脱藩さむらい

香坂又十郎は、石見国、浜岡藩城下に妻の万寿栄と暮らしている。奉行所の町廻り同心頭であり、斬首刑の執行も行っていた。浜岡藩は、海に恵まれた土地である。漁師の勘吉と釣りに出かけた又十郎は、外海の岩場で脇腹に刺し傷のある水主の死体を見つける。浜で検分を行っていると、組目付頭の滝井伝七郎が突然現れ、死体を持ち去ってしまった。義弟の兵藤数馬によると、死んだ水主の正体は公儀の密偵だという。後日、城内に呼ばれた又十郎は、謀反を企んで出奔した藩士を討ち取るよう命じられる。その藩士の名は兵藤数馬であった。大河時代小説シリーズ第一弾!(「BOOK」データベースより)

 

金子成人の新しいシリーズである「脱藩さむらいシリーズ」の第一弾となる長編の痛快時代小説です。

 

石見の国の浜岡藩で奉行所町廻りの同心頭をしていた香坂又十郎は、田宮神剣流鏑木道場師範代の腕を買われ、藩内の抗争の末に出奔した藩士を討ち取るように命じられます。

その藩士こそ、又十郎の妻である万寿栄の弟の兵頭数馬でした。

又十郎は、数馬を斬らねば万寿栄や又十郎の実家である戸川家にも類が及ぶというどうにもならない状況に追い込まれてしまいます。

こうして数馬を追って江戸まで出てきた又十郎でしたが、妻らを人質に取られたも同様の又十郎は、浜岡藩江戸屋敷目付の嶋尾久作の理不尽な命にも従わなければならなくなっているのです。

 

本シリーズは、この作者金子成人の人気シリーズ『付添い屋・六平太シリーズ』のような、市井で気ままに暮らす素浪人の日常ではなく、強制的に江戸での暮らしを強いられている主人公の、その意にそわない日常が描かれるのであり、かなりシリアスな状況です。

物語の雰囲気も当然ながらかなり異なり、藩内の大きな力の前に身動きの取れなくなった主人公又十郎のこれからがどのように展開していくものなのか、かなり興味を惹かれます。

 

又十郎が江戸での浪人生活を送らなければならない理由もそれなりの必然性を設けてあります。

即ち、浜岡藩内での権力闘争のなりゆきがあり、その上で浜岡藩に公儀隠密が暗躍する理由などもそれなりの理由付けがなされています。

そうした細かな設定が物語の舞台背景に真実味を与え、読み手も違和感を感じずに物語世界に浸ることができると思われるのです。

 

本書はまだまだシリーズの第一巻に過ぎませんが、早々に藩内での対立が描かれ、そこに巻き込まれる主人公の又十郎の姿があります。

その上で、例えば妻の万寿栄と山中小一郎とが切迫したやり取りを交わす様子を垣間見てしまう又十郎の姿が描かれ、少なくとも本書ではその理由が明かされていないなど、本巻で解決しない謎がいくつか残されています。

それは巻を重ねることが予定されている作品だということを意味していると思われ、かなり期待できるシリーズになりそうです。

脱藩さむらいシリーズ

脱藩さむらいシリーズ(2019年10月27日現在)

  1. 脱藩さむらい
  2. 脱藩さむらい 蜜柑の櫛
  3. 脱藩さむらい 抜け文

 

『付き添い屋六平太シリーズ』で人気を博した金子成人の新しいシリーズです。

 

登場人物

  • 香坂又十郎 三十歳 浜岡藩奉行所町廻りの同心頭
  • 香坂万寿栄 又十郎の妻二十七歳
  • 香坂与一郎・いよ 又十郎の義父母
  • 戸川弥五郎 又十郎の兄で実家の戸川家当主
  • 兵藤数馬  万寿栄の弟で藩の勘定役
  • 山中小一郎 数馬の幼馴染で藩の祐筆
  • 山中小菊  小一郎の妹
  • 嶋尾久作  浜岡藩江戸屋敷目付
  • 伊庭精吾  浜岡藩江戸屋敷横目頭
  • 本田織部  浜岡藩国元筆頭家老
  • 都築彦衛門 浜岡藩勘定奉行
  • 垣内勘斎  浜岡藩船奉行
  • 平岩佐内  浜岡藩大目付
  • 滝井伝七郎 浜岡藩組目付頭
  • 万次    大坂の廻船問屋備中屋手代
  • 東華堂   日本橋岩倉町の蝋燭問屋
  • 和助    東華堂手代
  • 茂吉    源七店の大家
  • 友三    源七店の店子
  • お由    源七店の店子

 

脱藩浪人が江戸で浪々の身を過ごすという典型的なパターンですが、よく見ると本書はかなり設定を異にしています。

まずは、主人公の香坂又十郎が禄を食んでいたのは石見の国の浜岡藩です。

この浜岡藩は実在した石見国の浜田藩をモデルにしていると思われますが、その位置は現代でいうと島根県浜田市だそうですから、殆ど広島市の真北であり、山口県にも近い位置になります。

 

本書の主人公の香坂又十郎は浜岡藩で田宮神剣流鏑木道場師範代もしていたほどの剣の達人です。

又十郎の妻は万寿栄といい二十七歳です。その万寿栄の弟に兵藤数馬が居ますが、この数馬が藩内の抗争の中心人物と目され、脱藩し江戸へと向かいます。

そこで、又十郎に数馬討伐の命が下ったのです。

妻の弟で、普段から又十郎が可愛がっている兵藤数馬を斬らねば万寿栄や又十郎の実家である戸川家にも類が及ぶというどうにもならない状況に追い込まれてしまう又十郎でした。

 

『付き添い屋六平太シリーズ』は、江戸の市井で気ままに暮らす六平太の日常が描かれている、気楽に読める痛快人情小説でした。

しかし、本書はその雰囲気とはかなり異なります。

自分の意志を通すこともかなわない状況に置かれた又十郎が、強制的に脱藩の形をとらされた上で江戸での暮らしを強いられます。

つまりはその意にそわない又十郎の日常が描かれているのであり、六平太シリーズに比べるとかなりシリアスな状況ではあります。

 

文章のタッチも『六平太シリーズ』の場合とは異なり、それなりに落ち着いた雰囲気で推移していて、読みごたえがあります。

主人公の心情としては、主持ちの武士としての矜持を持ったままでの仮の浪人暮らしのつもりでいます。そこに気楽さはなく、緊張感をもって生きているのです。

物語の内容は全然異なるのですが、何となく 野口卓の『軍鶏侍シリーズ』を思い出していました。

本シリーズは『軍鶏侍シリーズ』の主人公軍兵衛ほどに気楽ではありませんし、また、文章も『軍鶏侍シリーズ』での 野口卓の文章のように、園瀬の里を情感豊かに描きだすような詩情に満ちた文章でもありません。

ただ、共に文章が落ち着いていて、主人公のたたずまいが常に侍としての矜持を持った存在としてある、その一点において似たものを感じたと思います。

 

 

まだ始まったばかりの本シリーズです。

主人公が藩内の抗争に巻き込まれ過酷な運命に翻弄されそうな行く末が思われるものの、どのように展開するものか全く不明です。

編集者としては「不安はありました」と書いてありましたが、個人的にはなかなかに読みごたえがありそうなシリーズとなりそうで、また楽しみができたと思っています。

付添い屋・六平太 鵺の巻 逢引き娘

長年離れて暮らしていた穏蔵が、音羽の顔役・甚五郎の身内になって一月足らず、倅との微妙な間合いに、いまだ戸惑う、付添い屋稼業の秋月六平太。ある夜、仕事の帰り道で鉢合わせた賊を斬り伏せて以来、謎の刺客に襲われはじめる。きな臭さが漂う中、六平太は日本橋の箔屋から依頼を受け、千住の百姓家で暮らす幸七のもとへ、娘のお糸を送り届けることに。ひとり宿に泊っていた六平太だったが、ふと、お糸の父・新左衛門の「なんとしても娘を連れ帰って下さい」という一言が思い浮かび、急ぎ表へ飛び出した。嫌な胸騒ぎが…。王道の人情時代劇第十二弾!(「BOOK」データベースより)

付添い屋六平太シリーズの第十二弾です。

第一話 負の刻印
六平太は、行きつけの飯屋・吾作で、包丁鍛冶の政三と知り合った。吾作の主・菊次によれば、政三は三年前から雑司ヶ谷の鍛冶屋で働いているというが、詳しい身元は分からない。その政三に、殺意を向ける青年が現れた。六平太は音羽の顔役・甚五郎に呼び出され……。

第二話 夜盗斬り
ある夜、箱崎町で逃走中の盗賊一味と出くわし、一人を斬り伏せた六平太。襲われた鰹節問屋を調べた同心・新九郎によれば、数年前から関八州取締出役が行方を追っている、行田の蓮兵衛の手口と似ているらしい。数日後、謎の刺客に襲われた六平太は?

第三話 裏の顔
六平太は、根津に住む高名な絵師・仙谷透水に付添いを頼まれた。破門した男・相馬林太郎につけ狙われていたのだ。どうやら破門には、女弟子の川路露風が関わっていると見え――。そして透水には絵師のほかに、なんと、もうひとつの意外な顔があった!?

第四話 逢引き娘
日本橋に建つ箔屋の娘・お糸の付添いを請けた六平太は、千住へ足を向けた。お糸を幼馴染の幸七に会わせるためだった。翌朝早く、逃げ出そうとするふたりを止めた六平太が事情を聞くと、幸七が江戸払いになり、夫婦になれなくなったとお糸が訴え……。

 

本書での六平太はあまり大きな事件はありません。平凡な日常が、淡々と過ぎていく印象です。

そうした中、実は六平太の倅で今年十五歳になる穏蔵が、音羽の顔役である毘沙門の甚五郎のもとで皆に可愛がられながらもまっすぐと育っている様子が随所で描かれているのは、読んでいて心地よいものです。

もちろん、一時は身を隠していた髪結いのおりくとの仲も何の変わったこともありません。

付き添い屋の仕事も順調で、相も変わらずに依頼人の人生が横道にそれないように手を貸している六平太であり、まさに人情小説ここにありという仕上がりになっています。

 

ただ、町中で盗賊一味と出くわし、その一人を斬り伏せたことが気になる事件ではあります。この事件と、日々の暮らしの中で六平太が何者かに襲われることが続いたことが関係があるのかは何も書いてありません。

また六平太は、前巻から登場してきた新たな隣人である弥左衛門が、細かなことで長屋の住人に真実とは異なることを告げていることに気が付き、妙に気になっています。

今後の展開はこの弥左衛門が一つの柱となるのかもしれません。

 

とはいえ、本シリーズも順調に進んでいるようです。

今後どのように展開するかは分かりませんが、本シリーズを追いかけたいと思っています。

付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者

鼠小僧治郎吉処刑の翌年、天保四年は全国的な凶作のうえ、江戸市中では刃傷沙汰が多発し、殺伐とした空気が漂っていた。秋月六平太は恩師に乞われ、相良道場の師範代として多忙な生活を送っていたが、堅実な暮らしに少しばかり飽きも感じていた。ある日、馴染みの材木商母娘に誘われた舟遊びで破落戸の喧嘩を諌めたことをきっかけに、妹佐和の進言もあって付添い屋稼業を再開する。命を狙われる女医者や傲慢な天才棋士の付添いを務めた六平太の帰りを待っていたのは、匕首を持った男たちだった。ドラマ時代劇の名手が贈る大ヒットシリーズ、待望の新章開幕!(「BOOK」データベースより)

付添い屋六平太シリーズの第十一弾ではす。本巻からシリーズの第四部が始まります。

第一話 春雷
秋月六平太は付添い屋をやめ、相良道場師範代を務めていた。ある日、飛騨屋母娘と舟遊びに出たところを破落戸に絡まれ、これを撃退。だが噂を聞いた口入れ屋に「隠れて付添い屋をしていたのか」と詰め寄られる。一方、十五歳になった穏蔵は八王子から江戸に出てきたが、肌に合わず奉公先を飛び出していた。
第二話 女医者
師範代を返上した六平太へ、中条流女医者かつ枝に付添う仕事が舞い込んだ。診療の帰り、外塀に貼られた姑獲鳥の札に、かつ枝は顔色を失った。そのころ、森田座の役者、河原崎源之助が行方不明になっていた。
第三話 鬼の棋譜
妙な男が市兵衛店を窺っているらしい。気になりながらも六平太は平岡宗雨の付添いへ出向く。将棋の才能に恵まれた宗雨だったが、態度が慇懃だと世間からの評判は悪かった。
第四話 一両損
穏蔵は甚五郎親分の下で働きたいという。二人を引き合わせた六平太は、音羽での騒ぎを耳にする。灰買いの女が集めた灰の中から高価な菩薩像が出てきたのだ。持ち主を探すため、六平太は町に噂話を流す提案をする。(「内容紹介」より)

 

今回の六平太の話は、おりくが六平太の元に戻っていることが一番の変化でしょうか。

ということで、六平太も元鳥越の市兵衛店での生活と、おりくのいる音羽の家での生活との二重の生活という以前と同じ状態に戻っています。

くわえて、相良道場の師範代という、いわば安定した生活から再び付添人という不安定な、しかし自由な生活に戻っていて、その点でも以前と同じになっています。

 

ただ、おりくがいない間、六平太には新たに博江という女性が現れていたと思うのですが、その“博江”のことについては何も触れられていないようです。

私の読み落としかもしれませんが、今後触れられるのでしょうか。

ともあれ、以前と同様の日常が戻った六平太です。

ただ、息子穏蔵が奉公先を逃げ出しており、今後、甚五郎親分のもとで修業をすることになるらしく、こちらも目が離すことができなさそうです。

 

相変わらず、この手の痛快時代小説の中では一番静かな物語と言えるかもしれません。目を見張る難敵もいなければ、大きな事件が起きるわけでもありません。

言ってみれば、六平太の日常が描かれているだけです。しかし、妙に心惹かれる物語でもあります。

付添い屋・六平太 天狗の巻 おりき

「このまま年だけ重ねて、どうなさるおつもりですか」付添い屋稼業でその日暮らしを続ける浪人秋月六平太の行く末を案じる人間は、少なくない。一年前に姿を消した情婦、音羽の髪結いおりきは海を望む神奈川宿にいると知れたのだが、六平太の腰は重かった。一方、伝助店の住人で下馬売りの太助の母親おていが失踪、二日後箱崎の川岸で死骸が見つかった。おていはこのところ他人の家に入り込んだり、店の物を盗んだりするような不行状をみせ、太助は手を焼いていた。おてい殺しを巡って奔走する六平太の前に、史上最強の敵が現れる。日本一の王道時代劇、第三部完結!(「BOOK」データベースより)

「第一話 冬の花」
六平太と七年以上もなじんだ髪結いのおりきが音羽から姿を消して一年。かつておりきが可愛がっていた女郎の命日に、墓前には花が供えられていた。花を供えたのは、旅の男だったという。
「第二話 隣人」
浅草の海苔問屋「内丸屋」の主人高兵衛は、所有している阿部川町の長屋から店子を追い出そうとしていた。長屋の住人から報復を恐れた高兵衛は、六平太に身辺警護を依頼する。立ち退きを急ぐ高兵衛にとって、煙たい侍が長屋にはいた。
「第三話 雪月夜」
付添い屋とは名ばかり、なんでも屋として流される六平太の行く末を案じる人間は少なくない。行きつけの音羽の料理屋「吾作」では、料理人の菊次と、看板娘八重の仲がぎくしゃくしていた。六平太は、おりきが神奈川宿で旅籠の女中をしていることを知る。
「第四話 おりき」
伝助店の住人、下馬売りの太助の母親おていが失踪し、二日後箱崎の川岸で死骸が見つかった。おていは一年ほど前から他人の家に入り込んだり、店で物を盗んで居直ったりするようになり、その行状に太助は手を焼いていたという。一方で、六平太はおりきに会いに行く決心ができずにいた。(「内容紹介」より)

 

付添い屋六平太シリーズの第十弾、第三部完結となる長編の時代小説です。

 

今回の六平太では、行方不明になったおりきについて思いまどう六平太の姿が全編を貫いて描かれています。

本シリーズは、通常のヒーローが中心となって活躍する痛快活劇小説とは少し異なり、シリーズを通した「敵」は存在せず、六平太と彼を取り巻く市井の人々の日常が描かれています。初期の磐根シリーズがそうであったように、人情物語の側面が強い物語です。

 

本書はシリーズも十作目となり、第三部も完結と銘打ってあります。

行方不明であったおりきの消息もわかり、六平太もかねてから話のあった師範代を任せたいという話もあって、第四部となる次巻からは六平太もそれなりの落ち着きを見せているのでしょうか。

そのとき、おりきとの仲はどうなっているものなのか、今後の展開が気になるところです。

付添い屋・六平太 獏の巻 嘘つき女

付添い屋で身を立てる浪人秋月六平太は、旧知の北町奉行所同心・矢島新九郎から、「打ち首獄門にかけられる罪人の、市中引き廻しに同道していただきたい」と依頼される。引き廻しにされるのは、兇盗で知られる犬神の五郎兵衛。半年前、四谷の塩問屋に押し入って五百両を盗み、殺しも働いていた。三月前、隠れ家を密告する投げ文があり、捕縛されたという。だが隠し金の在処は白状していない。五郎兵衛は死を前に六平太へ不思議な言葉を残す。五郎兵衛一味の残党たちが、六平太の身辺をうろつきはじめるのに、時間はかからなかった。日本一の王道時代劇第九弾! (「BOOK」データベースより)

第一話 犬神憑き
付添い屋の秋月六平太は、北町奉行所の同心・矢島新九郎から「打ち首獄門にかけられる罪人の、市中引き廻しに同道していただきたい」と依頼される。隠れ家を密告され捕らわれた兇盗・五郎兵衛は、奪った金五百両の隠し場所を、打ち首と決まっても白状せずにいた。五郎兵衛は、死の直前、不思議な言葉を六平太に告げる。
第二話 宿下がりの女
新川の味噌屋「出羽屋」の娘・寿美は、つい最近、奉公していた武家屋敷から宿下がりをした。その直後から、編笠を被った侍に付け狙われるようになったという。寿美は、側室と家臣の密通をはからずも目撃してしまっていた。
第三話 となりの神様
六平太は鰻屋「兼定」の主人定松から、店で無銭飲食をしたまま出ていった亀助という男の居所を調べてほしいと依頼させる。亀助はどこの店に行っても金を払わない。だが、彼が長く滞在する店は必ず繁盛するというのだ。
第四話 嘘つき女
代書屋「斉賀屋」に勤める博江に呼び出された六平太は、ある少女が代筆を依頼した不穏な手紙の内容について相談される。一方、市中引き廻しとなった兇盗・五郎兵衛の一味の者たちが、六平太の身辺をうろつきはじめる。(「内容紹介」より)

 

付添い屋六平太シリーズの第九弾です。

 

罪人の市中引き回しの付添い(第一話)から、側室の密通を目撃した武家屋敷から宿下がりをした娘(第二話)、その男が店に来ると繁盛するという噂の男の物語(第三話)、博江に代筆を頼んだ娘に絡んだ人情話(第四話)と、六平太が活躍する場面の目立つ作品となっています。

そして物語の構成の面から見ると、第一話は本書全体を通して見え隠れする五郎兵衛の隠し金の発端となる話が、第三話ではファンタジックな話、第三話と第四話では心が豊かになる人情話と、バラエティに富んだつくりになっています。

その上で、全体を通して盗賊の五郎兵衛が残した金をめぐった物語が展開されるのです。

本書で特筆すべきは、何故か行方不明となっていた六平太が付き合っていた“おりく”の消息が少しですが判明します。

今後、新たに登場している博江という存在もあり、おりくとの仲がどのようになるものか、こちらも関心の対象となってくるのでしょう。

付添い屋・六平太 麒麟の巻 評判娘

大名の上屋敷は、藩主も居住する公的な場所である。それに比べて監視の目が薄い下屋敷の風紀は乱れやすい。酒を呷り、女を連れ込んで大騒ぎする者もいた。また、参勤交代でやって来た国元の侍と常時江戸詰めの侍の諍いも絶えなかった。付添い稼業を営む秋月六平太は、四谷・相良道場の門弟でもある。道場に隣接する笠松藩石川對馬守下屋敷の使い方、横田邦士郎が相良道場に駆け込んできた。笠松藩は刃傷沙汰を起こした邦士郎の引き渡しを要求。道場側の交渉役となった六平太に、藩剣術指南役の唐沢信兵衛は剣での決着を挑む―。日本一の王道時代劇第八弾! (「BOOK」データベースより)

付添い屋六平太シリーズの第八弾です。第三部の第二巻目ということになります。

第一話 大根河岸
青物問屋「加島屋」の主人・幸之助から下赤塚にある富士塚までの付添いを頼まれた六平太は、片道四里半(18キロ)を同行することになった。ここ三、四年、幸之助は道中で体調を崩してしまうというのだ。
第二話 木戸送り
六平太が稽古に通う四谷の相良道場に、常陸国笠松藩石川對馬守下屋敷の使い方、横田邦士郎が助けを求めて駆け込んだ。屋敷内で喧嘩から刃傷沙汰を起こした邦士郎は、なんとか無事外に逃がしてほしいと懇願する。
第三話 評判娘
六平太がなにかと世話を焼いている博江が、「当世 評判女」に東の前頭八枚目で番付入りした。物見高い男たちが勤め先の代書屋へやってくることに、武家出身の未亡人である博江は戸惑っていた。
第四話 二十六夜
妹佐和の夫音吉から付添いの相談を受けた六平太は鉄砲洲にいた。音吉の幼なじみ巳之助は、四年前に人を殺めた罪で遠島となっていたが、恩赦で江戸に戻ってくるという。音吉は巳之助が復讐に向かうことを恐れていた。(「内容紹介」より)

間が空いたため、以前の物語がどうであったか判然とはしないのですが、少なくとも本書は痛快時代小説というよりは人情物語といったほうがいいような構成になっています。

まず、第一話の「大根河岸」という話から、青物問屋「加島屋」主人の幸之助の人情話になっています。富士講に行くと、必ず旅先で数日間寝込むことになるという幸之助の体を心配した家族が付き添いをつけるようにしたのですが、目的地に着くと、六平太には家族には内緒にするようにと言い残し、どこかへと消えてしまったのです。

この物語は、六平太がいなくても成立する、加島屋主人幸之助の物語です。幸之助の秘密の行動が描かれ、人情話が展開されるのですが、六平太は幸之助の人生の一こまに立ち合ったに過ぎないのです。

また第三話「当世 評判女」は、「当世 評判女」という見立て番付で大関、関脇に載った女が三人、立て続けに襲われ顔を傷つけられる事件が起きます。そこに博江が載ったことで、博江の困惑は大きくなるばかりでした。ただ、物語は、六平太の得意客の「飛騨屋」の娘登世につきまとう、もと亭主の吉三郎のストーカー行為が主な話になっています。

第四話の「二十六夜」も、恩赦で島から帰ってくることになった元板前の巳之助の心情に思いを馳せる人情物語です。巳之助が島送りになった原因である、かつて恋仲だった娘に迷惑をかけるのではないかと心配する音吉に頼まれて、巳之助に付添う六平太でした。

ただ、第二話の「木戸送り」だけは違います。石川家下屋敷から逃げてきた横田邦士郎がもとで、六平太が通う相良道場と軋轢を生じますが、この横田という侍を守ろうとする六平太と相良道場との姿が描かれます。この物語だけは、剣士としての六平太が主に描かれています。

そして、石川家の剣術指南役である唐沢信兵衛がこの物語を通して六平太と立ち合おうとつきまとい、このあと、第三話、そして第四話と少しずつ顔を見せ、山場へとつながっていくのです。

 

この『付添い屋・六平太シリーズ』は、人情話が主ではありますが、腕利きの用心棒という六平太の稼業のアクション場面も適宜に配置し、時代小説の面白さを満喫できるシリーズの一つとして育ってきていると言えると思います。

あとは、もう少し情感を豊かにして欲しいし、六平太のかつての主家である十河藩の問題を明確にして欲しいなどの注文点もありますが、これらは個人的好みの問題として挙げておくにとどめておきます。

今後の展開を楽しみにできるシリーズの一つです。

付添い屋・六平太シリーズ

いわゆる文庫本時代劇と言われる作品群に属し、一巻に四話ほどの短編が収められていて、とは言っても連作短編として主人公を、それも浪人者の主人公を中心とした様々な人物が、各巻ごとに事件を解決していくという痛快時代劇小説の王道を行く物語です。

主人公は秋月六平太という浪人者で、信州十河藩で供番を勤めていたものの、お定まりの藩内権力抗争のあおりでお役御免となり、江戸に出てきたものです。

大店の娘の付き添い、つまりは用心棒稼業などで糊口を凌ぎつつ、血のつながらない妹の佐和と共に浅草に住んでいるのですが、普段は髪結いのおりきの家に転がり込んでいるのでした。

稼業が稼業ですので何かと面倒事に巻き込まれる六平太ですが、同心の矢島新九郎という道場の後輩などの力を借りつつ何とか事件を解決していく姿が描かれています。

作者が日本有数の脚本家( 金子成人 : 参照 )ということもあり、とても読みやすい文章であり、物語のつぼが押さえられている作品です。

付添い屋・六平太 鳳凰の巻 強つく女

江戸時代、世の中が停滞してくると、公儀は年号を改めた。天保二年初夏、付添い屋で生計を立てる浪人・秋月六平太は、同居していた妹・佐和の再婚を機に、浅草元鳥越の一軒家から近所の市兵衛店に移り住んでいた。付添いで知り合った訳ありの未亡人の世話を焼いたり、長屋の住人のごたごたに巻き込まれたりと、落ち着かない日々に変わりはない。市中では、荒っぱい押し込み強盗が頻発していた。そんなある日、六平太の隣の部屋に、座頭の杉の市という男が引っ越してきた。「この時代小説がすごい!」2016年版第4位にランクイン。日本一の王道時代劇第7弾! (「BOOK」データベースより)

第一話 残り雁
六平太は、夕闇のなか三人の侍に襲われている男を行きがかり上、助けた。狙われた男は、大身の旗本、戸田左近家中の高山金之丞。高山は、女郎と心中した戸田左近の身代わりにされ、死んだことにされていた。
第二話 毒空月
大名家、旗本、大店に出入りする乗り物医師・志村了斎の付添いを請け負った六平太。了斎は溜まった薬代の片に商家の娘をを妾にしているという。そんな阿漕で意地の悪い了斎の乗り物が、子供達に襲われた。
第三話 強つく女
六平太は、小間物問屋「沢野屋」の女主、お寅の付添いを番頭の与左衛門から頼まれる。お寅の物に対する審美眼は確かなのだが、腕の落ちた職人に対して容赦がないため、ほうぼうで恨みを買っているというのだ。
第四話 長屋の怪
同じ長屋住まいの噺家・三治の顔色が良くない。訳を聞くと、神楽坂の料理屋で、偶然押し込みの密談を耳にしてしまい、以降誰かに付け狙われているという。折しも江戸では、荒っぽい押し込みが頻発していた。(「内容紹介」より)

付添い屋六平太シリーズの第七弾で、本巻からシリーズの第三部が始まります。

 

義妹佐和が火消しの音吉と夫婦となり、六平太も独り暮らしとなります。そこで、今まで住んでいた浅草元鳥越の一軒家から近所の市兵衛店へと引っ越し、新たな生活が始まるのです。

前巻で、六平太の想い人である髪結いのおりきの様子がおかしいと言われていましたが、本巻では家を出て行ったまま行方が分からなくなっています。代わりと言っていいものか、第一話で登場する高山金之丞の妻女が登場し、色を添えています。

特別に大きな出来事があるわけではないのですが、付き添い屋稼業の傍らで語られる人情話は心地よく、痛快小説としての小気味よさも持った小説としてお勧めのシリーズとは言えると思います。

付添い屋・六平太 朱雀の巻 恋娘

良家の娘は、総じて気前がいい。付添い屋で身を立てている浪人・秋月六平太にとって、上客のおひねりほどありがたいものはない。その中でも、木場の材木商「飛騨屋」のお内儀おかねと、その娘お登世は、別格のお得意様だ。しかし、お登世の友人・美緒の芝居見物に付添ったころから、様子がおかしくなった。美緒がお登世に、六平太とただならぬ関係があったかのように話したからだ。悩みの種はほかにもある。血の繋がらない妹・佐和は縁談に足踏みしているし、窮地に立つ元の主家・十河藩の行く末も気にかかるのだが…。日本一の王道時代劇、第二部完結編!「BOOK」データベースより)

第一話 福の紙
六平太は上州から江戸見物にやってきた男三人組の名所案内をすることになった。そのうちの一人、和助が突然別行動をしたいと言い出す。江戸の紙漉かし屋に奉公していたころ、世話になった人に会いに行くと言うのだが…。
第二話 吾作提灯
御家人安藤庄助の次男、竹之助は十歳。深川堀川町にある私塾「錬成塾」に通っている。塾往復の護衛として雇われた六平太は、竹之助がまっすぐ家に帰らない日があることを知る。
第三話 恋娘
このところ、日本橋にある薬種問屋「九観堂」の娘、美緒から六平太に付添いの声がよくかかる。美緒が六平太の前で飲めない酒を飲んだり、付添いの際、出合茶屋の前をわざと通ったりするのに手を焼いていたのだが…。
第四話 おおつごもり
六平太の妹・佐和が浅草「ち組」の纏持ち、音吉と祝言を挙げることになった。同時に、七年続いた六平太と髪結い・おりきの仲に波風が立ち始める。
そして、六平太がかつて仕えていた信州十河藩加藤家は、存亡の危機を迎えていた。藩に粛正の嵐が吹き荒れ、六平太にも、負の刃が襲いかかる! (「内容紹介」より)

本書は「付添い屋・六平太シリーズ」の第六弾で、第二部の完結編だと謳ってありました。とは言っても第二部が何巻から始まったのかも認識してはいませんでした。

シリーズの区切りとしては、六平太の妹である佐和が火消しの音吉と祝言を挙げることになったことが挙げられるでしょうか。それに、六平太の想い人である髪結いのおりきとの仲も何らかの変化があるのかもしれません。

ともあれ、市井に暮らす浪人が日々の暮らしを送るなかで様々な事柄に悩む人たちを助け、また自らも助けられつつ生きていくという王道の痛快時代小説です。六平太という魅力的なキャラクターが育っていき、またシリーズも新たな展開を見せることを期待しつつ、続編を読みたいと思います。