『花散る頃の殺人』とは
本書『花散る頃の殺人』は『女刑事音道貴子シリーズシリーズ』の第二弾で、1999年1月に新潮社から刊行され、2001年8月に新潮文庫から313頁の文庫として出版された、連作短編小説集です。
謎解きメインではなく、主人公の日常を描くことで、音道貴子という女性刑事の人となりを浮き上がらせている読みやすい作品です。
『花散る頃の殺人』の簡単なあらすじ
『凍える牙』で、読者に熱い共感を与えた女性刑事・音道貴子。彼女を主人公にした初の短編集。貴子自身がゴミ漁りストーカーに狙われて、気味悪い日々を過ごす「あなたの匂い」。ビジネスホテルで無理心中した老夫婦の、つらい過去を辿る表題作など6編。家族や自分の将来に不安を抱きつつも、捜査に追われる貴子の日常が細やかに描かれる。特別付録に「滝沢刑事と著者の架空対談」。(「BOOK」データベースより)
『花散る頃の殺人』の感想
本書『花散る頃の殺人』は『女刑事音道貴子シリーズ』の第二弾で、主人公の日常を記すことで、音道貴子という女性刑事の人となりを描き出しているとても読みやすい作品です。
この『女刑事音道貴子シリーズ』は、発生した事件を通して社会で起きている問題を明らかにする社会派の推理小説という一面があります。
その中でも本書『女刑事音道貴子シリーズ』は、短編というジャンルで、事件というよりも音道貴子というキャラクターの日常を掘り下げることに焦点を当てているようです。
第一話の「あなたの匂い」では、自分のだしたゴミをあさられ、それにより近所に自分の職業が知られ、さらには職場でも何かといじられる主人公が描かれています。
次の「冬の軋み」では、ひったくりから始まり、主人公の近所の家庭の問題へと移り、何かと煩わしいと感じる近所づきあいを嫌い、引っ越しを考える主人呼応の姿があります。
次の表題作の第三話「花散る頃の殺人」では、場末のホテルで見つかった老夫婦の死体から始まります。他方、引っ越した先に訪れてくる妹の頼みを振り切り仕事に出かける主人公の姿もあります。
第四話「長夜」という物語は、音道貴子の知人である染色家の女性の変死体をめぐり、共通の友人であったおかまと共に染色家の死の真相を探る話です。
第五話の「茶碗酒」は、大晦日の夜に自殺者の遺体を家族に引き渡す刑事の様子を描いた掌編です。『凍える牙』での相棒の滝沢の姿が描かれていて、最後に音道が少しだけ登場します。
第六話「雛の夜」では、母親の雛人形の飾りつけを誰も手伝わないという愚痴を聞いた貴子がいます。また、ラブホテルで倒れている女性が警察が駆けつけるころには消えているという事件が続いていました。
第一、二話で貴子のプライベートの一端としての近所づきあいの様子を見せ、そのことが引っ越しへとつながる様子が示されます。
その後、新たな引っ越し先に妹が訪ねてきて自分をだしに使い、家を出ようと画策するのです。その一方で、夫婦のありようを考えさせられる事件が起きます。
次に、貴子の友人のおかまと共に一人の女性の死を通して、他人との付き合い方、繋がり方を示し、第五話では刑事という仕事の現実と、ここでも人の繋がりが描かれます。
最後に、雛飾りを通して親の子を思う気持ちの有難さと、親と子の姿が描かれます。
全体を通して、様々な他者との付き合い方の在りようがあり、その中に大切にすべき繋がりがあることを示しているようです。
この作者の文章は、平易な言葉で丁寧に描写されていることもあってとても分かりやすい作品です。
同時に、描かれている事件でもその背景で家族や友人、仕事上の付き合いなどの様々な人間関係の難しさも併せて書き込まれており、理解しやすいという意味でも非常に読みやすい作品になっています。