『志記(一) 遠い夜明け』とは
本書『志記(一) 遠い夜明け』は『志記シリーズ』の第一弾で、2025年10月に角川春樹事務所から320頁の文庫本書下ろしとして出版された長編の時代小説です。
これまで料理、商売と続いて、今度は医療の分野を舞台にした髙田郁の待望の新シリーズ作品で、期待に違わぬ面白さを持った作品でした。
『志記(一) 遠い夜明け』の簡単なあらすじ
文化元年(一八〇四年)、如月。清明の日にふたりの女児が産声を上げる。
ひとりは蔵源美津。蔵源家は黒兼藩で代々藩医を勤める家系で、祖父の教随は秘密裡に腑分けを行い、父の恵明は藩医学校「青雲館」を担う立場であった。今ひとりは高越暁。備前刀を手掛ける刀鍛冶の一族で、祖母の高越剡は「女忠光」の異名を取っていた。長じて、美津は医学、暁は鍛刀を志すことになる。猪突猛進で焔にも似た美津、常に冷静で氷に喩えられる暁、女には困難とされる道を選んだふたりの人生が、十九の初夏、思いがけず江戸で交錯する。志を胸に人生を切り拓いていく者たちの群像劇、いよいよ開幕。(内容紹介(JPROより))
『志記(一) 遠い夜明け』の感想
本書『志記(一) 遠い夜明け』は『志記シリーズ』の第一弾であって、髙田郁の待望の新シリーズ作品です。
これまで『みをつくし料理帖シリーズ』、『あきない世傳金と銀 シリーズ』と女性を主人公にした大人気シリーズを紡いでこられた著者が送り出す新しいシリーズであり、本書は主役を紹介する役割をになっているようです。
そんな第一弾作品ですが、髙田郁の作品らしい、淡々とした語り口でありながらも情感豊かに語るとても感情移入しやすい作品でした。
上記両シリーズと同様に本シリーズも主人公は女性であり、医療の世界を目指しています。これまでと異なるのは、二人目の主人公と思われる女性が刀鍛冶の世界を舞台として活躍する様子が描かれていることです。
本書の構成を見ると、まずは女性でありながら医者を目指す蔵源美津の祖父蔵源教随(「第一話 遠い夜明け ~祖父 教随~」)、そして美津の父親の恵明(「第二話 授けられた灯 ~父 恵明~」)の話が一話ずつで語られます。
その後、刀鍛冶になろうとする高越暁(「第三話 春の傷 ~暁~」)と蔵源美津(「第四話 高々と灯を掲げよ ~美津~」)とにそれぞれ一話ずつが割り振られているのです。
こうしてみると、医者にならんとする蔵源美津関連に三話が割り振られており、蔵源美津が主人公のようにも思えます。
しかし、二人の性格や今暮らしている環境などのほかに、医療と刀鍛冶というそれぞれの職場での女性の立場がどのように扱われているのかも語られています。
結局、刀鍛冶を目指す高越暁もまた主役としての位置にあるように思われ、この新しいシリーズは女性二人の物語になると思われるのです。
髙田郁という作家のストーリー展開は実にうまく、読み手を飽きさせないといつも思います。
物語のテンポが速く、主役の前に立ちふさがる難局の設定も、主人公がその難局を乗り越えるさまもスムーズです。
そうした読みやすさの中に、女性の置かれた低劣な地位が示されつつ、女性が持つ力量が正当に評価されていく姿が描かれていて、小気味よさも感じさせてくれています。
医療と刀鍛冶という新しい世界に挑戦する二人の女性の物語を髙田郁がどのように料理し、読ませてくれるか、楽しみに待ちたいと思います。
