この胸いっぱいの愛を [ DVD ]

原作・梶尾真治、監督・塩田明彦をはじめ『黄泉がえり』のスタッフが再結集して贈るラブファンタジー。出張で故郷・門司を訪れた鈴谷比呂志は、祖母が営む旅館で20年前の自分と遭遇する。比呂志ら4人は、86年にタイムスリップしていたのだった。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

この映画の存在は全く知りませんでした。

『クロノス・ジョウンターの伝説』の中の「鈴谷樹里の軌跡」を原作とする作品ですが、主人公も舞台設定もかなり異なっていて、別作品と考えた方が良さそうです。

とはいえ、作りようによってはかなり面白い映画になりそうなので期待したいのですが、レビューを見る限りは賛否半ばのようで、レンタルするか難しいところです。

ダブルトーン

パート勤めの田村裕美は、五年前に結婚した夫の洋平と保育園に通う娘の亜美と暮らしている。ある日彼女は見ず知らずの他人、中野由巳という女性の記憶が自分の中に存在していることに気づく。その由巳もまた裕美の記憶が、自分の中にあることに気づいていた。戸惑いつつも、お互いの記憶を共有する二人。ある日、由巳が勤める会社に洋平が営業に来た。それは…。(「BOOK」データベースより)

 

記憶を共有する二人の女性の行動を描く、長編のサスペンスファンタジー小説です。

 

税理士事務所に勤務する田村裕美と、企画事務所に勤める中野由巳は、毎朝、自分は誰なのかを目覚めのとき確認する朝を迎えていた。

日常の生活に入ればもう一人のユミの記憶は薄れてしまうのですが、次第にもう一人の記憶がはっきりと残るようになってきました。

そして、中野由巳の前に一人の男が現れます。

 

記憶を共有する二人の女性という奇妙な設定で幕を開けたこの物語も、やはり熊本の街が舞台になっています。

ですから、熊本の街に住む私にとっては馴染みの名称ばかりの街並みなのです。梶尾真治の物語では普通のことですが、読み手としては何となくの親しみを感じてしまうのは無理もないことでしょう。

本書では、二人の間に共通する一人の男が現れ、この作者には珍しく、記憶の共有という現象にまつわる謎解きを中心とするサスペンス色豊かな物語が展開されるのです。

 

しかしながら、いつもの梶尾真治の作品と比べると何となくの違和感を感じてしまいます。人間へのやさしい視点でつづられる梶尾真治の文章の持つあたたかさが今一つ薄いと感じられるのです。

サスペンス色を前面に押し出している分だけ、描かれている人間への「想い」についての書き込みが足りなく感じるのでしょうか。

とはいえ、梶尾真治らしいロマンに満ちたタイムトラベルものであることに間違いはなく、読みやすい物語でもありました。

 

ちなみに、本書は2013年、NHKのBSプレミアムでテレビドラマ化されたそうです。しかし、DVD化はされていません。

ボクハ・ココニ・イマス 消失刑

実刑判決を受けた浅見克則は「懲役刑」と「消失刑」のどちらかを選べ、と言われる。消失刑だったら、ある程度の自由が与えられ、刑期をどのように過ごしてもかまわないらしい。いったい、どんな刑罰なのか?究極の孤独。僕は、いないも同然だった。それでも、彼女を救いたかった。(「BOOK」データベースより)

 

「究極の孤独」を強いられる「消失刑」を選択した主人公を描く、長編のファンタジー小説です。

 

いかにも梶尾真治らしいファンタジーロマン小説です。

とにかく、受刑者は、普通生活を営むことはできるのだけれども、誰からもその存在を認識してもらえないという刑罰の「消失刑」というアイディアが素晴らしいのでです。

 

他者を見ることはできるのだけれども、自分の存在は認識してもらえないということは、当然会話はできません。

単純に、普通の暮らしができるのならば懲役刑よりも当然「消失刑」の方がいいと思えそうでもあります。

しかしながら、誰も自分の存在を認識できず、いないものとして扱われるという状況はどのようなものか、会話のできないつらさや、怪我をしたとしても誰も気づいてくれない怖さなどを作者はすこしずつ示していきます。

意外な出来事の末に、何とかして他者との意思疎通を図ろうとする主人公の努力を、次第に応援している自分が居ました。

 

この作者はまずはそうした限定された状況を創り出すことがうまい作家さんだと思います。

例えば、私が好きな作品である『クロノス・ジョウンターの伝説』は、過去に戻ればその反発で戻った過去の分以上の未来へ飛ばされてしまうという状況下での主人公の行動が描かれていて、自己犠牲という感動をもたらしてくれます。

 

 

更に、その限定された状況を乗り越える主人公の姿をまたロマン風味豊かに描きだす上手さがあり、本書はまさにそうした典型の作品といえます。

ちなみに、本書は2019年5月現在、Amazonでも楽天でも注文はできないようです。個人的には好きな本なので残念です。

黄泉がえり [ DVD ]

『害虫』の塩田明彦監督、国民的アイドルグループ・SMAPの草なぎ剛主演のファンタジードラマ。九州の阿蘇地方で、死んだ人間が甦るという奇妙な現象が起きる。厚生労働省勤務の川田平太は自分の故郷で起きた現象を解明すべく、現地へと赴くのだったが…。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

原作とは若干異なる物語です。柴崎コウの主題曲が印象的な映画でした。

黄泉がえり

あの人にも黄泉がえってほしい―。熊本で起きた不思議な現象。老いも若きも、子供も大人も、死んだ当時そのままの姿で生き返る。間違いなく本人なのだが、しかしどこか微妙に違和感が。喜びながらも戸惑う家族、友人。混乱する行政。そして“黄泉がえった”当の本人もまた新たな悩みを抱え…。彼らに安息の地はあるのか、迫るカウントダウン。「泣けるリアルホラー」、一大巨編。(「BOOK」データベースより)

 

梶尾真治お得意の、時間旅行ものの長編のSFホラー小説です。

 

草薙剛と竹内結子主演で、柴崎コウの主題歌でも有名になった映画版「黄泉がえり」の原作です。私にとっては映画の原作と言うよりもこの作品があって後に映画化されたと言う方が正解なのです。

 

 

映画版と小説とではかなりな部分で違いがあり、映画しか見てない人は是非小説版を読むことをお勧めします。

この作家の特徴の一つとして郷土の熊本が舞台となる作品が多い、ということが挙げられます。

この作品もそうで、私の身近の町名が随所に出てきます。だからというわけではないのですが、この作品も素晴らしい作品です。内容は改めて言うまでもないでしょうが、人の想いをこれほど身近に、飾らない普通の文章で語る作家も珍しいと思います。

 

ちなみに、2019年の2月には2016年におきた熊本地震をモチーフに本書の続編となる『黄泉がえり again』が出版されています。

クロノス・ジョウンターの伝説 [ コミック]

梶尾真治のタイムトラベル・ロマンスの傑作として名高く、映画化、舞台化など展開の続く連作「クロノス・ジョウンターの伝説∞インフィニティ」(朝日新聞社刊)を、「木造迷宮」(徳間書店刊)のアサミ・マートが渾身のコミカライズ!(「キネマ旬報社」データベースより)

 

未読です。

クロノス・ジョウンターの伝説

開発途中の物質過去射出機“クロノス・ジョウンター”には重大な欠陥があった。出発した日時に戻れず、未来へ弾き跳ばされてしまうのだ。それを知りつつも、人々は様々な想い―事故で死んだ大好きな女性を救いたい、憎んでいた亡き母の真実の姿を知りたい、難病で亡くなった初恋の人を助けたい―を抱え、乗り込んでいく。だが、時の神は無慈悲な試練を人に与える(「BOOK」データベースより)

 

梶尾真治が一番得意とする、時間旅行ものの連作短編のSF小説です。

 

「クロノス・ジョウンター」とは「時間軸圧縮理論」を採用したタイムマシンであり、過去に戻ればその反発で戻った過去の分以上の未来へ飛ばされてしまうという欠点を持っています。

この欠点のために、愛する人のために過去へ飛ぶと、最終的には自分は未来へと飛ばされてしまう、という自己犠牲の舞台が出来上がっているのです。

 

本書は全6話の短編集になっているのですが、各話毎にこのタイムマシンも改良されながらも欠点は欠点のまま残っています。

この手の時間旅行の話はこの作者のお手のものであり、多数の作品がありますが、この短編集は舞台設定のうまさでもあるのか、最も好きな作品のひとつです。

現在は徳間書店から文庫が出ているのですが、他にソノラマ文庫版もあります。

 

本書に収録されている短編作品「鈴谷樹里の軌跡」をもとに、伊藤英明、ミムラという役者さんで映画「この胸いっぱいの愛を」が製作されていますが、かなり改変されているようです。未見です。

 

 

また、アサミ・マートの画によりコミック化もされており、更には演劇集団キャラメルボックスによる舞台化もなされているそうです。残念ながらコミックも舞台もともに私は未見です。

 

美亜へ贈る真珠〔新版〕

短編なのですが、私が梶尾真治の作品で一番最初に読んだ小説です。もともと「地球はプレインヨーグルト」という短編集に納められていました。

この作品が梶尾真治の作家としてのデビュー作なのですが、表題作の「」の互いに異なる時間の中に生きる恋人同士が対面する場面での涙の描写は素晴らしいものがあります。安直なロマンチシズムと言ってしまえばそれまでなのですが、この作家の本質はこの作品にあるのだと思っています。

というのも、梶尾真治と言えばロマンティシズムとタイムトラベルを得意とする作家ですが、異なる時間軸に存在する恋人同士という設定そのものが、メルヘンチックなタイムトラベルの変形と言えるからです。

30年も前に読んだ短編を未だに覚えているのですから、相当私の波長にあったのでしょう。

ちなみに、この作家はロマンチックな作品だけではなく、「フランケンシュタインの方程式」や「地球はプレインヨーグルト」などちょっとブラックな笑いを持つ短編も書いているので是非一読してみてください。

本書は、2016年12月20日付で新版が出ましたので、本書リンクイメージも新版に差し替えました。なお、それまでの『梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇』は右に掲載しています。