雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』とは

 

本書『雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第六巻の、文庫本で357頁の長編の痛快時代小説です。

シリーズの序盤での物語の主な流れである関前藩の財政再建への道筋が見えてきてなか、磐根の波乱に満ちた日常は続いていきます。

 

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』の簡単なあらすじ

 

夏を彩る大川の川開きを間近に控えた頃、深川六間堀の金兵衛長屋に住む浪人、坂崎磐音は日々の生計に追われていた。川開きの当日、両替商の今津屋から花火見物の納涼船の護衛を頼まれる。不逞の輩が出没するというのだが、思わぬ女難にも見舞われ…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を斬る!痛快時代小説第六弾。(「BOOK」データベースより)

 

藩実収のおよそ五年分の借財がある豊後関前藩は、今津屋の助けを借りて関前藩の海産物を江戸で高値で卸し増収をはかるという財政再建に着手したところだった。

その道筋をつけた磐根は、今津屋吉右衛門とその妻お艶、艶の世話係のおこんと荷物持ちの小僧宮松の四人と共に大山詣でをすることになった。

旅の途中でならず者の駕籠かきや無頼の侍らの襲撃を退けた磐根だったが、艶の具合が悪くなってしまう。

お艶は数年前から体の不調を自覚していたはずであり、今回の大山詣でも自分の死を自覚したお艶の実家への里帰りをも兼ねた意思だったのだろうと思われた。

磐根がお艶を背負っての参拝を済ませた一行は思いもかけず伊勢原滞在が長引き、磐根とおこん、宮松は先に江戸へと帰るのだった。

そんな中、吉右衛門、お艶らが滞在する伊勢原宿子安村から便りが届いた。

 

雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』の感想

 

本書『雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』は、前巻で奈緒を追っての旅も終わり、日常を取り戻した磐根でした。

本書からは磐根がかつて仕えていた関前藩の財政再建という難題に藩の外から道筋をつける姿が描かれます。

ただ、そこでも今津屋の力を借りることとなり、磐根の今津屋との付き合いもより深くなっていくのでした。

 

痛快時代小説である本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』では、物語の軸となる関前藩の財政再建と、今津屋に降りかかる災難や周りの人々の困りごとをともに助けながら、それでも力強く生きていく磐根の姿に惹かれるのです。

本書『雨降ノ山』では、今津屋夫婦の大山詣でに付き添いながら襲い掛かる暴漢を撃退する磐根の姿があります。

当然のことながら磐根の剣が暴漢を撃退し、今津屋一行を無事に送り届けるのです

このほかにも今津屋の両国川開きで仕立てる屋根船の護衛や、騙りの安五郎こと一蔵という無宿者を追って危ない目に逢いかける幸吉を助けたりと、あい変らずに忙しい磐根です。

 

本書『雨降ノ山 ─ 居眠り磐音江戸双紙 6』はこのように、シリーズを通しての出来事としての関前藩の財政再建と、各巻のなかの章単位で巻き起こる出来事という二本立ての出来事に対しての磐根の対応という定番の形で話は進みます。

シリーズものですから、こうした構成が基本となり、これまでも、そしてこれからも進んでいくことになります。

そうした中で新しい敵の存在が語られ、新規の魅力を持ったシリーズとして展開されていくことになるのです。

龍天ノ門 ─ 居眠り磐音江戸双紙 5

龍天ノ門 ─ 居眠り磐音江戸双紙 5』とは

 

本書『龍天ノ門 ─ 居眠り磐音江戸双紙 5』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第五巻の、文庫本で361頁の長編の痛快時代小説です。

家族のために遊郭にその身を売った磐根の許嫁であった奈緒を追って江戸まで帰ってきた磐根の日常が始まりました。

 

龍天ノ門 ─ 居眠り磐音江戸双紙 5』の簡単なあらすじ

 

新玉の年を迎えた江戸深川六間堀、金兵衛長屋。相も変わらぬ浪人暮らしの磐音だが、正月早々、八百八町を震撼させる大事件に巻き込まれる。さらに生まれ故郷の豊後関前藩でも新たな問題が出来する。日溜まりでまどろむ猫の如き磐音の豪剣が砂塵を巻いて悪を斬る。著者渾身の書き下ろし痛快時代小説第五弾。(「BOOK」データベースより)

奈緒を追って長崎から江戸までの旅を終えた磐根にやっと日常が戻る。

それは関前藩の財政の建て直しであり、今津屋の手伝いであり、また南町奉行所与力の笹塚孫一の手伝いの日々だった。

まずは、関前藩のことは今津屋に関前藩の後ろ盾となってもらい、中居半蔵と共にあたらしく江戸家老となった福坂利高に関前藩の実情や江戸の町の暮らしを知ってもらうことだった。

笹塚の手伝いとしては、漆工芸商の加賀屋の家族など十五人が殺される事件があり、次に竹村武左衛門から頼まれた仕事は霜夜の鯛蔵という盗賊が絡んだ仕事となり、さらには武左衛門が仕事先から帰らないという事件が起こる。

共に南町の笹塚孫一の懐を潤すことになるが、今度は金兵衛長屋に新しく越してきたお兼という女が何かと問題を起こすのだった。

磐根故人のことでは、今では白鶴と呼ばれている奈緒が浮世絵として売り出され、そのことを知った関前藩江戸家老の福坂利高が藩の恥だとして吉原の白鶴の元へ行くと言い出すのだった。

 

龍天ノ門 ─ 居眠り磐音江戸双紙 5』の感想

 

本巻『龍天ノ門 ─ 居眠り磐音江戸双紙 5』では、再び笹塚孫一の手により金の匂いのする事件現場に駆り出される磐根の姿が描かれます。

同時に、借財に苦しむ磐根の故郷である豊後関前藩のために、紛争する磐根の姿もあります。

また、自ら苦界に身を落とした今では白鶴と呼ばれている吉原の奈緒を見守る磐根の姿もあるのです。

 

そういう意味では、大河小説である本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の基本的なかたちに戻っているということができるかもしれません。

それは、主人公の立ち回りであり、恋物語であり、市井での暮らしの姿でもあり、その全てを普通に読ませてくれるのが本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』であり、佐伯泰英作品でもあります。

痛快時代小説としての型をきちんと押さえ、読み手の心を離さない細かな仕掛けとストーリーは本書『龍天ノ門』でも生きています。

一夜の夢 照降町四季(四)

一夜の夢 照降町四季(四)』とは

 

本書『一夜の夢 照降町四季(四)』は、『照降町四季シリーズ』の第四弾で、文庫本で368頁という長さの長編の痛快人情時代小説です。

本書では佳乃の姿は脇へと追いやられ、照降町の復興の姿が描かれてはいるもののそれは背景でしかなく、結局は八頭司周五郎という浪人の痛快時代小説になっている物語です。

 

一夜の夢 照降町四季(四)』の簡単なあらすじ

 

派閥争いで命を落とした周五郎の兄。存続の危機に立たされた旧藩・豊前小倉藩から呼び出された周五郎は、照降町を去らなくてはならないのか。そして、佳乃との関係はー大火から九ケ月、新設された中村座で佳乃をモデルにした芝居の幕が開く。大入り満席の中には、意外な人の姿があった。勇気と感動の全四巻ついに完結!(「BOOK」データベースより)

 


 

八頭司周五郎は、二年数か月ぶりに、実家の八頭司家のある豊前小倉藩十五万石小笠原家の江戸藩邸を訪れた。兄裕太郎が何者かに殺されたというのだ。

周五郎は、当主を失った八頭司家の、そして豊前小倉藩の先行きを考えなければならず、兄の死は病死として処理される必要があった。

そこで当代藩主小笠原忠固の直用人鎮目勘兵衛に会い、兄裕太郎の死の真相を告げ、藩のためにも病死としての届け出を願い出た。

ところが、その足で藩主の忠固本人に会うこととなり、つまりは周五郎の藩内の内紛へのかかわりを余儀なくされることになるのだった。

 

一夜の夢 照降町四季(四)』の感想

 

前巻の『梅花下駄 照降町四季(三)』では、「佳乃が主人公の人情話というには無理がありそうな展開」と書いたのですが、本書『一夜の夢 照降町四季(四)』でもその言葉はそのままにあてはまりそうです。

というのも、本書冒頭早々に八頭司周五郎の兄八頭司裕太郎の死が告げられ、兄の死は小倉藩の内紛に巻き込まれての落命であったことが示されます。

そして、当然のごとく藩内抗争に巻き込まれる周五郎がいて、早晩照降町から消えなければならない定めが示唆されています。

その後、己丑の大火で焼失した照降町の復興の様子を挟みながら、結局は周五郎の活躍する姿が描かれることになります。

つまりは、佐伯泰英の他の『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』(または『居眠り磐音シリーズ』)や『酔いどれ小籐次シリーズ』などの痛快時代小説と同じく、市井に暮らす浪人が、かつて仕えていた藩内の抗争などに巻き込まれ、藩主に助力してその抗争を終わらせる、という定番の物語になってしまっているのです。

 

 

それは、せっかくの佐伯泰英の新しい試みと思えた本『照降町四季シリーズ』も従来の佐伯泰英の物語と同様であり、何ら変化はなかったという他ありません。

本『照降町四季シリーズ』は、当初こそ鼻緒挿げ職人の佳乃という女性を中心にした物語であり、若干の新鮮味を感じなくもありませんでした。

しかし、結局は八頭司周五郎という浪人の物語へと変化していき、それで終わったというほかない話だったと言うしかありません。

 

本書『一夜の夢 照降町四季(四)』でこの『照降町四季シリーズ』は終わることになるのですが、どうにも微妙なシリーズというしかないと思います。

雪華ノ里─ 居眠り磐音江戸双紙 4

雪華ノ里─ 居眠り磐音江戸双紙 4』とは

 

本書『雪華ノ里─ 居眠り磐音江戸双紙 4』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第四巻で文庫本で345頁の長編の痛快時代小説です。

何とか豊後関前藩内部の争いを終えた磐根の、自ら苦界に身を落とした奈緒を追う旅はまた江戸へと戻る旅になる、シリーズ中休みの一冊でした。

 

雪華ノ里─ 居眠り磐音江戸双紙 4』の簡単なあらすじ

 

秋の気配をただよわす西海道の峠道をいそぐ一人の若い武士。直心影流の達人、坂崎磐音であった。忽然と姿を消した許婚、奈緒の行方を探す途上、道連れとなった蘭医が因で、凶暴な異形僧たちに襲撃されることに…。些事にこだわらず、春風駘蕩のごとき磐音が、行く手に待ち受ける闇を断つ。大好評!痛快長編時代小説第四弾。(「BOOK」データベースより)

 

坂崎磐根の親友小林琴平の妹でもあり許嫁でもあった奈緒が長崎の丸山遊郭に売られていったと聞いた磐根は、安永二年(1773)旧暦七月、長崎へと向かっていた。

その長崎では、磐根らの働きで不正を明らかにされて関前藩を追放され長崎の出店にいた西国屋の襲撃を退けるが、奈緒は小倉城下に新たにできる岩田屋善兵衛の遊女屋へ売られてしまっていた。

小倉の町では岩田屋善兵衛の遊女を赤間の唐太夫がすべてさらったと聞いて、岩田屋と唐太夫との出入りに加わるが、菜緒はその前日に京の島原へと売られていた。

奈緒を追って京都へとたどり着いた磐根だったが、奈緒は京の朝霧楼から加賀金沢の遊郭へと売られた後だった。

金沢では金沢藩内部の抗争に巻き込まれかけた磐根だったが、奈緒が売られた先の一酔楼へ行くと、奈緒は江戸へと送られたという話だった。

吉原会所の四郎兵衛によると奈緒は吉原にいた。しかし、江戸町二丁目の大籬丁子屋は吉原でも一、二を争う格式の大見世であり、丁子屋が京に支払った金子は千二百両だといい、もはや磐根にはどうしようもない金額になっていた。

 

雪華ノ里─ 居眠り磐音江戸双紙 4』の感想

 

本書『雪華ノ里─ 居眠り磐音江戸双紙 4』は、居眠り磐音江戸双紙シリーズの中休み、ともいうべき一編になっています。

前巻『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』で磐根の活躍で豊後関前藩での抗争に終止符が打たれ、やっと磐根の個人的な事柄である奈緒の探索に移ったのですが、その菜緒は遊女として売られてどこにいるか分からないようになっていたのです。

関前の橦木町にある妓楼さのやの女将によれば、奈緒は関前から遠い地に身売りしたいと言っていたらし、女衒の言葉に従い長崎の丸山の望海楼に売られたという事実を聞き込んだのでした。

それから、長崎、小倉、京都、金沢へと辿り、ついに江戸吉原へとやってきたのです。

 

この間の様子が語られる一編となっており、いわば磐根版のロードムービーといった趣きでしょうか。

とはいえ、行く先々で奈緒が磐根に向けて書き置いた短歌が残されているなど、出来すぎに思えなくもないのですが、ともあれ痛快小説として単純に楽しめる作品です。

花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3

本書『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第三巻の、文庫本で357頁の長編の痛快時代小説です。

前巻『寒雷ノ坂』で明らかになった関前藩国家老の宍戸文六らの横暴と直接に対決する磐根の姿が描かれる、まさに痛快小説の面白さを持った作品です。

 

花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』の簡単なあらすじ

 

安永二年、初夏。江戸深川六間堀、金兵衛長屋に住む坂崎磐音。直心影流の達人なれど、日々の生計に迫われる浪人暮らし。そんな磐音にもたらされた国許、豊後関前藩にたちこめる、よからぬ風聞。やがて亡き友の想いを胸に巨悪との対決の時が…。春風の如き磐音が闇を切り裂く、著者渾身の痛快時代小説第三弾。(「BOOK」データベースより)

 

磐根が親友二人を失った夏から一年が経とうとしていたある日、金兵衛長屋の磐根を富岡八幡宮前で金貸しとヤクザの二枚看板にしている権蔵一家の代貸の五郎造が迎えに来た。

前巻『寒雷ノ坂』で、泥亀の米次にさらわれた幸吉を探す手伝いをしてもらった際の借りを返してほしというのだった。

磐根は笹塚孫一と謀り、権蔵一家と敵対する顎の勝八が開帳する賭場に乗り込みこれを捕縛するとともに自分は用心棒たちを排除し、七、八百両の金を笹塚に渡すこととするのだった。

そんななか、上野伊織の許嫁の野衣から御直目付の中居半蔵に手紙を届けるために早足の仁助が国表から出てきたため磐根に会いたいと言ってきた。

そこで、仁助をつなぎとして中居半蔵に会うと、中居は佐々木玲圓門下でもあり、藩主の福坂実高本人の信任を得て入ることが判明し、今後はともに助力し合うことを誓う。

後日、国許の神伝一刀流中戸道場の先輩で藩主と共に江戸へ出てきた東源之丞と会い、国許へ帰ることを決心する。

 

花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』の感想

 

豊後関前藩江戸屋敷の勘定方を務める上野伊織の働きによって、関前藩国家老の宍戸文六を中心とする勢力の専横が明らかになりました。

本書『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』では、坂崎磐根らが関前藩へと戻って活躍する姿が描かれます。

磐根の父親である豊前関前藩中老の坂崎正睦も閉門を言い渡されて動きが取れないなか、関前藩の江戸屋敷詰直目付の中居半蔵らと力を合わせ藩政改革の乗り出す磐根の姿があります。

そもそも、本シリーズの始めに親友を斬り江戸へ出ることになったのも、宍戸一派の策謀故であったことなどが明らかになるなか、磐根らの姿が爽快感をもって描かれるのです。

 

本書『花芒ノ海』の主軸はこのような関前藩に関する話ですが、その合間にヤクザの用心棒として働き、笹塚孫一に金を稼がせる様子や、酒飲みの亭主のために吉原へ女郎として売られる女性の話などの小さなエピソードが挟まれます。

そうした小さなエピソードの積み重ねが磐根の物語世界を形づくっていくのでしょうし、磐根のキャラクターを確立していく助けにもなっていると思われます。

 

ただ、本シリーズが進んでいくと磐根の印象が変化していきます。

本書『花芒ノ海』の時点では爽やかな青年剣士なのですが、ある頃から高みにいる孤高の存在のような印象になって来るのが残念です。

そうならない前の初々しい磐根を楽しみたいものです。

鼠異聞 新・酔いどれ小籐次(十七・十八)

本書『鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』は、文庫本上下二巻で670頁を越える長さがある『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十七・八弾です。

小籐次へのとある懐剣の研ぎの依頼と桃井道場年少組も同行する久慈屋の高尾山薬王院への紙納めの旅の様子が語られる、佐伯節が満喫できる作品です。

 

鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』の簡単なあらすじ

 

文政9年初夏。太平の世を謳歌する江戸では近頃、貧しい長屋に小銭が投げこまれるという奇妙な事件が続いていた。小籐次は謎の青年から、名刀正宗の研ぎを頼まれる。そんな中、高尾山薬王院へ紙を納める久慈屋の旅に、息子の駿太郎・道場仲間の少年らとともに同行することに。高井戸宿、府中宿へと進む一行を付け狙うのは…。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

府中宿で久慈屋の荷が襲われた騒ぎの真相が明らかになると、北町奉行・榊原は同心の木津親子を呼び出した。一方、雨の降り続く高尾山ふもとに到着した小籐次一行だったが、薬王院の跡目争いの背後に渦巻く怨恨により、駿太郎ら少年たちの身にも危険が迫る―高尾の山中で、猿と“鼠”を従えた小籐次の竹トンボが鋭く舞う!( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

第一章 妙な客
いつもの通り、久慈屋の店先で研ぎ仕事をしている小籐次のもとに、子次郎と名乗る遊び人風の男が五郎正宗作だという菖蒲造の懐剣の研ぎを依頼してきた。

第二章 木彫りの鼠
そんな小籐次に久慈屋からの呼び出しがあり、高尾山薬王院有喜寺への紙納めの旅の付き添いを頼まれた。ところが、その話を聞いた桃井道場の年少組の五人も同道したいと申し出るのだった。

第三章 見習与力
結局、さらに北町奉行所与力見習の岩代壮吾までも加わった六人が高尾山行きへ同道することになった。ところが、前巻で問題を起こした木津留吉が仲間と共に久慈屋の大金を狙ってきたのだった。

第四章 壮吾の覚悟
府中に宿泊中、子次郎が車列のある納屋を狙う留吉の仲間は総勢七人だと知らせて来た。その夜、納屋を襲ってきた留吉らは北町奉行所与力見習の岩代壮吾により退けられてしまう。

第五章 府中宿徒然
府中宿での顛末は小籐次から江戸の久慈屋や中田新八らのもとに知らせられた。留吉の行動は留吉の父親の不手際で久慈屋一行の秘密が漏れたことなどから、木津家の今後まで決められるのだった。

第六章 悲運なりや温情なりや
やっと着いた目的地の高尾山薬王院の麓別院に俊太郎らを残し、昌右衛門、国三主従と小籐次は降り続く雨の中を薬王院有喜寺へと向かった。途中一行を襲う一団を退けた小籐次らは貫主山際雲郭と会った。

第七章 菖蒲正宗紛失
懐剣を盗まれた小籐次にもとに、江戸へ帰れ、との手紙が届いた。子次郎と話して江戸へと戻ることにした小籐次は、途中現貫主の敵の万時屋悠楽斎のもとへ寄り三公と呼ばれる小僧を見張りにつけられるのだった。

第八章 高尾山道の戦い
三公こと三太郎の力を借りた小籐次は、薬王院近くの万時屋親子一派の隠れ家を襲い、飛び道具など燃やしてしまう。俊太郎らは久慈屋の荷物を背負い高尾山の薬王院へと登り始めるが、襲ってきた万時屋一味を撃退するのだった。一方、子次郎は、壱行から盗まれた懐剣を取り戻していた。

第九章 琵琶滝水行
子次郎により助け出された現貫主の雲郭と昌右衛門らも久慈屋の一行を迎えた。ようやく研ぎにかかった小籐次は、子次郎から懐剣のいわれを聞く。研ぎの間、俊太郎らは三太郎と会い話を聞いた。

第十章 菜の花の郷
三太郎の里に巣くった用心棒たちを退治した俊太郎たちは、研ぎを終えた小籐次と共に江戸へと帰るのだった。

 

鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』の感想

 

新・酔いどれ小籐次シリーズ』も十七巻目ともなると、さすがにマンネリの様相も見え始めてきつつある本巻で、子次郎と名乗る新たな人物が登場してきました。

おりしも、江戸の町では庶民の長屋に一朱や一分といった小銭を放り込んでいく事件が起きていて、子次郎とのかかわりを匂わせてあります。

江戸時代のお金に関しては参考までに下記サイトを挙げておきます。
江戸時代のお金のしくみ
江戸時代の「1両」の価値ってどれぐらいだった

 

この子次郎が小籐次に依頼してきた仕事が、五郎正宗作だという菖蒲の葉に似た造込みの懐剣の研ぎだったのです。

この子次郎と小道具の懐剣が、数巻だけでも本シリーズに新たな風を吹き込み、シリーズのマンネリ化を回避することを期待したいものです。

 

本書『鼠異聞』では、久慈屋の高尾山薬王院への紙納めを中心として物語が展開します。

すなわち、『鼠異聞』上巻で語られる高尾山薬王院への往路は、前巻『酒合戦』で登場した桃井道場年少組の木津留吉が絡んだ話であり、『鼠異聞』下巻は薬王院内部の貫主の地位を狙う一味との闘争の話です。

 

 

この本書『鼠異聞』上巻の話は、木津留吉の手引により久慈屋の荷を狙う由良玄蕃という剣術家を頭とする総勢七名と俊太郎岩代壮吾らの戦いを一つの山としています。

同時に、そのことは留吉の行いに対する木津家の浮沈、それに留吉を捉えることになる北町奉行所与力見習の岩代壮吾の決断などが見どころとなります。

 

ここらでは武家社会の決まりの中での冷酷な仕置きや見習与力の成長の様子などが簡略に語られており、痛快小説ならではの単純な物語の運びとして展開されます。

本来であれば、現代とは異なる武家社会のありようなどをリアルに、また重厚に描くこともできそうなテーマではありますが、この『鼠異聞』という佐伯作品では物足りなさを感じるほどにあっさりと処理してあります。

いろいろな枝葉は描かずに、関わった当事者の心象も深く描写することもなく結果だけをあっさりと示す処理の仕方をされているのです。

 

また本書『鼠異聞』下巻では薬王院貫主の地位を狙う先代薬王院貫主宗達の隠し子である万時屋悠楽斎と、その嫡子の壱行という僧侶の一味とを相手とする争いが中心の話です。

特にこの下巻では物語の筋だけを見れば実に単純であって、それ以上に筋の運びの荒さが目立ちます。

もう少し丁寧な展開を考えてもいいのではないか、と思うほどに雑に感じるのです。

壱行が貫主の地位を狙うために小籐次の存在が邪魔になり、江戸へ追い返そうとするのですが、その手段やその後の行動など、あまりストーリーを練ってあるとは思えません。

佐伯作品の痛快小説としては、よく練り上げられた物語展開は不要と言っているかに思えるほどです。

事実、痛快時代小説として単純に楽しめればいいのであり、それ以上のものは求めるべきではないのでしょうか。

 

本書『鼠異聞』では、上下各巻での二つの事件に加え、物語全体を通して菖蒲正宗という懐剣が小道具となって物語が展開します。

この懐剣の扱いも下巻では雑としか思えないものではありましたが、その点はあまりしつこくは言わないこととします。

ただ、今後の小籐次の物語にも多分かかわってくる小道具だろうと推察するだけです。

 

以上のように、上下二巻という長さの物語の本書『鼠異聞』ですが、いつもの佐伯作品と同様にあまり長いとは感じませんでした。

コロナワクチンの副作用で微熱が出て倦怠感で何もする気がおきない中ただただ本書を読んでいました。

ここまで不満点ばかりを書いたものの、本書『鼠異聞』はそんな不満を持ちながらも楽しく、軽く読める作品であったことは否めません。

難しいことは言わずに単純に楽しむことができる作品だったというべきなのでしょう。

梅花下駄 照降町四季(三)

本書『梅花下駄 照降町四季(三)』は、『照降町四季シリーズ』の第三弾で、文庫本で345頁という長さの長編の痛快人情時代小説です。

前巻『己丑の大火』の後、江戸の町、そして照降町の復興の様子が描かれるなかで、ひたすら花魁からの依頼に応えようとする佳乃と、旧藩内部の争いから身を置こうとする八頭司周五郎の姿がありました。

 

梅花下駄 照降町四季(三)』の簡単なあらすじ

 

文政12年、大火は江戸を焼き尽くした。佳乃と周五郎は、照降町の御神木を守り抜いたとして町の人々に厚く感謝される。焼けてしまった店の再建を待つ間、舟を店に仕立てた「舟商い」は大繁盛し、人々は復興にむけて精いっぱいの知恵を出し合い、助け合う。
吉原の今をときめく花魁・梅花から「花魁道中で履く三枚歯下駄」の制作を託された佳乃は、工夫を凝らして新しい下駄を作りつつ、この大火で命を落とした江戸の人々の鎮魂のための催しを企画する。佳乃と花魁が企てた前代未聞の催しとは――
そんな中、藩の派閥争いから逃れて職人修業をしていた周五郎のもとに、不吉な一報が。

復興のアイデアを出し合う人々の心意気、大店・吉原・職人らが連携して作りあげた、奇跡の風景が心を震わせる。読むほどに元気が出る感動ストーリーが目白押しの第三巻。(出版書誌データベース「内容紹介」より)

 

 

梅花下駄 照降町四季(三)』の感想

 

前巻の『己丑の大火 照降町四季(二)』では、ただただ八頭司周五郎の活躍だけが目立つ痛快小説というしかない物語になっていました。

本書『梅花下駄 照降町四季(三)』ではさすがに前巻ほど周五郎だけが目立つ構成ではありません。

しかし、今度は佳乃が主人公の人情話というには無理がありそうな展開でした。

というのも佐伯泰英の描く本書『梅花下駄 照降町四季(三)』は、周りの人々の細やかな人情に支えられた佳乃の生き方が描かれているというよりは、女職人佳乃が鼻緒を挿げた高下駄が花魁の足元を飾り、江戸中の喝采を得る、という痛快小説なのです。

また、また八頭司周五郎が中心となる活劇を見せるという意味でも痛快時代小説だとも言えます。

 

ということは、本『照降町四季シリーズ』は佐伯泰英が描く珍しい人情小説シリーズだと書いたのは、細かなこととはいえ間違いだというべきでしょう。

そういえば、『照降町四季シリーズ』を人情小説と明記し、紹介した文章は無かったかもしれません。

単に、私が勝手に「人情もの」だと決めつけただけのことになります。

ただ、佐伯泰英著『照降町四季シリーズ特設サイトの中のYouTubeの画面に「江戸の人情あふれる物語」という文字があります。

同じYouTubeの画面は、本書『梅花下駄 照降町四季(三)』の特設サイトの中にもありました。

 

この『照降町四季シリーズ』は、佳乃が照降町の人々の人情に助けられて鼻緒を挿げる職人として成長していく物語です。

とすれば、本シリーズが人情ものだと言い切っても間違いとまでは言えないと思われ、文言の訂正まではしないでおこうと思います。

ただ、例えば第164回直木賞を受賞した西條奈加の『心淋し川』のような、いわゆる人情時代小説とは異なる物語の運びだとは言っておく必要がありそうです。

 

 

そしてもう一点、特に本書『梅花下駄』で気にかかったことがありました。

それは、鼻緒を挿げる女職人という設定はまあいいとして、本書では主人公の佳乃が挿げた吉原の花魁注文の高下駄が人気が出て、佳乃自身ももてはやされるというその点です。

佳乃が問題の下駄に絵まで施したのですからその下駄が人気が出たのは分かります。

しかし、本体の下駄を作ったのは別の職人です。高下駄、それも三本歯の花魁の道行き用の高下駄という難しい注文をこなしたのは伊佐次という下駄職人である筈です。

この伊佐次を抜きにして語られているのがちょっと気になったのです。

ただ、伊佐次への下駄本体の注文も、佳乃が花魁の梅花から仕事を請け、佳乃が下駄本体の仕様も考案して伊佐次に注文を出しているので、そういう意味では佳乃の作った下駄だと言えないこともありません。

そういうことで納得しておくべきなのでしょう。

 

ともあれ、この『照降町四季シリーズ』もあと一冊となりました。

当初期待した佐伯泰英が描く人情小説という思いは少し違っていましたが、それでも佐伯節のつまった面白い小説ではありました。

その一冊を楽しみに待ちたいと思います。

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)

本書『祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』は、文庫本で340頁の『新・吉原裏同心抄シリーズ』第四弾の長編痛快時代小説です。

祇園御霊会の無事の終わりを願う幹次郎らと、存亡の危機に建つ江戸吉原の面々の様子が描かれる、意外性のある一篇でした。

 

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』の簡単なあらすじ

 

江戸・吉原で、評判の遣り手らが不可解な辞職をし、相次いで姿を消した。異変の臭いを嗅いだ四郎兵衛ら会所の面々は、その企みの背後を探ろうとする。一方の京では、ひと月続く華やかな祭礼、祇園会が始まった。祇園囃子の響く中、幹次郎は、新たな刺客からの脅迫と攻撃に直面する。大切な町を守るため、総力戦ともいえる戦いが幕を開ける。慟哭必至のラスト!(「内容紹介」より)

 

江戸吉原では、半籬「芳野楼」の遣り手のお紗世が他の楼の三人の遣り手を誘い楼を辞めていたが、そのうちの一人の遣り手・鶴女が水死体となって見つかった。

また、身代わりの佐吉は牢の中で今吉原で起きている事件についての話を聞き込んできたが、その話を持ち掛けてきた男も鶴女と同じような殺され方で見つかっていた。

そうした中、吉原会所七代目頭取の四郎兵衛は紗世が残していった文箱を手に入れていた。

一方、祇園御霊会が始まっていた京では、真新しい祭礼衣装に身を包んだ幹次郎が、六種のご神宝、三基の神輿、そして別格のご神宝である「勅板」を守ることを誓っていた。

その幹次郎の前には、幹次郎が倒した不善院三十三坊の弟と名乗る不善院七十七坊という男が立ちふさがっていた。

 

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』の感想

 

本書『祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』では、京の祇園御霊会を背景として、この祭りの由来、祭事の様子を詳しく記しながら、神守幹次郎の活躍が描かれます。

同時に、江戸吉原での急激な展開も記され、本書では特に澄乃や、その手助けをする同心の桑原市松身代わりの佐吉の活躍が光ります。

というよりも、物語の進展という意味では京の幹次郎の姿よりも江戸吉原での四郎兵衛や澄乃の動向の方がメインだというべきかもしれません。

とくに、吉原の妓楼の買取を企んでいた佐渡の山師荒海屋金左衛門の背後にさらに上様御側御用取次という重職にある朝比奈義稙なる人物の存在が見えてきたことなど、新たな勢力の存在が明確になってきています。

こうした展開が、本『吉原裏同心シリーズ』の新たな魅力につながっていくことを期待したいものです。

 

祇園会」は今でいう「京都祇園祭」のことを言います。京都市東山区の八坂神社(祇園社)の祭礼であり、明治年間になってそれまでの祇園御霊会と呼ばれていた祭りです。

 

先に述べたように、本書での京での幹次郎の話は祇園会の紹介が主になっているというほかありません。

ですから、本書の物語としての面白さ自体は幹次郎よりも江戸吉原での事態の展開にあると言えます。

何よりも、本書では思いもかけない展開が待っていました。

本『吉原裏同心シリーズ』は、若干のマンネリの気配が見えてきたころ、幹次郎と麻をを京へと修行に出し、シリーズの色をかなり変えることに成功したと思っていたのですが、今回はそれをさらに上回る変化でした。

ということは、今後の展開に期待するところが大きくなるということです。

続巻を期待して待ちたいと思います。

寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2

本書『寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第二巻の、文庫本で365頁の長編の痛快時代小説です。

江戸で貧乏暮らしをする磐根の日常が描かれますが、故郷の豊後関前藩とのつながりも残っています。

 

寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』の簡単なあらすじ

 

江戸深川六間堀、金兵衛長屋で浪々の日々を送る坂崎磐音。直心影流の達人だが、相も変わらぬ貧乏暮らし。仕事の口を求めて奔走する磐音に、暇乞いした豊後関前藩との予期せぬ関わりが生じて…。些事にこだわらず、春風駘蕩の如き好漢・磐音が江戸を覆う暗雲を斬り払う、著者渾身の痛快時代小説第二弾。(「BOOK」データベースより)

 

改元されたばかりの安永元年(1772)の暮、前巻の終わりに南鐐二朱銀事件で受けた傷が完治していないため、宮戸川での鰻割きの仕事もできず腹を減らすばかりだった。

そんな磐根のもとに品川柳次郎が内藤新宿でのヤクザものの喧嘩の助っ人の話を持ってきた。そこでの争いに絡んできたのが南町奉行所の笹塚孫一という年番方与力だった。

結局、磐根の要請に応じて笹塚が乗り出し、ヤクザものの二つの組が稼いだ金を皆持っていってしまい、磐根たちはただ働きとなってしまう。

そんな磐根に幸吉は、両国広小路の矢場での用心棒の仕事を持ってきた。しかし、この仕事も結局は笹塚の登場を願うこととなるのだった。

笹塚の仲介で再び神田三崎町の佐々木玲圓道場へと顔を出すようになった磐根のもとに、豊後関前藩江戸屋敷の勘定方を務める上野伊織が訪ねてきた。

慎之輔や琴平の死は関前藩内の争いがかかわっているというのだった。

 

寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』の感想

 

シリーズも第二巻ともなり、一通りの登場人物の紹介のあと第一巻では登場していなかった南町奉行所の笹塚孫一という与力も登場します。

磐根の江戸での生活の紹介が一応終わって、物語の大きな筋が見えてくることになります。

 

それは、磐根が心ならずも身分を離れることになった旧藩である豊後関前藩の内紛です。

磐根ら親友の三人が心ならずも斬り合うこととなった原因を作ったのも国家老の宍戸文六を中心とする派閥であることが判明してくるのです。

 

こうして、本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、磐根の生まれ故郷である豊後関前藩の内部紛争を基本的な軸に据えることになります。

そして、師匠である佐々木玲圓との交流、それに第一巻で南鐐二朱銀事件で名前の挙がった田沼意次などと対決することになる磐根の姿などが描かれることになるのです。

もちろん、巻ごとに何らかの騒動が起き、それを磐根や品川柳次郎らが奔走し、解決していく、その背後には今津屋があり、そして南町奉行所与力の笹塚孫一が、さらにその背後には将軍御側御用取次の速水左近が控えているという構図になります。

痛快小説としての磐根の剣劇の場面が用意してあることは勿論であり、思いもかけない展開を見せていく佐伯作品の魅力にあふれたシリーズとして展開していきます。

 

作者の佐伯泰英氏は、先の展開まで計算して書かれていたとは思われない、スケールの大きなシリーズとして広がりを見せることになる本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』です。

再読してもなお面白さが失われない、それだけの内容を持ったシリーズでした。

陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1

本『陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第一巻の、文庫本で解説まで入れて356頁の長編の痛快時代小説です。

今では『居眠り磐音シリーズ』として決定版も出ている人気シリーズを再読し始めました。やはり面白いシリーズです。

 

陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』の簡単なあらすじ

 
本書『陽炎ノ辻』についての旧版、新版二つの内容紹介文を載せておきます。下が「決定版」つまり新しい版であって、私の紹介文は旧版に基づくものです。

直心影流の達人、坂崎磐音。藩内騒動がもとで自藩を離れ、江戸深川六間堀で浪々の日々を送る。ある日、磐音はふとした縁で両替商の用心棒を引き受けるが、幕府の屋台骨を揺るがす大陰謀に巻き込まれてしまう。些事にこだわらず春風のように穏やかな磐音が颯爽と悪を斬る、著者渾身の痛快時代小説。(「BOOK」データベースより)

豊後関前藩の若き武士3人が帰藩したその日に、互いを斬り合う窮地に陥る。友を討った哀しみを胸に、坂崎磐音は江戸・深川の長屋で浪人暮らしを始める。大家の金兵衛に紹介された両替屋での用心棒稼業で、やがて幕府をもゆるがす大きな陰謀に巻き込まれ…。平成を代表する超人気時代小説の“決定版”が、ついに刊行開始!(決定版 「BOOK」データベースより)

 

坂崎磐根にとっては三年ぶりの故郷である豊後関前城下に、幼馴染の河出慎之輔と小林琴平と共に帰ってきた。

しかしそこで待っていたのは慎之輔の妻の舞が密通をしているという話であり、その行き違いにより琴平は慎之輔を斬り、その琴平を磐根が切り捨てることになってしまう。

国家老の正睦を父に持つ磐根は、許嫁である琴平の妹の奈緒を娶るわけにもいかず、関前にも居れなくなり、再び江戸へと出てくるのだった。

その年の十月の中旬、深川六間堀町の金兵衛長屋に住んでいた磐根は、金兵衛の娘のおこんが奉公している今津屋という両替商に用心棒として雇ってもらうことになった。

今津屋では十代将軍の徳川家治のもと、老中になった田沼意次の新貨幣政策の南鐐二朱銀の新発行に伴うとある企みに巻き込まれることになるのだった。

 

陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』の感想

 

本書『陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙 1 』は一大ベストセラーとなった『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第一巻です。

本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、十数年前からとおして一度読んだことがあるのですが、改めて最初から読み直してみようと思い立ちました。

本シリーズの最初の頃のまさに痛快小説と呼べる面白さがシリーズの途中から変化したように思え、その点を確かめたいと思ったのです。

でも、本シリーズが面白いので再読したかった、というのが一番大きな理由でしょう。

 

本書『陽炎ノ辻』の冒頭から、自分の許嫁の兄でもある親友と対決し、これを斬り捨てなければならないという主人公の坂崎磐根という存在が強烈に迫ってきます。

その後、郷里の豊後関前藩を離れ、江戸で浪人として暮らす磐根のその日暮らしの姿が描かれ、その落差がまずは印象に残ります。

その上で、どてらの金兵衛長屋に住まう磐根が今津屋とのつながりを持ち、品川柳次郎竹村武左衛門という知己を得る様子が描かれます。

ここで、本シリーズの基本的な登場人物や環境が整えられるのです。

 

その上で磐根は時の老中の田沼意次がすすめる新貨幣政策にからんだ事件に巻き込まれていきます。

一介の浪人が江戸の町の豪商と知り合い、田村意次という歴史上高名な人物の政策に絡んだ働きを見せるという痛快小説としては王道の物語が展開されます。

あらためて読み直しても、作者の佐伯泰英の物語の進め方がうまいと思わざるを得ない運びであり、読者を飽きさせない流れになっていることが言えそうです。

だからこそ、この後全部で五十巻を越える一大ベストセラーシリーズとして人気を博することになったと言えるのでしょう。

 

その人気は、本書『陽炎ノ辻』を原作として山本耕史主演でテレビドラマ化され、さらには松坂桃李という人気スターを主人公とした映画も作られることになります。

 

 

また、かざま鋭二の作画でコミック化もされています。

 

 

ともあれ、一大人気シリーズの第一巻を読み直し始めました。さすがに再読してもその面白さは褪せません。

今後も随時読み進めたいと思っています。