探偵は吹雪の果てに

ちんぴらに袋叩きにされて、“俺”は入院した。そこで偶然、病院の付添婦をしている昔の恋人と再会。彼女からの依頼で雪の田舎町まで一通の手紙を届けることになった探偵だが、町に着くなり身辺に不審な男たちの影がちらつき始め、理由も解明できないまま町を追い出されてしまう。やくざの組長の桐原の助けを借り、再び町に舞い戻った探偵に最大の危機が!雪原を血にそめる死闘の果ての意外な結末とは?シリーズ最高傑作。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の長編第五弾となるハードボイルド小説です。

 

このシリーズを今まで読んだ限りでは面白さという点では一番低いと思いました。

舞台が札幌から離れたためでしょうか。それとも自然の中での逃走や格闘など、これまでとは異なる状況設定のためでしょうか。

どこかほかの本か映画で見たようなシーンがあり、今一つ世界に入れませんでした。

探偵はひとりぼっち

みんなに愛されていたオカマのマサコちゃんが、めった打ちにされて殺された。若いころに彼と愛人同士だったという北海道選出の大物代議士が、スキャンダルを恐れて消したのではないかという噂が流れはじめる。マサコちゃんの友人だった俺は、周囲が口を閉ざすなか調査に乗りだした。やがて、身辺に怪しげな男たちが現われ、奇怪な事件が…日本推理作家協会賞受賞作家が描く、軽快なハードボイルド・シリーズ第4作。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の第四弾の長編のハードボイルド小説です。

 

相変わらず物語はテンポよく進みます。

 

本書は、大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』の原作になっています。

 

向う端にすわった男

ある夜「俺」のところに、結婚詐欺にまつわる依頼が舞い込んだ。詐欺を仕組んだのは、元一流商社マンの伊野田という男だという。さっそく「俺」は、札幌にメディア革命を起こそうと息巻くこの男の企画会社にもぐり込んだのだが…夢見る男の不気味な犯罪を描く中篇「調子のいい奴」ほか、バーにすわった謎の男をめぐる表題作など、5篇を収録。札幌ススキノを舞台にした新感覚ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

出版年順にいけば「ススキノ探偵シリーズ」の第四弾となる作品集ですが、短編集なので番外編的な位置づけになるのでしょう。全部で五編の中・短編を収めたハードボイルド作品集です。

 

「俺」が主人公の初めての短編集です。いろんな男が登場します。

標題になっている「向う端にすわった男」では、まずは文章がこれぞハードボイルドだという雰囲気をあたりに振りまいています。そんな男が実際に居る筈もないと思いつつ、それでも<ケラー・オオハタ>では静かな店の中にキースジャレットのピアノが流れており、男はひとり静かにマティニを飲んでいるのです。

これがまた実にかっこいい。ここだけ取り出せば、北方謙三の『ブラディ・ドール シリーズ 』だといっても通るかもしれない。 そうした設定のもとで「俺」はまた悪い癖でトラブルに巻き込まれていそうな男に声をかける・・・・・。

 

 

この短編とあわせて5編の物語はやはり面白い。

 

結局、このシリーズがもっとも私の感性に合うようで、続編を読めるのはいつだろうかと、今から心待ちにしているのです。

消えた少年

学校では問題児扱いだが映画が大好きな中学生、翔一と知り合い意気投合した(俺)。ところが、翔一の親友が惨殺死体で発見され、一緒にいたはずの彼も行方不明となってしまった。変質者による誘拐か?暴力団がらみなのか?それとも、学校をも巻きこんだ障害者施設反対運動に関係があるのか?担任の教師、春子に翔一の捜索を依頼された(俺)は、彼の姿を探してススキノを疾走する!新感覚ハードボイルド長篇第三作。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の第三弾の長編のハードボイルド小説です。

 

この作家は若者への怒りの量が多いのか、今の若者を物語のどこかで、それも結構な重要なポイントで絡ませることが多い。そしてその若者は結構なアホなのです。

現実の若者がこの作者の言うような理不尽な行いをしているのかは私にはわからない。しかし、作家という人たちは少なくとも私よりは世間を、今の若者を知っているだろうから、物語そのままではないにしろ、近しいところがあるのでしょう。

 

物語は相変わらず面白いです。

バーにかかってきた電話

いつものバーで、いつものように酒を呑んでいた「俺」は、見知らぬ女から、電話で奇妙な依頼を受けた。伝言を届け相手の反応を観察してほしいという。疑問を感じながらも依頼を果したのだが、その帰り道、何者かによって殺されそうになった。そして、ひとり調査を続けた「俺」が知ったのは依頼人と同じ名前の女が、地上げ放火ですでに殺されていたことだった。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の第二弾の長編のハードボイルド小説です。

本書は、大泉洋主演で大ヒットした、映画版「探偵はバーにいる」の下敷きとなった作品です。

映画の方を先に見たのですが、本シリーズを読んでみると、大泉洋というキャラクターと本書の「俺」とのイメージの違いに驚いたものです、

しかし、映画は映画でかなり面白く、本書の雰囲気とはかなり異なるものの、映画としてかなりよく出来ていたのではないでしょうか。映画は2018年10月の時点で第三弾まで醸成されています。

 

前作と同様に若干の冗長さは感じるのだけれど、それはそれとして面白さは間違いない。

先に映画を見ていると本を読むときに困る。個人的には本が先で映画を見た方が楽しめる気がする。

探偵はバーにいる

札幌の歓楽街ススキノで便利屋をなりわいにする「俺」は、いつものようにバーの扉をあけたが…今夜待っていたのは大学の後輩。同棲している彼女が戻ってこないという。どうせ大したことあるまいと思いながら引き受けた相談事は、いつのまにか怪しげな殺人事件に発展して…ヤクザに脅されても見栄をはり、女に騙されても愛想は忘れない。真相を求め「俺」は街を走り回る。面白さがクセになる新感覚ハードボイルド登場。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵」シリーズの第一作です。

最初にこのシリーズの『探偵、暁に走る』を読んだのは良かったのか、悪かったのか。

 

後輩から恋人探しを頼まれた「俺」は気楽な気持ちで依頼を受ける。どうもその恋人は売春行為を行っていたらしい形跡はあるが、なかなかその姿を現さない。そのうちに子供と言って良いグループから襲われたり、不穏な空気が漂い始めるのだった。

 

どうしても常連組の顔合わせ的な感じが残りましたが、これはシリーズ第一作目でもありしかたのないところでしょう。

このシリーズで最初に読んだ作品の『探偵、暁に走る』では、台詞回しも軽妙で無駄を感じさせることはなかったのですが、本作ではその軽口が冗長に感じる場面が少なからずありました。これはやはり、作者の経験の差でしょうか。それとも読み手の問題なのでしょうか。

しかし、最初に本作品を読んでいたのだとしてもやはりこの作者を追いかけて続けて読んだでしょう。それほどに面白い小説です。

ススキノ探偵シリーズ

 

この作家のメインのシリーズと言っても良いのではないでしょうか。それほどに、主人公の設定がいい。決してタフではなく、スタイリッシュでもない。携帯電話は使わなかったり、シャワートイレで無ければ用を足せなかったり、妙なこだわりを持った男です。

主人公が能天気だけど愛すべき男であり、その主人公を取り巻く登場人物がまた魅力的です。空手の達人で後に主人公の腕力担当とも言えそうな高田、主人公の喧嘩相手であったやくざの組長桐原、その右腕の相田等々きりがありません。

主人公の饒舌さも魅力の一つでしょう。ロバート・B・パーカーのスペンサーのように軽口ばかり叩いています。そういえば、スペンサーにはホークというこわもての相棒がいますが、「俺」にも高田という空手の達人がいます。

主人公の名前は明かされていません。他のシリーズに出てくるときは「便利屋」と呼ばれています

 

蛇足ですが、名前を明かしていない探偵といえば、ビル・プロンジーニ「名無しの探偵」がおり、日本では三好徹の「天使」シリーズ(下掲イメージはKindle版)の主人公がいます。

 

 

また、本『ススキノ探偵シリーズ』は映画化されており、現時点(2018年10月)で「探偵はBARにいる3」まで三作品が作成されています。映画版もそれだけ人気があるということでしょう。

 

志水 辰夫

この作家の本を読んだきっかけはもはや覚えていません。

それ頃に読んでいた本と言えば、SF小説、推理小説が殆どで、ハードボイルド小説もハメットとかスピレインといった外国モノばっかりだったのです。ところが、この人の本を読んで、日本人の手でこれほどの物語が書けるのか、という新鮮な驚きを覚えたことだけが印象に残っています。

その本が「飢えて狼」だと思っていたのですが、あらためて調べてみたところ「裂けて海峡」だったようです。というのも、その最初に読んだ本の最後の文章が「気障(きざ)」と言うほかない言葉だったのです(後記参照)。こんなきざな文章を書く人が居るのか、という思いと、その文章がその物語の末尾として見事というほかなく、強烈な印象を残していたのです。

飢えて狼」「裂けて海峡」「背いて故郷」が三部作と言われていたと思うのですが、他に「あっちが上海」「尋ねて雪か」などもあります。

近年、志水辰夫は時代劇宣言をしたらしく、時代物ばかりを書いておられるようです。この作品群がまた面白い。ハードボールドな世界が江戸時代を背景に繰り広げられるのです。この人の作品はハードボイルドとは言っても、北方謙三の短文をたたみかける乾いた文体とは異なり、実に叙情的なのです。シミタツ節と言われるその文章が、時代小説として繰り広げられています。

この人の作品は派手なストーリー展開は初期の作品を除いてはそんなにはありません。したがって、少々とりつきにくい側面があるかもしれません。しかし、読了したときには必ず虜になっていると思います。

お勧めです。

北方 謙三

とにかく正統派のハードボイルド作家と言えます。全体的に物語のトーンは低く、短いセンテンスでたたみかけるようなその文体は「男」を強烈に感じさせます。

私の一番好きな「ブラディ・ドール」と「約束の街」シリーズはその最たるもので、同じ世界観を持っています、と思っていたら「街」シリーズの終わりの方では両シリーズが合体してしまいました。

一方、「挑戦」シリーズのように冒険小説的な匂いを持ち、物語のトーンが低いとはいえない作品もあるのですが、それでもやはり根底は「男」を感じさせる物語に仕上がっていると言って良いのではないでしょうか。

ある時期から時代小説や歴史小説にも手を染められています。でもやはり北方節は健在です。

更には中国文学の新解釈による再構成もされています。ここでも北方節は健在なのですが、物語の底に流れていた暗いトーンは影を潜め力強さを感じさせてくれる文体になってます。「三国志」や「水滸伝」など10巻以上にわたる大作を順次発表されています。これらがまた面白く、是非読まれることをお勧めします。

北方謙三作品は作品数も多く、一概には語れません。ただ、どの作品も高水準のものばかりだ、とは言えると思います。

以下殆どの作品を読んではいるのですがとても紹介しきれませんので、私の好きな作品の中でも代表的なものを参考として挙げました。

東 直己

札幌市立東白石中学校、北海道札幌東高等学校卒業、小樽商科大学中退、北海道大学文学部哲学科中退。
大学中退後、土木作業員、ポスター貼り、カラオケ外勤、タウン雑誌編集者など様々な職を転々とした後、1992年、『探偵はバーにいる』で作家デビューした。以後、「俺」を探偵役にしたススキノ探偵シリーズ、探偵畝原シリーズ、榊原シリーズなどの作品を発表し、気鋭のミステリー作家として注目を浴びる。小説、エッセイの他、自ら取材のために刑務所に服役して著した異色のルポタージュ『札幌刑務所4泊5日体験記』などがある。札幌市在住であり、同市および北海道を舞台にした作品が多く、北海道のローカル情報番組「のりゆきのトークDE北海道」(uhb)では長年にわたってコメンテーターとしても活躍している。
2001年、『残光』で第54回日本推理作家協会賞を受賞した。( ウィキペデア : 参照 )

 

ずっとこの東直己という作家の作品を読んだことがありませんでした。正確に言えば、アンソロジーの中の一作として短編を読んだことはあったのだけれど、記憶に残っていなかったのです。

ところが、大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる』がきっかけで東直己を知ったのですが、原作を読んだところ、これが非常に面白い。久しぶりに物語世界に引き込まれた作家に出会いました。

作品単品ではこれは良いと思える作品はあったのですが、作家として面白いと思えたのは久しぶりのことです。

 

 

ハードボイルド作品ですが、少なくともシリーズ作品は北方謙三志水辰夫などの低いトーンの男たちの世界と比べると現実的です。

 

 

東直己の『ススキノ探偵シリーズ』の主人公はひたすら能天気だし、『探偵・畝原シリーズ』では生活を背負って生きています。『榊原健三シリーズ』でも、この作家自身がそうなのか、文章若しくは文体がそうなのか、決してトーンが低いとは言えなさそうです。

また、これらの三作品について言えば各シリーズがその舞台を同じくしていて、夫々の登場人物が他のシリーズに出てきたりと、それもまたこの作品群の魅力の一つだと思います。

特に「ススキノ探偵」の「俺」の饒舌さは群を抜いています。少々冗長な場面が無いこともありませんが、それでも物語の雰囲気を盛り上げてくれます。

 

ちなみに『ススキノ探偵シリーズ』の映画化作品は、現時点(2018年10月)で「探偵はBARにいる3」まで三作品が作成されています。映画版もそれだけ人気があるということでしょう。

 

 

残念ながら東直己作品はここしばらく出版されていないようです。心待ちにしているのですが、残念です。