機龍警察 自爆条項〔完全版〕

機龍警察 自爆条項〔完全版〕』とは

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』は、『機龍警察シリーズ[完全版]』第二弾の長編のアクション警察小説です。

第一巻『機龍警察』よりも力強さの増した重厚な物語で、日本SF大賞を受賞しているほどにその面白さが増していると言える小説です。

 

機龍警察 自爆条項〔完全版〕』の簡単なあらすじ

 

軍用有人兵器・機甲兵装の密輸事案を捜査する警視庁特捜部は、北アイルランドのテロ組織IRFによるイギリス高官暗殺計画を掴んだ。だが、不可解な捜査中止命令がくだる。首相官邸、警察庁、外務省に加えて中国黒社会との暗闘の果てに、特捜部が契約する“傭兵”ライザ・ラードナー警部の凄絶な過去が浮かび上がる!極限までに進化した、今世紀最高峰の警察小説シリーズ第二作が、大幅に加筆された完全版として登場。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

ライザ・ラードナー、警視庁特捜部付警部にして、元テロリスト。自らの犯した罪ゆえに、彼女は祖国を離れ、永遠の裏切り者となった。英国高官暗殺と同時に彼女の処刑を狙うIRFには“第三の目的”があるという。特捜部の必死の捜査も虚しく、国家を越える憎悪の闇が見せる最後の顔。自縄自縛の運命の罠にライザはあえてその身を投じる…過去と現在の怨念が狂おしく交錯する“至近未来”の警察小説第二弾。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

横浜港大黒埠頭で作業中の男は、職務質問をかけられた鶴見署の刑事らを軽機関銃で射殺し、完成形態の機甲兵装(通称キモノ)が格納されていたコンテナ船に閉じこもった末に自殺してしまう。

そこで、日本国内での大規模なテロの可能性があるとして、警視庁特捜部がその捜査を担当することとなった。

 

自爆条項〔完全版〕』について

 

まず、本書は〔完全版〕と銘打たれています。

私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。

作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『機龍警察』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。

なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。

 

機龍警察 自爆条項〔完全版〕』の感想

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』では本筋の警察とテロリストとの対決という流れのほかに、龍機兵の操縦者の一人であるライザ・ラードナーの過去が語られます。文庫本で上下二巻という長い小説の半分はライザ・ラードナーの物語です。

そして、そのライザの過去と本筋の物語とが交錯し、IRAの歴史が現代のテロ行為へとつながってくるのです。

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』では物語の背景がかなり明らかになります。

まずは、悲惨という言葉では語りつくすことのできない過去を持つライザが何故にIRAから離脱したのか、また彼女が自らの命を絶てないのは何故か、といった疑問への回答が語られます。

また、「龍機兵」の操縦者が警察外部から選ばれ、警察官の中から選ばれない理由も示されます。

そして、イギリスでのテロに巻き込まれ命を落とさざるを得なかった家族を持つ鈴石緑技術主任とライザの関係も明らかになるのです。

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』は第一作目に比して更に骨太になっているという印象があります。

シリーズものは二作目になると少しなりとも文章の迫力なり構成なりが落ちることが多いのですが、本書は、より緻密に練り上げられている印象すら受けるのです。

相変わらず情緒過多とも言えそうな文章ですが、別に違和感を感じるほどではありません。

 

本書の半分はライザの物語だと書きましたが、ライザの話は常に悲惨です。不運をまとわりつかせて生きる女であり、そうしてしか生きていけない女でもあります。

反面、終盤近くのアクションシーンは一気にたたみ掛けてきて、本を置くことができません。映像的ですらあります。

私がSF好きでコミック好きであるために、本書のような作品はより好みなのでしょうが、アクション小説が好みであれば是非一読してもらいたい小説です。

 

ちなみに、本書は〔完全版〕と銘打たれています。

私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。

作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。

なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。

機龍警察〔完全版〕

機龍警察〔完全版〕』とは

 

本書『機龍警察』は『機龍警察シリーズ』第一弾の作品で、文庫版で400頁の、現代日本を舞台にした異色の長編警察小説です。

SFのようでありアクションも満載の、それでいて舞台背景も丁寧に書き込まれている、面白さ満載の小説でした。

 

機龍警察〔完全版〕』の簡単なあらすじ

 

テロや民族紛争の激化に伴い発達した近接戦闘兵器・機甲兵装。新型機“龍機兵”を導入した警視庁特捜部は、その搭乗員として三人の傭兵と契約した。警察組織内で孤立しつつも、彼らは機甲兵装による立て篭もり現場へ出動する。だが事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていた…日本SF大賞&吉川英治文学新人賞受賞の“至近未来”警察小説シリーズ開幕!第一作を徹底加筆した完全版。(「BOOK」データベースより)

 

警視庁の通信指令室より指令を受けた巡回中のパトカーが現場に駆け付けると、そこで見たものは「キモノ」と称される二足歩行型軍用有人兵器「機甲兵装」だった。

パトカーを一瞬で踏み潰した「機甲兵装」は江東区内を滅茶苦茶に走り回り、多大な人的物的被害をもたらした後、地下鉄有楽町新線の千石駅に停車中の地下鉄車両を人質に立て籠るのだった。

 

自爆条項〔完全版〕』について

 

まず、本書は〔完全版〕と銘打たれています。

私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。

作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『機龍警察』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。

なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。

 

機龍警察〔完全版〕』の感想

 

龍機兵(ドラグーン)」とは、「機甲兵装」つまりはパワードスーツのことです。R・A・ハインラインの『宇宙の戦士』に出てくるパワードスーツがその始まりでしょうか。

より身近なもので言えば、『機動戦士ガンダム』に出てくるモビルスーツがあります。操縦者が乗り込み、その動作が反映される外装装置ということになります。

近時の映画で言えば『パシフィック・リム』があります。しかし、あちらは八十メートル前後の大きさがありますが、本書のそれは三メートル程です。

アニメ『攻殻機動隊』を挙げる人もいるようです。しかし、少々ダークなトーンの側面を見ればそうかもしれませんが、両作品共に世界観が違う、と私は思いました。

 

 

確かに、本書『機龍警察〔完全版〕』の物語の世界観はコミックの『機動警察パトレイバー』(下掲イメージはKindle版)によく似ています。その小説版と言ってもいいかもしれません。

ただ、『機龍警察〔完全版〕』の世界感はより濃密で、登場人物それぞれの性格付けが丁寧に為されており、重厚な小説世界が構築されています。その世界を舞台に展開されるアクションは読みごたえがあり、飽きさせません。

 

 

本書『機龍警察〔完全版〕』の主人公は警視庁内に設けられた「特捜部」ということになるのでしょう。

本『機龍警察シリーズ』では、すくなくともシリーズの序盤では作品毎に物語の進行の中心となるたる人物が異なり、その人物の過去と現在、そしてメインとなる事件、その解決の物語が語られます。

第一作である本書では警察組織の嫌われ者となっている「特捜部」の現在が描かれ、部長の沖津旬一郎警視長や、城木貴彦宮近浩二といった理事官、技術的側面を管理する鈴石緑技術主任などが登場します。

 

しかし、何といっても特徴的なのは「龍機兵」を操縦するのが元傭兵である姿俊之、元ロシア警察官のユーリ・オズノフ、元IRAのテロリストのライザ・ラードナーだということです。

何故この三人なのか、ということも一つの謎であり、シリーズの中で少しずつ明かされていきます。そして、本書ではまず姿俊之を中心として物語が進みます。

 

SF好きな人以外には本書の設定は受け入れにくいかもしれません。でも、そこを少しだけ我慢して読んでもらえれば、内容の濃い物語を楽しめる筈です。

ただ、決して明るい物語ではありません。どちらかと言えば重めの雰囲気ではあります。

しかし、ほかでも書いたように、シリーズ二作目の『機龍警察 自爆条項』は日本SF大賞を、三作目の『機龍警察 暗黒市場』は吉川英治文学新人賞を受賞し、更に「このミステリーがすごい!」でも高評価を得ているのです。

それほどに面白さは保証付きだと思います。

月村 了衛

1963年3月生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、予備校講師をしながら、後にアニメ作品の脚本家として活躍する。

2010年に『機龍警察』でデビュー。

2011年刊行の『機龍警察 自爆条項』で「このミステリーがすごい!」で第9位、第33回日本SF大賞を受賞。

2012年刊行の『機龍警察 暗黒市場』が「このミステリーがすごい!」で第3位となり、更に第34回吉川英治文学新人賞を受賞している。

2014に出された『土漠の花』は、自衛隊を主題にした作品で話題を呼んでいます。

緻密に書き込まれた文章は物語の世界をリアリティーに満ちた世界として構築し、重厚感豊かな読み応えのある作品だ仕上がっています。

グレイヴディッガー

八神俊彦は自分の薄汚れた人生に区切りをつけるため、骨髄ドナーとなり白血病患者を救おうとしていた。しかし移植を目前にして、都内で連続猟奇殺人が発生。事件に巻き込まれ、容疑者として手配された八神は、命がけの逃走を開始する―。八神を追う警察、謎の集団、そして殺戮者・墓掘人。八神は追跡をかわし、患者の命を救うことが出来るのか?稀代のページターナーが放つ、ノンストップ・エンタテインメント。(「BOOK」データベースより)

 

久しぶりにこんなスピード感のある小説を読みました。10年位前に読んだ『二重螺旋の悪魔』、『ソリトンの悪魔』の梅原克文以来かもしれません。外国で言えばD・R・クーンツの『ファントム』、ロバート・R・マキャモンの『スティンガー』といったところでしょう。

 

 

 

 

 

そうした各作品にはどことなくホラーチックな匂いというか、クリーチャーの存在が大きいのですが、本作品は確かに舞台設定にはホラーテイストはあるにしても、アクション性の方が強いところがちょっと異なる気がします。

本書はノンストップアクション小説なのです。

 

死体の盗難事件という妙な事件を担当する刑事同士の会話から幕が開きます。

本書の主人公八神俊彦は、骨髄移植のドナーとなって患者として苦しんでいる人を助けようとする、初めての善行をする気になったワルです。

一方、煮えたぎる風呂場で茹でられている死体や見えない炎で焼き殺される女などの連続殺人が発生して、八神が犯人として警察に追われることになります。

 

本書『グレイヴディッガー』は、この八神俊彦の一夜の逃避行を描いた作品です。

一気に読んでしまいました。

この作家の他の作品と異なり、一番エンターテインメント性が強い本ではないでしょうか。他のことは何も考えずに、ただ、単純に物語世界に浸ればいい。そういう作品です。

ジェットコースター作品が好きな人には絶対お勧めです。面白いです。

ジェノサイド

イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化!(上巻 : 「BOOK」データベースより)

研人に託された研究には、想像を絶する遠大な狙いが秘められていた。一方、戦地からの脱出に転じたイエーガーを待ち受けていたのは、人間という生き物が作り出した、この世の地獄だった。人類の命運を賭けた二人の戦いは、度重なる絶対絶命の危機を乗り越えて、いよいよクライマックスへ―日本推理作家協会賞、山田風太郎賞、そして各種ランキングの首位に輝いた、現代エンタテインメント小説の最高峰。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

スケールの大きな長編のエンターテイメント小説です。

 

四人の傭兵はコンゴの紛争地帯にいる、あるピグミー一族と一人のアメリカ人の抹殺を命じられます。一方、古賀研人は急死した父親からのメールに従いある難病の治療薬の開発に着手するのでした。ここに人類の存亡をかけた戦いが始まります。

 

思っていた内容とは異なる作品でした。

ジェノサイドという題名からして、映画プレデターのようなアクションものを予想していたのですが、いい意味で裏切られました。他の作品と比してもまた全く異なるテイストで驚きます。

 

学術的なこともよく調べてあるし、構成も緻密に考えられてもいるのでしょうが、もう少しエンターテインメントとして徹してくれていれば、更に面白く読めたのではないかと思われる作品です。

というのも、著者の歴史観の取り扱い方が軽すぎるのです。歴史観が色濃く出ること自体は作品として問題はないのでしょうが、各場面で少々唐突にすぎますし、表現も単純で浅薄に感じられてならないのです。せっかくの物語が色褪せてしまいました。

 

もう一点加えれば、重要な役割を果たす友人の存在にしても少々説明不足でご都合主義的に感じられてもったいないです。残念でした。

でも、さすがベストセラーになっている本です。その面白さは否定できません。

高野 和明

各作品がよく調べられていて、その取材力の上に剛腕とでもいうべき筆力が加わり、圧倒的な迫力で文章が進んでいきます。

また、各作品の色合いが夫々全く異なります。各作品で、作者の異なる顔が見られます。

ただ、少々選ばれるテーマが重い。死刑制度であったり、自殺や人工妊娠中絶であったり、それらの重いテーマをまた正面から四つに組んで描こうとされるので、読み手としては半端な気持ちでは読めません。

勿論、そうしたことは無視して単純にエンターテインメントとして読み進めればいいのでしょうが、そうした読み方もできない構成になっていたり、と、ちょっと読み手を選ぶかもしれません。

でも、「13階段」で第47回江戸川乱歩賞を受賞し、ジェノサイドは「このミステリーがすごい!」の一位になり、山田風太郎賞も受賞しています。

面白い小説の書き手であることは間違いないでしょう。お勧めです。

藁の楯 わらのたて [DVD]

『悪の教典』の三池崇史監督によるアクション。孫娘を殺害された蜷川は、犯人・清丸の首に10億円を懸ける。市民や警察官まで彼の命を狙う中、5人のSPと刑事が48時間以内に清丸を移送しようとするが…。“WARNER THE BEST”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

監督は三池崇史でした。カンヌ映画祭では低評価だったようです。

 

公開から一年と少し経った2014年5月にははやくもテレビで放映されました。

私はテレビ版を見たのですが、アクション映画として、それも決して良質とはいえない映画として仕上がっていました。原作の持つ緊迫感や主人公を始めとする登場人物それぞれの懊悩などは全くと言って良いほどに無視されていたのです。

ラストシーンなどはB級のアメリカ映画で見たようななシーンだったのですが、個人的には好きになれませんでした。この監督の悪い面が出ていたように思えます

バードドッグ

バードドッグ』とは

 

本書『バードドッグ』は『矢能シリーズ』の第三巻で、文庫本で320頁の長編のエンターテイメント小説です。

優しさ溢れる元ヤクザの探偵がヤクザ内部の組長殺しという事件解決に乗り出す、面白さ満載の作品です。

 

バードドッグ』の簡単なあらすじ

 

日本最大の暴力団、菱口組系の組長が姿を消した。殺されているのは確実だが警察には届けられない。調査を依頼された元ヤクザの探偵・矢能。容疑者は動機充分のヤクザ達。内部犯行か抗争か。だが同じ頃、失踪に関わる一人の主婦も行方不明になっていることが発覚する。最も危険な探偵の、物騒な推理が始まる。(「BOOK」データベースより)

 

探偵の矢能政男は、日本最大のやくざ組織菱口組の実力者でもあり唯一都内に本部事務所を構える二木善治郎から呼び出しを受けた。

二次団体である燦宮会の理事長になる筈だった佐村組組長が行方不明だというのだ。

極秘の調査を進める必要があるものの、理事長の座をめぐる組内の揉め事のため内部の者では調査できず、かと言って外部にも漏らせない。

そこで矢能のもとに依頼が来たのだった。

 

バードドッグ』の感想

 

主人公が矢能政男となり、顧客に問題はありますが、一応探偵という正業についているようです。

あちこちで書いているように、本書『バードドッグ』をシリーズ三作目と言えるかは疑問もあります。

一作目とその後では主人公も違うし、内容も救いのみえない暗いトーンで終始する一作目と、少々コミカルな要素をも持つ二作目以降とでははタッチも異なるからです。

とはいえ、共通の世界での出来事だということと、栞という重要な要素が共通するのですから同じシリーズとしましょう。

 

主人公の探偵矢能政男はヤクザ上がりです。こうした、いわゆる悪漢を主人公とする小説と言うと、近頃読んだ黒川博行の『疫病神』を思い出しました。

こちらも極道を主人公として、関西弁での会話が小気味良い小説でした。ただ、より本作品の方が軽いタッチとは言えるでしょう。

 

 

徹底した強面ではありながら、内面の優しさが表に現れることを潔しとしない矢能の振舞いは、人によってはこの点こそが疵だという人もいるかもしれませんが、読んでいて微笑ましいとさえ感じます。

本書『バードドッグ』は実に軽く読めます。徹底した強面ではありながら、内面の優しさが表に現れることを潔しとしない矢能の振舞いは読んでいて微笑ましいと感じます。

人によってはこの点こそが疵だという人もいるかもしれませんが、私はこのような描写こそが心を掴まれるのです。

 

とにかくテンポの良い小説です。栞という少女をクッションにして小気味の良いエンターテインメント小説として仕上がっています。肩の力を抜いて気楽に読める物語です。

アウト & アウト

アウト & アウト』とは

 

本書『アウト & アウト』は『矢能シリーズ』の第二巻で、文庫本で352頁の長編のエンターテイメント小説です。

優しさ溢れる元ヤクザの探偵がヤクザ内部の組長殺しという事件解決に乗り出す、面白さ満載の作品です。

 

アウト & アウト』の簡単なあらすじ

 

探偵見習いで元ヤクザ。矢能が呼び出された先で出くわしたのは、死体となった依頼主と妙な覆面を被った若い男。図らずも目撃者となり、窮地に追い込まれた矢能。しかし覆面男は意外な方法で彼を解放した。これが周到に用意した殺人計画の唯一の誤算になることも知らずに。最も危険な探偵の反撃が始まる。(「BOOK」データベースより)

 

アウト & アウト』の感想

 

作者の木内一裕の作品を読んだのはこの作品が初めてでした。

何年か前にこの本を読んだときのメモに「ヤクザ上がりの主人公が探偵をしているその設定がまず面白く、その被保護者である栞という小学生が効いている。全体のスピード感が小気味良く、夫々のキャラがたっていて読ませる。久々に面白い小説に出会った。」と書いています。

 

続きものということを読んだ後で知り、早速前作『水の中の犬』を借りて読んだものです。

できれば前作の『水の中の犬』から順に読めばさらに面白いでしょう。矢能という人間が探偵をやっている理由、矢能と栞という子との関係等の本書の舞台の背景が前作で明らかになっているからです。

というよりも、『水の中の犬』が『矢能シリーズ』の前日譚ともいういべき話であり、まだ脇役でしかなかった矢能が探偵になった理由も詳しく描き出してあるのです。

水の中の犬』に書いたように、爽やかな読後感や骨太の小説を求めている人には向かない物語です。

 

ちなみに、本作『アウト & アウト』は遠藤憲一が主人公矢能政男を演じ、映画化されています。

2018年11月16日が公開日だそうで、どのような仕上がりになっているものなのか、是非見たいものです。

驚くことに、この映画は原作が“木内一裕”で、監督、脚本が“きうちかずひろ”となっています。つまり全部を一人でこなしているわけで、その意味でも興味のある映画です。

水の中の犬

水の中の犬』とは

 

本書『水の中の犬』は『矢能シリーズ』の第一巻で、文庫本で383頁の三つの中編からなるハードボイルドタッチの作品集です。

実に暗く、救いようのない物語ばかりですが、それでもなお続きを読みたくなるエンターテイメント小説でした。

 

水の中の犬』の簡単なあらすじ

 

探偵の元にやってきた一人の女性の望みは恋人の弟が「死ぬこと」。誰かが死ななければ解決しない問題は確かにある。だがそれは願えば叶うものではなかった。追いつめられた女性を救うため、解決しようのない依頼を引き受けた探偵を襲う連鎖する悪意と暴力。それらはやがて自身の封印された記憶を解き放つ。(「BOOK」データベースより)

 

取るに足りない事件
田島純子と名乗る女性は、付き合っている山本浩一という男の弟克也からレイプされたと打ち明けてきた。克也に死んでほしいが、自分はどうすればいいのか分からないというのだった。

死ぬ迄にやっておくべき二つの事
兄を探して欲しいと、若い吉野深雪という娘が訪ねてきた。その兄は麻薬事犯でつかまった過去があるという。一方、第一話の山本浩一が田島純子に殺されてしまう。面倒なのは浩一が菱口組若頭補佐笹健組組長の笹川健三だということだ。

ヨハネスからの手紙
「不公平は是正されなければならない。」という内容の手紙をもって黒木柚子という女が訪ねてきた。娘の栞が殺されるというのだった。

 

水の中の犬』の感想

 

本書『水の中の犬』は、他では誰も引き受けないような面倒な依頼を断らず引き受ける、そんな私立探偵が主人公で、名前は明かされてはいません。

三つの中編からなっていて、第一話は「私」という主人公の視点で、第二話は第三人称の視点、第三話は再び「私」の視点で描き出されます。

この探偵は依頼を調査していくうちに、いつも徹底的に叩きのめされます。それでも依頼の調査を続行し、結果、誰にとっても救いのない結末が待っています。

どの話も実に救いのない物語です。救いがないというのは、物語の結末がそうだという意味でもあり、登場人物のそれぞれの生き方についてでもあります。

 

面白いのは、このシリーズは第二作目の『アウト & アウト 』からは本書に登場する矢能政男という男が主人公となっていくことです。

 

 

本書『水の中の犬』の主人公の「私」と矢能とは当初は敵対に近い立場でもあったのですが、後には「私」が死地に赴く際に「お前がくたばったら・・・あとは俺に任せろ」というような仲になります。

そして、ある事情で組が解散することになった際、「私」に足を洗う相談をしますが探偵には向いていないと言われます。

しかし、「私」から栞を託されることになり、結局、「私」のあとを継ぐのです。

 

読み易いですが、爽やかな読後感を求める人には向かない物語です。読み応えのある骨太の小説を読みたい人にも向きません。

繰り返しますが、本書『水の中の犬』は全く救いのない物語です。けっして爽やかな読後感はありません。

でも、単純に面白い小説を探している人には受け入れられるのではないでしょうか。

結末は暗く、ただやくざの矢能だけがかすかな希望を持たせてくれるだけですが、それでもキャラクターの面白さとひねりの効いたストーリーは、私は面白いと思いました。

続編が待たれるシリーズです。