今井 絵美子

夢草紙人情おかんヶ茶屋シリーズ

イラスト1
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嫋やかな美しさを備える女将・お蝠が営む『おかんヶ茶屋』の惣菜は、ごく普通の家庭料理だが豊潤で心を和ませるあたたかい味。人は癒しを求めてこの茶屋に集まるのだ。そんな中、欽哉が人足寄場から戻ってくることに。皆に温かく迎えられ、歓迎会ではお蝠の惣菜を口にし泣きながら火消しの仕事に精を出すことを決意する。しかし、まもなく食事もせずに引きこもってしまった。欽哉の想いとは?書下し、お料理人情物語。(「BOOK」データベースより)

 

「夢草紙人情おかんヶ茶屋」シリーズの第一作目です。

 

貧しくても懸命に生きる人々が支え合う姿を、温かな惣菜の風味とともに描く時代小説。今井絵美子氏によれば「『夢草紙人情ひぐらし店』の続編ですが、ほんの少しリニューアルし」たそうで、「立場茶屋おりきが高級な料理旅籠であれば、おかんヶ茶屋は葭簀(よしず)を巡らせただけの居酒屋」だそうです。

 

表題の「おかんヶ茶屋』の女将のお蝠は、単に「ひぐらし店」の面々の四方山話を聞き、たまに感想を言うかまたは彼らの活躍に際し料理を差し入れすることがあるだけです。狂言回し的な立場ですらありません。主人公はあくまで「ひぐらし店」の面々なのです。

本書と髪ゆい猫字屋繁盛記シリーズの『忘れ扇』という異なるシリーズに属する二作品を読んでみると、共に登場人物の会話が実に独特な言いまわしです。

これはこれで江戸庶民の会話として魅力があるのですが、以前読んだ武家ものの『鷺の墓』や、庶民を描いた『立場茶屋おりきシリーズ』ではもっと落ち着いた文体で、ゆっくりと読むことが出来たように思います。しばらくこの作者の作品を読まなかった間に、この作者の作風が変化したのでしょうか。

特に本書の登場人物は善人ばかりです。やくざの存在は示唆されても、それは会話の中で出てくるだけで、登場人物としては出て来ずに会話の中で解決していきます。読んでいて、もう少し毒があっても良いな、と思うほどです。

こうして、お蝠の営む「おかんヶ茶屋」にひぐらし店の面々が集まり会話をし、そこで示唆される様々の問題を皆で一致団結して解決します。

 

やくざの問題が会話の中で解決されていく、という点ではまた、状況説明が交わされる会話の中で為される、そのことにも違和感を感じてしまいました。

他でも見られるのですが、自然な会話の中に織り込んでいくのではなく、はっきりと状況説明のための会話が為されていると感じられることに不自然さを感じてしまうのです。

 

以上の点はあるのですが、本書は良い人達が助け合って生きる物語が心が温まっていい、という人には良いかもしれません。こうした点は個人的な好みなので、この作風が好みの方もいらっしゃることでしょう。

しかし個人的には、かつて読んだ落ち着いたこの作家の文章をもう一度読みたい、と思ってしまいました。武家ものでは今でもそうなのか、確認の意味も込めて読んでみましょう。

[投稿日]2015年04月06日  [最終更新日]2018年12月3日
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