本書『高い砦』は、名作中の名作と名高い、長編の冒険小説です。
普通の人間が力を合わせ、それぞれの知恵と勇気をもって困難な状況を打破し前に進んでいく物語で、冒険小説の原点が読みとれると思います。
旅客機がハイジャックされ、操縦士のオハラはアンデス山中の高所に無謀な不時着を強いられた。機体はひどく損傷し、犯人らは死亡。かろうじて生き残ったオハラたち九名は、高山病に苦しみながらも救助を求め山を下り始めた。そんな一行を、突如銃撃が襲う。一体誰が、何のために?背後は峻険な峰々。絶体絶命の窮地に陥った彼らは、驚くべきアイデアでこれに挑むが…壮大な自然に展開する死闘。冒険小説史上屈指の名作。(「BOOK」データベースより)
本書『高い砦』はバグリィをベストセラー作家として確立した作品といえます。というより、70年代に日本で出版された冒険小説の中でのトップクラスの人気を誇っている作品と言って良いででしょう。
朝鮮戦争を戦ったパイロットだったティム・オハラは、戦いの中で負ったつらい過去を忘れるためにも南米の山中で小さな貨物運輸会社の雇われパイロットをしていた。
ある日、少数の旅客を載せた貨物機でトラブルが起きアンデス山中に墜落してしまう。麓を目指す生き残りの乗客だったが、何故か共産ゲリラの襲撃を受けるのだった。
一行は何の武器も持ちません。しかし、軍人であったという過去を持つものの決して特殊な能力を持つ訳ではない普通の男のオハラを中心に、歴史学者の出したアイデアをもとに投石器や石弓を作り上げゲリラに対抗するのです。
そこには男も女も無く、一致して共産主義者に対抗する、という強い意志がありました。
先日、多分20年ぶりに本書『高い砦』を再々読しました。最初に読んだのは学生の頃で40年近くも前になるのでしょうか。相変わらず一級の面白さを持った小説でした。
まず、魅力的な登場人物が知恵の限りを尽くして戦う描写の面白さがあります。
その上で、日本冒険小説協会のサイトの中の今は亡き内藤陳氏のコメントにも引用されている名文句、「血が男の中に流れている限り、不可能ということはないんだよ」というセリフにも示されている、男の、というよりも本書に関して言えば、人としての魅力的な生き様が示されていること自体が心を打つのでしょう( 会長コラム Jafaー日本冒険小説協会ー : 参照)。
しかし、今回最初に読んだときほどの感動は、多分、ありませんでした。勿論、三読目ですので最初に読んだときほどの驚きが無いのは当たり前かもしれません。
しかし、何といっても時代背景が今とは異なるという点が大きいと思われます。
そして何よりも、当時とは異なり日本にも良質で面白い冒険小説が数多く出されていて、その多くを読んでいるということが大きいのではないでしょうか。
D・バグリィという名前は、『鷲は舞い降りた』のジャック・ヒギンズや『ナヴァロンの要塞』のアリステア・マクリーン、それに『深夜プラス1』のギャビン・ライアルらと共にやはり巨匠であり、いつまでも冒険小説界を代表する作家として語られると思います。