伊東 潤

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絢爛豪華たる安土桃山文化の主座を占める茶の湯。それは、死と隣り合わせに生きる武士たちの一時のやすらぎだった。茶の湯文化を創出した男とその弟子たちの生き様もまた、武士たちに劣らぬ凄まじさをみせる。戦国時代を舞台に繰り広げられる“もう一つの戦い”秀吉対利休。果たして実際の勝者はどちらなのか。傑作時代長編。(「BOOK」データベースより)

これまであった千利休の物語とは全くと言っていいほどに視点を違えた、独自の解釈で語られる小説です。それは茶の湯の「茶道」としてのありようを探る物語ではなく、茶道を政(まつりごと)の道具として捉えなおす物語であり、信長にしても秀吉にしても、天下統治の道具として茶道を捉えています。

そのことは、宋易(利休)にしても同じであり、現の世の支配者であろうとした信長、秀吉に対し、美の世界での支配者たらんとした宋易にしても同様です。

「天下人の茶 第一部」
秀吉の千宋易(のちの利休)との出会いを、回想という形で描いた作品です。配下に分け与える土地の限界を感じ、天下布武のための政策の一つとして、土地の代わりに名物茶道具を下賜する形で「茶の湯」を使おうとした信長。その信長の設けた茶席で秀吉は利休と出会います。
「奇道なり兵部」
宋易の弟子である牧村兵部は、宋易から「奇道こそ侘茶の境地」と言われたことから、「ゆがみ茶碗」に「奇道」を見出します。朝鮮侵攻に際し一個の古茶碗を見つけた牧村兵部は、その美しさから、他の作品を探しに山間の村へと出かけるのだった。
「過ぎたる人」
弟秀長、あと継ぎの鶴松を亡くした秀吉は、姉の子秀次を養子とし関白職を譲る。秀次の家臣とされた瀬田掃部は、師匠利休の「この国を正式方向に導かれよ。」という言葉のもと、秀次とともにある決心をするのです。
「ひつみて候」
茶道の世界でも著名な武人である古田織部は、秀吉の枕元に呼ばれ、身分制度に見合った茶の湯の秩序を構築することを命じられる。織部は豊臣と徳川の戦いにおいても徳川に与し、新たな世の茶の湯を構築する。しかしながら、そこには落とし穴が待っていた。
「利休形」
病のため床についていた蒲生氏郷と、見舞に訪れた細川忠興との間で、利休と秀吉との間に隠されたある秘事についてある会話が為されます。その秘事とは信長の最後についてのものでした。
「天下人の茶 第二部」
茶道具の価値を高めようとした信長に対しの湯を庶民まで普及させ天下の静謐を保とうとした秀吉でした。信長の家臣であった秀吉は、訪ねてきた宋易との間で、秀吉の世の礎ともなる事柄について話し合うのでした。




牧村兵部、瀬田掃部、古田織部、細川忠興といった弟子たちを通して、秀吉をそして宋易を立体的に浮かび上がらせようとした作品です。

利休を描いた作品としては数多くの作品があるようですが、まずは第140回直木賞受賞作でもある山本兼一著の『利休にたずねよ』を思い出しました。私はまだ読んでいませんが、市川海老蔵が利休を演じた映画を先に見てしまい、出来が良いとは思えなかったので原作も未読のままです。

他にネットで探してみると、野上弥生子著の『秀吉と利休』や井上靖の『本覚坊遺文』が見つかります。この両作品ともに私はまだ読んでいないのですが、利休を描いた作品といえばまずは挙げられる小説のようです。

上記利休の弟子の一人に古田織部という武人がいます。この人の名は昔から茶人として知ってはいたのですが、より強烈には山田芳裕が書いた『へうげもの』というコミックがありました。この漫画は、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞、そして第14回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した作品で、NHKBSプレミアムでアニメ化もされています。

ともあれ、本書『天下人の茶』は、第三者の語りを通して、秀吉と利休の人物像を独自の視点で客観的に浮かび上がらせた作品として高い評価を受けた作品です。実際、茶道を「道」としてではなく、純粋に「政」の道具として捉え、物語の中心に据えた作品であり、単なる視点のユニークさにとどまらない、驚きの仕掛けをも有した読み応えのある作品でした。

[投稿日]2017年05月27日  [最終更新日]2017年5月27日
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『天下人の茶』伊東 潤 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
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作品ページへ - 天下人の茶 | 伊東潤公式サイト
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