飢餓海峡 [ DVD ]

内田吐夢監督、三國連太郎主演のサスペンス。台風で青函連絡船が沈没。だが収容した遺体は乗客名簿より2名多く…。“<東映 ザ・定番>シリーズ”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

多分、テレビで放送されたものを見たのだと思います。三國連太郎の存在感は既に素晴らしく、喜劇役者としか知らなかった伴淳三郎の存在感は思いもかけず心に迫るものでした。また高倉健が出演していたことは後々まで知りませんでした。

飢餓海峡

青函連絡船転覆、そこには乗客以外の身元不明遺体が…。
樽見京一郎は京都の僻村に生まれた。父と早く死に別れて母と二人、
貧困のどん底であえぎながら必死で這い上がってきた男だ。
その彼が、食品会社の社長となり、教育委員まで務める社会的名士に成り上がるためには、
いくつかの残虐な殺人を犯さねばならなかった。そして、巧なり名を遂げたとき、
殺人犯犬飼多吉の時代に馴染んだ酌婦、杉戸八重との運命的な出会いが待っていた……。
青函連絡船洞爺丸沈没事故に想を得た、社会派ミステリーの傑作。(上巻 : 「内容紹介」より)

波濤荒れ狂う荒涼とした海峡で発生した殺人事件を執拗に追い続けた、函館署の弓坂吉太郎。そして十年の後、杉戸八重殺害犯の捜索にあたることになった舞鶴東署の味村時雄。両刑事の執念が実を結んだ時、謎の人物、犬飼多吉こと樽見京一郎の実像が浮かび上がる……。青函連絡船洞爺丸沈没の海難事故に想を得て、雄大な構想で人間の宿命を描き切った長編ミステリー小説。(下巻 : 「内容紹介」より)

 

1954年9月に青函連絡船「洞爺丸」が沈み多数の乗客が亡くなるという海難事故が起きました。この事件をモデルに、引き取り手の無い2体の亡骸(なきがら)が出るところから物語は始まります。

 

松本清張が推理小説での人間描写を深化させ、社会派と称されるようになりましたが、水上勉もまたその考えに同調したようで、人間を描くことに重きを置いています。

戦後の混乱期を舞台にしたこの物語は映画版の三國連太郎と伴淳三郎の存在感がすごくて、小説を読んだときにもこの二人のイメージが抜けないままに読みました。

 

 

是非一読の価値ありです。

水上 勉

改めては何も言うことも無い巨匠です。その作品は多数にのぼり、直木賞を始め主な文学賞を総なめと言って良いでしょう。

最初に読んだ作品は映画に触発されて読んだ「飢餓海峡」で、社会派の推理小説作家という認識だったのです。しかし、その後三島由紀夫の「金閣寺」を読んだとき、その対比として「金閣炎上」という作品をを知りました。水上勉という作家はこのような作品も書くのだと新たな側面を知った気になり、その後「五番町夕霧楼」「越前竹人形」「越後つついし親不知」と立て続けに読んだものです。

ただ、それ以外読んでいないのも事実で、追いかけて読むには少々暗すぎたのです。歳をとった今なら読めるかもしれませんが、まだ若かった私には救いを見つけることが出来なかったのでしょう。

それももう30年以上も前のことで、読み終えた数少ない本の内容までははっきりとは覚えてはいません。しかし、特に「越前竹人形」はその文章の格調の高さに驚き、美しい日本語といえば三島由紀夫と言われていた時代に、この作品の文章の方が美しいのではないかと思ったものです。

水上勉の幼少期は決して恵まれてはおらず、貧乏故に寺へ修業に出されて大変な苦労をし、その頃の体験が「雁の寺」等に生かされていると、多分あとがきだったか解説だったかに書いてあったと思います。

決してライトノベルを軽んじるわけではないのですが、ライトノベルでは味わうことのできない感動がここにはあります。じっくりと読み込んでもらいたい作家の一人です。

笑うハーレキン

経営していた会社も家族も失った家具職人の東口。川辺の空き地で仲間と暮らす彼の悩みは、アイツにつきまとわれていることだった。そこへ転がり込んできた謎の女・奈々恵。川底に沈む遺体と、奇妙な家具の修理依頼。迫りくる危険とアイツから、逃れることができるのか?道尾秀介が贈る、たくらみとエールに満ちた傑作長篇。(「BOOK」データベースより)

 

家具職人だった東口の再生する姿を描く長編小説です。

 

ある日突然、ホームレス家具屋東口のもとに弟子志願の若い女が現れ、ホームレスたちとの奇妙な共同生活が始まる。

文字どおりの”疫病神”に付きまとわれている東口は、ある日奇妙な本棚修復の依頼を受ける。

仕事、仕事で結局は会社を失い、更には供まで死なせてしまった男、東口の回生の物語。

 

この作家の作品はまだあまり読んでいないのではっきりとは言えないのですが、作風は決して明るくはない感じがしました。一応本書も未来志向の作品と言っても間違いではないと思うのですが、どうもその未来がバラ色を感じさせないのです。

物語としては、巧妙に張られている伏線が終盤生きてきて、話の展開が良く練られている印象がして面白いです。ただ、派手なアクションといった展開とは無縁のお話なので、主人公の回生の物語として読めば十分に楽しめる作品だと思います。

シャドウ

人は、死んだらどうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、凰介の母は病死した。父と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの母親が自殺したのを皮切りに、次々と不幸が…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?いま最も注目される俊英が放つ、巧緻に描かれた傑作。本格ミステリ大賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

一人の少年の不可思議な日常をミステリアスに描き出す、長編のミステリー小説です。

 

主人公の我茂鳳介は小学校5年生であり、母咲枝を癌で亡くしたばかりだった。そして、今度は近所に住む鳳介の幼馴染の亜紀の母親恵が自殺してしまう。

恵は鳳介母親咲枝の学生時代からの親友であり、鳳介の父洋一郎の後輩でもあった。その後鳳介の周りで何かと事件が巻き起こるのだった。

 

面白くないといえば嘘になります。緻密に張り巡らされた伏線とその結果等は物語に緊張感と意外性をもたらし、高評価する読者が多数いると思われます。

ただ、私の好みでは無いのです。

例えば、小学生が主人公という設定では、そんな考えや行動はしないだろうと思ったりして物語世界に浸れなくなってしまうのです。

でも、面白くないということではないので、そうした点が気にならない人にはお勧めでしょう。

道尾 秀介

まだ三作品しか読んでいないので、「おすすめ」の作家と胸を張っては言えません。

ただ、三冊を読んで、更に『「シャドウ」は「向日葵の咲かない夏」の読者への著者なりの解答』だとの作者の「ここだけのあとがき」に書いてあったところをみると、決して気楽に読める作家ということではなさそうです。「僕は決して陰惨な出来事が好きなわけじゃない。」と書いてはあるのだけれど、要は読み手がどう受け取るかであり、若干私の好みとは外れるかも。

しかしながら「笑うハーレキン」や「花と流れ星」はそんなに暗い作品では無かったところをみると、気楽に読める作家ではないけどそんなに重くもないと言ったところでしょうか。

でも、この作家の受賞、候補歴を見るとそうそうたる賞が並びます。賞が全てだとは言いませんが、それでもそれだけの評価を受けていることは間違いなく、各賞に見合うだけの質の作品を出している客観的な指標にはなると思われます。

「物語性豊かな作品世界の中に伏線や罠を縦横に張り巡らせる巧緻な作風」という(多分出版社の)紹介文があるので、サスペンス作家だとの観点でこの人の作品をもう少しは読んでみようかと思います。

フジテレビ開局50周年記念DVD 砂の器

仲代達矢・田村正和の演技が光る、松本清張の傑作ドラマをDVD化。ある夜、蒲田駅の操車場で一人の男の他殺死体が発見された。被害者の身元は不明、唯一の手がかりは被害者の東北訛りと「カメダ」という言葉のみ。警視庁の捜査は難航を極め、一度は継続捜査となるが、警視庁捜査第一課の今西刑事と蒲田署の吉村刑事は持ち前の粘り強さで、遠回りをしながらも真実に近づいていく…。(「Oricon」データベースより)

砂の器 DVD-BOX

2004年1月~3月までTBS系列で放映された人間ドラマ。暗い過去と殺人という罪を背負った天才音楽家と殺人事件を追うベテラン刑事を描く。中居正広、渡辺謙ほか出演。(「Oricon」データベースより)

松本清張ドラマスペシャル 砂の器 [DVD]

松本清張の長編推理小説を玉木宏ほか豪華キャストでドラマ化。昭和35年、12月11日未明。東京・蒲田駅構内で初老男性の他殺体が発見。捜査本部の一員に加わった西蒲田署の刑事・吉村弘は、ベテラン刑事・今西栄太郎と共に事件の真相に迫る。(「キネマ旬報社」データベースより)

砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

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松本清張の社会派サスペンス小説を、橋本忍と山田洋次の共同脚本で映画化した傑作ドラマ。親子の“宿命”を断ち切り、音楽家として成り上がった和賀英良の前に、突如封印していた過去が突き付けられる。“あの頃映画 松竹DVDコレクション”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

サントラの「宿命」を背景に刑事である丹波哲郎の語りと共に流れる四季の映像の美しさは忘れられません。それだけに物語の哀しさは心を打ちました。日本映画の名作に数えられる一本だと思います。