には疑問が残りました。

つまり、骨壺の中身をチェックしないものだろうか、ということや、現実に複数回の持ち込みで慣れを生じさせ、チェックを甘くすることができるのだろうか、ということです。

この点に関しては、実際の運用を知らないので何とも言えず、この点は可能なのだということを前提として読み進めました。

というのも、本書の方法が無理なのであればほかの方法を考えればいいのですから、あまりこの点に拘泥する必要もないでしょう。

 

結局、よく練り上げられた本書の面白さは否定することができず、その上、本書の終わり方は続編の存在を匂わせるものであり、ファンとしてはただ書かれるであろう続編を楽しみにするばかりです。

ガリレオシリーズ

ガリレオシリーズ』とは

東野圭吾の『ガリレオシリーズ』は、物理学者の湯川学を主人公とした推理小説シリーズです。

『ガリレオシリーズ』初の長編作品である『容疑者Xの献身』は第134回直木三十五賞を受賞し、またアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞の候補ともなったそうです。

ガリレオシリーズ』の作品

ガリレオシリーズ(2025年10月現在)

  1. 探偵ガリレオ(短編集)
  2. 予知夢(短編集)
  3. 容疑者Xの献身
  4. ガリレオの苦悩(短編集)
  5. 聖女の救済
  1. 真夏の方程式
  2. 虚像の道化師 ガリレオ7(短編集)
  3. 禁断の魔術 ガリレオ8(短編集)
  4. 沈黙のパレード
  5. 透明な螺旋

ガリレオシリーズ』について

本『ガリレオシリーズ』の主人公の湯川学は帝都大学物理学准教授であって、シリーズ長編第四作の『沈黙のパレード』では教授に昇進しています。

シリーズ第一作の『探偵ガリレオ』で大学時代の友人の草薙俊平の依頼により、解決困難な事件を解き明かしました。

というのも、事件が非科学的な超常現象とも取れそうな現象を伴っていたために科学的な知見が必要と湯川の意見が求められたのです。

そうした経緯で、その後解決困難な事件となると湯川に謎解きの依頼が来るようになりました。

 

こうして警察側の窓口が草薙俊平となったのですが、その草薙は当初は警視庁捜査一課所属の巡査部長でしたが、『沈黙のパレード』では係長として班長と呼ばれています。

そして、草薙の後輩として『ガリレオの苦悩』から登場するのが内海薫巡査長(後に巡査部長)です。

内海はテレビドラマからの派生人物らしく、ドラマ版からの要求で原作にも登場するようになったそうです。

そのほか、草薙の上司として間宮慎太郎が捜査一課係長として登場し、以降の定番メンバーとなっています。

ほかに一課メンバーとして牧田刑事岸谷刑事弓削刑事ほかの刑事、多々良管理官(後に理事官)などが登場します。

 

また、テレビドラマ化もなされており、湯川学を福山雅治が演じており、好評だったようです。

テレビドラマは第1シーズンが2007年10月から、第2シーズンが2013年4月から放映され、他にスペシャル版も数本作成されています。

加えて、同様に福山雅治を主役として劇場版も作成され、2008年10月に『容疑者Xの献身』が、2013年6月に『真夏の方程式』が公開され、2022年9月16日には映画第3弾『沈黙のパレード』が公開されました。

署長サスピション

署長サスピション』とは

本書『署長サスピション』は『署長シンドロームシリーズ』の第二弾で、2025年4月に講談社から336頁のハードカバーで刊行された長編の警察小説です。

『隠蔽捜査』の舞台となっていた大森署の新任の署長を主人公に展開される、若干の物足りなさはあるものの一応は楽しく読むことができたコメディ小説です。

署長サスピション』の簡単なあらすじ

近頃、怪盗フェイクという変幻自在の窃盗犯が出没し、大森署の管内の宝飾店を荒らして、マスコミを騒がせていた。そ
んな中、戸高が公務中に競艇で二千万円を当ててしまう。さらに、前回小型核爆弾を守り切った実績により、警察内外の各方面から公金の保護を名目に大金が持ち込まれ、なんと総額一億円が大森署の署長室に…。するとそれを知ってか、怪盗フェイクがSNSで犯行予告!「大森署の署長室にあるお宝をいただく」。なんと日時指定までしてきたのだった。はたして藍本署長たちは、大胆不敵な謎の怪盗から、署長室の金庫に眠る大金と、警察のメンツを守り切れるのかー!?(「BOOK」データベースより)

署長サスピション』の感想

本書『署長サスピション』は『署長シンドロームシリーズ』の第二弾で、『隠蔽捜査シリーズ』の竜崎伸也署長の後任の藍本小百合署長を中心とした大森署のメンバーの奮闘の様子を描くコメディ小説です。

署長サスピション』の登場人物

本書でも、主役はもちろん藍本小百合署長ですが、語り手は大森署の貝沼悦郎副署長が務めていて、彼の心象などが詳しく述べられています。

大森署の署長室には、相変わらずに第二方面本部の本部長である弓削篤郎警視正や管理官の野間崎正嗣警視などを始めとするお偉いさん方が藍本署長に会うために足しげく訪ねてこられています。

ほかに、本書では怪盗フェイクという窃盗犯対策のために関本良治刑事課長や、七飯寛(ななえひろし)盗犯係長が頻繁に顔を見せます。

また、署長室の金庫に保管してある詐欺事件の三千万円に関連して警視庁刑事部捜査第二課課長の日向玲治が来ています。

さらには、その金庫にある厚生省のマトリから預かっている五千万円に関連して、厚生労働省の麻薬取締官である黒沢隆義とその黒沢の天敵である組対部薬物銃器対策課の馬渕浩一課長が来ていて、二人の掛け合い漫才を見せてくれます。

そして、戸高刑事が平和島競艇場で購入し当てた二千万円に関して、東京地検特捜部の柳楽検事も登場します。また、藍本署長と戸高刑事の舟券購入に感づいた東邦新聞の記者である長谷川梅蔵記者が貝沼の周りなどに現れるのです。

署長サスピション』について

主人公の藍本署長は、見た目は初めて会う人はほとんどの人が立ち尽くしてしまうような美貌の持ち主でありながら、本人はそうした認識があるのか不明のままですし、考え方にしても独特の発想を見せ、周りを驚かせています。

その点は前任者である竜崎にも若干似たところもあるようです。

問題は、と言っていいのかはわかりませんが、自分の美貌が周りに特別な影響を与えていることを本人が意識しているのかどうか全くわからないところです。

あくまで貝沼副署長の視点で語られていくので、藍本署長の内面は伺い知ることができないのです。

 

大森署署長室には、藍本署長に会うためにもともと様々な人たちが訪れるているのですが、上記のように署長室の金庫に入っている一億円をめぐりさらに登場人物が増えているのです。

本シリーズはもちろん「多くの警察関係者が息をのむほどに美しい美貌」の持ち主である藍本署長の存在自体がコメディの大きな要素になっているのですが、本書ではさらに国家公務員であることを鼻にかける黒沢麻薬取締官という大きなコメディ要素の持ち主もまた前巻に続いて登場していて、馬渕薬物銃器対策課課長との掛け合いをみせてくれています。

 

前述のように、大森署署長室の金庫の中には詐欺事件関連の三千万円、厚生労働省の麻取関連の五千万円、検察庁関連の二千万円の都合一億円という金銭が収められていました。

そこに、大森署管内で話題になっていた怪盗フェイクと呼ばれる窃盗犯が、大森署の署長室にあるお宝をいただきに来ると日時時を指定してきたのです。

そうしたことから、預かり金のそれぞれについてひと悶着がある上に、さらに署長室の一億円をめぐる騒動が巻き起こることになります。

 

そうしたユーモア満載の本書ではあるのですが、残念ながら今野作品の中では普通だと言わざるを得ません。

というのも、物語の展開が怪盗フェイク以外に取り上げることもなく、その怪盗フェイクが起こした過去の犯罪はともかく、本書での行為に関してはあまりにあっけなく、特に語るべきところもありません。

強いて言えば、戸高が舟券で当てた二千万円の金の所属先について、検察、警察それぞれの組織で手続きの面倒などの理由で引き受けたがらない中でその去就が気になるくらいです。

ただ、怪盗フェイクに加え、この二千万円の去就に関しても、物語としての決着は特別に取り上げる程の事はなく、実に残念な展開です。

ただ、本書のようなコメディ作品の場合は、そうした野暮なことは言わずに単純に語られるユーモアに浸っていればいいのでしょう。

 

本書のようなコメディ小説としては、浅田次郎の『きんぴか』(光文社文庫 全三巻)などの作品が思い出されます。

また本書と同じ警察小説で言うと、富樫倫太郎の『生活安全課0係 ファイヤーボール』など挙げることができます。

ずば抜けた頭脳を持っていますが空気の読めないキャリアの小早川冬彦を主人公とした、コミカルな長編の警察小説です。

BT’63

BT’63』とは

本書『BT’63』は、当初は朝日新聞出版から2003年6月に単行本が出版され、2023年5月に講談社文庫から上下二巻で816頁の新装版文庫として出版されたのですが、2025年3月にはハーパーコリンズ・ジャパンから再度672頁のハードカバーで刊行された長編のミステリー小説です。

この作家には珍しいホラーチックな雰囲気を持っている上に670頁を超える長大な分量の作品ですが、それでもかなり読み応えのある作品でした。

BT’63』の簡単なあらすじ

東京オリンピック前夜の1963年。羽田空港近くの運送会社でトラック運転手たちが相次ぎ惨たらしい死を遂げる。彼らは皆「BT21号」と呼ばれるトラックに乗車していたー父の遺品に紛れていた古い鍵をきっかけに40年前の“呪われたトラック”の真相を調べ始めた息子は、高度成長期に隠された深く昏い闇の中で、想像を絶する真実に辿り着くが…。昭和の闇を抉ったミステリーが豪華ハードカバーで復刊!(「BOOK」データベースより)

BT’63』の感想

本書『BT’63』は、困難に直面するもののそれを乗り越えて力強く生きていくいつもの池井戸潤の作品とは異なり、ダークな雰囲気を持ったミステリーです。

この作家には珍しいホラーチックな雰囲気である上に、670頁を超える分量という長大な作品ですが、かなり読み応えがあり、そして惹きこまれて読んだ作品でした。

 

心の病で仕事も妻の亜美も失った大間木琢磨は、ある日父親の大間木史郎の遺品を見つけた。それは金のモールが入った濃紺の制服であり、母親の良枝は父親の史郎の職場のものだという。同時に琢磨は、その制服を着た人がオレンジ色をした宅配便のトラックを運転している姿を思い出した。ところが、宅配便は、琢磨が小さいころにはまだ宅配便は存在しないというのだった。ところがその晩、訳が分からなくなった琢磨が制服を羽織ってみると、意識が昭和38年の4月の父親の意識を通して見ていることに気が付くのだった。

本書は、端的に言うとタイムスリップものの変形の物語の一つです。

亡き父親の残した制服に袖を通した主人公が見たのはボンネットトラックの不具合を調整している父親の姿であり、他のトラック運転手たちの姿でした。

その後、その制服を使い過去を覗き込んだ主人公は、今もなお生きている人々を尋ね歩き、自分が見たものが真実の出来事なのかを調べ始めます。

一方、物語は主人公の父親目線でもその進行を始め、「BT21号」と呼ばれるトラックに関連した運転手たちが不審な死を遂げていく様子が描かれて行くのです。

 

本書のように過去へ戻るという物語の展開は珍しいものではなく、私の記憶に残っている作品の中でも浅田次郎の『地下鉄に乗って』がすぐに挙げられます。

そこでは主人公が過去へ戻り自分の父親と出会い、その生きざまを知るのです。自分の父親の生き方を知るという点では本書の通じるものがあります。

ただ、過去へ戻り、そこで起きた理不尽な出来事や凄惨な事件をミステリアスに描き出す本書とはその点では異なります。

 

他には、タイムトラベルものの古典であるハインラインの『夏への扉』を外すわけにはいかないでしょう。

ただ、この作品は過去の改変がテーマになっていて、時間旅行を正面から描いたものであり、ホラーチックなミステリーである本書とはかなり異なります。


 

本書『BT’63』は、池井戸潤の描く物語の中では過去での出来事の描写が暗く、ホラーチックな雰囲気を持つ点が特異な地位にあると言えます。

というのも、スティーブン・キングの『クリスティーン』のような直接的な展開ではないものの、BT21号というトラックの描き方に似たものを感じたのでしょう。

また、紹介文にあった「呪われたトラック」という言葉もそうした先入観を持った理由の一つでしょうし、何よりも本書のカバー絵がスティーブン・キング作品のカバー絵に似てる点が大きかったと思います。

調べてみると、それもそのはずで、共に人気イラストレーターの藤田新策氏の手になるものだったのです。

 

そして、物語は凄惨な展開を見せ始め、主人公琢磨にとっては寡黙で多くを語らない父親史郎のそれまで知らなかった逞しく行動的な生き方を知ることになります。

そのことはまた、琢磨自身の成長をも促すことになり、やはり本書の物語の展開の仕方は池井戸潤の物語であって、かなり長大な作品ではあっても引き込まれざるを得ないのです。

 

一点だけ、最終的に倫子がとった態度だけは私には理解がしにくい展開でしたが、それでもなお本書の面白さは変わりませんでした。

ちなみに、「BT21」のBTとはかつて走っていたボンネットトラックのことです。そして本書が「BT21」ではなく『BT’63』というタイトルであることがよくわからなかったのですが、本書の時代背景が「オリンピック開催を翌年に控え高度経済成長に沸く時代」である1963年(昭和38年)だということでした( PR TIMES :
参照 )。

ちょっと丁寧に読めばわかることでした。

ニンジャ 公安外事・倉島警部補

ニンジャ 公安外事・倉島警部補』とは

本書『ニンジャ 公安外事・倉島警部補』は『倉島警部補シリーズ』の第八弾で、2025年5月に文藝春秋から240頁のハードカバーで刊行された、八編の短編からなる公安警察小説集です。

公安小説でありながらも今野作品らしくとても軽くて読みやすく、それでいてそれなりの読みごたえを感じることが出来た作品集でした。

ニンジャ 公安外事・倉島警部補』の簡単なあらすじ

日本の公安にはニンジャがいる。公安のエース倉島。次期エース候補西本。元刑事のベテラン白崎。注意深き公機捜隊員片桐。気配を消せる若手伊藤。倉島警部補がチームで挑む8つの事件簿。これが、諜報の世界。ロシア人スパイ、美しき台湾公安捜査官、謎のテロリスト…(「BOOK」データベースより)

目次
アテンド/ケースオフィサー/ニンジャ/ペルソナ・ノン・グラータ/アベンジャーズ/ノビチョク/テロリスト/スピンドクター

「アテンド」
美貌を誇る台湾の公安捜査官・林春美(リン・チュンメイ)が来日するとの報せが。彼女に惚れ込む西本はアテンドに手を挙げるが、彼女相手にそう簡単に事は進まずーー?

「ケースオフィサー」
最近赴任したばかりのロシア大使館駐在武官・ゴーゴリの行確(行動確認)を指示された倉島。張り込みを続けると、彼はある日本人女性と接触していてーー?

「ニンジャ」
「洗いたいロシア人がいる」白崎の提案からチームを編成、公安総務課の伊藤と公安機動捜査隊の片桐を借り出すことに。対象はあるパーティーに参加するようだがいかに潜入すべきか。そのとき〈ニンジャ〉が動き出す。

「ペルソナ・ノン・グラータ」
例の件でゴーゴリがご立腹だと情報提供者・コソラポフから聞いた倉島は、逆転の発想で奇策を仕掛けーー?

「アベンジャーズ」
“ゼロ”の校長、通称「裏の理事官」にばったり出くわした西本。なんでもランチのお誘いで「信頼できる先輩」も連れてこいということらしく倉島と二人で向かうとそこにはーー?

「ノビチョク」
練馬の変死体事件の捜査になぜか呼び出された倉島。「おまえさん、刑事がみんな公安を毛嫌いしていると思ってないか?」刑事畑出身の同僚・白崎の言葉にはどんな意味が?

「テロリスト」
公機捜の後輩・片桐が密行中に気になったもの。それはホームセンターの前で見かけた男のリュックから覗き見えた白いポリ容器で……

「スピンドクター」
今度はアジア担当の外事二課・竹岡が林春美をスピンドクター(情報操作者)ではないかと疑いだし、再びの行確を行うがまたしても彼女のほうが一枚うわてでーー?

内容紹介(出版社より)

ニンジャ 公安外事・倉島警部補』について

本書『ニンジャ 公安外事・倉島警部補』は『倉島警部補シリーズ』の第八弾となる、短編の公安警察小説集です。

どちらかというと重めの内容であることが多い公安警察作品ですが、まさに今野敏の作品であってとても読みやすく、そしてそれなりの読みごたえを感じた作品集でした。

ニンジャ 公安外事・倉島警部補』の登場人物

本書の主役はこのシリーズの主役である倉島達夫です。そしてこの倉島が活動するときのチームとして、元ベテラン刑事で何かと頼りになる白崎敬やゼロの研修を終えていて次のエース候補でもある西本芳彦がいます。

そのほかにも、公安総務課公安管理係所属で倉島が公安としての適性を認めている伊藤次郎や公安機動捜査隊所属の片桐秀一らが助けてくれ、チームに機動力を与えてくれています。

また、伊藤を借り出すときにいつもネックになるのが公安総務課公安管理係長であり物語に一味を加えています。また、倉島の「作業」時の上司でもある公安総務課長の佐久良忍も独特の雰囲気を持った存在です。

加えて、本書では前作の『台北アセット』から登場して物語に色を添えているのが、ニッポンLC台湾法人の技術部社員であり、且つ台湾警政署保安組所属捜査官でもある林春美(リン・チュンメイ)がいます。

ニンジャ 公安外事・倉島警部補』の感想

本書『ニンジャ 公安外事・倉島警部補』は、公安小説でありながらも今野作品らしくとても軽くて読みやすく、それでいてそれなりの読みごたえを感じることが出来た作品集でした。

ただ、このシリーズは相変わらずに公安警察の活動の様子を描いているけれど、『倉島警部補シリーズ』の項でも書いているように、通常の警察小説との差異があまり感じられません。

ZERO』(幻冬舎文庫 全三巻)の麻生幾や、『警視庁情報官シリーズ』の濱嘉之といったリアルなインテリジェンス作品とくらべると、公安警察も通常の警察小説の延長線上に存在する印象が強く感じられるのです


 

とはいっても、本書『ニンジャ 公安外事・倉島警部補』については上記の「簡単なあらすじ」の「内容紹介」に転記しているように、外国を対象とする具体的な諜報戦の実態が描かれるというよりも、公安職員の日常を紹介しているという側面が強くなっています。

その意味で、行確(行動確認)という公安の日常の業務を通しての作業が描かれているのであり、対人諜報活動であるフーミントの実際が描かているのです。

そうした意味で、本書はこれまでの本シリーズの初期作品を除けば公安色が強く出ているとは感じた作品でした。