夢幻: 吉原裏同心(二十二)

さまざまな人生が交錯する吉原。その吉原で生計をたてていた按摩の孫市が殺害された。探索に乗り出した吉原会所の裏同心・神守幹次郎は調べを進めるうち、孫市の不遇な生い立ちと、秘めていた哀しき夢を知る。孫市の夢を幻にした下手人とはいったい―。ようやく追い詰めた下手人に幹次郎が怒りの一刀を放つ!ドラマ化された人気シリーズ、待望の第二十二弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズ第二十二弾です。

吉原の内部にある天女池の近くで孫市という名の按摩が殺されるという事件が起きます。吉原の裏同心である神守幹次郎も吉原会所の人間と共に現場に駆けつけますが、そこでかすかに鬢付け油の香りを感じとります。

孫市は何故に吉原で生計を立てていたのか、孫市の生い立ちからを調べていくと、ささやかな夢を持って生きていた孫市の姿があるのと同時に、一人の男の存在が浮かびあがるのでした。必死に生きていた孫市を、そのささやかな夢も共に奪い取ってしまった男を捜し出し、捕縛するために探索を続ける幹次郎であり、番方らだったのです。

こうして捕物帳として見ると、それなりの面白さを持っている物語だと言えるのでしょう。しかしながら、吉原裏同心シリーズとして見た場合、幹次郎の物語ではなく他の誰であっても十分に成立する物語であったのです。

可もなく不可もない、普通の捕物帳としての面白さを持った物語であって、決してそれ以上のものではありませんでした。

どうも、この吉原裏同心の物語については、この頃似たような後ろ向きの感想しか持てなくなってきたようです。何らかのてこ入れを期待したいものです。

遺文: 吉原裏同心(二十一)

吉原会所の頭取・四郎兵衛の傷がようやく癒えた折り、またも吉原が「脅威」にさらされた。吉原裏同心の神守幹次郎は、いまだ復調ならぬ四郎兵衛に伴って、吉原の秘された過去の「遺文」があるとされる鎌倉へ。そこで彼らを待ち受けていたのは過去最強の刺客たちと衝撃の「秘密」だった。シリーズ史上最高傑作!吉原、鎌倉を舞台に壮大なドラマが繰り広げられる第二十一弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズ第二十一弾です。

ここしばらく続いてきた吉原会所への攻撃も、本書で一応の解決を見ることになります。

前作で大怪我を負った吉原会所七代目頭取の四郎兵衛は、吉原を狙う勢力のおびき出しも兼ね、神守幹次郎を警護として自らがおとりとなって鎌倉の建長寺へと出かけるのです。そして四郎兵衛の思惑通りに刺客らが襲ってきますが、幹次郎の活躍で見事に刺客を撃退してしまうのでした。

この物語について、惹句には「シリーズ史上最高傑作!」との謳い文句がありました。たしかに、吉原の成り立ちからの秘密をめぐって鎌倉で活劇が展開され、物語としては最高の展開になる筈だったと思います。

しかしながら、シリーズ中盤のクライマックスの筈が個人的にはそうでもありませんでした。

というのも、あまりにも幹次郎が強すぎるのです。幹次郎一人がいれば相手が幾人いようと問題ではなく、そのすべてを退けてしまうのですから、幹次郎という存在さえあればもう吉原は安泰だと思えてしまいます。

ここまで主役の存在感があり過ぎると、痛快小説ということを越えて、物語の筋などどこかへ行ってしまいます。主人公さえいれば叶わないことは無くなってしまい、物語としての面白みまで霧消してしまいます。

本書の場合、そこまでは行きませんが、それに近い印象を持ってしまったことも事実です。主人公はそれなりに強くなければならず、それでいて物語としてスリリングな緊張感を維持していかなければなりません。

そうしたことがキャラクター造形や、ストーリー構成の工夫ということになるのでしょうが、本書は決してうまくいっているとは言えないのです。

吉原の成り立ちからの秘密という謎の設定も、今ひとつ物語に馴染んでいるとは感じなかった点もあり、本書についての厳しい印象につながってきたと思われます。

シリーズとしての間延び、マンネリ感が出てきたんかもしれません。今後の展開に期待しましょう。

髪結: 吉原裏同心(二十)

吉原裏同心の神守幹次郎に女髪結のおりゅうが相談をもちかけた。妹のおきちが不審な者に狙われているのだという。おきちの警固に動いた幹次郎だったが、それがとんでもない騒動の幕開けだった。そして、次に狙われたのは、「吉原の主」ともいえる人物・四郎兵衛。再び蠢きだした「闇の力」の前に、幹次郎の豪剣が立ちはだかる!大人気シリーズ、待望の第二十弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズ第二十弾です。

314頁という頁数の、中身の濃い痛快捕物帳とも言える物語です。

吉原で働く女髪結のおりゅう依頼で、おりゅうの妹であるおきちへのストーカーからおきちを守ることになった神守幹次郎です。

しかし、そのストーカーの影には吉原をつけ狙う大きな勢力が見え隠れします。そしてその先には、吉原会所の七代目頭取である四郎兵衛の命を狙う輩と、その背後に控えている勢力との対決をも見据える話になってくるのです。

文字通りの痛快活劇小説です。幹次郎と吉原会所の面々は、おきちを付け回す男の背後に控える反会所勢力と、吉原そのものの存在にもかかわる闇の勢力との対決にのぞむことになります。

本書の解説はポーラ文化研究所研究員の村田孝子氏が担当されています。この解説が、単に物語の解説を越えて、江戸時代の女性の髪形について詳しく説明してあり、興味をそそられるものでした。

浮世絵に描かれている女性の髪形を挿絵として挟みながら、髷の結い方まで説明されていて非常に関心をそそられました。

未決: 吉原裏同心(十九)

吉原にある老舗妓楼「千惷楼」で人気の女郎が客と心中した。知らせを受けた吉原裏同心の神守幹次郎と会所の番方・仙右衛門は、その死に方に疑いを抱く。真相を究明せんと探索する二人だったが、その前には常に大きな影がつきまとう。そして、吉原自体の存在を脅かす危機が訪れる。幹次郎、そして吉原の運命は―。快進撃の人気シリーズ、一気読み必至の第十九弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズの第十九弾です。

吉原にある老舗妓楼「千惷楼」で起きた女郎とその客との心中騒ぎがた女郎とその客との心中騒ぎがおきます。その死に方に疑いを抱いた吉原裏同心の神守幹次郎と会所の番方・仙右衛門は真相を探るべく探索を始めるのでしたが、そこには吉原の存続にかかわる秘密が関わっていたのです。

これまでは、幹次郎の剣によって幕府を始めとする吉原の外部の勢力の攻勢を乗り越えてきた物語との印象があったのですが、今回はその印象が変わる筋立てでした。

ただ、このシリーズを再度読み始めようと本書を読んだのが三年ぶりのことであり、もしかしたらシリーズ自体の印象が薄れていたためにそのような感じを抱いたのかもしれないし、それとも私個人が歳を重ねたためにそう思ったのかもしれません。

印象の変化の原因は分かりませんが、佐伯泰英という作家の他の作品とは少々シリーズの雰囲気を異にしています。ただ、佐伯泰英の痛快活劇小説であることに違いはなく、楽しめる作品であることに間違いはありません。

本作品は、文庫本で320頁もあります。決して短くはない物語ですが、女郎の心中騒ぎがあり、その女郎の正体、あたしい足抜き方法といった、決して大きくはない出来ごとが次から次へと巻き起こり、一つのパターンではありますが、読者を飽きさせない仕掛けがきちんと施されています。

佐伯泰英という作家がベストセラーを連発する秘密が垣間見えるような作品でした。

九層倍の怨-口入屋用心棒(29)

川から引き上げられた錠前師八十吉の指無し死体。その下手人を追う定廻り同心樺山富士太郎は、錠前屋の高久屋岡右衛門に目星をつけるが、なかなかその証拠を掴めずにいた。一方、そんな窮状を見かねた湯瀬直之進は、探索の手助けを始めた矢先、かつて掏摸に遭ったところを助けた薬種問屋古笹屋民之助と再会、用心棒仕事を頼まれるが…。人気書き下ろし長編時代小説、シリーズ第二十九弾。(「BOOK」データベースより)

湯瀬直之進が掏摸をつかまえ引き渡したところ、何故かその意趣返しを受けてしまいます。一方、錠前師の八十吉殺しの犯人を錠前屋の高久屋岡右衛門との目星はつけたものの、なかなかその尻尾を掴めないでいた樺山富士太郎だったのですが、見かねて手助けをしようと申し出た湯瀬直之進の探索も錠前屋の高久屋岡右衛門へと行きつくのでした。

実は前巻を読んだ後、本書を読むまでの間に殆ど二年以上という間をあけてしまっていました。シリーズものを読むのにこれほど間をあけてしまっては、内容を忘れているので困ってしまいました。

久しぶりに鈴木英治作品を読んだことになりますが、この人の独特の文体はやはり何となくほっとするものがあります。登場人物の心裡や、ときには物語の進行までをも登場人物の独白で処理してしまうことについては、人によっては嫌う人もいるかと思います。

でも私には心地よく、その視点の移動すらも気にならないのです。それどころか、物語に奥行きすら感じたりするのですから、不思議なものです。好みの作家故の贔屓目なのでしょうか。

本シリーズでは他の作家の作品に比べ、女性が表だって活躍する場面は少ないと思います。代わりに、といては語弊があるかもしれませんが、直之進、佐之助、琢ノ介、それに富士太郎と珠吉といった登場人物のそれぞれに、おきく、千勢、智代らの女性たちが色を添えており、華やかさを増しています。

勿論、直之進や富士太郎らの探索が実を結び、最後には直之進や佐之助らによる剣戟の場面も設けてあり、読者へのサービスは怠りありません。

シリーズとしてのダイナミックさは感じられなくはなってきていますが、今後も読み続けたいと思うシリーズです。

遺言状の願-口入屋用心棒(28)

口入屋の米田屋光右衛門がこの世を去り、しめやかに葬儀が営まれた。皆が悲しみに暮れる中、光右衛門の故郷常陸国青塚村へと旅立った湯瀬直之進と妻のおきくは、墓参に訪ねた寺で、「光右衛門は人殺しだ」と村人から罵声を浴びせられる。さらに寺の住職から手渡された遺言状には、思いもよらぬことが記されていて…。人気書き下ろし長編時代小説、シリーズ第二十八弾。(「BOOK」データベースより)

前作の終わり、湯瀬直之進とおきくの婚儀の席でおきくの父である口入屋の米田屋光右衛門が倒れ、帰らぬ人となってしまいました。そこで、湯瀬直之進とおきくの二人は光右衛門の故郷である常陸国青塚村へと旅立つのでした。訊ねた先の寺で、おみわという女性を探し、幸せかどうかを確かめて欲しいと書かれた、光右衛門の遺言状を受け取るのです。

一方、南町奉行所同心樺山富士太郎は、八十吉という信州出身の元飾り職人が殺された事件を調べていたのですが、犯人の目星はついたものの、なかなかその尻尾をつかまえられないでいました。

このように、前作『判じ物の主』同様に、本作でも湯瀬直之進と南町奉行所同心樺山富士太郎の物語が並行して進みます。

ただ、今回は無くなった米田屋光右衛門の過去に隠された秘密を明らかにすることが主眼になっていて、光右衛門の残した遺言を果たしていくうちに、光右衛門の行動の意味も明らかになっていくのです。

他方、富士太郎の方の探索はうまく事が運んでいませんでした。しかし、いつものことながら、粘り強く探索を続ける富士太郎です。

このところ、このシリーズは単発の物語になっています。今回は光右衛門の過去という謎がテーマにはなっているものの、何となく読者を惹きつける魅力に欠けるような気がします。

勿論、単発なりに物語の面白さが全くないわけではないのですが、倉田佐之助という存在が仲間になってしまった今、やはりもう少し大きな謎なり、闘争の相手なりといった魅力的な敵役の存在が欲しい気がします。

登場人物たちも今ひとつその魅力が発揮できていない印象を受けるのです。

ただ、今回は若干の謎を次巻へ持ち越す話ではあります。でも、大きな謎というわけでもなさそうで、新たな展開を期待するばかりです。

判じ物の主-口入屋用心棒(27)

湯瀬直之進を用心棒に雇おうとしていた呉服商の船越屋岐助が殺され、殺害現場から手代の与野造が姿を消した。葬儀のあと、岐助の女房と娘に請われた直之進は与野造の行方を追いはじめる。一方、南町奉行所同心樺山富士太郎と中間の珠吉は、町医者殺しを探索していたが…。直之進は次々と起こる殺しの連鎖を食い止められるのか!?人気書き下ろし長編時代小説第二十七弾。(「BOOK」データベースより)

洞軒という名の町医者が殺され、南町奉行所同心樺山富士太郎は早々に犯人の目星は付けることができたのですが、時間的な制約もあって、その殺害の方法が分からずにいました。

一方、呉服商の船越屋岐助からの用心棒の依頼を請けようとしていた湯瀬直之進でしたが、当の船越屋は殺されてしまいます。殺害現場から船越屋手代の与野造が逃げる姿を目撃する湯瀬直之進でしたが、船越屋岐助を信頼していた直之進は、船越屋岐助が信頼していた与野造以外に犯人がいると確信し、やはり与野造は犯人ではないと信じる船越屋の女房と娘の依頼で、与野造を捜し出し、更に与野造の用心棒をするようにと依頼を受けるのでした。

本書はまさに捕物帳であり、樺山富士太郎の、町医者はどのようにして殺されたのか、という謎の解明を軸に描かれています。

と同時に、直之進に関してもまた、船越屋岐助は誰に殺されたのか、また与野造は現場から逃げた理由は何か、という謎について描かれています。

物語としては、好敵手である倉田佐之助との戦いをメインに描かれていたシリーズ当初のタッチのほうが好みではあったのです。しかし、このシリーズの現在の姿もまた新たに構築された別なシリーズもののようで、それなりの楽しさ、面白さを感じることができています。

兜割りの影-口入屋用心棒(26)

幕府の勘定吟味役大内外記ら五人が何者かに惨殺された。淀島登兵衛とともに殺害現場に駆けつけた湯瀬直之進は、勘定奉行枝村伊左衛門に請われ探索を開始する。そんな折、護国寺界隈では歳や身分の違う者たちが行方知れずになる事件が頻発していた。事態を重く見た定廻り同心樺山富士太郎と中間の珠吉は、失踪人捜しに奔走していたが…。人気書き下ろし長編時代小説第二十六弾。(AMAZON内容紹介)

相変わらず面白いシリーズです。

いわゆる大衆小説の典型だと思うのだけれど、登場人物のキャラクター設定が絶妙で、飽きがこないのです。特にこのシリーズはその点が際立っていて、仲間や恋人を思う人物の心根が嬉しいのです。妙に人の視線に対する感覚が鋭かったりする点も、普通であれば安易に過ぎると思うであろう点も、独特の視点での描写と思え、個人的には気に入っているのです。

現時点での文庫書き下ろし時代劇の一方の雄である、佐伯泰英の『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』や『酔いどれ小籐次シリーズ』などのシリーズに比敵する、いやそれ以上の面白さをもってきているのではないかと思います。

他にも鳥羽亮の『剣客春秋シリーズ 』や『はぐれ長屋の用心棒シリーズ』などもあるのですが、これを言い始めたらきりがありません。

まあ、それほどに面白いシリーズだということです。

守り刀の声-口入屋用心棒(25)

かつて幕政を揺るがした腐米騒動で、湯瀬直之進と探索をともにした盟友和四郎が斬殺された。騒動の黒幕だった老中首座堀田正朝の遺臣による凶行だと知った直之進は、取り潰しとなった堀田家の残党を討つが、またしても新たな刺客が放たれる。さらにその矛先が米田屋にも向けられ…。一連の襲撃の首謀者は一体誰なのか!?命を賭けた直之進の戦いが始まる。人気書き下ろし長編時代小説第二十五弾。(AMAZON内容紹介)

本巻では、物語自体は前巻から続く騒動が、今は米田屋にいる琢ノ介のもとへも更なる刺客が現れたりもしますが、彼らとの闘争を経て、一応の決着を見ます。

相変わらず、小気味よく話が進みます。ただ、この物語も、シリーズの当初からすると全く別の話と言っても良いほどに変わってしまっています。

しかしそれもまた面白いとも感じているのです。何しろ、当初は命のやり取りをしていた敵役であった左之助は、今は頼もしい味方となり長年の親友のようですし、文字通りの親友であった琢ノ介は商人となっているのですから。

相変わらずに独白でのリズムの取り方もテンポよく、軽く、楽しく読むことができました。

このシリーズを読み始めて幾年になるものなのか、全く覚えてはいませんが、本書を読んだのは2013年5月だとメモに残っていました。

本当はシリーズ各巻についてのレビューもこのサイトに載せていてしかるべきだったと思うのですが、このサイトを始めたのが2013年の4月ですから、多分これまでの読書歴が残っていないので、シリーズとしての記載だけにしようと思ったのでしょう。

しかしながら、少しではありますが、読書メモが残っている分だけでも各巻の感想も書いた方が良いだろうと思いなおしました。というわけで、各巻のレビューは途中からになっています。悪しからずご了承ください。

アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希

警視庁鑑識課に勤める原麻希は、ある日、子供を預かったという誘拐犯からの電話を受ける。犯人の指示のもと、箱根の芦ノ湖畔へと向かった麻希だが、そこには同じく息子を誘拐されたかつての上司、戸倉加奈子の姿があった。殺人現場に届く「アゲハ」からのメッセージの意味は?誘拐は、麻希と加奈子の運命を変えた八年前の事件が関係しているのか―!?女性秘匿捜査官・原麻希が社会の闇に挑む、長編警察ミステリー。(「BOOK」データベースより)

ノンストップの痛快警察ミステリー小説として、楽しく読むことができる長編の警察小説です。

誘拐犯からの子供を預かったとの電話を受けた原麻紀が指示の場所に行くと、そこには原麻紀同様に自分の息子を誘拐された麻希かつての上司の戸倉加奈子がいました。早速捜査を始めようとする二人でしたが、何故か麻希の行動は犯人に筒抜けであり、犯人の指示以外の行動をしようとするとすぐに犯人に伝わるのです。

麻希の身近に内通者がいるとしか考えられない状況ではあるものの、その存在は全く分かりません。そこで二人は、誘拐犯の指示に従うようにと指示されながらも、事件の背景を調べていくのですが、そこにはかつて彼女らがかつて追い、そして敗北したとある事件と、壊滅したはずのテロ集団「背望会」の影が見えるのでした。

本書は痛快警察小説として、実に小気味いいタッチで進んでいきます。主人公の原麻紀というキャラクターが、「フルネームで呼ぶな」などとときにはコミカルに、そして時には警察官としてシリアスに犯人を追いつめます。

本書は単純に物語の流れを楽しむ小説でしょう。単純に作者の敷いたレールに乗っていけば楽しいひと時を過ごせる、そんな物語だと思います。

ですから、少々の設定の強引さ物語構成の甘さなどは無視して読むべきでしょう。例えば、自ら罪を認めている強姦犯人が嫌疑不十分で釈放されるとか、鑑識課員が捜査し尽くした筈の現場であるのに新たな証拠品が見つかるなどの疑問点は、一応そんなものとして話を読み進めるべきです。

そうすれば、シリアスな場面が展開するなかに、ときにコミカルな進行があったりする工夫も気楽に楽しめ、面白く読み進めることができます。そして、「背望会」についての謎の解明についてもそれなりに興味を持つことができ、ミステリアスな展開も楽しめると思います。

言ってみれば、ノンストップの痛快警察ミステリー小説であり、文句なしに楽しめる小説です。