文武両道の学問所設立を目指す佐賀大左衛門は、剣術指南方の師範代として湯瀬直之進と倉田佐之助の二人を迎え入れようとしていた。そんな折り、大左衛門の屋敷を旗本岩清水家の用人が訪い、若年寄遠藤信濃守に進呈するに相応しい刀の鑑定を依頼してきた。だがこの刀選びが元で、大左衛門の身にとんでもない災難が降りかかる。人気書き下ろしシリーズ第三十弾。 (「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十弾です。
佐賀大左衛門が、その両の眼を切られたということを知ったのは、大左衛門が直之進と佐之助の二人との待ち合わせの場穂に来なかったため、二人が大左衛門の屋敷に行った折だった。
直之進は大左衛門の護衛につくことになり、佐之助と、ちょうどやってきた樺山富士太郎とに探索をまかせることになった。
旗本岩清水家の用人が、主人の猟官のために若年寄遠藤信濃守に刀剣を贈呈する、という話から、大左衛門に刀剣の鑑定を依頼してきたことがあり、その刀にまつわる経緯が大左衛門の災難に結びつき、更には刀剣の写し(模造)へと展開していきます。
このシリーズもやっと新しい展開になり、沈滞していたシリーズとしての面白さも期待できるかと思っていた矢先に、また普通の捕物帳としての展開になってしまいました。
それはそれで、悪くはないのですが、若干のマンネリ感を感じていた身としては、新しい環境での直之進らの活躍を期待していただけに、残念な気持ちもありました。
ただ、普通の捕物帳とは言いましたが、物語の最初に、大左衛門が斬られるおおまかな理由は示されていますから、ここでは「探索の物語」という意味での捕物帳ということになります。直之進、佐之助、富士太郎の三人がどのようにこの事実に迫っていくかという点が関心の対象になるのです。
本書の直接の敵役は、主のために尽くす用人と、その用人を手助けしようとする若衆ですが、人間としては道を踏み外す行為ということは分かっていながらも、主君に忠節をつくすことこそ侍のとるべき道と信じ、行動しています。その行為の一つとして刀剣の模造があるのです。
この物語自体は取りたてて言うほどのこともない、普通の物語なのですが、登場人物として例えば鎌幸のような、この物語の今後の展開に何らかの影響を与えそうな人物の搭乗があったりして、今後の物語の展開につなげる描き方が為されています。
本書の終わり方にしても、直之進のもとを、富士太郎の母親の田津が訪ねてくるところで終わり、次巻への連携が図られています。ありがちではありますが、一つの手法ではあるようです。