J・ヴァーリイ

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NASA所属の深宇宙探査船《リングマスター》が発見した土星の新衛星は、実は世代型恒星間宇宙船らしい。人類で初めて異星人と接触すべく、《リングマスター》は接近を開始する。そのとき、未知の宇宙船からタコの脚のような物体が何百本となく伸びてきて探査船をからめとった。俊英ヴァーリイの意欲作。(東京創元社「内容紹介」: 参照)

三十年以上ぶりに再読しました。「八世界」シリーズで有名なジョン・ヴァーリイのSF冒険小説です。

土星の衛星ティターンの軌道を横切る軌道を持つ、直径が1300Km、外周が4000Kmにもおよぶ巨大なリング状の構築物に、女船長のシロッコを船長とする深宇宙探査船「リングマスター」は乗務員ごと飲み込まれてしまいます。シロッコらはこの構築物の内部でばらばらになり、一人で目が覚めます。そこから「ガイア」と名付けられた構築物の内部を、他の乗組員を探しながら探索し、合流後は更なる冒険へと乗り出すことになります。

本書の舞台は途方もなく大きく、その内部で様々な生物が生きているのですが、似た舞台設定の物語として、SFファンならすぐにラリイ・ニーヴンの「リングワールド」が思い浮かぶでしょう。ただ、こちらは直径がほぼ地球の公転軌道に匹敵する大きさであり、幅が約100万マイルというのですから、本書のさらに上を行っています。本書同様に、この内部世界を冒険する物語ですが、ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞していて、本書以上に高名なSF作品と言っても間違いではないと思われます。

アーサー・C・クラークの『宇宙のランデヴー』に登場する小惑星「ラーマ」は、直径40キロの巨大な円筒型の宇宙船という設定です。その内部はさまざまな生物がいる一つの宇宙であり、その世界を探検するのです。また、巨大構造物と言う点では、ハインラインの『宇宙の孤児』をはずすことはできません。ここに登場する巨大な宇宙船は、何世代にもわたって船の中で暮らし、恒星間を移動しようとする目的で作られた船です。この船の中こそが世界のすべてと信じる子らの、船の外へ想いを馳せ、新たな未来へと突き進むこの物語は、子供ながらに胸躍らせて読んだものです。ただ地球の延長上にある世界という点で異世界とは言えないかも。

他に、グレッグ・ベアの『永劫』も浮かびました。ここに登場する小惑星もじつは直径100キロ、長さ300キロの建造物であったという物語です。しかし、その内部探検というよりは、この構造物に隠された謎が主題なのでちょっと違うかもしれません。

これらの物語に共通するのは、異世界の冒険譚であり、設定された異世界に応じた生物、動物らが登場し、独自の冒険世界を作り上げているということです。SFですから、作者の想像力が自由に発揮され、作家の腕の見せ所というところがあります。その上で、冒険譚自体の持つ「自由」への希求という目的も共通するように思えるのです。

[投稿日]2016年11月23日  [最終更新日]2016年11月23日
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この手のSF小説は近年はあまり読んでいないので、古典をも取り交ぜての紹介です。若干無理があるも。
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《ガイア》三部作に見られるヴァーリイのテーマ性|堺 三保|note
その第一部『ティーターン』は、NASAの深宇宙探査船《リングマスター》が土星の衛星軌道上に巨大な人工建造物を発見したところから始まる。

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