『未来のおもいで 白鳥山奇譚』とは
本書『未来のおもいで 白鳥山奇譚』は2004年10月に光文社文庫から、2022年12月に徳間文庫から256頁で出版された、長編のSF小説です。
著者お得意のタイムトラベルもののロマンス作品で、熊本県と宮崎県との県境に実在する白鳥山を舞台とした、軽く読める作品です。
『未来のおもいで 白鳥山奇譚』の簡単なあらすじ
イラストレーターをしている滝水浩一は、熊本県の白鳥山を登っていた。白鳥山は立地の不便さゆえに入山者が少なく秘境のイメージがある。滝水の目的は、湿地を抜けた所に咲く山芍薬の花の群生。この光景は一年のうちに数週間しか見ることの出来ない。しかし、今年は登山中に雨に降られた。そのとき、彼の前に現れた、美しい女性・沙穂流。滝水は彼女に惹かれ、置き忘れた手帳を手がかりに訪ねてゆく。そこで、彼女がまだこの世に誕生していない存在であることを知るのだった……。
時を超えて出会った男女の恋愛を描く、長編SFファンタジー。初版刊行時に映画化企画があり、著者本人により書かれたシナリオを収録。
解説:犬童一心(映画監督)(内容紹介(出版社より))
『未来のおもいで 白鳥山奇譚』の感想
本書の著者梶尾真治はロマンチックなラブストーリー、それも時間旅行を背景とするラブロマンスを得意とする作家だと言えます。
そして、本書『未来のおもいで 白鳥山奇譚』はまさにロマンチシズム溢れるタイムトラベルもののラブストーリーそのものです。
SFそれも時間旅行ものに関してはタイムパラドックスの処理をどうするか、という点が一つの関心事だと思うのですが、本書はその点をもそれなりに解決してあります。
というよりも、ラブストーリーである以上は二人の恋の行方の処理もまた重要な点ですが、その点も併せてうまく処理してありました。
本書は頁数も少ないのですが、私が読んだ光文社版では一頁の行数が十三行と文字数も少ないため、簡単に読むことができます。
近年出版された徳間文庫版では改定もされているらしいのですが、内容に大きな変更はないということです。
本書『未来のおもいで 白鳥山奇譚』の主人公は滝水浩一というイラストレーターです。この男が熊本県と宮崎県との県境にある白鳥山へ上ったときに突然の雨に遭い、同じく雨具を持たないでいた藤枝沙穂流という美しい女性と出会います。
後にその女性に再度会いたくて、忘れ物の手帳を頼りに書かれていた住所を探しますが、藤枝という家はあっても藤枝沙穂流という女性は存在しませんでした。
一方、藤枝沙穂流もまた滝水から預かっていたリュックカバーに書かれていた住所を頼りに滝水を探しますが、その住所に滝水という人物はいませんでした。
しかし、再度白鳥山の件の洞窟へ行くと、藤枝沙穂流からの手紙の入った箱が置いていあったのです。
本作は、物語が単純であるだけに、設定や展開が簡単に過ぎるという印象は否めず、、梶尾真治のタイムトラベルものの面白さという点では『クロノス・ジョウンターの伝説』や『つばき、時跳び』のような作品の方に軍配が上がるかもしれません。
ただ、軽く、気楽に読めるわりには二人のロマンスは心惹かれます。そこは梶尾真治という作家の筆の力なのでしょう。
軽い気持ちで読むには適した作品だと思います。
ちなみに、本書も「キャラメルボックス」という演劇集団により「すべての風景の中にあなたがいます」というタイトルで舞台化されています。