小島 英記

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新刊書

日本経済新聞出版社

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伊藤一刀斎という表題に惹かれて借りて見ました。塚原卜伝や上泉信綱などと共に戦国時代、いや日本の剣豪を語るときには必ず名前の挙がる人です。これまで、歴史小説や剣豪ものの時代小説の中にその名前が出てくることはあっても、伊藤一刀斎を主人公とした小説は読んだことがありませんでしたので、図書館でこの本を見かけるとすぐに借りたのです。

しかし、残念ながら小説としては中途半端にしか感じられず、決して面白い小説とはいえないものでした。

大島で流人の子として生まれ、十五歳の六尺(180cm)豊かな若者として育っていた弥五郎は、山で知り合った山伏に師事し剣術を習う。しかし、その師匠が惨殺されたことからその仇を討ち、島を抜けることとなってしまう。何とか本土に辿り着いた弥五郎は、その後三島神社の矢田部宮司に拾われ、行儀作法も習い、有名な甕割刀をも手に入れるのだった。

以上はこの小説の冒頭部分で物語はまだまだ五十頁にも達していないのですが、少々好みと違う小説だと気づきました。どうも、読み手である私とこの小説との交流は上手くいかないのです。登場人物に深みを感じられず、歴史的事実の羅列としか感じられませんでした。

そもそも伊藤一刀斎という人物はその詳細がよく分かっていない人らしく、生年や生誕地など異説が多数存在するそうです。本書は『一刀流口伝書』などで伝わるエピソードをつないで小島英記という作家なりの伊藤一刀斎を作り上げようとしています。しかし、それが決して成功しているとは言えないのです。もう少しそうした伝承を練り上げ、物語として展開されるのを期待していたのですがかないませんでした。

更には小説としての小さな違和感が少なからず残りました。例えば伊藤一刀斎は自分こそが天下最強との自負を抱いていながら、師とも仰ぐ上泉伊勢守信綱との久しぶりの邂逅の時も旧交を温めるだけで別れています。最強を自負する以上は決着をつけたいと思う筈なのに、何故にこの二人は戦わないのでしょう。また、後継者を選ぶために愛弟子たちに命懸けの戦いを命じるという話は歴史的な事実としてあるのだそうですが、何故命がけの戦いを命じたのか、そうした理由、意味については何も語られていません。こうした点をこそ想像力で満たしてほしかったのです。(もしかしたら一刀流は一子相伝であり、そのことを書いてあったにもかかわらず私が見落としたのかもしれません。)

ただ、立ち会いの場面は剣筋をきちんと示し、立ち会いの臨場感を感じられる表現になっており、この丁寧さが物語本体にも欲しいと思いつつ読んだものです。

一度はこの作家の作品はもう読まないと書いたのです。しかし、もしかしたらこの作家の他の作品はこうした不満は無いのかもしれないので、何かのきっかけがあれば他の作品も読んでいたいと思います。

[投稿日]2015年04月11日  [最終更新日]2015年5月6日
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