『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』とは
本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』は、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の十一作目の、文庫本で322頁のハードボイルド短編小説集です。
今回もまた、社会の様々な事件を映し出した物語であり、マコトの小気味いい会話とスピーディーな行動が読者をひきつけています。
『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の簡単なあらすじ
IWGP第2シーズン、満を持してスタート!ストリートの“今”を切り取り続けてきた本シリーズ。時を経て池袋は少しずつ変容しているが、あの男たちは変わらない。脱法ドラッグ、仮想通貨、ヘイトスピーチ。次々に火を噴くトラブルをめぐり、マコトやタカシ、そしてとびきりクールな仲間たちが躍動する。(「BOOK」データベースより)
『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の感想
本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』から『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の第二シーズンが始まります。
「北口スモークタワー」「ギャンブラーズ・ゴールド」「西池袋ノマドトラップ」「憎悪のパレード」の四編からなっています。
本『池袋ウエストゲートパークシリーズ』の主人公であるclass=”boldfont”>マコトこと真島誠も二十歳代後半になり、もう“おじさん”に手が届こうかという年代になっています。
しかしながら、本書で語られる内容はこれまでとは変わることはなく、池袋で起きた事件をタカシこと安藤崇とともに解決していくマコトの姿が描かれています。
第一話は脱法ドラッグ、第二話ではパチンコ依存症の男、そして第三話ではノマドワーカーの問題が描かれています。
しかし本書では第四話で語られるヘイトスピーチの問題がインパクトが強く、強烈でした。物語自体は単純ではありません。
まずヘイトスピーチ団体として「中排会」があり、反ヘイト組織としての平和団体である「へ民会」があって、「へ民会」の分派組織として武闘派の「レッドネックス」がいます。
今回Gボーイズが受けた仕事は、武闘派「レッドネックス」の襲撃から「中排会」を守って欲しいというものですが、警護の依頼者は「へ民会」だというのです。
著者いわく、「まず興味深いこととして、ヘイトスピーチ側ばかり注目されてるけど、それを批判しているアンチヘイトスピーチ団体のほうが過激だったりするんだよね。」ということを言われていて、その現状をそのまま物語として仕上げてあるのです。
その上で「日本人がもつ“正義のスイッチ”」の「恐ろし」さということを言われています。その人が正義と思う事柄の押しつけることの怖さを言われているのです( 週プレNEWS : 参照 )が、この点は全く同感です。
そこでは、本書で描かれているのは格差社会における底辺に生きざるを得ない若者の姿だと書かれています。
そして、そこから脱却するには自分の頭で考えることが大事だと、そのためには本を読め、とも書かれているのです。その上で『「みんなが読んでいるから」とか「売れているから」って理由で選んだ本は絶対にダメ』だと言います。
ここで、近時読んだ夏川草介の『本を守ろうとする猫の話 』を思い出してしまいました。
この本では、手軽で、安価で、刺激的な本が売れる本であり「読んで難しい」本は求められてはいないけれど、「難しい本に出会ったらそれはチャンスだ」と言うのです。
「難しいってことは、それは新しいことが書いてある証拠だ」とありました。
少々本書『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』の内容から離れてしまいましたが、著者は結局は本当に自分の頭で考えること、脱法ハーブやヘイトスピーチなどの問題も自分の頭で突き詰めて考えることができれば袋小路に入り込むこともない、と言われているようです。
新しいシリーズになった本書ですが、マコトもタカシも少々歳をとっただけで中身は何も変わっていません。いつも自分の頭で考え、そして行動し、結果を出しているのです。
上記のような著者のメッセージを抜きにしても、単純に物語としても面白い作品として仕上がっています。
その裏のメッセージは二の次でいいのではないでしょうか。そうしたことは読めば知らずのうちに頭に入り、そのうちに自分の頭で考えるようになる、と思います。
続けて読み続けたいシリーズの一つです。