母の田津と護国寺に参詣した帰り途、頭巾を被った侍に声をかけられた定廻り同心樺山富士太郎は、湯瀬直之進の亡骸が見つかったと告げられ驚愕する。だが、急を知らせに小日向東古川町の長屋に走った田津の前に現れたのは、当の直之進だった。忽然と姿を消した富士太郎の行方を追う直之進と中間の珠吉。富士太郎を誘き出した謎の侍の狙いは何なのか、そしてその正体とは!?人気書き下ろしシリーズ第三十一弾。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十一弾の長編痛快時代小説です。
前巻の最後で、直之進の家を訪れた富士太郎の母親の田津でしたが、それは田津と富士太郎の二人に、富士太郎の知り合いらしい頭巾の侍から、直之進の死体が見つかったとの話を聞いたために確かめに来たというのでした。
早速話を直之進の死体が見つかったという場所に行ってみると富士太郎は、権門駕籠に乗せられてどこかへ拉致されたらしいのです。直之進は、富士太郎の中間の珠吉や琢之助らと共に、また倉田佐之助は独自に探索をすることになります。
一方、拉致された富士太郎の様子も語られ、自分を攫ったのは徒目付の山平伊太夫という男であり、富士太郎の父親が残したと思われる「北国米の汚職」の件に関する何かを探しているというのでした。
佐賀大左衛門が設立するという文武両道の学問所の話にはなかなかに行きつかないようです。今回も話はわき道にそれ、富士太郎が拉致されてしまいます。それも、富士太郎の父親の過去の仕事が絡んでいるというのです。
ともあれ、直之進らの探索と、佐之助の探索の模様、そして監禁されている富士太郎の様子という三つの流れで話は進みます。
ただ、拉致されている富士太郎に山平伊太夫が今回の拉致の事情を説明をする理由も分かりにくいし、あまりに順調に進む直之進らの探索など、奇妙に思うところも無いわけではありません。
ただ、何度も書いているところですが、本書のような痛快小説であまり厳密なことを言いたてるのも意味がないことだと思われ、実際そうした点を無視して読み進めてもあまり違和感を感じないのです。
中には野口卓の『軍鶏侍シリーズ』のように、このようなことをあまり考えさせないシリーズものもあるのですが、殆どの痛快時代小説は微妙なライン上にあると言えると思います。