独り立ち 吉原裏同心 37

独り立ち』とは

 

本書『独り立ち』は『吉原裏同心シリーズ』の第37弾で、2022年3月に340頁の文庫本書き下ろしとして出版された、長編の痛快時代小説です。

吉原会所頭取八代目四郎兵衛となった神守幹次郎は、苦境に陥った吉原の再生をどのようにして成し遂げるのか、今後の展開が気になる作品でした。

 

独り立ち』の簡単なあらすじ

 

端午の節句のその日、大門前に立った男女。一年余の京での修業を終え、吉原に戻った神守幹次郎と加門麻であった。再会を喜び合う吉原の面々だったが、長い闘いで吉原が失ったものは大きかった。幹次郎は会所を率い、吉原を再生させることを誓う。そんな中、廓で小さな騒ぎが。やがてそれが幕閣を巻き込む大騒動へと発展していく。新しく始まる吉原の運命やいかに。(「BOOK」データベースより)

 

一年という期間を経て、幹次郎と加門麻がやっと吉原に帰ってきた。

そして、町名主の面々も幹次郎が吉原会所八代目頭取となり、四郎兵衛を襲名することを受け入れることとなる。

ただ、裏同心としての幹次郎の存在をすぐになくすわけにもいかず、幹次郎は裏同心を兼ねることとなるのだった。

ところが、そんな幹次郎が正体不明の浪人者に襲われるという事件が起きた。

その浪人者から辿っていくと、吉原の大見世「豊游楼」を買い取ったという三左衛門という主へとたどり着いた。

その三左衛門の正体は海賊商いをしているらしく、蜘蛛道から天女池へ行った幹次郎を黒子衣装の女が襲って来るのだった。

 

独り立ち』の感想

 

本書『独り立ち』で、神守幹次郎と加門麻はやっと江戸吉原へと帰ってきます。

そして、前巻の『陰の人』において、吉原会所頭取の七代目四郎兵衛は、上様御側御用取次という重職にある朝比奈義稙一派の手により吉原の大門に吊るされるという最期を遂げてしまいましたが、今般、神守幹次郎が八代目四郎兵衛に就任することになったのです。

ただ、新しい顔も入った町名主の旦那衆の集まりではすんなりと認められたわけではなく、また、楼主の中には幹次郎を快く思わない者もいました。

そうしたなか、諸々の困難を乗り越え吉原のために尽くす神守幹次郎の姿が描かれているのが、本書『独り立ち』です。

 

新しく頭取となった幹次郎は、加門麻の力を借りて京の祇園との交流を考えたり、切見世女郎となっていたお里香という女郎が内藤新宿から逃げてきたことを知ってその逃亡の原因を取り除いたり、と早速に動き始めます。

また、新しく吉原京町二丁目の大見世「豊游楼」の楼主となっていた三左衛門が、大砲を備えた船で海賊働きをしていることを探り出し、これに対する策を練ることになります。

 

同時に、この時代の背景として老中の田沼意次のあとを受けて就任した松平定信による「寛政の改革」による極度の緊縮政策により吉原も苦境にあえいでいました。

その松平定信とは、先代四郎兵衛が陸奥白河へと密かに送っていた当時は禿の蕾といっていた定信の想い人のお香を通じて知己がありました。

というのも、定信の子を腹に宿した側室のお香を田沼意次の残党の襲撃から守りつつ江戸まで連れ戻したことがあったのです。

 

このようにして、新しくなった吉原の復興のために早速動き始める幹次郎ですが、新たな敵となった三左衛門が敵役として小粒であったことや、松平定信との関係も思ったほどではなかったことなど、思いのほかにあっさりとした処理でした。

やっと八代目四郎兵衛として動き始めることになった幹次郎ですから、かつての田沼一派のようなそれなりの敵役の登場を期待していただけに残念に思ったのです。

ただ、まだ新生吉原の最初ですので状況説明というか、今の幹次郎の背景を整理しているとも捉えられます。

次巻から、八代目頭取としての幹次郎の活躍をしたいしたいと思います。

光る海 新・酔いどれ小籐次(二十二)

光る海 新・酔いどれ小籐次(二十二)』とは

 

本書『光る海 新・酔いどれ小籐次(二十二)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第二十二弾で、2022年2月に345頁の文庫本として刊行された長編の痛快時代小説です。

 

光る海 新・酔いどれ小籐次(二十二)』の簡単なあらすじ

 

森藩藩主の命により、参勤交代に先行して国許の豊後国を訪れることになった小籐次。降って湧いた千両の使い道に頭を悩ませながらも、元服して「平次」の名を得た息子・駿太郎、妻・おりょうとともに江戸を留守にする。三河国で子次郎・薫子姫との再会を喜ぶ一家だったが、姫の身にまたしても危険が迫っていることを知り…。(「BOOK」データベースより)

 

第一章 月代平次
文政十年(1827)春、南町奉行筒井政憲は小籐次と元服をして平次となった駿太郎への礼のために久慈屋を訪れた。その翌日、駿太郎は、北町奉行与力の岩代壮吾から、札差から大金を搾り取る蔵宿師が出現しており小籐次の力を借りたいと伝言を頼まれた。

第二章 蔵宿師民部
小籐次は中田新八とおしんから、蔵宿師の菅原民部が老中青山忠裕に棄捐令を出すようにと言ってきたことを聞いた。菅原民部は、元御側衆陣内甲斐守道綱と同じ遊び仲間の伊勢屋次郎兵衛という札差と組んで互いの利を図っていたのだった。

第三章 漁師見習い
三河国にいる子次郎は三枝家所領に近い小さな漁村の網元である卯右衛門に自分の正体を明かして頼み、漁の手伝いをさせてもらうことになった。その子次郎を待っていたのは小籐次たちが薫子姫のもとを訪ねてくるとの手紙だった。

第四章 子次郎の思案
子次郎とお比呂は小籐次たちの泊まる部屋に苦慮していたが、子次郎は庭の楠木に、卯右衛門の四男の波平とその朋輩の与助の手を借りて小屋を作り上げてしまう。一方、江戸では年少組の八人が望外山荘に寝泊まりし、剣術の稽古をするのだった。

第五章 薫子との再会
老中青山忠裕の道中手形を持った小籐次一行は、三河の三枝家へとやってきて、薫子を始め、お比呂そして子次郎や波平、与助らの出迎えを受けていた。早速木の上の小屋に登り三河の内海を眺めた駿太郎はその美しさに感動を覚えるのだった。

 

光る海 新・酔いどれ小籐次(二十二)』の感想

 

本書『光る海 新・酔いどれ小籐次(二十二)』での小籐次たちは、豊後森藩第八代目藩主の来島通嘉から命じられた参勤下番へ同道するように命じられた旅と、大身旗本の身分と名を借りて札差から大金を搾り取る蔵宿師の問題とが中心となっています。

小籐次の剣の力の発揮場所としては菅原民部という蔵宿師の始末です。

この男は老中青山忠裕に棄捐令を出すように求めてきたりと、やりたい放題の悪行を重ねています。

また、もう一方は、三の在所に引っ込み暮らしている薫子姫子次郎との話です。

森藩の参勤下番へ同道することになった小籐次親子は、おりょうをも伴い三河の薫子姫と子次郎のもとを訪ね、小籐次親子の旅の間、おりょうは薫子姫のもとに滞在することになったのでした。

 

まず、蔵宿師の菅原民部の問題は、単に旗本という身分を振りかざし無理難題を通してきた不良旗本だけの問題ではなく、老中青山忠裕の進退問題まで絡んだ話になり、小籐次としても動かざるを得ません。

といって、なんとも半端な話であり、単純に小籐次の腕の見せ所をつくったにすぎないとも言えそうな展開です。

 

ただ、薫子姫と子次郎との挿話は何ともほほ笑ましく、木の上の小屋で三河の海を眺める場面など、自分の子供の頃を思い出す場面でもありました。

次巻から、森藩国許での困難な出来事が小籐次親子を待っていることでしょうが、その嵐の前の静けさを描き出した一編だと言えそうです。

このように、本書での出来事はある意味薫子姫と子次郎との話だけだとも言えそうな物語でした。

雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)

雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)』とは

 

本書『雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第二十一弾で、2021年11月に文庫本で刊行された343頁の長編の痛快時代小説です。

 

雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)』の簡単なあらすじ

 

日課の研ぎ仕事に精を出す小籐次親子の前に現れた貧相な浪人。駿太郎の大切な刀・孫六兼元を奪おうとして番屋にしょっ引かれたが、なんと仲間を殺して逃亡した。残された刀は、あの井上真改なのかー名刀を巡る真相と浪人の正体を追う一方で、立派に成長した息子の元服に頭を悩ませる小籐次。誰に烏帽子親を頼むべきか。(「BOOK」データベースより)

 

第一章 奇妙な騒ぎ
久慈屋の店先で研ぎ仕事をする小籐次親子のもとに人者たちが押しかけ、井上真改という名刀を研ぎのために預けたと騒ぎはじめた。番屋へ引き立てられて行った浪人たちだったが、その中の相良大八という人物がほかの浪人たちを殺して逃走してしまう。

第二章 活躍クロスケ
翌朝は大雪で駿太郎だけが研ぎ仕事を為しその夜も久慈屋で相良らの襲撃にそなえるのだった。ところが、相良大八なる浪人の本名も判明し、その者が所持していた井上真改は尼崎藩を巻き込んだ問題となるのだった。

第三章 蛙丸の雪見
望外山荘に戻った小籐次らは、雪景色を描きたいというおりょうを連れ、川向うへと渡り挨拶回りをなして久慈屋へとたどり着いた。

第四章 二口の真改
晦日のこの日もあい変らず雪が降り続き、小籐次は駿太郎の元服の儀式で頭を悩ませていた。文政十年(1827)の正月元旦、南町の近藤同心が連れてきた出羽米沢新田藩の用人によれば、相良大八に新田藩の有していた井上真改をだまし取られたというのだった。

第五章 駿太郎元服
小籐次は、駿太郎が乗せてきた御歌学者の北村舜藍とお紅、それに既に来ていた新八とおしんと共に、駿太郎の元服の話を始めた。その後、小籐次らは駿太郎の元服の挨拶も兼ねて、呼び出しを受けていた八代目森藩藩主久留島通嘉と会うのだった。

 

雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)』の感想

 

相変わらずに平穏な日々を送るというわけにはいかない小籐次とその子駿太郎です。

本書『雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)』では、メインとなる事件は久慈屋の店先で研ぎ仕事をする小籐次親子に刀の研ぎを依頼したと言いがかりをつけてきた浪人たちの騒ぎから始まります。

結局は二つの藩を巻き込んだ井上真改という刀を巡る騒動へと発展するのですが、ここで登場する井上真改という刀剣は実在する刀のようです。

詳しくは下記を参照してください。

 

本書を通した事件というわりには、あまり大きな出来事というわけではなく、ただ井上真改という刀だけが気になる物語でした

 

本書では駿太郎の元服という出来事も描かれています。シリーズとしてはこちらの方が大きな出来事というべきかもしれません。

駿太郎がその体の大きさも勿論、剣の腕もずば抜けているために、まだ十四歳だとは誰も思わない成長ぶりを見せています。

しかしながらこの正月で十四歳になった駿太郎は大人になるための儀式の元服の儀を終えねばならず、それには烏帽子親が大切な役目であり、その烏帽子親を誰に頼むかが非常に重要になります。

ここで烏帽子とは「成人男性としての象徴」であり、元服する男子に烏帽子をかぶせる役目を負うのが「烏帽子親」(えぼしおや)です。( 【刀剣ワールド】元服とは : 参照 )

 

本書『雪見酒 新・酔いどれ小籐次(二十一)』では、最後に小籐次の旧主である豊後森藩の第八代目藩主である来島通嘉に面会することになります。

そこで、次巻からの展開に大きくかかわるであろう事柄が示されます。

 

ともあれ、物語として軽く読めてなお且つ面白さを十分に保っているシリーズの一つであるのがこの『酔いどれ小籐次シリーズ』です。

ところが、本シリーズもこの八月をもって終了するとの告知がありました。

六月から三ヶ月の連続刊行し、第二十五巻をもって終了とのことです。

詳しくは下記を参照してください。

三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)

三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』とは

 

本書『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第二十弾で、2021年2月に文庫本で刊行された341頁の長編の痛快時代小説です。

 

三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』の簡単なあらすじ

 

大切な舟が水漏れするようになったが、金の工面に悩む小籐次。舟づくり名人・亀吉親方が思い出したのは、かつて小籐次が助けた花火師親子のことー人の縁が繋がってお目見えした新舟「研ぎ舟蛙丸」が江戸を大いに沸かせる中、ニセ鼠小僧の悪事が止まらない。奉行所と小籐次、そして元祖鼠小僧がタッグを組んで成敗に乗り出す!(「BOOK」データベースより)

 

第一章 新しい工房
船頭の兵吉から小籐次の仕事船は買い替えた方がいいとの忠告を受け、仕事船の持ち主である久慈屋の了解を得て新造することとなった。北割下水の船大工の蛙の親方こと亀作親方を紹介してもらい、蛙の親方のところにあった船を譲ってくれることとなった。

第二章 火付盗賊改との再会
小籐次のもとを火付盗賊改与力の小菅文之丞と同心の琴瀬権八とが二人が訪れ、小籐次と鼠小僧治郎吉との付き合いを話せと言ってきた。その後、子次郎を望外山荘の屋根裏に泊めることにした小籐次だった。

第三章 研ぎ舟蛙丸
新しい船が望外山荘に届き、蛙丸と命名されたその船で皆に挨拶回りをする小籐次だった。その後、駿太郎が一人で望外山荘へ帰ると、火付盗賊改の手先が蛙丸を盗み出そうとするのだった。

第四章 虫集く
小籐次は、火付盗賊改にとらわれている子次郎の仲間を助け出し、また偽物の鼠小僧治郎吉は表火之番の井筒鎌足とその三男坊の八十吉がだとの話を聞いた。翌日、仕事を終え望外山荘へ帰った小籐次と駿太郎の前には、おりょうに刀を突きつける小菅文之丞がいた。

第五章 三河の菓子
中田新八らに相談し、老中青山忠裕の命で両替商の錦木に莫大な金子が集まるその夜、小籐次親子や子次郎らは襲い来た井筒鎌足ら偽鼠小僧一味を一網打尽とするのだった。ことが終わり、三河の吉田宿の近くに子次郎の姿があった。

 

三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』の感想

 

本書『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』では、小籐次親子の足ともいえる研ぎ船がいよいよ水漏れをし始め、新しい船を手に入れることになります。

と同時に本書でのメインの出来事である鼠小僧治郎吉の偽物は、とうとう人殺しまで犯してしまいます。

また、火付盗賊改が小籐次に狙いをつけ、鼠小僧との関連を疑い始める事態も起こります。

火付盗賊改とは、あの池波 正太郎の『鬼平犯科帳』という作品で高名な火付盗賊改ですが、本書に登場する火付盗賊改はかなりのワルとして描かれています。

同時に偽鼠小僧も登場し、本書ではこれらの火付盗賊改と偽鼠小僧が敵役となっています。

 

 

ただ、今回登場の敵役はあまり魅力がありません。

とくに、表火之番の井筒鎌足とその三男坊の八十吉に関してはあまり書き込みもなく、その人物像が明確ではありません。

勿論、それなりの背景は書いてはあるのですが、何となくの印象であって小籐次に対峙する悪役としてはよく分かりません。

加えて、彼らに関しての出来事ももう一方の敵役である小菅文之丞と琴瀬権八という火付盗賊改の二人の存在と出来事とに分散されており、若干分かりにくい部分があります。

たしかに、毎回毎回新たな事件を設け、小籐次に相対するそれなりの敵役を設けなければならない作者はさぞや大変だろうと思います。

でも、この敵役がそれなりに魅力が無ければ主役のヒーローが目立たないのです。

 

とはいえ、新たな研ぎ船の「蛙丸」に関する話が設けられており、その船にまつわる人物や会話はいかにも『酔いどれ小籐次シリーズ』らしく、ほほ笑ましくもあります。

あと数巻しかないこのシリーズです。

最後まで丁寧に読んでいきたいものです。

青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)

青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』とは

 

本書『青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十九弾で、2020年11月に文庫本で刊行された355頁の長編の痛快時代小説です。

 

青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』の簡単なあらすじ

 

江戸で有名な盗人「鼠小僧」は自分だ、とついに明かした子次郎。忍び込んだ旗本の屋敷で出会った盲目の姫君を救って欲しい、と小藤次に頼む。姫を側室にと望んでいるのは、大名・旗本の官位を左右する力を持つ高家肝煎の主で、なんと「幼女好み」と噂のある危険な人物だという…懐剣を携え悲壮な決意をする姫を毒牙から守れるか。(「BOOK」データベースより)

 

第一章 桃井道場様がわり
前巻『鼠異聞』で、桃井道場の年少組の五人と北町奉行所与力見習の岩代壮吾を加えた六人と共に、久慈屋の紙納めの旅の付き添いという大役を終えた小籐次親子だった。この旅は岩代壮吾や年少組にも学びがあったようで、剣術の稽古も見違えるものとなっていた。

第二章 望外川荘の秘密
久しぶりに鈴とお夕の望外山荘宿泊が決まった日、小籐次とおりょうは夕の父桂三郎の悩みについて相談をしていた。また、子次郎は件の懐剣の持ち主を助けてほしいと願ってきていた。また、駿太郎は望外山荘に新たに見つけた屋根裏部屋について二人に話していた。

第三章 桂三郎の驚き
望外山荘へとやってきた夕の両親の桂三郎とお麻は小籐次から独立の話を聞いたが、世話になっている小間物屋との関係で不安があった。すべてを委ねられた小籐次は小間物屋へ行き、今後品物を納めることはないとの話をつけるのだった。

第四章 おりょうの迷い
おりょうは久慈屋の隠居所を飾る画としては余生を過ごす場には萍(うきくさ)紅葉の方がいいと考えながら筆を動かしていた。一方小籐次は懐剣の持ち主の三枝家の目の見えない薫子に会い、三枝家のために高家肝煎に差し出されたのちに自害するつもりであることを知る。

第五章 旅立ちの朝(あした)
小籐次は薫子を望外山荘へ隠したところ高家肝煎大沢基秌に雇われた五人組が現れたものの、駿太郎と岩代壮吾が待ち構えていた。小籐次は新八やおしん、それに子次郎と共に高家肝煎大沢基秌を三枝家で待ち構えるのだった。

 

青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』の感想

 

本書『青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』では、前巻の『鼠異聞』で登場した子次郎が研ぎを依頼してきた懐剣の持ち主の薫子姫をめぐる物語が中心になっています。

と同時に、小籐次のもとの住まいである新兵衛長屋の住人である錺職人の桂三郎とその娘のお夕の新しい仕事場を設けることに奮闘する小籐次の姿もあります。

つまりは、常と変わらない小籐次親子のいつもの日常が描かれているのですが、そこでは駿太郎の成長とあわせて桃井道場の年少組の仲間たちの成長も描かれることになります。

こうした小籐次の周りの人々についての描写もシリーズの魅力の一つになっていると思われます。

 

とはいえ本シリーズの一番の魅力は、もくず蟹に似ている来島水軍流の遣い手である小籐次という人物その人のキャラクターであることは間違いありません。

そもそも小籐次は、浪人となって四家の大名行列に斬り込み掲げられている御鑓を奪って旧主の恥辱を雪いだことから一躍江戸の人気者となったという人物ですからよくできています。

その小籐次も初期の設定からはかなり変化を見せ、今ではおりょうという昔から片想いの女性とも結ばれており、駿太郎という大人顔負けの息子も授かっています。

親子で研ぎ仕事をこなしながら、久慈屋やそのほかの様々な人たちから持ち込まれる難題をこなし、久慈屋の主からも皆小籐次に頼り過ぎだと言われるほどになっているのです。

 

本書『青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』でもそのことは同様で、前巻『鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』から登場してきている子次郎の持ち込んだ懐剣にまつわる姫君を救うという難題に挑むことになります。

この姫君がまた小説の中にしか存在しえないだろうほどの純真無垢な存在で、だからこそ子次郎も命懸けでこの姫君を守ろうという気にさせられるのですが、こうした存在も小籐次シリーズならではのことかもしれません。

時代小説で「男の夢」を描いてきたという佐伯泰英という作家ならではの一つの証がこういう点にも表れていると言えるのでしょう( 本の話 : 参照 )。

また、本書『青田波』では新兵衛長屋に住む小籐次の昔馴染みのお夕親子の新しい職場も久慈屋の力を借りて設けたりと、実に忙しい小籐次です。

 

このシリーズもすでに四十巻を軽く超え、そうは長くないという情報もあります。

個人的には佐伯泰英の書く痛快時代小説シリーズの中では一番好きなシリーズですから終わるのはとても残念なことですが、それも仕方のないことなのでしょう。

残り少ない物語をゆっくりと楽しみたいと思います。

異変ありや 空也十番勝負(六)

異変ありや 空也十番勝負(六)』とは

 

本書『異変ありや 空也十番勝負(六)』は『空也十番勝負シリーズ』の第六弾で、2022年1月に文庫本で刊行された、佐伯泰英自身のあとがきまで入れて351頁の長編の痛快時代小説です。

何とか生き永らえた空也が、江戸の家族や長崎の仲間たちのあたたかな眼差しのなか新たな冒険へ旅立つ姿が描かれ、しかしどこかで似た場面を見た気もする作品でした。

 

異変ありや 空也十番勝負(六)』の簡単なあらすじ

 

3年ぶりの書き下ろし新作!

武者修行中の嫡子・空也の身を案じる
江戸の坂崎磐音のもとに、
長崎会所の高木麻衣から文が届く。

薩摩の酒匂一派最後の刺客、太郎兵衛との勝負の末、
瀕死の重傷を負った空也は、
出島で異人医師の手当てを受けたものの、
いまだ意識が回復しないという。

懸命の介護を続ける麻衣のもとを高麗の剣術家が訪れ、
二日間、空也とふたりだけにしてほしいと願い出るが……。

目覚めた空也は何をなすのか!?

空也の武者修行が再び動き出す!(内容紹介(出版社より))

 

異変ありや 空也十番勝負(六)』の感想

 

本『空也十番勝負シリーズ』は、一旦は第五弾『青春篇 未だ行ならず(上・下巻)』をもって、「青春篇完結!」ということが言われました。

 

 

しかし、ここに『空也十番勝負シリーズ』は再掲することになったようです。

このシリーズ再開の経緯は著者佐伯泰英本人が本書のあとがきで書いておられます。

このあとがきは下記サイトにも「「空也十番勝負」再開によせて」として再掲してありますのでそちらを参照してください。

ただ、それほど詳しいことは書いてありません。

 

 

本書読み初めからしばらくは、江戸の磐根らの心配をよそに空也の意識が戻らないままに進みます。

何とか意識を取り戻してからは今度は逆にそれまで死にかけていた人物とは思えないほどの活躍を見せることになります。

 

本書『異変ありや 空也十番勝負(六)』で意識を取り戻してからの空也は上海へと乗り出し、彼の地で活躍する姿を見せることになりますが、どうもどこかで読んだような印象です。

それが何に似ているのか、未だはっきりとは思い出せませんが、多分佐伯泰英の『上海 交代寄合伊那衆異聞』ではないかと思います。

この作品はこのブログを書き始めるよりもだいぶ前に読んだ作品なので内容もよく覚えてはいないので、はっきりとしたことは言えません。

 

 

ともあれ、江戸の磐根や、空也の妹の睦月中川英次郎と結ばれることになったり、磐根のもとにいてそれなりに落ち着いていた薬丸新蔵も再びその行方が分からなくなったりと、何かと変化が起きているようです。

このシリーズも空也の物語ではありながらも、『居眠り磐音シリーズ』の続編としての趣きが強く感じられるようになってきました。

今後の展開を強く待ちたいと思います。

異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版

異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版』とは

 

本書『異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版』は『空也十番勝負シリーズ』の第四弾で、2021年11月に文庫本で刊行された317頁の長編の痛快時代小説です。

相変わらずに長崎の島々での逃避行を続けている空也ですが、次第に幕府との絡みが出てくる展開へと移行しています。

 

異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版』の簡単なあらすじ

 

眉月に縁がある高麗の陸影を望む対馬へと辿り着いた空也。坂崎磐音の嫡子だと知った藩の重臣から藩士への剣術指導を請われ、道場でともに稽古することになる。しかし、朝鮮の剣術家と立ち合う案を断ったことで、藩からの追跡を受ける身に。山越えの途中に立ち寄った杣小屋で出会った、江戸弁を話す小間物商と同道するが…。(「BOOK」データベースより)

 


 

空也はいま、五島列島野崎島を後にして対馬の北端にある久ノ下崎にいて、はるかに渋谷眉月の血に流れる高麗の地を眺めていた。

その場所で対馬藩与頭の唐船志十右衛門と出会うものの、唐船志との朝鮮の帆船への同道を断り佐須奈を出立したため唐船志から追われる身となってしまう。

そのまま下島へ向かう途中、対馬藩の阿片密輸を調べている隠密の鵜飼寅吉と名乗る男と出会うのだった。

鵜飼の仕事の手伝いも終わり壱岐の島へと行った空也は、空也を追っている李智幹の息子の李孫督という高麗人から剣の教えを受けていた。

一方、寛政十年正月の江戸では、尚武館小梅村道場にいた薬丸新蔵が薩摩から来た東郷示現流の五人の刺客を退け、行方をくらますのだった。

また磐根のもとを眉月の父親の渋谷重恒や、空也が世話になった肥後人吉藩御番頭常村又次郎が訪れ、空也のことについて話していくのだった。

 

異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版』の感想

 

本書『異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版』では、東郷示現流・酒匂兵衛入道一派の手から逃れ、五島列島から対馬へとたどり着いた空也の姿が描かれます。

とはいえ、江戸の磐根たちの消息もかなり詳しく描かれていて、磐根の息子空也の武者修行の物語でありながらも、やはり磐根シリーズの続編という趣きがかなり強くなって来ているようです。

空也自身の出来事としては、空也の息の根を止めようとする東郷示現流からの討手との戦いの日々という側面があります。

その上で、行く先々の土地特有の流派や腕達者から教えを請いながらの旅の一面は本書でも同様であり、新たに鵜飼寅吉や李孫督という知己を得ることになります。

 

この『空也十番勝負シリーズ』は、佐伯泰英という作家の作品の中でも剣豪ものと分類できる『密命シリーズ』と同じように、剣の道を志す者、ストイックなその生き方と強さへの憧れを満たしてくれていると思われます。

 

 

特に本『空也十番勝負シリーズ』では、若干十六歳の空也が武者修行の旅に出て、十九歳の今ではかなりの腕になっている姿を、いかにも痛快小説の形式で描き出してあるのですから人気があるのも当然だと思われます。

つまりは、若干のご都合主義的な進展と、結果的に誰にも負けない強さを持つ主人公の目を見張る活躍という展開の時代小説であり、読者の興味を引くストーリーがあるのです。

 

居眠り磐音シリーズ』も、当初は市井に暮らす素浪人の活躍する物語でしたが、巻を重ねるにつれ磐根の姿も変化し、剣の遣い手としての磐根の姿を描くシリーズとなっていました。

でも、剣の遣い手としてストイックな一面をのぞかせてはいたものの、磐根の立ち位置として身元の確かな腕の立つ浪人という位置づけはそのままでした。

ところがその子の空也の姿を描くこの『空也十番勝負シリーズ』は、まさに『密命シリーズ』同様の剣豪ものと言える雰囲気を持っています。

それに加えて『居眠り磐音シリーズ』の登場人物もまたそのままに登場し、磐根の物語の続編としての面白さも持っているのですから、面白くないはずがありません。

さらには、本『空也十番勝負シリーズ』では肥後藩人吉から始まり、薩摩、そして再び肥後八代を経て五島列島、そして対馬、壱岐と熊本、長崎を旅しており、その土地々々の歴史などが紹介してあるのも興味を惹きます

 

こうして本書『異郷のぞみし 空也十番勝負(四)決定版』もまた佐伯泰英の作品らしい物語として、気楽に楽しく読める作品だと言えるのです。

陰の人 吉原裏同心 36

陰の人 吉原裏同心 36』とは

 

本書『陰の人 吉原裏同心 36』は、作者本人のあとがきまで入れて文庫本で347頁の、『吉原裏同心シリーズ』第三十六弾となる長編痛快時代小説です。

これまでにない危機が迫った吉原に神守幹次郎はどのように動くのか、若干の期待外れの感はあったものの、今後の展開に期待が高まる一冊でした。

 

陰の人 吉原裏同心 36』の簡単なあらすじ

 

吉原を過去最大の危機が襲う。会所頭取、四郎兵衛の無残な姿。すべてを乗っ取らんと着々と勢力を固める一味。その周倒な計略に、残された面々は苦境に耐えるばかり。一方、修業中の京から姿を消した神守幹次郎。最後の頼みの綱ともいえる彼は一体どこにいるのか?そして、吉原は生き残れるのか…!?いま「吉原裏同心」は新たなる時代へと踏み出す!(「BOOK」データベースより)

 

吉原会所頭取の四郎兵衛が殺されてしまった前巻『祇園会』のあと、残された三浦屋の四郎左衛門が吉原会所の仮の頭取を務めていた。

しかし、七代目頭取の四郎兵衛ほどの人脈も経験もない四郎左衛門は、吉原の今後について何も手を打てないでいた。

そうした中、江戸の南町奉行所定廻り同心の桑原市松や身代わりの佐吉からの文を受けてすぐに京都祇園から姿を消した神守幹次郎は姿を見せずにいた。

そのことは幹次郎の妻の汀女をはじめ吉原会所の番方である仙右衛門や吉原の女裏同心の嶋村澄乃にしても同様であり、依然その行方が分からずにいたのだった。

 

陰の人 吉原裏同心 36』の感想

 

本書『陰の人 吉原裏同心 36』は、大きな転換期を迎えた吉原の危機に際し、神守幹次郎がいかなるように動き、どのようにして吉原の危機を救うのか、に焦点が当てられます。

同時に、シリーズの構成として大きな変化をもたらしている巻でもあります。

それは、この巻の最後に作者の「あとがき」で述べられているのですが、これまで吉原裏同心の神守幹次郎を主人公とするこのシリーズは「吉原裏同心」「吉原裏同心抄」「新・吉原裏同心抄」と名前を変えて続いてきました。

しかしそれをいったん解消し、すべての巻を通して『吉原裏同心シリーズ』として通し番号を振ることになるというものです。

このことは「吉原裏同心|佐伯泰英 特設サイト | 光文社」でも、本書名として『吉原裏同心 36 陰の人』と表記してあります。

そして同サイトにはまた、作者佐伯泰英本人の「読者へのメッセージ」として、文庫本の「あとがき」と同文も掲載してありますので、ここらの経緯はそのサイトを参照してください。

 

ともあれ、四郎兵衛という吉原の実力者を失うことになった吉原最大の危機は本書で一応の終結を見ます。

しかし、もう少し様々な出来事を経たうえで皆の力を合わせた末に吉原の本来の姿が戻ってくると思っていた私にとって、その処理の仕方は一読者としては決して納得のいくものではありませんでした。

そのことの大きな理由の一つとして、本書『陰の人 吉原裏同心 36』のクライマックスの処理がいまひとつ納得のいかないものではあったことも挙げられます。

 

しかしながら、シリーズとしては『居眠り磐音シリーズ』や『酔いどれ小籐次シリーズ』などと並ぶ人気シリーズと育っている本『吉原裏同心シリーズ』シリーズです。

多分、第八代目の吉原会所頭取に就くであろう神守幹次郎の新たな活躍を期待したいものです。

続巻を楽しみに待ちたいと思います。

狐火ノ杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7

狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』とは

 

本書『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第七巻の、文庫本で355頁の長編の痛快時代小説です。

本書ならではの特別な出来事というよりはシリーズの流れに乗っていて、磐根の波乱万丈の日常がいつものとおりに描かれています。

 

狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』の簡単なあらすじ

 

晩秋の風情が江戸を包む頃、深川六間堀、金兵衛長屋に住む坂崎磐音は相も変らぬ浪々の日々を送っていた。そんな折り、両替商・今津屋の心遣いもあり、働きづめのおこんの慰労を兼ねて、品川柳次郎らと紅葉狩りにでかけたが、悪行をなす不埒な直参旗本衆に付け狙われて…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を薙ぐ、大好評!痛快時代小説第七弾。(「BOOK」データベースより)

 

今津屋吉右衛門の内儀である艶の葬儀も済み、おこんの慰労を兼ねての紅葉狩りでも暇を持て余した旗本の部屋住との騒動も決着をつけた磐根だった。

その磐根には、不満を抑えつつ何とか産物の品質向上に努める話し合いができたとの中居半蔵からの文が届いていた。

また、磐根の加賀行きの折に縁を持った鶴吉の問題の処理を終えた磐根のもとに、中川淳庵を狙う血覚上人を頭にする裏本願寺別院奇徳寺一派が再び淳庵をつけ狙っているという報せがもたらされた。

さらに能登湯の主の加兵衛の頼みごとを片付けた磐根だったが、王子稲荷への新しい幟を納める由蔵とおもんの共をしながら、噂の王子稲荷で見られるという噂の狐の行列の見物へ行くことになる。

ところが、狐の行列の見物中にお紺がさらわれてしまうのだった。

 

狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』の感想

 

本書『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』は、前巻『雨降ノ山』と同様に、再び取り戻した江戸での日常の延長線上にある物語です。

関前藩の産物を江戸で売りさばくという関前藩の財政再建の話は進捗状況が少しだけ示されるだけで、本書での話は細かな個別のエピソードで構成されているのです。

最初は、艶の看護や葬儀で気の遣い通しだったおこんのために企てられた紅葉狩りの際に出会った旗本の部屋住みの連中とのいざこざがあります。

次いで、加賀の金沢で縁を持った鶴吉が磐根を訪ねてきてひと騒動が巻き起こります。

また、これまでも登場してきた磐根の長崎行きの折に知り合った中川淳庵を付け狙う血覚上人の一味がいて、この一味との事件が語られますが、この話決着は次巻への持ち越しとなっています。

次いで、馬喰町の能登湯の主の加兵衛の頼みごとを解決し、最後に王子稲荷で毎夜狐の行列見物に言った際におこんが攫われるという事件がおきるのです。

 

本書では、このように小さなエピソードが語られる痛快時代小説の典型と言える構成になっています。

先に述べたように、シリーズを通しての関前藩の再建などの大きな流れはその様子が紹介されるだけです。

その意味では特別なことは何も起きない回だということができると思います。

普通に痛快時代小説として単純に楽しんで読むべき巻だということでしょう。

大河小説である以上はこうした回もあってしかるべきでしょうし、一息ついた巻だということができるかもしれません。

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』とは

 

本書『雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第六巻の、文庫本で357頁の長編の痛快時代小説です。

シリーズの序盤での物語の主な流れである関前藩の財政再建への道筋が見えてきてなか、磐根の波乱に満ちた日常は続いていきます。

 

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』の簡単なあらすじ

 

夏を彩る大川の川開きを間近に控えた頃、深川六間堀の金兵衛長屋に住む浪人、坂崎磐音は日々の生計に追われていた。川開きの当日、両替商の今津屋から花火見物の納涼船の護衛を頼まれる。不逞の輩が出没するというのだが、思わぬ女難にも見舞われ…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を斬る!痛快時代小説第六弾。(「BOOK」データベースより)

 

藩実収のおよそ五年分の借財がある豊後関前藩は、今津屋の助けを借りて関前藩の海産物を江戸で高値で卸し増収をはかるという財政再建に着手したところだった。

その道筋をつけた磐根は、今津屋吉右衛門とその妻お艶、艶の世話係のおこんと荷物持ちの小僧宮松の四人と共に大山詣でをすることになった。

旅の途中でならず者の駕籠かきや無頼の侍らの襲撃を退けた磐根だったが、艶の具合が悪くなってしまう。

お艶は数年前から体の不調を自覚していたはずであり、今回の大山詣でも自分の死を自覚したお艶の実家への里帰りをも兼ねた意思だったのだろうと思われた。

磐根がお艶を背負っての参拝を済ませた一行は思いもかけず伊勢原滞在が長引き、磐根とおこん、宮松は先に江戸へと帰るのだった。

そんな中、吉右衛門、お艶らが滞在する伊勢原宿子安村から便りが届いた。

 

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』の感想

 

本書『雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』は、前巻で奈緒を追っての旅も終わり、日常を取り戻した磐根でした。

本書からは磐根がかつて仕えていた関前藩の財政再建という難題に藩の外から道筋をつける姿が描かれます。

ただ、そこでも今津屋の力を借りることとなり、磐根の今津屋との付き合いもより深くなっていくのでした。

 

痛快時代小説である本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』では、物語の軸となる関前藩の財政再建と、今津屋に降りかかる災難や周りの人々の困りごとをともに助けながら、それでも力強く生きていく磐根の姿に惹かれるのです。

本書『雨降ノ山』では、今津屋夫婦の大山詣でに付き添いながら襲い掛かる暴漢を撃退する磐根の姿があります。

当然のことながら磐根の剣が暴漢を撃退し、今津屋一行を無事に送り届けるのです

このほかにも今津屋の両国川開きで仕立てる屋根船の護衛や、騙りの安五郎こと一蔵という無宿者を追って危ない目に逢いかける幸吉を助けたりと、あい変らずに忙しい磐根です。

 

本書『雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』はこのように、シリーズを通しての出来事としての関前藩の財政再建と、各巻のなかの章単位で巻き起こる出来事という二本立ての出来事に対しての磐根の対応という定番の形で話は進みます。

シリーズものですから、こうした構成が基本となり、これまでも、そしてこれからも進んでいくことになります。

そうした中で新しい敵の存在が語られ、新規の魅力を持ったシリーズとして展開されていくことになるのです。