付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘

付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』とは

 

本書『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』は『付添い屋・六平太シリーズ』の第十五弾で、2021年12月に文庫版で刊行された280頁の作品で、人情味豊かな連作の短編小説集です。

 

付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』の簡単なあらすじ

 

天保四年秋、秋月六平太は豪商の娘たちの舟遊びに付添った。その会食の席で酔った若侍が狼藉を働く。残された脇差から侍は旗本の次男・永井丹二郎と知れた。意趣返しを警戒し永井に接触した六平太は、逆に剣の腕を見込まれ、道場師範に乞われてしまう。その頃『市兵衛店』に付添い仲間の平尾伝八夫婦が越してきた。さらには妹の佐和母子も六平太宅に居候することになり、長屋は俄に賑やかに。稼業のためにと剣術修業を始めた伝八に、六平太は祝儀代わりの仕事を融通した。だが翌朝、伝八は何者かに斬られ瀕死状態で見つかる。日本一の王道人情時代劇、最新刊!(「BOOK」データベースより)

 

第一話 深川うらみ節
天保四年秋、材木商の娘らが徒党を組む「いかず連」に付添うことになった六平太。その会食の席に酔った若侍が乗り込み、狼藉を働く。残された脇差から侍は旗本の次男・永井丹二郎と知れた。意趣返しを警戒した六平太は丹二郎に接触する。
第二話 付添い料・四十八文
『市兵衛店』に付添い仲間の平尾伝八夫妻が越してきた。さらに妹の佐和とその子らが六平太宅に居候することに。そんなある日、桶川への付添いの依頼が舞い込む。依頼主は奉公人で全財産はわずか四十八文。成り行きで引き受けるが……。
第三話 噛みつき娘
相良道場での稽古後、穏蔵の養父・豊松が死亡したとの知らせが入る。養家を継ぐのか、江戸に残るのか、穏蔵の将来を皆が心配する中、自分が実の父であることを隠しながら、六平太は厳しい言葉を突き付ける。
第四話 闇討ち
六平太の剣の腕を買い、丹二郎は自身の道場に招こうと躍起になっている。そんな頃、平尾伝八が剣術稽古を始めたことを知った六平太は、祝儀として付添い仕事を譲ることに。しかしその翌日、伝八が何者かに斬られているのが見つかった。(内容紹介(出版社より))

 

付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』の感想

 

本書『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』での巻を通してのエピソードは永井丹二郎という旗本の次男坊が六平太にまとわりつく話であり、それとは別の各々の話での個別のエピソードとがあります。

本書を読んでいる途中でただただ六平太の日常を描く、そうした小説もまたいいものではないかと思いながら読み終えました。

その後本ブログのシリーズ前巻『猫又の巻 祟られ女』の項を読み返すと、本シリーズは六平太を取り巻く人間模様を描き出す物語なので特別な敵役など必要ではない、と記しています。

つまりは、シリーズ物の痛快時代小説といえば、例えば『居眠り磐音シリーズ』での田沼意次のように、主人公と対立する敵役があった方が面白い、と思っていたのです。

しかしながら、そうではないのだと、魅力的な主人公がいてその周りの人々の人情話を語り続けるだけでも十分に面白いシリーズがあり得るのだとあらためて思っていたようです。

それが、前回も、そして今回もこのシリーズを読んでいる中で同じように感じていたのだと思えます。

 

 

ですから、シリーズでは巻ごとに特有の人物が現れたり、長屋の住人の入れ代わりもあって、物語としての新陳代謝を図っているのでしょう。

また、物語としての派手な展開もなく、人情話に重点が置かれることになるのでしょう。

それはそれで話さえ面白くできていれば何の問題もないのであり、事実、本シリーズはそうした展開になっていると思われます。

ごんげん長屋つれづれ帖【三】望郷の譜

ごんげん長屋つれづれ帖【三】望郷の譜』とは

 

本書『望郷の譜』は『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の第三弾で、2021年9月に文庫本で刊行された、285頁の連作の短編小説集です。

シリーズ第三巻目の作品として、シリーズの世界観にも慣れ、それなりの面白さを持った人情小説集としてその位置を確立している印象でした。

 

ごんげん長屋つれづれ帖【三】-望郷の譜』の簡単なあらすじ

 

お勝たちの隣の部屋に住まう、彦次郎とおよしの夫婦。古くから『ごんげん長屋』に暮らし、賑やかな住人たちを温かく見守る穏やかな二人の元へ、常陸国から一人の男が訪ねてきた。男を追い返すとともに、慌てて長屋を引き払おうとする彦次郎たちを引き留めたお勝は、老いた夫婦の哀しい過去を知ることになるー。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第三弾!(「BOOK」データベースより)

 

第一話 一番かみなり
元日には長屋での部屋の取り換えが、二日には「岩木屋」で若侍らの出来事があり、また田舎に帰るという「喜多村」の女中頭のおたねを見おくり、近藤道場の沙月のもとで建部家跡取りの源六郎の姿を見ったお勝だった。松が取れ、長屋には青物売りのお六と足袋屋「弥勒屋」の番頭の治兵衛という新しい住人が移ってきた。

第二話 藍染川
ある日、お琴と沢木栄五郎の手蹟指南書で一緒の志保と五十吉の姉弟が父親の仲三に打たれたと言って逃げてきた。お勝は仲三と直接話した後、入れ込んでいる女と話をつけると、仲三がお勝のもとへ怒鳴り込んできたのだった。

第三話 老臣奔走す
初午も数日後に控えたある日、彦坂伴内と名乗るとある旗本家の用人が荷車に積んだ荷を持ち込んできた。しかしその用人の望む金額には到底足らないため、今度は彦坂家の持ち物まで見積もってほしいと願ってきた。そこで彦坂の主筋の旗本家の内情を調べるお勝だった。

第四話 望郷の譜
ある日、彦次郎が打ったという短刀を見つけたのだと、刀鍛冶の久市の倅だという常陸国の恭太という男が彦次郎を訪ねてきた。それを聞いた彦次郎は慌ててごんげん長屋を出て行くと言い出すのだった。

 

ごんげん長屋つれづれ帖【三】-望郷の譜』の感想

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【三】-望郷の譜』も、全四編からなる連作の短編小説集で、お勝を中心とした小気味よい人情話が展開されています。

 

「第一話 一番かみなり」ではごんげん長屋の住人の部屋の入れ代わりや、お勝のかつての奉公先にいた女中頭のおたねとの別れ、などがあります。

そして岩木屋に押し寄せた旗本の小倅たちの嫌がらせがあり、そのことがお勝のお腹を痛めた源六郎の話と絡んだりと、お勝の話が中心となっています。

特別に何か事件がおきるというわけではなく、お勝らの日常が描かれていくだけです。

 

「第二話 藍染川」は、沢木栄五郎の手蹟指南書でお琴と一緒だった志保五十吉という姉弟とその家族の話です。

父親の仲三が何かと母親のおきわや子供たちに手をあげるようになったという話を聞いて、お勝が乗り出すのです。

ただ、仲三一家の問題を解決する方法、そして仲三の目を覚ます出来事があまりに都合がよすぎる印象です。

軽く読める時代小説の常として、ある程度のご都合主義は仕方のないところかもしれませんが、この話の場合はちょっとばかり出来すぎだと思われます。

ちなみに、仲三が働く染屋があるという藍染川は、西條奈加の直木賞受賞の『心淋し川』という作品の中で「心淋し川」と呼ばれている川が合流する川です。

申し訳ないけれど、本シリーズも軽く読める面白い作品ではあるものの、人情時代小説としての作品の深み、人間の描き方では、やはり『心淋し川』に軍配が上がるのは仕方のないところです。

 

 

「第三話 老臣奔走す」は、後に判明する旗本榊原家の用人である彦坂伴内という侍が、主家のために自らの財産までをも投げうって奉公しようとする姿が描かれています。

彦坂伴内から主家の事情を聞かされたお勝は、いつものように情報を収集し、彦坂に裏の事情を教えるのです。

そこから先は彦坂ら侍の判断で動くことになります。侍はそうした裏事情を知り得ない、という前提での話ですが、そこらをつつく必要もないでしょう。

 

「第四話 望郷の譜」は、ごんげん長屋の住人である彦次郎およし夫婦の物語です。

まさに人情物語であって、哀しみに満ちた物語でもあり、愛情にあふれた物語だともいえるかもしれません。

とはいえ、微妙に無理筋の話、だという気もしていて、なんとも言いようのない作品でもあります。

 

本シリーズは、通俗的な人情小説として軽く読める作品を期待する向きにはもってこいのシリーズだと言えるでしょう。

これからも続編を期待したいと思っています。

ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に』は、『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』第二巻で、文庫本で269頁の連作の人情時代短編小説集です。

シリーズ第二巻目であり、主人公のお勝は勿論、ごんげん長屋の住人についても一通り様子が知れたあとの、楽しく読めた作品でした。

 

ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に』の簡単なあらすじ

 

第一話 天竺浪人
文政元年(1818)十一月、目明しの作造大森源五兵衛という浪人を探しにやってきた。その夜、大家の伝兵衛もまた作造が探している人物は沢木栄五郎ではないかと言うのだった。栄五郎は天竺浪人、つまり逐電をひっくり返してんじく、天竺浪人だというのだ。

第二話 悋気の蟲
火消し「れ」組の梯子持ちの岩造が持っていた手ぬぐいやお守り見つけた女房のお富が、どこの女のものだと焼もちを焼いて大騒ぎとなった。ところがその翌朝、今度は囲われ女のお志麻の家に白山の提灯屋「菊乃屋」の内儀が怒鳴り込んできた。

第三話 雪の首ふり坂
お勝は、冬だというのに質草の炬燵や掻巻などを取りに来ない錺職の芳次郎という岩木屋の客の様子を見に行った。芳次郎は病で寝付いていたが、お勝は芳次郎の最後の弟子だった沢市という職人から、芳次郎の妻と娘の死に絡む話を聞くのだった。

第四話 ゆく年に
おる日おたかが苦しみ始めた。お腹の赤ちゃんのこともあり、長屋の女たちが入れ替わり世話をすることになった。ところが、国松夫婦は子の弥吉も連れて長屋を出て行きたいと言い始めるのだった。

 

ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に』の感想

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に』も、全四編からなる長編と言っていい連作の短編小説集です。

第二巻ともなるとこのシリーズの雰囲気も少しは分かっており、お勝という主人公の性格、暮らしぶり、皆には知られていない過去、などの様子も分ってきています。

そうしたよく練られた人情話シリーズとして認知された前提で本書を読むことになりますが、それによく答えた作品だという印象です。

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に』では、第一話の沢木栄五郎、第二話の岩造とお富夫婦、第四話の国松とおたか夫婦というごんげん長屋の住人の話があって、残りの一話が錺職の芳次郎という「岩木屋」の客の話です。

 

「第一話 天竺浪人」では、物語の始めはごんげん長屋の井戸端でのおかみさんたちの文字どおりの井戸端会議の場面から始まります。

こうした風景で、各家庭の内所の様子が垣間見え、庶民の生活を知らしめてくれています。

メインとなる話では沢木栄五郎が旧藩を逐電した理由が明かされます。タイトルの「天竺」は逐電という言葉からくる遊び言葉です。

同時に、貧しくて手蹟指南所に通えない、ごんげん長屋の住人のおたかの息子の弥吉の話や、岩木屋の妙な客、そしてお勝の幼馴染の近藤沙月がやってきたりもします。

 

「第二話 悋気の蟲」は、ごんげん長屋の二組の住人にからむ、女のヤキモチの話です。

一組は火消し「れ」組の梯子持ちの岩造とその女房のお富の物語で、もう一組は囲われ女のお志麻の話です。

岩造は江戸の町娘に大人気だった火消しであるがゆえの女房の悋気の話であり、お志麻は妾としての本妻からの悋気の話ですから、ともに仕方のない話ではあります。

本話では、お勝がいない間に建部家の用人の崎山喜左衛門がお勝の家を訪ねて来るということも描かれています。

 

「第三話 雪の首ふり坂」は、病で職人としての腕を振るえなくなった錺職の芳次郎の話です。

芳次郎の弟子の沢市から、芳次郎の妻子の過去の話を聞いたお勝でしたが、どうにも手の打ちようがありません。

師匠と弟子との心が通う話ではありますが、悲劇だとも言え、どうにもやるせない話です。

本話でも、左官の庄次や十八五文の薬売りの鶴太郎、貸本屋の与乃吉らが声をかけて出ていくと、井戸端の女らが「行っといで」と声を揃えて送り出します。

また、十二月八日は「事始め」といい、新年を迎える支度にとりかかる日だそうで、正月用の道具を取り出す習わしがあると記してありました。

本話などを読むと、『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』は、同じ作者金子成人の書く『付添い屋・六平太シリーズ』よりも登場人物の心象についてかなり細やかな表現をするようになっているように思えます。

痛快ものと人情ものとの差なのでしょうか。それとも、作者の作家としての経験の差なのでしょうか。

 

 

「第四話 ゆく年に」は、長屋の国松とおたか夫婦の話です。

いかにも助け合いの精神で生きている長屋暮らしの物語です。お腹が大きいおたかを皆で助けようというのです。

しかし、国松夫婦に三両の金が転がり込んだ時も、貧乏人の哀しさで持ち付けない金を持ったそのこと自体が夫婦の日常を狂わせてしまいます。

今回も似たようなもので、その三両の金はあるのに長屋の皆の世話になることの負担を覚えてしまいます。人の良さの表れでしょうか。

また、お勝の一場面として、字を教えていた弥吉との別れがつらくぐずるお妙にお勝が雷を落とす場面があります。その様子を、後にお琴が「落ちた」と一言告げる様子がほほ笑ましいし、細かな描写が一段をうまくなっていると感じました。

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【二】ゆく年に』は、前巻『ごんげん長屋つれづれ帖【一】かみなりお勝』以上に、人情時代劇としての魅力が詰まった一冊になっていました。

 

ごんげん長屋つれづれ帖 : 1 かみなりお勝

本書『ごんげん長屋つれづれ帖 : 1 かみなりお勝』は、『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』第一巻で、文庫本で277頁の連作の人情時代短編小説集です。

根津権現門前町にある「ごんげん長屋」を舞台に、江戸の普通の庶民の生活が描かれる、心温まる物語でした。

 

ごんげん長屋つれづれ帖 : 1 かみなりお勝』の簡単なあらすじ

 

岡場所で賑わう根津権現門前町の裏店、通称『ごんげん長屋』に住まうお勝は、女だてらに質屋の番頭を務め、女手ひとつで三人の子供を育てる大年増。情に厚くて世話焼きで曲がったことが大嫌いなお勝は『かみなりお勝』とあだ名され、周囲に一目置かれる存在だ。そんなお勝の周りでは、今日も騒動が巻き起こり―。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本が贈る、傑作シリーズ第一弾!(「BOOK」データベースより)

 

第一話 かみなりお勝
お勝が番頭を務めている質屋「岩木屋」は損料屋も営んでいた。今回も「紫雲堂松月」という菓子屋へ貸した塗り膳に疵を見つけ修理代の交渉へと赴くが、「紫雲堂松月」主人の妻おていは納得できないという。そのとき、こちらを見ている男児を見つけるお勝だった。

第二話 隠し金始末
ある日、ごんげん長屋の住人の弥吉おたか夫婦のもとに、半年前に弥吉が拾った三両という金が払い下げになることとなった。ところが、持ちつけない金を握った弥吉夫婦は呆然とするばかりだった。

第三話 むくどり
お勝は、旗本の池本家から返してもらった刀の損料の交渉に行った帰り、口入屋「桔梗屋」の主人が旅姿のお末という娘を相手に困っている様子を見つけた。お末の兄の貞七が帰ってこないらしいが、貞七の奉公先があの池本家だというのだった。

第四話 子は宝
お勝の子の幸助が手蹟指南書で殴り合いの喧嘩をしてきた。お妙によると、幸助が相手に「捨子」と言われたというのだ。幸助やお琴は自分たちが「捨子」であったことは知っていたが、お妙は自分も捨子だったことを知らされて泣き出していまう。

そんなお勝は、ごんげん長屋の家主の惣右衛門が隠居である料理屋「喜多村」へ呼び出された。そこには旗本建部左京亮家の用人の崎山喜左衛門が待っていた。喜左衛門は、お勝が建部家を追い出された後のお勝の事情もよく知っているのだった。

 

ごんげん長屋つれづれ帖 : 1 かみなりお勝』の感想

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖 : 1 かみなりお勝』は、全四編からなる連作短編小説集ではありますが、連作ものによくあるように、実際は長編と言ってもいい作品だと思います。

本書の舞台は「岩木屋」という質流れ品を利用した損料屋も営んでいる質屋で、本書の主人公はこの「岩木屋」の番頭を務めているお勝という名の三十八歳の女性です。

男勝りのこの女性が、質屋、損料屋の「岩木屋」を訪れる客や、住まいの「ごんげん長屋」の住人達に巻き起こる様々な出来事に対処しながら、怒り、泣き、喜ぶ姿が描かれています。

 

「第一話 かみなりお勝」では本シリーズの紹介も兼ねて、岩木屋の質屋としての仕事よりも、質屋の質流れの品物を利用したレンタル業である損料屋としての仕事の紹介が主になっています。

菓子屋「紫雲堂松月」に貸した塗り膳に疵があったことからその損料の交渉へと行ったことからちょっとした人情話が語られます。

 

「第二話 隠し金始末」では、ごんげん長屋の住人の弥吉夫婦に思いもかけず転がり込んできた三両という金を巡る物語です。

普段持ち付けない大金を持った庶民の姿を描きだす小さな悲喜劇です。

 

「第三話 むくどり」は、帰らぬ兄を訪ねて一人江戸まで出てきた田舎暮らしの娘の悲しみをうまく描いてある作品でした。

また、お勝が困っている人を見ると口を出さずにはおられない人柄であることもよく分かります。

別の話として、お妙が自分だけ着物を仕立てて貰うことが納得がいかない様子もまた描写してあります。お勝の家庭が互いに助け合って暮らしていることが分かるエピソードでした。

ここで、「岩木屋」の主人の吉之助の妹のおもよが登場します。お勝の娘の七つになるお妙の七五三の帯解のためにと反物を土産に持ってきたのでした。

ここで「帯解」とは付け紐で着物を着ていた女の子が七つの七五三を機に普通の帯を使い始めるという祝儀だとの説明がありました。我が家には女の子がいないので分からないのですが、こうした風習は今でも行われているのでしょうか。

 

「第四話 子は宝」は、江戸時代、親のない子は珍しくもないという事実を前に綴られていきます。

また、お勝が大家の惣右衛門の「喜多村」に十五年前に、惣右衛門の子の利世と婿養子の与一郎の間の子の惣吉お甲の世話係として雇われていたことも明らかにされます。

それ以上にお勝自身の子供のことつまり、お勝がかつて奉公していた二千四百石の旗本、建部左京亮の手がついてお勝は子供を産んだという事実が知らされます。

名は市之助、元服して今では源六郎と名乗り、十九歳になっています。

しかし、左京助の正室の久江がお勝の家柄を理由にお勝を追い出したのです。

その後お勝は「亀屋」という旅籠、菓子屋「清水緑風堂」、料亭「喜多村」に勤め、今の「岩木屋」に至っています。

男勝りのお勝、その三人の子供は皆捨子だった、という前提で進んできた物語ですが、ここでお勝自身の過去が語られ、お勝という人間を立体的に浮かび上がらせてあるのです。

 

一点、疑問があります。

お勝が談判に行った炭屋「笹熊」の主人の亥太郎が「あのかみなりお勝」とつぶやいて金を出したのはどういう意味なのでしょう。

お勝の名がそれだけとおっているということなのか、それとも亥太郎がなにか訳ありの男なのか、今後の展開を気にしていたいと思います。

 

ともあれ、本書『ごんげん長屋つれづれ帖 : 1 かみなりお勝』は、作者金子成人が痛快時代小説だけではなく、落ち着いた人情話の書き手としても一流だということを示した作品だと言えます。

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ

『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』は、お勝という三十八歳の女性を主人公とする人情時代小説シリーズです。

誰にも言えない過去をもつものの、男勝りで誰からも頼られる人柄のお勝を巡る物語はかなり面白く読んだ作品でした。

 

んげん長屋つれづれ帖シリーズ』について

 

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ(2022年04月16日現在)

  1. かみなりお勝
  2. ゆく年に
  1. 望郷の譜

 

『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の主人公はお勝といい、根津権現門前町の根津権現社に近いところにある「岩木屋」という質屋の番頭をしています。

このお勝は、実家は馬喰町で「玉木屋」という旅館をやっていましたが二十年前に近所から出た火事のために二親は逃げ遅れ、助けに飛び込んだ三つ違いの兄の太吉もまたともに焼け死んでしまいました。

そのときお勝は奉公先の旗本家にいたため無事でしたが、以来、縁者とも疎遠になり、三十八歳になる現在まで一人でいます。

 

お勝の住まいは、同じ根津権現門前町の南端にある、路地を挟んで北側に九尺三間、南側に九尺二間という間取りで並んだ二棟の六軒長屋で、正式名称は「惣右衛門店」、通称を「ごんげん長屋」といいます。

お勝はその「ごんげん長屋」の北側の棟の真ん中あたりに、十二歳のお琴、十歳の幸助、七歳のお妙という三人の子と共に住んでいます。

このお勝の人柄について作者の金子成人は、お勝の兄の太吉を慕っていた銀平というお勝の三つ年下の目明しに第一巻の始めで、お勝は「餓鬼の時分から小太刀をものにして、近所の年上の悪餓鬼からも恐れられてた」と言わせています。

また、今のお勝は根津の方では「かみなりお勝」と呼ばれているそうだ、とも言わせているのです。

それだけお勝自身が鉄火肌でもあり、親分肌でもあるといえそうです。

 

『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の登場人物としては、まず「ごんげん長屋」の面々は、各巻の最初に長屋の見取り図があり、住人の名前も書いてあります。

その中で主だった人物としては、大家の伝兵衛、それに手習の師匠をしていますが金がないために厠の隣の賃料が安い部屋に住む沢木栄五郎がいます。

その他に挙げるべき人物としては、善光寺町にある料理屋「喜多村」があり、その隠居で「ごんげん長屋」の家主でもある惣右衛門がいます。

そして、お勝の過去にかかわる旗本建部左京亮家の用人の崎山喜左衛門や、香取神道流の近藤道場師範の妻で幼馴染の沙月などがいます。

その他にもいますが、各巻の中で語られていくことになります。

 

『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』でお勝が番頭として奉公する「岩木屋」は、質流れになった質草を損料を取って貸し出す「損料貸し」も営む「損料屋」でもありました。

主人は吉之助といい、慶三弥太郎という手伝い、それに初老の蔵番の茂平と修繕担当の要助らがいます。

これらの面々や、「岩木屋」へやってくるお客らの巻き起こす問題ごとにどうしても首を突っ込み、世話を焼くことになるのが主人公のお勝なのです。

 

本『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の作者金子成人は高名な脚本家でもあり、人気シリーズの『付添い屋・六平太シリーズ』も書かれています。

ということは、痛快小説のみならず人間ドラマもお手の物でしょうが、あらためて書かれた人情話はいかがなものかと思っていたところ、さすがに読ませる作品でした。

 

 

ところで、本シリーズは根津権現門前町を舞台としていますが、根津権現町といえば、先般西條奈加が第164回直木賞を受賞した『心淋し川(うらさびしがわ)』も根津権現付近の千駄木を舞台にした作品でした。

また、明治10年の根津遊郭を舞台に、御家人の次男坊だった定九郎の鬱屈を抱えながら生きている様子を描きだす、第144回直木賞を受賞した木内昇の『漂砂のうたう』という作品もあります。

 

 

また、田牧大和の『鯖猫長屋ふしぎ草紙シリーズ』も根津権現町の南隣の根津宮永町を舞台にした作品でした。

 

 

他にも根津という町を舞台にした作品はかなりの数がありそうです。この土地自体に人情話が生まれやすい土壌があるのでしょう。

ともあれ、金子成人という作者の、なかなかに面白そうな新シリーズが始まりました。

ゆっくりと読み続けたいシリーズになると思われます。

付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女

『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』は、『付添い屋六平太シリーズ』第十四弾となる文庫本で290頁の連作短編小説集です。

変わらずに小気味の良いタッチで物語が進む、とても読みやすい人情物語です。

 

『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』の簡単なあらすじ 

 

四谷相良道場の高弟でもある秋月六平太は、道場主の相良庄三郎から森掛藩下屋敷にある立身流兵法『練志館』への代稽古を頼まれた。森掛藩邸にはもう一つ一刀流の道場『興武館』も存在する。これまで親交のなかった両者による初の立ち合いが六平太の面前で行われた。一方、口入れ屋『もみじ庵』に新しい付添い屋、平尾伝八が雇われた。六平太は見習いとして平尾を付添いに同行させるが、根暗な性格は娘達の反感を買ってしまう。そんな中、瑞聖寺裏の田圃から、先の立ち合いで勝利した『練志館』田中祥五郎の惨殺死体が発見された。日本一の王道時代劇最新作!「BOOK」データベースより)

 

第一話 剣友
相良道場の主・相良庄三郎に立身流『練志館』の代稽古を頼まれる。そこには同門であり、かつて共に稽古に励んだ勘定方・田中祥五郎の姿があった。三年ぶりの再会を喜ぶ六平太に、稽古の見学をしたいという申し出が入る。森掛藩もう一つの流派、一刀流『興武館』の者達だった。
第二話 いかず連
『もみじ庵』に平尾伝八という男が付き添い屋として雇われる。六平太は平尾を見習いとして付添いに同行させるよう頼まれるが、気が進まない。その六平太の元に瑞聖寺裏の田圃で侍の惨殺死体が見つかったと知らせが入る。
第三話 祟られ女
六平太は、山之宿町の灸師・お浪から付添いの依頼を受ける。自分の告げ口によって賭場で捕まった亭主、又次郎が近々赦免される。赦免後の又次郎の様子を二、三日見てほしいというのであった。
第四話 放生の夜
六平太は、与之吉という男から自分を見張ってほしいと頼まれる。十五年奉公した糸問屋『桐生屋』の女将、お須美と駆け落ちしてきたのだが、働き口もなく怒鳴られる日々。いつかお須美を手に掛けそうな自分が恐ろしいというのであった。( Amazon「内容紹介」より)

 

『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』の感想

 

今回の物語『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』でも、各々の話での個別のエピソードと、巻を通してのエピソードがあります。

 

巻を通しての話として、一つは、六平太が行った代稽古の話です。

師匠である相良庄三郎の代理で森掛藩下屋敷の道場「練志館」へ行き、そこで行われた森掛藩の武芸係である陣馬重三郎の許可のもと、森掛藩の別流派「興武館」道場の門人の一部との交流試合が行われました。

そこで負けた「興武館」の門人が「練志館」へ意趣返しを仕掛けてきて、「練志館」の門人である田中祥五郎が後に惨殺死体となって発見されたのです。

そしてもう一つの出来事が、木場の「飛騨屋」の娘登世の「いかず連」の話です。森掛藩の問題がシリアスな悩みだとすれば、登世の問題はユーモラスな困りごとと言えます。

更に、口入屋の「もみじ庵」に付添人の新人が現れたということがあります。名を平尾伝八といい、付き添いの見習いとして翌日の付き添いに連れていくと、絡んできた酔っ払いをいなすこともできず、抜いた刀は竹光だったのです。

 

前巻の『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』の項で、本シリーズには変化がない、と書きましたが、その点では本書でも同様です。

しかしながら、物語に大きな変化のないことは、それはそれで六平太の日常の書き込みが為されており、それはそれで悪くはないのではないかと、私の方に心境の変化がありました。

何故にそのように考えるようになったのかはよく分かりません。単にその時の私の体調のためなのかも知れません。

もしかしたら、この頃読んでいた小説が、かなり暴力的でシリアスな作品が続いていたので、肩の凝らない、本書のような作品が息抜きになると思ったのかもしれません。

ともあれ本『付添い屋・六平太シリーズ』は、六平太を取り巻く人情模様を描き出す物語であり、特別な敵役など必要ではないのだ、ということを再認識する必要があるようです。

 

とはいえ、そうした目線で見るまでもなく、本書『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』では六平太の日常がそのまま描かれています。

その中に亭主の悪事を通報したために島送りになった亭主が突然島から帰ってくることになり、亭主の報復を恐れる女や、なじみの「飛騨屋」の娘登世が作った「いかず連」の話などがあります。

「行かず連」の話などはこのシリーズを通して語られている出来事であり、いかにもユーモラスな場面として本シリーズに彩を添えています。

 

また、本書『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』から、新人の付き添い屋である平尾伝八という人物が登場しています。剣の腕は今一つのような描き方をしてありますが、実際はどうなのか。

多分、今後も登場してくるであろう人物ですが、六平太の頭痛のタネになりそうな人物ではあります。

 

また、毎回用意してある六平太の剣劇の場面が、本巻だけのことかもしれませんが、いつもとは異なる描き方をしてあります。

こうした処理の仕方もなかなかにいいものだと感じました。

ともあれ、人情小説としての楽しみに満ちたシリーズとして安定した面白味を維持していってもらいたいものです。

付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女

『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』は、『付添い屋六平太シリーズ』第十三弾の、文庫本で282頁の連作短編小説集です。

変わらずに読みやすく、面白さ自体は維持していますが、あまり変化を感じない話となっているようです。

 

『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』の簡単なあらすじ 

 

浪人・秋月六平太が付添い屋として稼ぐ手当てを得てからそろそろ十年になろうとしていた。ある夜、頬被りをした男に刃物で寝床を襲われて以来、只ならぬ殺意が六平太の身辺を漂いはじめる。訝しみつつも、『飛騨屋』のお内儀・おかねの咳止め願掛けの付添いや、日本橋堀江町の湯屋『天津湯』での見張り番など、慌ただしい日々を送っていた。一方江戸では「行田の幾右衛門」一味による残忍な手口の押し込みが頻発していた。その幾右衛門の素性に心当たりを得た六平太は盗賊の捕縛に助力し始めるが…。伝説のドラマ脚本家が贈る、王道の人情時代劇十三弾!(「BOOK」データベースより)

 

第一話 幽霊息子
ある夜、刃物を手にした何者かに襲われた六平太。知らず知らずのうちに恨みを買ったかと思案するも、心当たりが見つからない。そんな折、音羽の顔役・甚五郎から、一人息子の穏蔵に婿養子の口がかかったと告げられる。
※ なお、この話のタイトルはAmazonには「幽霊息子」とありましたが、文庫本では「幽霊虫」とあります。そのままに載せておきます。
第二話 願掛け女
六平太に湯屋での見張りの仕事が舞い込むも、居眠りをし、盗っ人に入られてしまう。一方で、「市兵衛店」の弥左衛門の家に通う女中・お竹から、殺された弟の敵打ち成就の為、願掛けの付添いをしてほしいと依頼される。
第三話 押し込み
六月の晦日、六平太は妹の佐和と亭主の音吉たちに連れられ、橋場にある明神社に参拝に訪れていた。賑わう境界を歩いていると、背後から女の悲鳴と男の怒鳴りが聞こえ、振り返ると見覚えのある女が包丁を持って立っていた。
第四話 疫病神
六平太が足繁く通う料理屋「吾作」の料理人・菊次と、お運びのお国が所帯を持つことになった。六平太とおりきで二人の家移りを手伝っていると、佐和と伜の勝太郎が人質に取られたと知らせが届く。色めきたつ六平太は一人覚悟を決め、助けに向かう!(「内容紹介」より)

 

『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』の感想

 

今回の物語『妖狐の巻 願掛け女』でも、おりきとの中も含め六平太自身の暮らしぶりに特別な変化はありません。

今回の物語では、少し前から市兵衛長屋に移り住んできた弥左衛門こと行田の幾右衛門との話が中心になります。

と同時に、六平太の息子である穏蔵に養子の話が起こり、親代わりである音羽の甚兵衛や竹細工師の作蔵、養い親の豊松らが穏蔵のために奔走します。

幾右衛門が絡んだ話と穏蔵の養子の話が本書の全編を貫き、他に音羽の「吾作」の菊次お国との話や木場の「飛騨屋」の娘登世のいかず連の話なども息抜きのように語られます。

 

どうもこのところこの『付添い屋・六平太シリーズ』にはあまり変化がありません。

長尺のテレビシリーズのようにその回での中心人物の活躍だけが取り上げられて、痛快時代小説のシリーズ物としての面白さがマンネリ化しているように思えます。

 

 

それは一つには、シリーズ物としては各巻での細かなエピソードの積み重ねがあるにしても、そのエピソードが現実感を欠いている場面が少なからず感じられるようになってきたことがあるのでしょう。

例えば、本書『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』でそのことを最も感じた個所として、お竹自身が六平太を衆人環視の中で襲い殺そうとした点です。

いくら何でも六平太の剣の腕が立つことを知っているはずのお竹が、人ごみの中を書き分けつつ六平太を殺しに来るとは設定が荒いと感じられます。

また、六平太がしくじった湯屋での盗難事件の解決にしても偶然に頼っており、あり得ない話だと思ってしまいました。

確かに、先に述べた行田の幾右衛門の登場などはそうしたマンネリを避けるための仕掛けの一つなのでしょうが、このシリーズに変化をもたらしたとまでは言えないようです。

 

こうした違和感が積み重なり、この物語への感情移入もしにくくなり、面白味を失ってくる、そんな危惧を感じてしまうのです。

なんてこったい!-若旦那道中双六(4)

四日市宿で伊佐蔵の意外な正体を知ってしまった巳之吉。自分を子供扱いした祖父の儀右衛門に怒り心頭の巳之吉は、東海道の旅を放り出し伊勢を目指す。その途上、蝦夷から来た二人の客を伊勢詣に連れていくという大坂の海産物問屋『北海屋』の手代と知り合うが、辿り着いた伊勢の地で、蝦夷の二人が行方知れずになり―。愛嬌たっぷりの若旦那が繰り広げる、笑いと涙の珍道中!時代劇界の超大物脚本家が贈る人気シリーズ第四弾!!(「BOOK」データベースより)

 

若旦那道中双六シリーズの第四巻目の長編人情小説です。

前巻『べらぼうめ!』で、京を目指す巳之吉を陰から助けてきた伊左蔵が、実は「渡海屋」の先代儀衛門の指示を受けた子守役であったことを知った巳之吉は、京への旅をつづける意欲をなくし、伊勢へと方向転換をするのでした。

 


 

清吉という男の連れの急病の蝦夷人のために持っていた薬を分け、そのとき言われた伊勢国安濃郡の「津」にある「奈良屋」という旅籠で彼らを待つことになります。しかし、その宿では盗人に間違われたり、と散々な目に逢う巳之吉でした(>第一話 奉納金泥棒)。

その後、たどり着いた伊勢で知り合った江戸深川にいた庄助という男が居候しているお房という女の家に泊まる巳之吉です。翌日、伊勢の内宮で連れの蝦夷人を探す清吉と再会した巳之吉は、旅の途中で聞いた話から蝦夷人を探し出し、これを救い出すのでした(第二話 庄助饅頭)。

清吉らと別れた巳之吉は、伊勢内宮で女衒に連れていかれそうな娘を助けます。しかし巳之吉はそれが騙りであったことに気付くのでした(第三話 伊勢音頭)。

やっと伊勢を離れた巳之吉は再び伊勢路を京へと向かいます。その後、騙りの一味の悪事を暴いた巳之吉は、その一味に捕まってしまうのでした(第四話 雲助峠)。

一方、江戸では巳之吉の帰りを待つお千代が巳之吉の仲間になにかと面倒をかけているのでした。

 

前巻『べらぼうめ!-若旦那道中双六(3)』についての項で、「はっきりしないと思われていたこの物語の色が、その漠然とした色こそが持ち味だと感じてきた」と書きました。

でも、その「漠然とした色」も二巻と続くとやはり何となくそれなりの刺激が欲しくなるようです。

それは、なにもヒーローが活躍する活劇や剣戟でなくてもいいのです。人情ものとして読み手の心に残る話でも、爆笑もののコミカルな話でも、ほかの何かでも構いません。

 

前巻でそれなりに本シリーズの特色を捕らえようと思ったのですが、やはり私の嗜好とことなる路線としか言いようがありません。

本シリーズも残りはあと一巻です。なんとか最後まで読み終えようと思います。

べらぼうめ!-若旦那道中双六(3)

赤坂宿で土地のやくざの抗争に駆り出されそうになるもなんとか逃げ出した巳之吉は、赤坂から遠ざかるべく先を急ぐが、橋の袂で下りた河原でお峰という女と知り合い、岡崎宿まで同道することに。奉公の年季が明けて生まれ在所に帰る途中だというお峰だが、思わぬ事実を打ち明け、巳之吉にある願いを託してくる―。愛嬌たっぷりの若旦那が繰り広げる、笑いと涙の珍道中!時代劇界の超大物脚本家が贈る人気シリーズ第三弾!!(「BOOK」データベースより)

 

若旦那道中双六シリーズの第三巻目の長編人情小説です。

 


 

前巻で「人斬りの磯吉」と間違われ逃げ出した巳之吉は、藤川宿を過ぎ岡崎宿へとやってきました。そこで、足抜けをしたらしいお峰という女と知り合い、矢作川上流にあるお峰の里の様子を見てきてほしいと頼まれるのでした(第一話)。

池鮒鯉宿の問屋で難儀していた娘を助けた巳之吉は、次の鳴海宿の手前で駕籠かきにからまれている先ほどの娘を助けようと声を掛けますが、逆にやられてしまいます。そこを弥三郎という旅人に助けられるのでした(第二話)。

熱田神宮を擁する宮宿の七里の渡しで船に乗り損ねた巳之吉は、満員の宿に泊まれず芝居小屋の道具置場に潜り込む羽目になります。そこで芝居の台本を書くことになるのでした(第三話)。

第三話での芝居小屋で、見知らぬ女三人に自分を捨てるのかと押しかけられた巳之吉は、何とか七里の渡しを越え四日市にある「高倉屋」へと挨拶にやってきます。そこで気になったのが、巳之吉の世話をしてくれる綱七という男とお勢という幼馴染みの仲でした(第四話)。

 

本シリーズの前巻までの印象として、人情小説でもなくかといって痛快小説とも言えなくて、今一つ焦点が定まっていない印象だと書きました。

しかし、第三巻となる本巻では、伊左蔵の正体も明らかになるなどの事情もあってか、前巻ほどの中途半端さはないように思えます。

というのも、人当たりがよく、家業以外では思いもかけない能力を発揮している巳之吉の姿が次第にはっきりとしてきたからでしょうか、それなりの魅力を持った人物に思えてきたからでしょう。

 

もともとは能力はあるもの「渡海屋」の跡継ぎとしての意欲も自覚も見せなかった巳之吉の性根を叩き直すためにと考えられた京都行きの話でした。

それが、巳之吉の旅姿を眺めているうちに、いい加減で口八丁なところはあるものの、座付き作家としての能力を発揮したり、妙なところでの人の良さを見せたり、おとこ気のあるところを示したりと意外な魅力を見せ始めます。

加えて、巳之吉のいない江戸での儀右衛門のもとを訪れる巳之吉の遊び仲間である丑寅や岩松、右女助らから聞く巳之吉の姿に意外なものもあったりしたからだと思われます。

 

つまりは、はっきりしないと思われていたこの物語の色が、その漠然とした色こそが持ち味だと感じてきたというところでしょうか。

しかしながら、時代小説に明確な人情話や痛快な剣戟の場面などを求める向きにはやはり向かない物語かもしれません。

こうした文章を書いている私自身が本巻は読むのをやめようかと思ったほどですから、そうした考えも無理はないと思うほどの物語です。

ただ、ここまで読み進めてくるとそれなりの味わいのある物語であり、以降の展開が気になる物語でもあります。

いますこし付き合ってみようと思います。

すっとこどっこい!-若旦那道中双六(2)

女に金を騙し盗られ、逗留を余儀なくされた岡部宿をあとにした『渡海屋』の若旦那の巳之吉は遅れを取り戻すべく先を急ぐ。小夜の中山峠も無事越えて見付宿に辿り着くが、無理が祟ったのか、街道の辻で倒れてしまう。目浚え女のおしげに助けられ、事なきを得た巳之吉だが、おしげの家にしばらく厄介になることになり―。愛嬌たっぷりの若旦那が繰り広げる、笑いと涙の珍道中!時代劇界の超大物脚本家が贈る痛快シリーズ第二弾!!(「BOOK」データベースより)

 

世間知らずの大店の若旦那の京都までの一人旅をユーモアたっぷりに描く、若旦那道中双六シリーズの第二巻目の長編人情小説です。

 


 

霊岸島南新堀にある廻船問屋『渡海屋』の若旦那の巳之吉は、祖父の儀右衛門の図りごとにはまり、後継ぎとしての成長のために京都へと旅立ちました。

前巻では小田原では船中に閉じ込められ、富士川では川止めに会い、岡部宿では道行を共にした女に有り金を持ち逃げされたりもした巳之吉でした。

そんなこんなで、本来であればひと月もあれば京都へ行ってすでに江戸へと帰りついてもいい頃だったのですが、未だ京までの行程の半分にも満たない駿河国にいます。

 

やっと日本橋から数えて二十四番目の金谷宿に着いた巳之吉でしたが、大井川の川止めがとけ、更に参勤交代の行列も重なっていたため、やっと宿を見つけた巳之吉でした。しかし、飲み屋で知り合った脇本陣からも追い立てられた参勤交代の侍と知り合い、意趣返しを思いつくのです(第一話)。

そのいたずらの後、松の葉を煎じた飲み物を飲まされた巳之吉は急な腹痛に襲われ、目さらし女の家に担ぎ込まれます。そのころ江戸ではお千代という亭主持ちの女が巳之吉を訪ねてきていました(第二話)。

目さらし女の家で養生した巳之吉は儀衛門の名代として新居宿の「黒松屋」へと挨拶に訪れますが、主の新左衛門から逗留するように言われ、断わり切れないでいました(第三話)。

姫街道との合流点からすぐの御油宿にたどり着いた巳之吉でしたが、ここで「人斬りの磯吉」という人物と間違われ、この御油宿と一つ先の金谷宿の貸元同士の争いに巻き込まれてしまうのでした(第四話)。

 

本シリーズは、基本的に落語で言えば与太郎的な人物が巻き起こすコミカルな騒動を渡海道中膝栗毛のような道中記として展開する物語を企図したのでしょう。

しかし、第二巻の本作品までを読む限りでは、人情小説とも言い切れず、かといって痛快小説というにはそうでもなく、今一つ焦点が定まっていない印象です。

基本的に各巻は四つの章でなり立っていくと思われますが、その各章が主人公巳之吉の与太郎ぶりを主張したいのか、巳之吉は単なる傍観者としてその章の登場人物の人情物語を展開したいのかはっきりとしないのです。

そんなことは関係なく、巳之吉のいい加減さからくる顛末記をただ眺めていればいいと言われればそれまでですが、そのいい加減さもまたなんとも言いにくい状況です。

今後の続巻の展開では巳之吉のそれなりの成長ぶりが描かれていることを期待したいと思います。

 

このような道中記としては、朝井まかての『ぬけまいる』や『若旦那道中双六シリーズ』の項にも挙げた鈴木英治の『若殿八方破れシリーズ』などがあります。

前者『ぬけまいる』は、かつて「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれたアラサー三人組が突如、仕事も家庭も放り出し、お伊勢詣りに繰り出すという、女三人組の珍道中を描いた作品であり、後者『若殿八方破れシリーズ』は、信州真田家の跡取りである主人公が自分に尽くしてくれていた家来が殺されたため、本来許されない筈の仇打ちの旅に出るという物語です。

ともにユーモアたっぷりな物語であり、軽く読める作品です。