『マスカレード・ライフ』とは
本書『マスカレード・ライフ』は『マスカレードシリーズ』の第五弾で、2025年7月に集英社から392頁のソフトカバーで刊行された長編の推理小説です。
ホテル・コルテシア東京の保安課長へと立場を変えた元警視庁刑事の新田浩介が、フロントクラークの山岸尚美と共に、ホテル内で起きる事件を解決する、人気シリーズです。
『マスカレード・ライフ』の簡単なあらすじ
溶接加工会社勤務の入江悠斗が、何者かに刃物で胸を刺されて死んだ。悠斗は17歳のときに傷害事件を起こしていた。事件を担当する捜査一課の新田はかつての先輩警官・本宮、女性エリート警部・梓、その部下として働く能勢の捜査報告から、別の二件の殺人事件との関連性を疑う。そしてそれぞれの事件の容疑者が「あのホテル」に宿泊することが判明。新田は三度、潜入捜査を開始するー。(「BOOK」データベースより)
『マスカレード・ライフ』の感想
本書『マスカレード・ライフ』は『マスカレードシリーズ』の第五弾で、これまでは元警視庁捜査一課の警部であった新田浩介がホテル・コルテシア東京の保安課長として再出発する長編の推理小説です。
前作『マスカレード・ゲーム』でホテル・コルテシア東京へと戻ってきた山岸尚美も、本作でもこれまで通りの優秀なフロントクラークとして登場しています。
そして、前作から登場してきた警視庁捜査一課係長の梓真尋も登場し、かつては新田の下で働いていた元捜査一課の刑事の能勢も定年退職後に勤務している探偵事務所の職員として新田を助けています。
今回は「ホテル・コルテシア東京」で開催されることになった灸英社主催の『日本推理小説新人賞』の選考会を舞台に展開されます。
というのも、警察は、ある死体遺棄事件の行方不明の重要参考人が書いたと思われる作品がこの新人賞の最終選考に残っているため、作者が現れるのを張り込みたいというのです。
そして、新田にとってはもう一つ、新田の父親がこのホテルに現れるという事件も待っていたのです。
結局、本書は死体遺棄事件の重要参考人で『日本推理小説新人賞』の最終選考に残った正体不明の容疑者をめぐる物語を主軸に、新田浩介の父親の克久が絡んだ物語との二本立てで展開されます。
しかし、物語としては父親が絡んだ物語がかなり重い話であることもあって、結果的にかもしれませんが、もう一つの死体遺棄事件の結論はかすんでしまった印象があります。
端的に言うと、本書全体の印象として、前作で感じた「東野圭吾本来の面白さ」は感じられませんでした。
つまり、本書はほかの東野圭吾作品に比べ感情移入できなかった作品だったのです。
『日本推理小説新人賞』の審査員の描写は知らない世界のことでもありとても関心を持って読むことができたのですが、それ以外の箇所についてはあまり惹かれるものはありませんでした。
先に書いたように、本書の主たる話は『新人賞』の最終候補者の一人である死体遺棄事件の重要参考人が特定できないというものです。
具体的には、ホテルに現れた常盤健太朗という最終候補者が重要参考人の青木晴真なのかどうかという点が関心事由です。
でも、最終候補者の特定に至る過程も、そもそも死体遺棄事件に隠された謎についても心に残るものではなかったのです。
一方、父親の新田克久が絡んだ出来事はかなり悲惨な出来事が根本に横たわっており、簡単に通り過ぎるような出来事とは思えません。
新人賞の最終選考会よりも、父親の出来事の方に関心が持っていかれた気もします。
そもそも、本シリーズのテーマとしては、山岸尚美の「心に仮面を持っていない人などいない。時に被り、時には外す。そうやって生きている。」という言葉として表してあると思われます。
ホテルの暮らしは非日常であり、「仮面」を付けた暮らしだ、との言葉が本書の中にありましたが、死体遺棄事件の結末はその視点からは逸脱してるように感じられたのです。
死体遺棄事件の重要参考人の話をホテル内での出来事にするために『日本推理小説新人賞』選考会という手段を設けてある、という点が先に立ち、感情移入できなかったのではないでしょうか。
シリーズは続くのでしょうから、次作に期待したちと思います。