緋色からくり

本書『緋色からくり』は、『からくりシリーズ』の第一作目となるミステリー仕立ての長編時代小説です。

とても読みやすいく、キャラクターも立っており、軽いミステリー仕立てで面白く読んだ小説でした。

姉と慕ったお志麻が何者かに惨殺されてから四年。「どんな錠前も開ける」と評判高い美貌の天才錠前師・お緋名は、愛猫の大福と暮らしていた。「用心棒になりたい」とある日突然、榎康三郎という侍が現れる。その直後、緋名は賊に襲撃されるが、康三郎は取り逃してしまう。奴らが血眼で探すものは?康三郎は敵か味方か?そしてお志麻殺しの真相は―。謎とき帖シリーズ第一弾。(「BOOK」データベースより)

 

近年は時代劇ブームだそうです。そのブームに乗ってか需要の拡大に合わせて供給方である時代劇の新しい書き手が次々と現れていると言ったのは、今読み終えたばかりの辻堂魁の『風の市兵衛』のあとがきにあった細谷正充氏の言葉です。

その辻堂魁氏の小説も実に面白かったのですが、本書『緋色からくり』もそれに劣らずの掘り出し物のエンターテインメント小説でした。

 

 

まず、キャラクター設定がいい。主人公は「どんな錠前も開ける」と評判の女錠前師で、名前はお緋名(ひな)。「どんな盗人、錠前破りも尻尾を巻いて逃げだす」錠前職人だった父常吉の腕を継いでいます。

そのお緋名が襲われます。そこに現れたのが幼馴染の元大工町で髪結いをしている甚八から頼まれたという榎康三郎という浪人でした。

榎康三郎とは何者なのか。お緋名は何故に襲われたのか。次第に四年前に死んだ恩人のお志麻の死との絡みが明らかになっていきます。

 

主人公のキャラもさることながら、忘れてはならないのが、大福という名の猫の存在です。おっとりした性格で、見た目のとおり敏捷さに欠ける、猫らしくない猫です。この猫の存在が場面々々で雰囲気を和らげています。

勿論、文章も読みやすく、楽に読むことができます。

これまでによんだ新しい時代小説の書き手と言われる作家さんの中にはストーリーが何となく中途半端な作品や、筋立てに無理があったり、矛盾があったりする作品が少なからずあったのですが、本書はその心配もありませんでした。楽に読め、なお且つ筋立ても面白いのです。

本書『緋色からくり』の副題に「女錠前師 謎とき帖」とあるように、本書はミステリー仕立てになっています。と言っても本格的な探偵ものという訳ではなく、謎解き風味の時代劇エンターテインメントと言えるでしょう。

ユニークなキャラをメインにした娯楽小説です。シリーズ続編で榎康三郎という存在が変わらずにでてくるのか、また新しい登場人物が出てくるのか分かりませんが、早速次の作品を読みたいと思わせる作品です。

からくりシリーズ

緋色からくりシリーズ(2018年06月24日現在)

  1. 緋色からくり
  2. 数えからくり 女錠前師緋名

 

本シリーズの主人公お緋名は、「どんな盗人、錠前破りも尻尾を巻いて逃げだす」錠前職人だった父常吉の腕を継いでいる女錠前職人です。このお緋名が「鍵」にまつわる様々な謎をひも解いて行きます。

 

一作目でお緋名が姉とも慕うお志摩が殺され、その息子孝助は婚約者でもあった髪結いの甚八のもとに引き取られます。本シリーズが展開する時には、お緋名の幼馴染でもある甚八のもとで髪結いの下働きをしています。

その甚八は何かにつけ親代わりのようにお緋名の行動に目を光らせているのです。そして、榎康三郎という浪人が立ち回り担当として配置されていて、お緋名の用心棒的立ち場で活躍しています。

何より忘れてならないのは、もともとお志摩のもとにいた“大福”という猫の存在です。おっとりした性格で、見た目のとおり敏捷さに欠ける、猫らしくない猫だというのですが、この大福が物語の進行上、雰囲気を和らげ、とても良い味を出しています。

 
時代小説で「猫」に重要な役割を与えている作品といえば、同じ田牧大和による『鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙シリーズ』があります。江戸の根津宮永町にある鯖縞模様の三毛猫が一番いばっている長屋で繰り広げられる人間模様を描き出す人情時代小説です。そう言えば、この鯖猫の飼い主の拾楽も元は盗人でした。

その他には、池波正太郎の『剣客商売シリーズ』の中の『剣客商売 二十番斬り』に収められている「おたま」という短編が、おたまという猫をモチーフに作成された作品です。おたまに導かれた小兵衛が無頼者に襲われていたかつての知人と連れの女を助ける話です。

田牧大和の文章はとても読みやすく、登場人物の心理を情感豊かに、またコミカルな表現も交えながら描き出しています。

宇江佐真理のような人情味豊かでしっとりと心に染み入る文章とは違いますが、それでも季節の風情をそこそこに挟みこんでの心象の描写などは、やはり私の好みに合致したと言い切った方が良さそうです。

 

2018年6月現在、「緋色からくり」と「数えからくり」の二冊が出ています。

一作目の「緋色からくり」で登場人物の紹介を兼ねた物語が展開し、思いのほかに引き込まれました。二作目でもその面白さを維持しているか心配したのですが、二作目の「数えからくり」もレベルが下がることはありませんでした。面白いシリーズものとして期待して良いのではないでしょうか。

バトル・ロワイアル II 鎮魂歌(レクイエム)

社会現象を巻き起こした大ヒット作の続編であり、深作欣二監督の遺作となったバイオレンスアクション。前作から3年、反BR法組織“ワイルドセブン”を率いる七原秋也を倒すためにBR法が改正。政府は42人の中学生を拉致し、七原秋也のアジトに進入させる。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

本作は高見広春の作品を原作とする映画ではありません。前作の「バトル・ロワイアル」の続編として制作されたものです。ですから、本来はここで挙げるべき性格の映画とは違うのかもしれませんが、一応続編ということで挙げておきます。

 

本作品制作の途中で深作欣二監督が亡くなられ、息子である深作健太が監督を引き継いで完成させましたが、前作ほどの評判にはなりませんでした。

バトル・ロワイアル 特別篇

深作欣ニ監督、ビートたけし出演のバイオレンスアクションに追加シーンを加えた特別編。新世紀教育改革法に基づき、無人島で中学生が殺し合う。“<東映 ザ・定番>”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

監督深作欣二の手になるアクション映画。

 

ビートたけしが冒頭だけではあるけれども出演していました。第24回日本アカデミー賞では優秀作品賞、優秀監督賞、優秀主演男優賞他を受賞し、第43回ブルーリボン賞の作品賞、そして主人公を演じた藤原竜也個人として同新人賞を受賞しています。映画としてはまあ面白かったと思います。

クエンティン・タランティーノが本作に惚れこんで映画ランキングでも一位を与えています。

 

続編として「バトル・ロワイアルII 鎮魂歌」が製作されています。

 

 

なお、上記「バトル・ロワイアル」のリンクは劇場公開版に追加撮影シーン、未公開シーンを加え、CG修正を施した本編を収録してある「特別編」です。通常の劇場公開版には下のリンクから入ってください。

 

バトル・ロワイアル

西暦一九九七年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。城岩中学三年B組の七原秋也ら四十二人は、修学旅行バスごと無人の島へと拉致され、政府主催の殺人実験を強制される。生還できるのはたった一人。そのためにはただクラスメイト全員を殺害するのみ―。現代日本を震撼させたジェットコースターデスゲーム・ノヴェル、ついに文庫化。( 上巻 : 「BOOK」データベースより )

“死のゲーム”の開始後十八時間、混乱のうちに既にクラスメイトの半数が死亡していた。秋也は中川典子、転校生の川田章吾とともに政府への逆襲を誓うが、その前に殺人マシンと化した桐山和雄が立ちはだかる。生死の狭間で彼らそれぞれが守ったのは、意志か、誇りか、約束か。中高生を中心に熱狂的な支持を得た新世代青春小説の金字塔。( 下巻 : 「BOOK」データベースより )

 

中学生同士の殺し合いというセンセーショナルな内容で話題になった、長編の新世代の青春小説(?)です。

 

極東に存在する「大東亜共和国」という全体主義国家が舞台です。

七原秋也ら本書の登場人物たちは修学旅行のバスの中で眠らされ、とある島で目覚めます。そこで、最後の一人になり生き残るべくクラスメイトを殺さなければならず、生徒の数だけの人間ドラマが展開されます。

 

中学生同士の殺し合いという内容が内容である上に、深作欣二監督による映画化で話題になった小説です。

設定された国家制度そのものは少々現実感が無く、感情移入がしにくいとは感じました。この世界の状況設定をもう少し書き込んでくれていたらとも思ったものですが、背景説明が冗長になっても物語本体のゲーム性が失われそうだし、難しいところなのでしょう。

 

物語の内容自体は少々長いきらいはあり、登場人物が中学生であるために筋立てが少々無理と感じるところもあったりと、小説としての完成度は決して評価できません。しかし、結構面白く読みました。最後のオチもその荒さに目をつむればまあ許せる範囲内ではないでしょうか。

でも、何といっても中学生のクラスメイト同士の殺し合いという設定そのものを受け入れられない人が少なからず居るのと思われますし、そう感じるのが当たり前でしょう。

私は虚構は虚構として、映像でもスプラッターでさえ(あまりグロくさえなければ)受け入れる人間なので、物語自体が面白いかどうか、だけが問題なのです。この設定そのものを面白いと感じる感情こそが問題なのかも知れませんが。

 

本書での救い、と言っていのかどうかは分かりませんが、性描写がないことでしょうか。大人向けの漫画版ではこのエロの要素が増えているそうです。

グレイヴディッガー

八神俊彦は自分の薄汚れた人生に区切りをつけるため、骨髄ドナーとなり白血病患者を救おうとしていた。しかし移植を目前にして、都内で連続猟奇殺人が発生。事件に巻き込まれ、容疑者として手配された八神は、命がけの逃走を開始する―。八神を追う警察、謎の集団、そして殺戮者・墓掘人。八神は追跡をかわし、患者の命を救うことが出来るのか?稀代のページターナーが放つ、ノンストップ・エンタテインメント。(「BOOK」データベースより)

 

久しぶりにこんなスピード感のある小説を読みました。10年位前に読んだ『二重螺旋の悪魔』、『ソリトンの悪魔』の梅原克文以来かもしれません。外国で言えばD・R・クーンツの『ファントム』、ロバート・R・マキャモンの『スティンガー』といったところでしょう。

 

 

 

 

 

そうした各作品にはどことなくホラーチックな匂いというか、クリーチャーの存在が大きいのですが、本作品は確かに舞台設定にはホラーテイストはあるにしても、アクション性の方が強いところがちょっと異なる気がします。

本書はノンストップアクション小説なのです。

 

死体の盗難事件という妙な事件を担当する刑事同士の会話から幕が開きます。

本書の主人公八神俊彦は、骨髄移植のドナーとなって患者として苦しんでいる人を助けようとする、初めての善行をする気になったワルです。

一方、煮えたぎる風呂場で茹でられている死体や見えない炎で焼き殺される女などの連続殺人が発生して、八神が犯人として警察に追われることになります。

 

本書『グレイヴディッガー』は、この八神俊彦の一夜の逃避行を描いた作品です。

一気に読んでしまいました。

この作家の他の作品と異なり、一番エンターテインメント性が強い本ではないでしょうか。他のことは何も考えずに、ただ、単純に物語世界に浸ればいい。そういう作品です。

ジェットコースター作品が好きな人には絶対お勧めです。面白いです。

ジェノサイド

イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化!(上巻 : 「BOOK」データベースより)

研人に託された研究には、想像を絶する遠大な狙いが秘められていた。一方、戦地からの脱出に転じたイエーガーを待ち受けていたのは、人間という生き物が作り出した、この世の地獄だった。人類の命運を賭けた二人の戦いは、度重なる絶対絶命の危機を乗り越えて、いよいよクライマックスへ―日本推理作家協会賞、山田風太郎賞、そして各種ランキングの首位に輝いた、現代エンタテインメント小説の最高峰。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

スケールの大きな長編のエンターテイメント小説です。

 

四人の傭兵はコンゴの紛争地帯にいる、あるピグミー一族と一人のアメリカ人の抹殺を命じられます。一方、古賀研人は急死した父親からのメールに従いある難病の治療薬の開発に着手するのでした。ここに人類の存亡をかけた戦いが始まります。

 

思っていた内容とは異なる作品でした。

ジェノサイドという題名からして、映画プレデターのようなアクションものを予想していたのですが、いい意味で裏切られました。他の作品と比してもまた全く異なるテイストで驚きます。

 

学術的なこともよく調べてあるし、構成も緻密に考えられてもいるのでしょうが、もう少しエンターテインメントとして徹してくれていれば、更に面白く読めたのではないかと思われる作品です。

というのも、著者の歴史観の取り扱い方が軽すぎるのです。歴史観が色濃く出ること自体は作品として問題はないのでしょうが、各場面で少々唐突にすぎますし、表現も単純で浅薄に感じられてならないのです。せっかくの物語が色褪せてしまいました。

 

もう一点加えれば、重要な役割を果たす友人の存在にしても少々説明不足でご都合主義的に感じられてもったいないです。残念でした。

でも、さすがベストセラーになっている本です。その面白さは否定できません。

13階段 [DVD]

高野和明原作の傑作ミステリーを小説を、山崎努、反町隆史を主演に迎えて映像化。刑務所の看守長・南泣Xcw、無実を訴える死刑囚の再審請求のための新たな証拠を探すよう依頼される。南郷は、傷害致死事件の元服役囚・三上を助手にし、捜査を開始する。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

未見です。