『おりき』シリーズで大人気の著者、新シリーズ!一番の調味料はみんなの笑顔さ。心と胃袋にしみる温かい人情物語。(「内容紹介」より)
面白い小説を探している時に何かのヒントになるかもしれません。
『おりき』シリーズで大人気の著者、新シリーズ!一番の調味料はみんなの笑顔さ。心と胃袋にしみる温かい人情物語。(「内容紹介」より)
日本橋北内神田の照降町の髪結床猫字屋。そこには仕舞た屋の住人や裏店に住む町人たちが日々集う。江戸の長屋に息づく情を、事件やサスペンスも交え情感豊かにうたいあげる書き下ろし時代文庫新シリーズ!(内容紹介より)
山の侘び寺で穏やかな生活を送っている白雀尼にはかつて、真島隼人という慕い人がいた。が、隼人の四年余りの江戸遊学が二人の運命を狂わせる…。心に秘やかな思いを抱えて生きる女性の意地と優しさ、人生の深淵を描く表題作ほか、武家社会に生きる人間のやるせなさ、愛しさが静かに強く胸を打つ全五篇。前作『鷺の墓』で「時代小説の超新星の登場」であると森村誠一氏に絶賛された著者による傑作時代小説シリーズ、第二弾。(「BOOK」データベースより)
「鷺の墓」に続き、静かなトーンで物語りは淡々と進みます。
私はこの本を読んだ後暫くの間この作者の本を読んでいません。この作者の本ばかりを読み続けるにはこの作者の文章は少々おとなし過ぎるのかもしれません。上品すぎるといってもいいかも。どうも、少しのメリハリがあるほうが私の好みのようです。
とは言いながら何かの折にこの瀬戸内の小藩を舞台にした物語を思い出します。おとなしいとはいえその作風は心に残ったようです。
そう言えば「立場茶屋おりきシリーズ」ではそうした感じを抱かなかったところをみると、この文体は個性というよりは本作品への姿勢なのでしょうか。
藩主の腹違いの弟・松之助警護の任についた保坂市之進は、周囲の見せる困惑と好奇の色に苛立っていた。保坂家にまつわる因縁めいた何かを感じた市之進だったが…(「鷺の墓」)。瀬戸内の一藩を舞台に繰り広げられる人間模様を描き上げる連作時代小説。(「BOOK」データベースより)
連作短編小説集です。瀬戸内の小藩を舞台にしたとある武士の生き様が描かれています。
森村誠一が「時代小説の超新星の登場」と絶賛したと本の帯に書いてありました。
物語に派手さはなく、物語全体を客観的に、それも俯瞰で見ているような静かなトーンで進んでいくので、若干の物足りなさを感じる人がいるかもしれません。
しかし、そこは好みの問題なのでそんな静かな優しい文章が好みの人にはお勧めだと思っています。
武家の娘であったおりきが立場茶屋の2代目女将になって、旅籠の客や町の住人達の事件に巻き込まれたり、立ち向かったりする、定番ものではあります。
しかしこの主人公は武家上がりであるだけに何かしらの武術のたしなみがあるためかと思うのですが、少々の男ではかなわない凛とした強さを持っています。
そうした設定の主人公だからというわけではないのですが、例えば高田郁の『みをつくし料理帖シリーズ』の文章には少々物足らない感じを抱く方も、このシリーズには満足できるのでないでしょうか。料理が大切な要素になっていることも一興でしょう。
ただ、巻が進むにつれ、ちょっとせりふが長いかなと思われ、その点を嫌う人は少なからずいるのではないかと危惧されます。
蛇足ですが、旅籠の女主人という設定は平岩弓枝の「御宿かわせみ」が有名です。私は未読なのでお勧めというわけにはいかないのですが、一般に人気がある作品であることは間違いないでしょう。人気のあるシリーズなので全く触れないのも不親切かと思い付記します。そのうち読もうと思っています。
立場茶屋おりきシリーズ(2015年04月01日現在)
研ぎ師人情始末シリーズ(完結)
直心影流の使い手・荒金菊之助は、かつて八王子千人同心であったが、今は浪人となり、貧乏長屋で研ぎ師をしている。ある日、知り合いの子供の父親が殺された。下手人として凶賊・八雲の千造一味が浮かぶ。菊之助は、従兄弟で南町奉行所の臨時廻り同心・横山秀蔵に協力を求め、賊を追いつめていく。迫力満点の剣戟描写と、人情味溢れる痛快時代活劇。(第一巻:「BOOK」データベースより)
市井に暮らす浪人の織りなす長編の人情時代小説です。
主人公は荒金菊之助という元武士で、従兄弟に臨時廻り同心が居ます。この同心が主人公に依頼したり、主人公が探索を助けてもらったりと、うまく話を盛り上げています。主人公のキャラ設定が面白く、物語もテンポ良く読めました。
どうして稲葉実という作家の他の作品には波長が合わないのか分かりませんが、このシリーズはそれなりに面白く読めました。
近頃読んだ本で田牧大和の女錠前師謎とき帖シリーズでは猫を上手く使ってありました。本書のように犬がそれなりの活躍を見せることはないのですが、場面の雰囲気づくりにとても効果的な描き方をしてあるのです。
また、動物と言えば赤川次郎の『三毛猫シリーズ』を忘れてはいけないでしょう。こちらでは、猫そのものが探偵ですから一枚上手をいっています。
しばらくこの作家の本を読んでいなかったら、本シリーズも15巻で完結していました。そのうちにこのシリーズも残りを読んでみたいと思います。
武者とゆくシリーズ(2019年01月04日現在 完結?)
剣術指南役を解かれ、手習い所を開いた桜井俊吾。大火で妻子を失い、今は拾った子犬とつましい暮らしを送っていた。だが男に攫われる寸前、川に飛び込んだ女を助けたことで生活は一変。執拗な男は、周囲の人間の命を容赦なく奪いながら二人の身近に迫ってくる。時代小説に新しい風が吹く。(第一巻 :「BOOK」データベースより)
野良犬だった武者を拾い、共に事件を解決する。と言っても「三毛猫ホームズ」や「迷犬ルパン」とは異なり、武者はただ吠えるだけです。たまにはかみつくけど。
でもこの”武者”の存在が本シリーズを個性的なものにしている気がします。人情豊かに描かれており、結構面白く読めました。
ただ、作者には申し訳ないけどキャラ設定のためなのか、ストーリー故なのか、佐伯泰英や鈴木栄治作品ほどの魅力には欠ける気がします。
2010年12月に第八巻が出ていますが、その後刊行は無いようです。
しかし、講談社から「全8冊合本版」が出ているところを見ると、完結した、と言っていいのでしょう。
本書『ゼロの迎撃』は、近時の日本における憲法9条の解釈改憲や集団的自衛権の問題等の政治状況を見るとまさにタイムリーな長編のサスペンス小説です。
前作がパニックミステリーであるならば、本作はミリタリーサスペンスと言えるでしょう。自衛隊の現下の状況を踏まえ、法律論までかなり踏み込んで書かれていて、読み応えのある本でした。
活発化した梅雨前線の影響で大雨が続く東京を、謎のテロ組織が襲った。自衛隊統合情報部所属の情報官・真下は、テロ組織を率いる人物の居場所を突き止めるべく奔走する。敵の目的もわからず明確な他国の侵略とも断定できない状態では、自衛隊の治安出動はできない。政府が大混乱に陥る中で首相がついに決断を下す―。敵が狙う東京都市機能の弱点とは!?日本を守るための死闘が始まった。(「BOOK」データベースより)
本書『ゼロの迎撃』で描かれている市街地でのテロ行為に対しての防御は、個人の財物に多大の損害を与える恐れがあるために単純には防御のための攻撃が出来ない、などの笑い話のネタになりそうな話が現実に起きうる事態として描写されています。
どこまでが現実の法解釈として妥当性を持つのか、私にはわかりませんが、かなりリアリティのある話です。
ある日突然東京の街の真ん中でテロ攻撃が実行され、多数の物的、人的損害が出ました。あまりにも虚を突いた攻撃のため、後手に回る政府。
防衛庁情報本部情報分析官の真下俊彦三等陸佐は三人の部下と共に正体不明のテロリストに立ち向かいます。
が、テロリストの緻密な計算の上にたった行動は真下らの読みをも上回り、真下らも後手後手に立たざるを得ないのでした。
本書『ゼロの迎撃』での主人公が自衛隊の情報分析官という設定はなかなかに面白いと思います。その職掌からして現状の把握が急務であり、物語の中で説明的にならずに状況を進めていけます。
ただ、第一線には出ることができないという立場から、代わりに動き回る部下が配置されています。
敵役は直接的には北朝鮮の軍人であるハン大佐です。この人物がなかなか魅力的に描かれていて、物語の成功の半分はこの人物造形によるのではないでしょうか。
とはいえ、冷徹な人柄ではありながら部下に対する人情を垣間見せるところなど、北朝鮮の国民性を知らないので何とも言えないのですが、日本人の好みが投影されているようにも感じました。
前半は法律論の展開など議論中心に、後半はアクション中心の展開で共に引き込まれて読みました。前作に比べ人物描写も厚みが出ていて、個人的にはとても面白く読みました。
北朝鮮の侵略ということでは村上龍の『半島を出よ』、福井晴敏の『亡国のイージス』、楡 周平の『Cの福音』などがありました。共にアクション小説としての魅力満載でありながら、日本の現状に対する警鐘とでも言うべき内容の作品です。
侵略ものではありませんが、黒川博行の『国境』は北朝鮮を舞台としたコミカルな味付けのサスペンス小説です。
近年公開されてヒットとなった映画「シン・ゴジラ」での政府の行動の描かれ方を見ていて、本書『ゼロの迎撃』での政府の行動の描き方思い出しました。
単なるアクションとしてではなく、現実的な戦いとして法的な側面からの現実性、評価など、その視点はこれまであまりなかったもののように思います。
リアルになってほしくはないものの、考えざるを得ない問題とも言えそうです。
北海道根室半島沖に浮かぶ石油掘削基地で職員全員が無残な死体となって発見された。陸上自衛官三等陸佐の廻田と感染症学者の富樫らは、政府から被害拡大を阻止するよう命じられる。しかし、ある法則を見出したときには、すでに北海道本島で同じ惨劇が起きていた―。未曾有の危機に立ち向かう!壮大なスケールで未知の恐怖との闘いを描く、第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
2013年第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作のパニックスリラー大作です。
ストーリーは良く練られていると思いました。冒頭部の細菌性の感染の疑いの導入部から、北海道本土での感染の発生、後手後手となってしまう対策、とサスペンス感は十分に感じられます。
ただ、文章がこなれていないというか、堅く、登場人物の設定にも不自然さを感じてしまいました。ステレオタイプな政治家や鍵を握る学者達の描写も不満が残ります。
とはいえ、『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、かなりの売れ行きも示しているのですから、多くの人はこの小説を支持しているのでしょう。勿論私も本書を否定するつもりはなく、それなりの面白さはあると思っています。ストーリー展開の意外性などは今後に期待の出来る作家さんだと思います。
絶対的な自信を持ってお勧めできる、とまではいきませんが、まあ、面白い小説と分類してもいいのではないかと思います。
日本ではこのジャンルの小説は珍しいのではないでしょうか。まず思い浮かぶのは小松左京の『日本沈没』であり、西村寿行の『蒼茫の大地、滅ぶ』でしょうか。本書に近いのは西村寿行の方でしょうね。前者は古典と言ってもいい本でシミュレーション小説と言うべきかもしれません。『蒼茫の大地、滅ぶ』は飛蝗による災害を描いており、これまた地方自治政策への批判を込めたシミュレーション小説の側面もあります。共にその面白さは抜群です。
谷口ジローの緻密な画で描かれた山々は見事なものです。