徒目付 久岡勘兵衛シリーズ

徒目付 久岡勘兵衛シリーズ(完結)

  1. 闇の剣
  2. 魔性の剣
  3. 怨鬼の剣
  4. 怨鬼の剣
  5. 稲妻の剣
  1. 凶眼
  2. 定廻り殺し
  3. 錯乱
  4. 遺痕
  5. 天狗面
  1. 相打ち
  2. 女剣士
  3. からくり五千両
  4. 罪人の刃
  5. 徒目付失踪

「面白い小説」の条件のひとつに主人公のキャラクター造形があると書いたことがありますが、この徒目付久岡勘兵衛シリーズ人はそのことが特に当てはまります。

主人公はでかい頭の持ち主で、そのことを皆にからかわれますが自覚もしているようです。

また、勿論剣の達人です。更に、与力や同心といったよく聞く役職ではなく、徒目付( 江戸幕府の場合は交代で江戸城内の宿直を行った他、大名の江戸城登城の際の監察、幕府役人や江戸市中における内偵などの隠密活動にも従事した。 : ウィキペディア 参照)という職にあるのも珍しい設定です。

 

勘兵衛が、よくありがちなスーパーマンというだけではなく人間までよく描かれていて面白いと、読んだ当時のメモに書いてありました。

 

鈴木英治の小説らしく登場人物の掛け合いがおかしく、シリーズの途中まではテンポ良く話が進み、それなりに面白く読んでいました。

ただ、物語自体の展開に新鮮味もなくなり、中だるみを感じていたら、最終話も決して出来が良いとはいえないままに終わってしまったのは残念でした。

手習重兵衛シリーズ

手習重兵衛シリーズ(完結)

  1. 闇討ち斬
  2. 梵鐘
  3. 暁闇
  4. 刃舞
  1. 道中霧
  2. 天狗変
  3. 母恋い
  4. 夕映え橋
  1. 隠し子の宿
  2. 道連れの文
  3. 黒い薬売り
  4. 祝い酒

 

鈴木英治という作家の作品を読み始めたのはこのシリーズからでした。

 

とある藩の政争に巻き込まれて藩を抜け、ひょんなことから白金村の手習師匠となっている興津重兵衛を主人公とする痛快時代小説です。

何故このような事態に陥っているのか、が大きな謎として物語は展開されていきます。

 

この手習重兵衛シリーズが鈴木英治の最初のシリーズ作品です。

父子十手捕物日記シリーズ』でも書いた、同心とその中間との掛け合いの面白さは本シリーズですでに十分に展開されていて、その手ごたえから他のシリーズでも掛け合いの場面を多用したのではないかと思えるほどです。

途中第六巻「天狗変」で一応の完結を見ましたが、少ししてから再開し、全十二巻で完結しました。

最初は変わった作風としか感じていなかったのだけれど、どんどん鈴木英治という作家の面白さにはまりました。

大江戸やっちゃ場伝シリーズ

大江戸やっちゃ場伝シリーズ(2018年10月14日現在)

  1. 大地
  2. 胸突き坂

主人公が武士ではなく一小作人という設定はこの作者では初めてではないでしょうか。

この小作人が一念発起し、江戸のやっちゃ場(青物市場)を目指すことになるのでしょう。まだ、二巻しか出ていないので今後の展開は不明ですが、タイトルがそうなので・・・。

他のシリーズと異なり、あの独特の登場人物の内心を示す独白文は影を潜めていますが、テンポの良さはそのままです。

金も力も無い一青年がのし上がっていく物語といえば、獅子文六の小説「大番」があります。「大番」では主人公が相場の世界でのし上がっていく立身出世の物語でした。本シリーズがどのような展開になるのか分かりませんが、その「大番」をも超える物語になってもらいたいものです。そうした期待を込めてお勧めです。

 

 

若殿八方破れシリーズ

若殿八方破れシリーズ(完結)

  1. 若殿八方破れ
  2. 木曽の神隠し
  3. 姫路の恨み木綿
  4. 安芸の夫婦貝
  1. 久留米の恋絣
  2. 萩の逃れ路
  3. 岡山の闇烏
  4. 彦根の悪業薬
  1. 駿府の裏芝居
  2. 江戸の角隠し

 

鈴木英治作品は軽く読めて読み易いのだけれど、このシリーズはその最たるものではないでしょうか。ちょっと行きすぎの感が無きにしも非ずです。

 

信州真田家跡取りである主人公は自分に尽くしてくれていた家来が殺されたため、本来許されない筈の仇打ちに出ます。

「傑作廻国活劇」と宣伝文句にあるように全国を巡るのですが、当時は勝手に江戸外へとでることはできないにも拘らず、廻国の途中の主人公は実に人望が厚く、鷹揚なその性格で人々を魅了し、各地でその身分を明かしてしまいます。

 

いくらなんでもそれはないだろう、と思いつつも、そういう小説だからと読み続けてしまいます。

まあ、そんなことは痛快活劇小説として無視できる設定ではあるのですが、ちょっと軽すぎるきらいはあります。そうした点を許せる人なら面白く読めるのではないでしょうか。

私はファンタジーでさえその物語なりの世界観が出来上がっていないと違和感を感じてしまい、読まないのですが、本シリーズの場合そこまではなく、結構面白く読んでいます。

父子十手捕物日記シリーズ

父子十手捕物日記シリーズ(完結)

  1. 父子十手捕物日記
  2. 春風そよぐ
  3. 一輪の花
  4. 蒼い月
  5. 鳥かご
  1. お陀仏坂
  2. 夜鳴き蝉
  3. 結ぶ縁
  4. 地獄の釜
  5. なびく髪
  1. 情けの背中
  2. 町方燃ゆ
  3. さまよう人
  4. 門出の陽射し
  5. 浪人半九郎
  1. 息吹く魂
  2. ふたり道
  3. 夫婦笑み

 

本シリーズは、名同心といわれた御牧丈右衛門の跡を継いだ息子の文之介が、父親丈右衛門や文之介の幼馴染みの中間勇七の力を借りながらも江戸の町でまき起こる様々な事件を解決していく姿を描く、痛快人情時代小説です。

 

鈴木英治の特徴である登場人物の内心の声をそのまま描く独白形式の文体が心地よく、軽快に読み進むことができる作品となっています。

また、登場人物のかわす日常会話も物語の適度な息抜きとなっており、鈴木作品の独特な個性となっている点も他の作品と同様です。

そのことは幼馴染みでもある中間勇七との掛け合いにもおらわれており、小気味よく響きます。この中間との掛け合いの設定は鈴木栄治作品のあちこちで使われていますが、その似た設定がそれなりに物語の潤滑油になっていると思います。

勿論文之介自身も同心としてもそれなりに優秀で、剣の腕も立ち、事件を解決していくのです。

他に文之介の幼馴染みのお春という大店の味噌問屋の娘や、御牧丈右衛門の上司で盟友でもある与力の桑木又兵衛などが文之介の後押しをしています。

本シリーズは完結しており、一気に読みたい人向きです。

口入屋用心棒シリーズ

口入屋用心棒シリーズ(2022年05月27日現在)

  1. 逃げ水の坂
  2. 匂い袋の宵
  3. 鹿威しの夢
  4. 夕焼けの甍
  5. 春風の太刀
  6. 仇討ちの朝
  7. 野良犬の夏
  8. 手向けの花
  9. 赤富士の空
  10. 雨上りの宮
  11. 旅立ちの橋
  12. 待伏せの渓
  1. 荒南風の海
  2. 乳呑児の瞳
  3. 腕試しの辻
  4. 裏鬼門の変
  5. 火走りの城
  6. 平蜘蛛の剣
  7. 毒飼いの罠
  8. 跡継ぎの胤
  9. 闇隠れの刃
  10. 包丁人の首
  11. 身過ぎの錐
  12. 緋木瓜の仇
  1. 守り刀の声
  2. 兜割りの影
  3. 判じ物の主
  4. 遺言状の願
  5. 九層倍の怨
  6. 目利きの難
  7. 徒目付の指
  8. 三人田の怪
  9. 傀儡子の糸
  10. 痴れ者の果
  11. 木乃伊の気
  12. 天下流の友
  1. 御上覧の誉
  2. 武者鼠の爪
  3. 隠し湯の効
  4. 赤銅色の士
  5. 群青色の波
  6. 黄金色の雲
  7. 御内儀の業
  8. 拝領刀の謎
  9. 火付けの槍
  10. 江戸湊の軛
  11. 猿兄弟の絆
  12. 身代金の計

 

鈴木英二という作者の名調子が小気味いい作品です。

おかまチックな同心、奇妙な殺し屋、その殺し屋の想い人としての主人公の妻、更には口入屋の主人や娘たちとの絡み。

他でも書きましたが、この作家もキャラクター設定がうまいのです。登場人物の心理描写としての独白も異論はあるかもしれませんが、このひとの文章のリズムとしてとても心地よいものがあります。

 

面白いのは、この物語は途中から主人公の湯瀬直之進と、その敵役と言っていいものか殺し屋の倉田佐之助との関係性が変化していきます。

また、南町奉行所定町廻り同心の富士太郎もキャラの変化といってもよさそうな変わり方を見せています。

その意味ではこのシリーズの構成そのものが変わっているとも言えるのですが、これだけ長く続くシリーズではその変化もまた心地よく読むことができました。

 

この作家の作品では、順番はつけにくいのですが一番だと思います。

 

これまでは以上のような印象を持ち、この作者を追いかけてきたのですが、このところ鈴木英二という作家の印象が以前ほどではなくなってきています。

この頃では本『口入屋用心棒シリーズ』以外の鈴木英二作品をあまり読んでいないのではっきりとは言えません。

しかし、どうにも冗長な場面が多くなってきた印象です。物語の筋とは無関係な、物語のリズムを壊しかねない場面が増えてきているのです。

この作者に出逢った当時のような、胸のすく物語を再度期待したいものです。(2020年12月記)