鼠異聞 新・酔いどれ小籐次(十七・十八)

本書『鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』は、文庫本上下二巻で670頁を越える長さがある『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十七・八弾です。

小籐次へのとある懐剣の研ぎの依頼と桃井道場年少組も同行する久慈屋の高尾山薬王院への紙納めの旅の様子が語られる、佐伯節が満喫できる作品です。

 

鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』の簡単なあらすじ

 

文政9年初夏。太平の世を謳歌する江戸では近頃、貧しい長屋に小銭が投げこまれるという奇妙な事件が続いていた。小籐次は謎の青年から、名刀正宗の研ぎを頼まれる。そんな中、高尾山薬王院へ紙を納める久慈屋の旅に、息子の駿太郎・道場仲間の少年らとともに同行することに。高井戸宿、府中宿へと進む一行を付け狙うのは…。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

府中宿で久慈屋の荷が襲われた騒ぎの真相が明らかになると、北町奉行・榊原は同心の木津親子を呼び出した。一方、雨の降り続く高尾山ふもとに到着した小籐次一行だったが、薬王院の跡目争いの背後に渦巻く怨恨により、駿太郎ら少年たちの身にも危険が迫る―高尾の山中で、猿と“鼠”を従えた小籐次の竹トンボが鋭く舞う!( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

第一章 妙な客
いつもの通り、久慈屋の店先で研ぎ仕事をしている小籐次のもとに、子次郎と名乗る遊び人風の男が五郎正宗作だという菖蒲造の懐剣の研ぎを依頼してきた。

第二章 木彫りの鼠
そんな小籐次に久慈屋からの呼び出しがあり、高尾山薬王院有喜寺への紙納めの旅の付き添いを頼まれた。ところが、その話を聞いた桃井道場の年少組の五人も同道したいと申し出るのだった。

第三章 見習与力
結局、さらに北町奉行所与力見習の岩代壮吾までも加わった六人が高尾山行きへ同道することになった。ところが、前巻で問題を起こした木津留吉が仲間と共に久慈屋の大金を狙ってきたのだった。

第四章 壮吾の覚悟
府中に宿泊中、子次郎が車列のある納屋を狙う留吉の仲間は総勢七人だと知らせて来た。その夜、納屋を襲ってきた留吉らは北町奉行所与力見習の岩代壮吾により退けられてしまう。

第五章 府中宿徒然
府中宿での顛末は小籐次から江戸の久慈屋や中田新八らのもとに知らせられた。留吉の行動は留吉の父親の不手際で久慈屋一行の秘密が漏れたことなどから、木津家の今後まで決められるのだった。

第六章 悲運なりや温情なりや
やっと着いた目的地の高尾山薬王院の麓別院に俊太郎らを残し、昌右衛門、国三主従と小籐次は降り続く雨の中を薬王院有喜寺へと向かった。途中一行を襲う一団を退けた小籐次らは貫主山際雲郭と会った。

第七章 菖蒲正宗紛失
懐剣を盗まれた小籐次にもとに、江戸へ帰れ、との手紙が届いた。子次郎と話して江戸へと戻ることにした小籐次は、途中現貫主の敵の万時屋悠楽斎のもとへ寄り三公と呼ばれる小僧を見張りにつけられるのだった。

第八章 高尾山道の戦い
三公こと三太郎の力を借りた小籐次は、薬王院近くの万時屋親子一派の隠れ家を襲い、飛び道具など燃やしてしまう。俊太郎らは久慈屋の荷物を背負い高尾山の薬王院へと登り始めるが、襲ってきた万時屋一味を撃退するのだった。一方、子次郎は、壱行から盗まれた懐剣を取り戻していた。

第九章 琵琶滝水行
子次郎により助け出された現貫主の雲郭と昌右衛門らも久慈屋の一行を迎えた。ようやく研ぎにかかった小籐次は、子次郎から懐剣のいわれを聞く。研ぎの間、俊太郎らは三太郎と会い話を聞いた。

第十章 菜の花の郷
三太郎の里に巣くった用心棒たちを退治した俊太郎たちは、研ぎを終えた小籐次と共に江戸へと帰るのだった。

 

鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』の感想

 

新・酔いどれ小籐次シリーズ』も十七巻目ともなると、さすがにマンネリの様相も見え始めてきつつある本巻で、子次郎と名乗る新たな人物が登場してきました。

おりしも、江戸の町では庶民の長屋に一朱や一分といった小銭を放り込んでいく事件が起きていて、子次郎とのかかわりを匂わせてあります。

江戸時代のお金に関しては参考までに下記サイトを挙げておきます。
江戸時代のお金のしくみ
江戸時代の「1両」の価値ってどれぐらいだった

 

この子次郎が小籐次に依頼してきた仕事が、五郎正宗作だという菖蒲の葉に似た造込みの懐剣の研ぎだったのです。

この子次郎と小道具の懐剣が、数巻だけでも本シリーズに新たな風を吹き込み、シリーズのマンネリ化を回避することを期待したいものです。

 

本書『鼠異聞』では、久慈屋の高尾山薬王院への紙納めを中心として物語が展開します。

すなわち、『鼠異聞』上巻で語られる高尾山薬王院への往路は、前巻『酒合戦』で登場した桃井道場年少組の木津留吉が絡んだ話であり、『鼠異聞』下巻は薬王院内部の貫主の地位を狙う一味との闘争の話です。

 

 

この本書『鼠異聞』上巻の話は、木津留吉の手引により久慈屋の荷を狙う由良玄蕃という剣術家を頭とする総勢七名と俊太郎岩代壮吾らの戦いを一つの山としています。

同時に、そのことは留吉の行いに対する木津家の浮沈、それに留吉を捉えることになる北町奉行所与力見習の岩代壮吾の決断などが見どころとなります。

 

ここらでは武家社会の決まりの中での冷酷な仕置きや見習与力の成長の様子などが簡略に語られており、痛快小説ならではの単純な物語の運びとして展開されます。

本来であれば、現代とは異なる武家社会のありようなどをリアルに、また重厚に描くこともできそうなテーマではありますが、この『鼠異聞』という佐伯作品では物足りなさを感じるほどにあっさりと処理してあります。

いろいろな枝葉は描かずに、関わった当事者の心象も深く描写することもなく結果だけをあっさりと示す処理の仕方をされているのです。

 

また本書『鼠異聞』下巻では薬王院貫主の地位を狙う先代薬王院貫主宗達の隠し子である万時屋悠楽斎と、その嫡子の壱行という僧侶の一味とを相手とする争いが中心の話です。

特にこの下巻では物語の筋だけを見れば実に単純であって、それ以上に筋の運びの荒さが目立ちます。

もう少し丁寧な展開を考えてもいいのではないか、と思うほどに雑に感じるのです。

壱行が貫主の地位を狙うために小籐次の存在が邪魔になり、江戸へ追い返そうとするのですが、その手段やその後の行動など、あまりストーリーを練ってあるとは思えません。

佐伯作品の痛快小説としては、よく練り上げられた物語展開は不要と言っているかに思えるほどです。

事実、痛快時代小説として単純に楽しめればいいのであり、それ以上のものは求めるべきではないのでしょうか。

 

本書『鼠異聞』では、上下各巻での二つの事件に加え、物語全体を通して菖蒲正宗という懐剣が小道具となって物語が展開します。

この懐剣の扱いも下巻では雑としか思えないものではありましたが、その点はあまりしつこくは言わないこととします。

ただ、今後の小籐次の物語にも多分かかわってくる小道具だろうと推察するだけです。

 

以上のように、上下二巻という長さの物語の本書『鼠異聞』ですが、いつもの佐伯作品と同様にあまり長いとは感じませんでした。

コロナワクチンの副作用で微熱が出て倦怠感で何もする気がおきない中ただただ本書を読んでいました。

ここまで不満点ばかりを書いたものの、本書『鼠異聞』はそんな不満を持ちながらも楽しく、軽く読める作品であったことは否めません。

難しいことは言わずに単純に楽しむことができる作品だったというべきなのでしょう。

梅花下駄 照降町四季(三)

本書『梅花下駄 照降町四季(三)』は、『照降町四季シリーズ』の第三弾で、文庫本で345頁という長さの長編の痛快人情時代小説です。

前巻『己丑の大火』の後、江戸の町、そして照降町の復興の様子が描かれるなかで、ひたすら花魁からの依頼に応えようとする佳乃と、旧藩内部の争いから身を置こうとする八頭司周五郎の姿がありました。

 

梅花下駄 照降町四季(三)』の簡単なあらすじ

 

文政12年、大火は江戸を焼き尽くした。佳乃と周五郎は、照降町の御神木を守り抜いたとして町の人々に厚く感謝される。焼けてしまった店の再建を待つ間、舟を店に仕立てた「舟商い」は大繁盛し、人々は復興にむけて精いっぱいの知恵を出し合い、助け合う。
吉原の今をときめく花魁・梅花から「花魁道中で履く三枚歯下駄」の制作を託された佳乃は、工夫を凝らして新しい下駄を作りつつ、この大火で命を落とした江戸の人々の鎮魂のための催しを企画する。佳乃と花魁が企てた前代未聞の催しとは――
そんな中、藩の派閥争いから逃れて職人修業をしていた周五郎のもとに、不吉な一報が。

復興のアイデアを出し合う人々の心意気、大店・吉原・職人らが連携して作りあげた、奇跡の風景が心を震わせる。読むほどに元気が出る感動ストーリーが目白押しの第三巻。(出版書誌データベース「内容紹介」より)

 

 

梅花下駄 照降町四季(三)』の感想

 

前巻の『己丑の大火 照降町四季(二)』では、ただただ八頭司周五郎の活躍だけが目立つ痛快小説というしかない物語になっていました。

本書『梅花下駄 照降町四季(三)』ではさすがに前巻ほど周五郎だけが目立つ構成ではありません。

しかし、今度は佳乃が主人公の人情話というには無理がありそうな展開でした。

というのも佐伯泰英の描く本書『梅花下駄 照降町四季(三)』は、周りの人々の細やかな人情に支えられた佳乃の生き方が描かれているというよりは、女職人佳乃が鼻緒を挿げた高下駄が花魁の足元を飾り、江戸中の喝采を得る、という痛快小説なのです。

また、また八頭司周五郎が中心となる活劇を見せるという意味でも痛快時代小説だとも言えます。

 

ということは、本『照降町四季シリーズ』は佐伯泰英が描く珍しい人情小説シリーズだと書いたのは、細かなこととはいえ間違いだというべきでしょう。

そういえば、『照降町四季シリーズ』を人情小説と明記し、紹介した文章は無かったかもしれません。

単に、私が勝手に「人情もの」だと決めつけただけのことになります。

ただ、佐伯泰英著『照降町四季シリーズ特設サイトの中のYouTubeの画面に「江戸の人情あふれる物語」という文字があります。

同じYouTubeの画面は、本書『梅花下駄 照降町四季(三)』の特設サイトの中にもありました。

 

この『照降町四季シリーズ』は、佳乃が照降町の人々の人情に助けられて鼻緒を挿げる職人として成長していく物語です。

とすれば、本シリーズが人情ものだと言い切っても間違いとまでは言えないと思われ、文言の訂正まではしないでおこうと思います。

ただ、例えば第164回直木賞を受賞した西條奈加の『心淋し川』のような、いわゆる人情時代小説とは異なる物語の運びだとは言っておく必要がありそうです。

 

 

そしてもう一点、特に本書『梅花下駄』で気にかかったことがありました。

それは、鼻緒を挿げる女職人という設定はまあいいとして、本書では主人公の佳乃が挿げた吉原の花魁注文の高下駄が人気が出て、佳乃自身ももてはやされるというその点です。

佳乃が問題の下駄に絵まで施したのですからその下駄が人気が出たのは分かります。

しかし、本体の下駄を作ったのは別の職人です。高下駄、それも三本歯の花魁の道行き用の高下駄という難しい注文をこなしたのは伊佐次という下駄職人である筈です。

この伊佐次を抜きにして語られているのがちょっと気になったのです。

ただ、伊佐次への下駄本体の注文も、佳乃が花魁の梅花から仕事を請け、佳乃が下駄本体の仕様も考案して伊佐次に注文を出しているので、そういう意味では佳乃の作った下駄だと言えないこともありません。

そういうことで納得しておくべきなのでしょう。

 

ともあれ、この『照降町四季シリーズ』もあと一冊となりました。

当初期待した佐伯泰英が描く人情小説という思いは少し違っていましたが、それでも佐伯節のつまった面白い小説ではありました。

その一冊を楽しみに待ちたいと思います。

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)

本書『祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』は、文庫本で340頁の『新・吉原裏同心抄シリーズ』第四弾の長編痛快時代小説です。

祇園御霊会の無事の終わりを願う幹次郎らと、存亡の危機に建つ江戸吉原の面々の様子が描かれる、意外性のある一篇でした。

 

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』の簡単なあらすじ

 

江戸・吉原で、評判の遣り手らが不可解な辞職をし、相次いで姿を消した。異変の臭いを嗅いだ四郎兵衛ら会所の面々は、その企みの背後を探ろうとする。一方の京では、ひと月続く華やかな祭礼、祇園会が始まった。祇園囃子の響く中、幹次郎は、新たな刺客からの脅迫と攻撃に直面する。大切な町を守るため、総力戦ともいえる戦いが幕を開ける。慟哭必至のラスト!(「内容紹介」より)

 

江戸吉原では、半籬「芳野楼」の遣り手のお紗世が他の楼の三人の遣り手を誘い楼を辞めていたが、そのうちの一人の遣り手・鶴女が水死体となって見つかった。

また、身代わりの佐吉は牢の中で今吉原で起きている事件についての話を聞き込んできたが、その話を持ち掛けてきた男も鶴女と同じような殺され方で見つかっていた。

そうした中、吉原会所七代目頭取の四郎兵衛は紗世が残していった文箱を手に入れていた。

一方、祇園御霊会が始まっていた京では、真新しい祭礼衣装に身を包んだ幹次郎が、六種のご神宝、三基の神輿、そして別格のご神宝である「勅板」を守ることを誓っていた。

その幹次郎の前には、幹次郎が倒した不善院三十三坊の弟と名乗る不善院七十七坊という男が立ちふさがっていた。

 

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』の感想

 

本書『祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』では、京の祇園御霊会を背景として、この祭りの由来、祭事の様子を詳しく記しながら、神守幹次郎の活躍が描かれます。

同時に、江戸吉原での急激な展開も記され、本書では特に澄乃や、その手助けをする同心の桑原市松身代わりの佐吉の活躍が光ります。

というよりも、物語の進展という意味では京の幹次郎の姿よりも江戸吉原での四郎兵衛や澄乃の動向の方がメインだというべきかもしれません。

とくに、吉原の妓楼の買取を企んでいた佐渡の山師荒海屋金左衛門の背後にさらに上様御側御用取次という重職にある朝比奈義稙なる人物の存在が見えてきたことなど、新たな勢力の存在が明確になってきています。

こうした展開が、本『吉原裏同心シリーズ』の新たな魅力につながっていくことを期待したいものです。

 

祇園会」は今でいう「京都祇園祭」のことを言います。京都市東山区の八坂神社(祇園社)の祭礼であり、明治年間になってそれまでの祇園御霊会と呼ばれていた祭りです。

 

先に述べたように、本書での京での幹次郎の話は祇園会の紹介が主になっているというほかありません。

ですから、本書の物語としての面白さ自体は幹次郎よりも江戸吉原での事態の展開にあると言えます。

何よりも、本書では思いもかけない展開が待っていました。

本『吉原裏同心シリーズ』は、若干のマンネリの気配が見えてきたころ、幹次郎と麻をを京へと修行に出し、シリーズの色をかなり変えることに成功したと思っていたのですが、今回はそれをさらに上回る変化でした。

ということは、今後の展開に期待するところが大きくなるということです。

続巻を期待して待ちたいと思います。

寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2

本書『寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第二巻の、文庫本で365頁の長編の痛快時代小説です。

江戸で貧乏暮らしをする磐根の日常が描かれますが、故郷の豊後関前藩とのつながりも残っています。

 

寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』の簡単なあらすじ

 

江戸深川六間堀、金兵衛長屋で浪々の日々を送る坂崎磐音。直心影流の達人だが、相も変わらぬ貧乏暮らし。仕事の口を求めて奔走する磐音に、暇乞いした豊後関前藩との予期せぬ関わりが生じて…。些事にこだわらず、春風駘蕩の如き好漢・磐音が江戸を覆う暗雲を斬り払う、著者渾身の痛快時代小説第二弾。(「BOOK」データベースより)

 

改元されたばかりの安永元年(1772)の暮、前巻の終わりに南鐐二朱銀事件で受けた傷が完治していないため、宮戸川での鰻割きの仕事もできず腹を減らすばかりだった。

そんな磐根のもとに品川柳次郎が内藤新宿でのヤクザものの喧嘩の助っ人の話を持ってきた。そこでの争いに絡んできたのが南町奉行所の笹塚孫七という年番方与力だった。

結局、磐根の要請に応じて笹塚が乗り出し、ヤクザものの二つの組が稼いだ金を皆持っていってしまい、磐根たちはただ働きとなってしまう。

そんな磐根に幸吉は、両国広小路の矢場での用心棒の仕事を持ってきた。しかし、この仕事も結局は笹塚の登場を願うこととなるのだった。

笹塚の仲介で再び神田三崎町の佐々木玲圓道場へと顔を出すようになった磐根のもとに、豊後関前藩江戸屋敷の勘定方を務める上野伊織が訪ねてきた。

慎之輔や琴平の死は関前藩内の争いがかかわっているというのだった。

 

寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』の感想

 

シリーズも第二巻ともなり、一通りの登場人物の紹介のあと第一巻では登場していなかった南町奉行所の笹塚孫七という与力も登場します。

磐根の江戸での生活の紹介が一応終わって、物語の大きな筋が見えてくることになります。

 

それは、磐根が心ならずも身分を離れることになった旧藩である豊後関前藩の内紛です。

磐根ら親友の三人が心ならずも斬り合うこととなった原因を作ったのも国家老の宍戸文六を中心とする派閥であることが判明してくるのです。

 

こうして、本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、磐根の生まれ故郷である豊後関前藩の内部紛争を基本的な軸に据えることになります。

そして、師匠である佐々木玲圓との交流、それに第一巻で南鐐二朱銀事件で名前の挙がった田沼意次などと対決することになる磐根の姿などが描かれることになるのです。

もちろん、巻ごとに何らかの騒動が起き、それを磐根や品川柳次郎らが奔走し、解決していく、その背後には今津屋があり、そして南町奉行所与力の笹塚孫七が、さらにその背後には将軍御側御用取次の速水左近が控えているという構図になります。

痛快小説としての磐根の剣劇の場面が用意してあることは勿論であり、思いもかけない展開を見せていく佐伯作品の魅力にあふれたシリーズとして展開していきます。

 

作者の佐伯泰英氏は、先の展開まで計算して書かれていたとは思われない、スケールの大きなシリーズとして広がりを見せることになる本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』です。

再読してもなお面白さが失われない、それだけの内容を持ったシリーズでした。

陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1

本『陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第一巻の、文庫本で解説まで入れて356頁の長編の痛快時代小説です。

今では『居眠り磐音シリーズ』として決定版も出ている人気シリーズを再読し始めました。やはり面白いシリーズです。

 

陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』の簡単なあらすじ

 
本書『陽炎ノ辻』についての旧版、新版二つの内容紹介文を載せておきます。下が「決定版」つまり新しい版であって、私の紹介文は旧版に基づくものです。

直心影流の達人、坂崎磐音。藩内騒動がもとで自藩を離れ、江戸深川六間堀で浪々の日々を送る。ある日、磐音はふとした縁で両替商の用心棒を引き受けるが、幕府の屋台骨を揺るがす大陰謀に巻き込まれてしまう。些事にこだわらず春風のように穏やかな磐音が颯爽と悪を斬る、著者渾身の痛快時代小説。(「BOOK」データベースより)

豊後関前藩の若き武士3人が帰藩したその日に、互いを斬り合う窮地に陥る。友を討った哀しみを胸に、坂崎磐音は江戸・深川の長屋で浪人暮らしを始める。大家の金兵衛に紹介された両替屋での用心棒稼業で、やがて幕府をもゆるがす大きな陰謀に巻き込まれ…。平成を代表する超人気時代小説の“決定版”が、ついに刊行開始!(決定版 「BOOK」データベースより)

 

坂崎磐根にとっては三年ぶりの故郷である豊後関前城下に、幼馴染の河出慎之輔と小林琴平と共に帰ってきた。

しかしそこで待っていたのは慎之輔の妻の舞が密通をしているという話であり、その行き違いにより琴平は慎之輔を斬り、その琴平を磐根が切り捨てることになってしまう。

国家老の正睦を父に持つ磐根は、許嫁である琴平の妹の奈緒を娶るわけにもいかず、関前にも居れなくなり、再び江戸へと出てくるのだった。

その年の十月の中旬、深川六間堀町の金兵衛長屋に住んでいた磐根は、金兵衛の娘のおこんが奉公している今津屋という両替商に用心棒として雇ってもらうことになった。

今津屋では十代将軍の徳川家治のもと、老中になった田沼意次の新貨幣政策の南鐐二朱銀の新発行に伴うとある企みに巻き込まれることになるのだった。

 

陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』の感想

 

本書『陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』は一大ベストセラーとなった『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第一巻です。

本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、十数年前からとおして一度読んだことがあるのですが、改めて最初から読み直してみようと思い立ちました。

本シリーズの最初の頃のまさに痛快小説と呼べる面白さがシリーズの途中から変化したように思え、その点を確かめたいと思ったのです。

でも、本シリーズが面白いので再読したかった、というのが一番大きな理由でしょう。

 

本書『陽炎ノ辻』の冒頭から、自分の許嫁の兄でもある親友と対決し、これを斬り捨てなければならないという主人公の坂崎磐根という存在が強烈に迫ってきます。

その後、郷里の豊後関前藩を離れ、江戸で浪人として暮らす磐根のその日暮らしの姿が描かれ、その落差がまずは印象に残ります。

その上で、どてらの金兵衛長屋に住まう磐根が今津屋とのつながりを持ち、品川柳次郎竹村武左衛門という知己を得る様子が描かれます。

ここで、本シリーズの基本的な登場人物や環境が整えられるのです。

 

その上で磐根は時の老中の田沼意次がすすめる新貨幣政策にからんだ事件に巻き込まれていきます。

一介の浪人が江戸の町の豪商と知り合い、田村意次という歴史上高名な人物の政策に絡んだ働きを見せるという痛快小説としては王道の物語が展開されます。

あらためて読み直しても、作者の佐伯泰英の物語の進め方がうまいと思わざるを得ない運びであり、読者を飽きさせない流れになっていることが言えそうです。

だからこそ、この後全部で五十巻を越える一大ベストセラーシリーズとして人気を博することになったと言えるのでしょう。

 

その人気は、本書『陽炎ノ辻』を原作として山本耕史主演でテレビドラマ化され、さらには松坂桃李という人気スターを主人公とした映画も作られることになります。

 

 

また、かざま鋭二の作画でコミック化もされています。

 

 

ともあれ、一大人気シリーズの第一巻を読み直し始めました。さすがに再読してもその面白さは褪せません。

今後も随時読み進めたいと思っています。

己丑の大火 照降町四季(二)

本書『己丑の大火 照降町四季(二)』は、『照降町四季シリーズ』の第二弾で、文庫本で331頁という長さの長編の痛快人情時代小説です。

今回は、史実にある1829年(文政12)の江戸の大火を背景に浪人八頭司周五郎の活躍を描いた、これまでの佐伯泰英の作品とあまり異ならない作品でした。

 

己丑の大火 照降町四季(二) 』の簡単なあらすじ

 

文政12年3月、神田佐久間町の材木置き場の奥で、消し忘れた小さな火がくすぶり始めていた――
ついに「己丑の大火」が江戸を襲う。
鼻緒挿げの女職人・佳乃と、その弟子の武家・周五郎は、すべてを焼き尽くそうとする火から、照降町を守るべく奮闘する。ご神木の梅の木が燃えようとしたその時、佳乃の決死の行動が、あきらめかけた町人たちを奮い立たせる!
江戸を焼失した大火事のめくるめく光景、町人の心意気が奇跡を呼ぶ、緊迫の第二巻。(出版書誌データベース「内容紹介」より)

 

己丑の大火 照降町四季(二) 』の感想

 

本書『己丑の大火 照降町四季(二)』は、全編が己丑の大火を背景にした話です。

それは江戸の町の焼失という大事件であり、そのなかでの照降町の住人の働き、「鼻緒屋」の佳乃一家の様子、そして「鼻緒屋」の後ろ盾である照降町の下り傘・履物問屋の「宮田屋」の蔵に隠された金などを巡る話です。

「宮田屋」の金とは、「宮田屋」の蔵には今回のような火事の折のための再建費用や証文、沽券などがが隠されていて、それを狙った火事場泥棒の話であり、八頭司周五郎の活躍の場面です。

つまりは、本書『己丑の大火』は佳乃を巡る人情話ではなく、「鼻緒屋」の職人の八頭司周五郎を中心とした活劇小説となっています。

具体的には、今回の大火のような場合、照降町からそれほど遠くない小伝馬町の牢屋敷の囚人たちが期限までに戻ることを定めとして解き放たれるのだそうですが、その囚人の一部が「宮田屋」の蔵を襲い、それを「鼻緒屋」の職人でもある浪人八頭司周五郎が身をもって回避するという話です。

その前提として、宮田屋の松蔵と若狭屋の新右衛門という二つの店の大番頭が、周五郎に照降町の警護方の頭になってくれるように頼みます。

また、周五郎は国元で船を漕いだ経験もあって櫓の扱いも慣れたものであり、猪牙舟を駆使して照り降り町と「鼻緒屋」家族の避難先の深川との間を走り回ります。

このようにして、本書『己丑の大火』は八頭司周五郎という男を中心に動くことになるのです。

 

また、佳乃の活躍も用意してはあります。

それは、照降町の西側にある荒布橋のたもとにある老梅である御神木を守るということです。このご神木を守り通すことができれば江戸の町も照降町も復興が叶うと信じて守り通すべく奮闘するのです。

それを見た照降町の男どもが燃えゆく町のなか、共に御神木を守り通すために力を合わせる姿が描かれます。

そんな力添えもあり、佳乃たちは幼馴染の幸次郎が奉公する中洲屋で作ってくれた握り飯をほおばりながらも守り抜こうとします。

 

江戸の町の火事、といえばまずは文字通り火消しの姿を描いた作品として今村翔吾の『羽州ぼろ鳶組シリーズ』が思い浮かびます。

この作品は2017年啓文堂書店時代小説文庫大賞を受賞した作品で、かつて江戸随一の火消として、”火喰鳥”の名を馳せた男・松永源吾が、自身と出羽新庄藩火消しの復活と再生を描いた痛快時代小説です。

 

 

話を戻しますと、こうして本書『己丑の大火』は、結局は佐伯泰英の他の作品と同じ痛快活劇小説になっています。

もちろん、本書が面白くないといっているのではありません。

佐伯泰英の作品には珍しい照降町を舞台に繰り広げられる人情話だと思っていたところ、やはり活劇小説になっている、という印象だったというだけの話です。

物語の全編が己丑の大火のもとでの話であり、その中で物語として仕上げるためにはそれなりのエピソードが必要だと思われ、そのために「宮田屋」の蔵と御神木の話を持ってきたのでしょう。

人情話と思っていた『照降町四季シリーズ』ですが、少なくとも本書『己丑の大火』に限って言う限り、佐伯作品らしい面白さを持った、しかしこれまでの佐伯泰英の作品のテイストとそれほど異ならない物語だった、ということです。

おこん春暦 新・居眠り磐音

本書『おこん春暦 新・居眠り磐音』は、佐伯泰英本人のあとがきも含めて文庫本で327頁になる『居眠り磐音スピンオフシリーズ』第三弾の時代小説集です。

小説集とはいっても中編が二本収められている作品で、共におこんの今津屋奉公前の話が描かれた、面白く読んだ作品です。

 

おこん春暦 新・居眠り磐音』の簡単なあらすじ

 

父親の金兵衛と二人で暮らす十四歳のおこん。その長屋にある日、下野国から訳ありの侍・曽我蔵之助夫婦が幼子を連れて流れ着く。母を亡くしたばかりのおこんに姉のように接してくれる女房の達子だったが―。「妹と姉」に加え、今津屋番頭の由蔵との出会いをきっかけに奉公に至る「跡継ぎ」と、若き日のおこんを描いた新作二編。(「BOOK」データベースより)

 

第一話 姉と妹
おこん十四歳。夏が来れば母親の一周忌もくるある春の日、曽我内蔵助と名乗る妻子連れの浪人者が空店に住まわせて貰いたいと訪ねてきた。

下野国黒羽藩の山守であって、山を住み家とする杣人と同じ暮しをしていたという曽我内蔵助は、切り出された山の木を巡る不正に気付き、黒羽藩の殿様に直訴すべく江戸へと出てきたというのだった。

第二話 跡継ぎ
曽我内蔵助の一件が片付いたあと、おこんは偶然に今津屋の番頭の由蔵と出会い今津屋へ奉公することとなった。

父親の金兵衛と共に今津屋へ挨拶に行った帰り、おこんと金蔵親子に一見十七、八歳に見える怪しげな男が由蔵との関りを尋ねてきた。

金兵衛が追い払ったものの、その男は由蔵に付きまとい、由蔵の大坂で奉公していた時の話で、淡路という店にいた薄雲という女の名を出してきたのだった。

 

おこん春暦 新・居眠り磐音』の感想

 

本書『おこん春暦 新・居眠り磐音』は、いまだ十四歳のおこんの話であり、磐根の姿は全くありません。

あと数年で女としての身体もでき上り道行く人も振り返るほどの娘に育つだろうと言われ、またしっかり者の片りんを見せている様子が描かれています。

ただ、十四歳という設定にしては少々しっかりしすぎているとも感じましたが、改めて言うほどのことではない、とも思われます。

そんな印象を持つほどに本書でのおこんは十四歳とは思えないのです。

 

第一話では、おこんは金兵衛長屋に部屋を貸して欲しいと現れた曽我内蔵助の女房の達子と姉と妹のように仲良くなります。

でも、江戸に不慣れな達子の世話を焼くおこんは、達子からも十四歳とは思えないとくりかえし指摘されます。

この内蔵助が、おこん十四歳の春から夏へと移ろう短い間に金兵衛長屋に住まい、抱えている藩の重大事の解決のために金兵衛が相談に乗ることになります。

そこで、本編の決定版『居眠り磐音シリーズ』(旧版は『居眠り磐音御伽草子シリーズ』)では南町奉行所の与力笹塚孫一の右腕的存在として登場する定町廻り同心の木下一郎太の父親木下三郎助が登場し、その下で十手を持つ佐吉と共に助力するのです。

 

 

第二話では、おこんの物語と言うよりは、当時はまだ両替屋今津屋の老分となる前の筆頭支配人であった由蔵の今津屋を守ろうと働く姿が主に描かれます。

役者小僧の卯之助という男が、由蔵が大坂へ修行に行っていた時の出来事をもって今津屋に狙いを定め乗り込もうとしてくる事態を回避しようとする物語です。

そこには一郎太の父親の木下三郎助やその手下の佐吉が由蔵を助け力になる姿もあり、同時に、十六歳になった一郎太もまた登場してきます。

とはいっても、おこんが今津屋に福運をもたらしそうな娘として今津屋の当代吉右衛門や跡継ぎの総太郎の嫁のお艶らに可愛がられ、奥向きの女中として奉公し始めるときの話であり、おこんもまた由蔵の話に深くかかわってくるのです。

 

ここで、事件のあらましをおこんに話すという設定には疑問もないとは言えません。

いくらおこんがしっかりしているからといって、若干十四歳の娘に由蔵の大坂での修業時代の出来事、それも若旦那の話が絡む命のやり取りの理由を話すことがあるかと思ったのです。

でも、この点もまた目くじらを立てて文句を言うような話ではないでしょう。

それどころか、当時の十四歳はもう一人前であり、おこんはその中でも一段としっかりとしているというのですから、あながち無理な設定でもないのかもしれません。

 

ちなみに、今津屋が大番頭のことを「老分」と呼ぶのは大坂商人に学んだ名残だと本文中にありました。

今津屋の先祖は相模の出身ですが、金銭に倹(つま)しい大坂商人に倣って奉公人を鍛えるためにこれと見込んだ奉公人を大坂に修行に出す習わしなのだそうです。

「倹しい」という言葉の読み方、詳しい意味などについて下記サイトに詳しく解説してありました。
Precious.jp を参照してください。

初午祝言 新・居眠り磐音

本書『初午祝言 新・居眠り磐音』は、文庫本で334頁の『居眠り磐音スピンオフシリーズ』第三弾の短編時代小説集です。

本編の『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の重要な登場人物の一人である品川柳次郎の婚儀の様子や、磐根と出会う前の笹塚孫一らの姿が描かれた、楽しく読めた一篇でした。

 

初午祝言 新・居眠り磐音』の簡単なあらすじ

 

貧乏御家人の品川柳次郎が幼馴染みのお有と祝言を迎えるまでの表題作をはじめ、南町奉行所の名物与力・笹塚孫一がまだ十七歳のときに謀略で父を失った経緯を描く「不思議井戸」、刀剣の研ぎ師・鵜飼百助が半日、用心棒として坂崎磐音を雇う「半日弟子」など、磐音をめぐる人々の在りし日を取り上げた五編、待望の書き下ろし。(「BOOK」データベースより)

 

第一話 初午祝言
磐根とおこんのいないなか、御典医の桂川甫周桜子を仲人に、竹村武左衛門や南町奉行所与力の笹塚孫市、今津屋の老分番頭の由蔵、それにおこんの名代としての金兵衛など『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の登場人物の立ち合いのもと、品川柳次郎お有との祝言は執り行われたのだった。

第二話 幻の夏
唐傘長屋住まいのおそめは、母親の出産のために、一時小さな漁村の平井浜にある母親おきんの実家へと帰ることになった。そこで産婆も兼ねている網元の婆様に挨拶に行くと、婆様はひたすらに絵を描いているのだった。

第三話 不思議井戸
笹塚孫一が十七歳の夏、父親の笹塚中右衛門が小伝馬町牢屋敷で首を括り自裁したために、南町奉行所見習い与力となった。新たな南町奉行の内与力筆頭である今朝貫右門は、五十両の礼金が必要だとして中右衛門の病死届を受理しない。孫市は仲間の見習七人衆の力を借り、父親の死の真相を暴くのだった。

第四話 用心棒と娘掏摸
十九歳になる女掏摸のあかねは浪々の剣術家の向田源兵衛と知り合い、あかねは江戸までの道案内を、源兵衛はあかねの用心棒をする約束でともに旅をすることになった。あかねが武家を相手に掏摸仕事をしたところ、付け狙われるようになっており、一方、源兵衛も何かいわくがありそうな旅だった。

第五話 半日弟子
磐根は鵜飼百助に刀の研ぎを頼んだことから、浅草福富町の居合術道場の二宮作兵衛と半蔵御門外麹町の定火消の旗本石室飛騨守義武へ、研ぎ上がった刀を届ける付き添い仕事を頼まれた。二宮作兵衛の方は人格者だったが、石室飛騨守は三百人の臥煙を擁する強請たかりまがいの嫌われ者だった。

 

初午祝言 新・居眠り磐音』の感想

 

本書『初午祝言 新・居眠り磐音』は、磐根の用心棒仲間の品川柳次郎、唐傘長屋のおそめ、南町奉行所の名物与力である笹塚孫一、殴られ屋の浪人向田源兵衛、研ぎ師の鵜飼百助といった面々の物語です。

このスピンオフシリーズを読むごとに、本編の『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』を読み返したくなっています。

できれば「決定版」として新しくなった『居眠り磐音シリーズ』を読みたいところですが、残念ながらわが図書館には入っていないので古いバージョンを読もうと思っています。

自分で買えと言われそうですが、それもままなりません。

 

 

それはともかく、本書『初午祝言 新・居眠り磐音』の各話を見ていくと、まず表題にもなっている「第一話 初午祝言」は、描かれている事柄が品川柳次郎とお有の祝言の一夜ということからあまり書くこともないのか、若干説明的な文章が続いています。

特に柳次郎の話し方が磐根のそれと同様の武家言葉、それも若者とは思えない話し方になっているのが気になりました。

居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の当初からこのようであったものか、シリーズを最初から読み直した際に確認すると、当然武家言葉ではあるものの本書ほどではありませんでした。

 

「第二話 幻の夏」は、後に幸吉と共に磐根と知り合うおそめの幼い頃の物語で、おそめが絵に出会ったエピソードが語られます。

この話は、著者佐伯泰英自身の言葉で、「深川の裏長屋育ちのおそめが、なぜある時期から縫箔という絵心・美的感覚を要する細かい手技の根気仕事、女職人を目指すようになったか。おそめの幼い折り、偶然にも「絵」に接した経験を昨年刊の『初午祝言』に続いて新たに付け加え、後々おそめが縫箔職人を目指すことになった切っ掛けのエピソードをモティーフにしました。」と述べています。( 佐伯泰英・著「居眠り磐音シリーズ」特設サイト : 参照 )

 

「第三話 不思議井戸」は、後に磐根を利用して悪事を暴いた際に没収した金を全部奉行所で巻き上げてしまうことで名の知れた笹塚孫一の若い頃が描かれています。

没収した金を皆江戸の犯罪対策へとつぎ込んでしまい、一銭もふところに入れることのない、そして、後々まで磐根たちを見守ることになる笹付孫一の姿です。

 

「第四話 用心棒と娘掏摸」の登場人物であるあかねも、そして源兵衛もその存在に全く記憶がありませんでした。

二人とも登場していたのか、どちらか一方が登場してきていたのかすら分からないのですから、単なる娘と浪人の道行きでしかなく、感想の持ちようもないというところです。

調べてみたところ、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』第二十五巻の『白桐ノ夢』に出てきていました。

そういえば、殴られ屋の浪人がいたことをおぼろげに思い出しました。つまりは殴られ屋になったいきさつがここで明らかにされたことになります。

 

「第五話 半日弟子」は、磐根の活躍が主軸の痛快な一編であり、まさに磐根シリーズの面目躍如といった話でした。

前話「用心棒と娘掏摸」と同様に本編の内容を覚えていなくても関係はありません。単純に本書のここでの話だけを楽しめる作品です。

 

本書『初午祝言 新・居眠り磐音』はスピンオフ作品として気楽に読める作品として仕上がっています。

武士の賦 居眠り磐音

本書『武士の賦 居眠り磐音』は、文庫本で330頁の『居眠り磐音スピンオフシリーズ』の第二弾の連作の時代小説です。

共に居眠り磐音シリーズの重要登場人物である重富利次郎と霧子との、幼いころから二人の出会い、成長を描く出すシリーズのファンならばたまらない面白さを持った作品です。

 

武士の賦 居眠り磐音』の簡単なあらすじ

 

土佐高知藩山内家の家臣の重富家に、次男・利次郎が生まれた。だが利次郎はやんちゃが過ぎて祖父の家に預けられることになる(「初恋の夏」)。一方、雑賀衆の姥捨の郷で育った霧子は、復讐の思いを秘めたまま、実の両親の仇である泰造に従っていた…(「霧子の仇」)。坂崎磐音の弟妹ともいうべき若者たちの青春の日々を描く連作集。 (「BOOK」データベースより)

 

第一話 初恋の夏
土佐高知藩山内家の江戸藩邸で生まれ、活発に過ぎるほどに育った重富利次郎の四歳の夏、藩邸奥庭で水遊びをしている最中に、殿様の山内土佐守豊敷に見つかってしまう。殿様は穏便にというものの、利次郎は、新庄家上屋敷内で暮らす母親の両親のもとで暮らすこととなった。

第二話 霧子の仇
高野山の麓にある雑賀衆の姥捨の里にいた霧子は、実の両親が雑賀衆流浪集団の泰造一味に殺されていたことを知り、里に帰ってきた泰造一味への復讐のために、共に里を出るのだった。一方、利次郎は佐々木玲圓道場への紹介状をもらい、住み込みでの入門を許されていた。

第三話 出会いのとき
姥捨ての里を出た泰造一味は、大納言家基の暗殺を試みるものの失敗し全滅していた。霧子は一人弥助に捕らえられ、なぜか家基一行に助けられ、佐々木玲圓坂崎磐根と共に玲圓道場へと連れてこられた。霧子は、ここで瘦せ軍鶏と呼ばれていた松平辰平や、でぶ軍鶏の重富利次郎らと出会うことになる。

第四話 平林寺代参
おこんと夫婦になることが決まり、また佐々木玲圓、おえい夫婦の養子となることを決心した坂崎磐根は、玲圓から禅刹平林寺への代参を頼まれた。おこんらと共に旅立った磐根たちは、日光の兼造一味を捕縛し、翌日、川越藩越前松平家の剣術指導をすることになった。

第五話 霧子への想い
磐根は川越藩国家老の石和田から、東軍流木俣軍兵衛敬重という人物が川越の夜の町を牛耳るようになり、役人も手が出せないでいるという話を聞き、これを解決してしまう。江戸へと戻った磐根は、思いつめた辰平から相談を受けることになる。また、利次郎は自分の霧子への想いに気付くのだった。

 

武士の賦 居眠り磐音』の感想

 

本書『武士の賦 居眠り磐音』は、連作という形をとってはいますが、実際は長編といってもいいと思われます。

居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の主要登場人物である重富利次郎と霧子の生い立ちや、二人が互いを意識するまでの歴史が描かれます。

これまで幾度か書いてきたように『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』が終わった今、このようなスピンオフシリーズが続くことはシリーズのファンとしては非常に喜ばしいことです。

特に、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の続編的な位置にあった『空也十番勝負シリーズ』がなかなか進展しない中、本書『武士の賦 居眠り磐音』のような作品は待ち望んだところです。

ちなみに、『空也十番勝負シリーズ』に関しては、「『空也十番勝負 決定版』8月より連続刊行開始!」との記事がありました。

 

それはともかく、忍びの者としての力量も高い霧子の存在は、磐根の仲間のあいだでも特異な地位にあるといえます。

居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の情報収集担当として弥助と共に大活躍をしている登場人物なのです。

その霧子がでぶ軍鶏と呼ばれたこともある重富利次郎と所帯を持つことになったのはシリーズ本編でも語られていました。

しかし、二人の生い立ちなどは何もわかっていなかったところ、このスピンオフシリーズで明らかにされたのです。

そうした本書は『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』本編のファンならずとも面白く読める作品です。

 

ただ、本編で語られている点については本書『武士の賦 居眠り磐音』では殆ど触れられておらず、詳しいことが思い出せません。

本当のファンであれば全巻を手元において、疑問点はすぐに以前の著作を参照して調べることができるのでしょうが、残念ながら図書館を自分の書斎としている我が身ではそれもできません。

たとえば、日光で家基を襲った一味の一員であったにも拘らず何故霧子だけが命を助けられたのか、など本編ではどういういきさつであったのか、全く覚えていないのです。

もう一点、重富利次郎と松平辰平とが、でぶ軍鶏と瘦せ軍鶏として並び称されるようになっていく、その経緯が一言で済んでいますが、この点も本編では詳しく描いてあったものかもわからないのです。

 

こうして本書『武士の賦 居眠り磐音』などのスピンオフシリーズを読んでいるとやはり本編がとても懐かしくなってきます。

やはり、もう一度『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』を、今は決定版が出て『居眠り磐音シリーズ』と改名されていると思いますが、最初から読み直すしかないようです。

酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)

本書『酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)』は、文庫本で322頁の『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十六弾です。

篠山藩の蔵の中で見つけた御伽草紙「鼠草紙」のおりょうによる模写も終わり、大奥での披露など様々な出来事が待ち構えている様子が描かれています。

 

酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)』の簡単なあらすじ

 

十三歳にして剣術に優れ、研ぎ仕事の腕も上げた駿太郎はアサリ河岸の桃井道場に入門し、年少組で稽古に励む。一方、肥前タイ捨流の修行者に勝負を挑まれた小籐次は、来島水軍流の一手を鋭く繰り出し堀に沈めてみせる―。さらに、おりょうの「鼠草紙」を披露するため招かれた江戸城の花見では、大奥上臈との酒合戦が待っていた。(「BOOK」データベースより)

 

第一章 神谷町の隠居所
小籐次と俊太郎は、おりょうの書いた掛け軸を土産に、今は五十六と名乗る紙問屋久慈屋の先代昌右衛門の隠居所への引越し手伝いをしていた。数日後、桃井道場年少組の年長者である木津留吉が、駿太郎ら年少組を引き連れて芝居町へと入っていく姿があった。

第二章 拐し騒ぎ
おりょうの「鼠草紙」の模写もひと段落して、丹波篠山からともに江戸までやってきたお鈴も望外川荘にいる理由がなくなり、久慈屋の奥向きの女中として奉公することになった。そこに、空蔵が駿河町の薬屋の孫娘が行方不明になり身代金の要求があったことを聞きつけてきた。

第三章 木刀と竹竿
おりょうの「鼠草紙」も完成し、老中青山忠裕の奥方や、大奥へ上がっての披露の話が持ち上がっていた。また、桃井春蔵の頼みに応じて俊太郎が学んでいるアサリ河岸の桃井道場へとやってきた小籐次は、門弟を相手に稽古をつけるのだった。

第四章 お鈴の迷い
久慈屋で女中として奉公を始めたお鈴だったが、何か気持ちが晴れずにいた。しかし、老中青山忠裕の奥方久子の望外山荘訪問に合わせ手伝いを兼ねて望外山荘へと行くことになったお鈴の顔には喜びの色が走るのだった。

第五章 吹上の花見
おりょうの「鼠草紙」の大奥での披露が、おりょうの大奥への入室は差しさわりがあるということから、吹上の庭で催されることになった。一方、小籐次が一度は命を助けた剣士大蔵内山門隠士が、小籐次との再びの対決をのぞんでいると聞こえてきた。

 

酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)』の感想

 

本書『酒合戦』でも常と変わらない小籐次とその家族たちの姿が描かれます。

本書で語られている事柄の中心は、小籐次ら家族の丹波篠山への旅行の際におりょうが見つけた「鼠草紙」をもとに、おりょうがすすめていた模写作品が出来上がったことです。

その新たな「鼠草紙」を巡り、老中青山忠祐の奥方久子が望外山荘へ来られ、また大奥へも披露しに行くことにもなります。

また、「鼠草紙」が仕上がったことによって、丹波篠山から江戸へと出てきたお鈴の仕事も終わったことになり、お鈴の今後のことも考えなければならないことになりますが、そこは久慈屋という大店が控えています。

そして、小籐次個人の問題として、やはり小籐次に戦いを挑む輩が登場するのです。

 

こうした出来事が、久慈屋の先代昌右衛門あらため五十六の引越しや、小籐次親子の研ぎ仕事、駿太郎の桃井道場での剣の稽古などの日常に加えて描写されます。

勿論、小籐次の剣劇の場面も用意されてはいますが、何と言ってもおりょうの「鼠草紙」の完成以上の出来事はないと言っていいでしょう。

本書『酒合戦』というタイトルのもとともなった、大奥での「鼠草紙」の披露の際の上臈末乃との飲み比べなどもありますが、このエピソード自体は大きなものではありません。

 

あい変らずに読みやすく、何も考えないで読み進めることができる小籐次のシリーズです。

今後どれくらい続くか分かりませんが、ただただ小籐次の世界にゆっくりと浸り、小気味のいい活躍に酔いしれるだけ、そういう一冊です。