ローレライ [DVD]

福井晴敏原作の「終戦のローレライ」を映画化。1945年8月、ドイツ降伏後日本海軍に収容された潜水艦「伊507」の艦内を舞台に、任務を負ったクルーたちの様々な思いが交錯する。果たして、クルーたちは任務を遂行することができるのか…。(「Oricon」データベースより)

 

映画版「亡国のイージス」に比べると少々落ちます。

評価する声もそこそこあるようなので全くの個人的な感想かもしれませんが、原作の面白さを再現できているとは思えませんでした。

終戦のローレライ

昭和二十年、日本が滅亡に瀕していた夏。崩壊したナチスドイツからもたらされた戦利潜水艦・伊507が、男たちの、国家の運命をねじ曲げてゆく。五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライとはなにか。終戦という歴史の分岐点を駆け抜けた魂の記録が、この国の現在を問い直す。第22回吉川英治文学新人賞受賞。(1巻 : 「BOOK」データベースより)

この国に「あるべき終戦の形」をもたらすと言われる特殊兵器・ローレライを求めて出航した伊507。回収任務に抜擢された少年兵・折笠征人は、太平洋の魔女と恐れられたローレライの実像を知る。米軍潜水艦との息詰る死闘のさなか、深海に響き渡る魔女の歌声がもたらすのは生か死か。命の凱歌、緊迫の第2巻。(2巻 : 「BOOK」データベースより)

その日、広島は核の業火に包まれた。人類史上類を見ない大量殺戮の閃光が、日本に定められた敗北の道を歩ませ、「国家としての切腹」を目論む浅倉大佐の計画を加速させる。彼が望む「あるべき終戦の形」とは?その凄惨な真実が語られる時、伊507乗員たちは言葉を失い、そして決断を迫られた。刮目の第3巻。(3巻 : 「BOOK」データベースより)

「ローレライは、あなたが望む終戦のためには歌わない」あらゆる絶望と悲憤を乗り越え、伊507は最後の戦闘へ赴く。第三の原子爆弾投下を阻止せよ。孤立無援の状況下、乗員たちはその一戦にすべてを賭けた。そこに守るべき未来があると信じて。今、くり返す混迷の時代に捧げる「終戦」の祈り。畢生の大作、完結。(4巻 : 「BOOK」データベースより)

 

第二次世界大戦も末期、日本への移送中に米軍から逃れるために日本近海に投擲されたドイツの秘密兵器「ローレライ」を回収するための戦いを描く、長編の冒険小説ですた。

 

とにかく長い物語です。文庫本全四巻で千七百頁を超えます。

それでも、かなり面白く読みました。『亡国のイージス』でも「国家」について考えさせられましたが、本作でもまた、先の戦争を通じて国家の在り方について問いかけられています。

 

 

福井晴敏という人は、とにかくディテールにこだわる作家さんだと思われます。

登場人物も多数に上るのですが、それぞれについて人物の背景を説明し、更に舞台の背景を説明するのですから物語が長くなるのも当たり前でしょう。

凄いのは、冗長になるであろうこの長い物語を読み手の興味を惹いて飽きさせないその筆力です。山崎豊子の作品も、例えば『不毛地帯』 (新潮文庫 全五巻)のように決して上手いとは思えない文章でいながら、長大な物語を引っ張っていきますが、その感覚に似ているのでしょうか。

 

 

かように、もう少し簡潔に描写出来るのではないかと思わせる個所が少なからずあるのですが、それよりも物語を読ませる力が強いと感じさせられます。

場合によっては政治色が強くなり、読者の興を削ぎかねないテーマなのですが、エンターテインメント性が強いためかこの点も負担にはなっていないようです。

 

日本には珍しい骨太のスケールの大きい作品の一つだと思います。軽く読める本ではありませんので、そうした本を好みの方以外の大半は面白いと評価されるのではないでしょうか。

第二十四回吉川英治文学新人賞、第二十一回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞を受賞した作品です。

 

ちなみに、本書は役所広司、妻夫木聡らの出演で映画化されています。かなり見ごたえのある作品として出来上がっていたと思います。

 

亡国のイージス [DVD]

福井晴敏原作のベストセラー小説を映画化。首都・東京を人質に、最新鋭の防空システムを持つイージス艦“いそかぜ”が乗っ取られた。特殊兵器を東京に向けられ、残された時間は10時間という中で、国家最大の危機に立ち向かう男の姿を描くスペクタクル・エンタテインメント大作。真田広之、寺尾聰ほか出演。(「Oricon」データベースより)

 

真田広之、中井貴一、寺尾聰、佐藤浩市といった芸達者な役者さん達が出演しているというだけでも見る価値はあるでしょう。

これらの人たちがスケールの大きな原作を料理するのですから、よほどのことが無い限り、それなりの面白さは保証されていると言って良いと思います。

実際、自衛隊の協力もあって、終盤のアクションシーンは実際の自衛艦の中で撮影されたようです。

この映画を見たときは、胸を張っておすすめで切り映画ですとまでは言えませんが「そこそこに」面白い、との感想を持ちました。

亡国のイージス

在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦“いそかぜ”は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った“楯”が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞を含む三賞を受賞した長編海洋冒険小説の傑作。( 上巻 : 「BOOK」データベースより )

「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非ず」ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るために―。すべての日本人に覚醒を促す魂の航路、圧倒的クライマックスへ。( 下巻 : 「BOOK」データベースより )

 

日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞などを受賞している、国防問題を取り上げたスケールの大きな長編の冒険小説です。

 

東京湾に浮かぶ最新鋭のイージス艦「いそかぜ」が、北朝鮮の工作員とそれに同調する自衛官のグループに乗っ取られてしまう。

このテロリストは生物化学兵器「GUSOH」を有しており、テロリストグループに東京を人質に取られたも同様だった。

この「いそかぜ」に先任警衛海曹仙石恒史と防衛庁情報局(DAIS)所属の如月行とが潜り込み、テロリストたちに立ち向かうのだった。

 

本書も、文庫本の上下巻を合わせると千百頁を超える分量という長い作品です。でも、その物語が決して長過ぎるとは感じません。

先に書いたように、ディテールを詳しく書き込んであるのですが、それが冗長に感ぜずに、舞台背景や人物の関連などの理解に役立っています。

自衛隊の装備や専門用語についても詳しく解説してあります。そうしたハード面の描写に加え、登場人物の人物造形もメリハリよく描写してあります。

更には、その多数の登場人物たちの人間関係の描写も読ませ、特に仙石恒史と諜報員としての実態を持つ如月行との関係は胸に迫るものがあります。

加えて敵役のテロリストたちもその思想や生活の背景の描写は詳しく、心情として犯人側に傾きやすい背景を用意したりと、小説としての構成も上手いと感じさせられました。

 

とにかく、骨太の物語で細かなところまでまで詳しく書き込まれた、日本には珍しいタイプの小説です。

本当は実に細かなところでの間違いもあるらしいのですが、気にする必要も無いところでしょうし、筋立ても読み手を裏切る意外性に富み、第一級の冒険小説だと思います。

 

自衛隊を描き出した作品としては月村了衛の『土漠の花』があります。アフリカのジブチとソマリアの国境付近で現地の勢力に襲われる自衛隊の隊員の、灼熱の太陽のもと、自衛隊の基地までの70Kmの行動を描いた冒険小説です。本作に比してアクション面が強い作品だと思われます。

 

 

また、安生正の『ゼロの迎撃』という作品のほうが、より本作『亡国のイージス』に近いと思われます。

というのもこちらは、防衛庁情報本部情報分析官の真下俊彦三等陸佐が三人の部下と共に、東京の中心部でテロ攻撃を実行した正体不明のテロリストに立ち向かうという、自衛隊の現下の状況を踏まえて法律論まで踏み込んで書かれている作品だと思われるからです。

 

 

ちなみに、本作品は真田広之や寺尾聰らの出演で映画化もされています。この映画は防衛庁や海上自衛隊、航空自衛隊らの協力のもとに製作され、なかなかの迫力をもった映画になっていたと思います。

ただ、アクション面が強調され、政治的側面や人間ドラマは、無いことはなかったのですが、あまり重きが置かれていなかったのではないでしょうか。

 

福井 晴敏

スケールの大きな小説を書く人です。それでいて、ディテールまでこだわっておられるようで実に細かなところまで書き込まれています。

多くの作品で舞台となる世界は共通していて、防衛庁情報局のDAIS(ダイス)という架空の組織や特定の個人が複数の作品にわたって登場しています。

少々無理と思われる設定でさえも押し切ってしまい、それがあまり違和感も無く物語として成立するのは筆力のためでしょうか。それでいて、人間関係もかなり細かく描写してあるので夫々の立ち位置がはっきりしており、読み進む上でメリハリが付いて、読みやすさの一因ともなっているようです。

また、自衛隊がかなり重要な位置を占める作品が多く見受けられます。思想的にはどうなのかは良く分かりません。本人の言葉として「書いた時にはそれほどでもなかったテーマが、数年のうちに時代の方が作品に追いついてきた」という意味のことを言っておられます。あくまでアクション小説の舞台としての自衛隊を描いたのに結果としてリアリティーを持ってきたに過ぎないのか、そもそも「国を守る」意識の薄いと思われる現代に対する警鐘としてのきもちがあったのかは不明です。

描写が詳細にわたるためどの物語も長文になっています。構成のしっかりした、重厚の物語を読み込みたいひとにはうってつけでしょう。当たり前ですが、軽い物語を読みたい人には向かないと思います。

東京デッドクルージング

2015年、東京。富裕層と貧困層の格差が拡大し、脱北者の無条件受け入れを開始した日本。企業は不良少年らで民兵集団を組織し、民兵・晃らはミッションのもと、中国人が集うクラブを襲撃。偽ドル札作りの天才・劉の拉致に成功した。一方、クラブの襲撃により、脱北者の売春婦として生活していたヒギョンが命を落とした。ヒギョンの姉、ファランは妹の死体を前に、ある決意をする…。(「BOOK」データベースより)

本書を読んだ当時は、面白くない小説という印象しかありませんでした。主人公たちの行動の理由や舞台設定が何故か受け入れられなかったようです。

新装版 果てしなき渇き

新装版 果てしなき渇き』とは

 

本書『新装版 果てしなき渇き』は2005年01月に刊行されて2021年11月に新装版として上下巻合わせて511頁で文庫化された、長編のミステリー小説です。

第3回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞しており、かなりの評判を得た作品です。

 

新装版 果てしなき渇き』の簡単なあらすじ

 

第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、スマッシュ・ヒットとなった本作が新装版になって登場!部屋に麻薬のカケラを残し失綜した加奈子。その行方を追う元刑事で父親の藤島。一方、三年前。級友からひどいイジメにあっていた尚人は、唯一自分を助けてくれた加奈子に恋心を抱くようになるが…。現在と過去の物語が交錯し、少しずつ浮かび上がる加奈子という少女の輪郭。彼女は果たして天使なのか悪魔なのか。(新装版 上巻 :「BOOK」データベースより)

尚人は加奈子に会いたいがため、皆が恐れる不良グループ“アポカリプス”のパーティに参加することになる。一方、娘の捜索を続ける藤島は、加奈子がある大きな組織に追われていることを知る。探れば探るほどに深くなる彼女の闇。加奈子に狂わされた男たちの運命は。そして待ち受ける驚愕の結末とは。全選考委員が圧倒された『このミス』大賞受賞作品。読む者の心を震わせる暗き情念の問題作が、新装版になって登場。(新装版 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

新装版 果てしなき渇き』の感想

 

先にも書いたように、本書『新装版 果てしなき渇き』は第3回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞した作品です。

ただ、私が本書を読んだのはかなり前のことであり、「このミス」受賞作とはいっても、バイオレンスの印象は残っているものの、内容についてはほとんど記憶にありませんでした。

今回の映画のストーリーを聞いて、漠然とその内容を思い出したほどなのです。

決して私の嫌いなジャンルではなく、どちらかというと好きなジャンルの筈なのに記憶に残っていないというのですから、多分、この作者深町秋生との相性があっていないのではないかと思います。

ところが、その後の深町秋生作品はどちらかというとのめり込んで読んでいるので、再び読み直そうかと思っているところです。

 

2014年に本書『新装版 果てしなき渇き』を原作とする映画が公開されました。役所広司という当代きっての役者さんを起用しての作品です。

「少なくともレンタルでも見ようとは思っています」、と以前はここにも書いてはいたのだけれど、残念ながら2022年6月の今になっても見れないでいます。

加奈子役の小松菜奈の演技がかなり衝撃的で高評価だった記憶があります。

 

 

ウルフガイシリーズ

満月の夜のおれ、犬神明を殺すことのできる者は、どのような手段によろうと、この世には存在しない。おれは犬神一族の生き残り、正真正銘の人狼なのだ。おれはルポライター。トラブルがおれのビジネス。トラブルはいつも向こうから飛びこんでくる。通りすがりの銀行にひょいと入っていくと、銀行強盗がオモチャのコルトを行員につきつけていたり、行く先々でジェット旅客機が墜落したり、追突した車のトランクからは全裸の美女の死体が転がり出す……。月齢が増すにつれ、おれの体臭は強くなり、力はみなぎる。おれは誇り高く心優しい狼男だ――。平井和正“アダルト・ウルフガイ”シリーズ第1作のノン・ノベル版が、生頼範義の表紙画&挿絵で復刻!( Amazon 内容紹介 より )

 

狼男を主人公とする、長編のハードボイルド小説です。

 

少々調べてみると、どうも単に「ウルフガイ」と言ってはいけないようですね。

私がお勧めしたいのは「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」と言わなければいけないようです。

 

確かに「狼男だよ」から始まる「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」とは別に、少年犬神明が主人公のシリーズがあったのは知っていました。しかし、その少年犬神明のシリーズが私が知っているより更に別なイメージで広がっているようです。

 

 

「月光魔術團シリーズ」以降は、その存在は知っていましたが、ウルフガイシリーズの作品だとは全く知りませんでした。勿論、と言っていいのか、全く読んでいません。

 

 

私がお勧めしたいのはあくまで「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」、それとごく初期に書かれた「ウルフガイ・シリーズ」です。

この頃の本作品は、どこか今のルパン三世にも似た能天気さがあり、しかしどことなくの哀しみを抱えたヒーローであり、読み始めたら、一気に最後まで読んでしまったものです。作者によると、アダルト犬神明は「アウシュビッツ帰りのジャン=ポール・ベルモンド」なのでそうです。

 

 

少年犬神明のシリーズも、当初の「狼の紋章」「狼の怨歌」「狼のレクイエム」あたりまでは面白く読んだ記憶があるのです。しかし、それ以降は知りません。何より幻魔大戦が変な方呼応に進み始めた頃からのこの作者の作品はお進めできません。

ちなみに、私が読んだ当時は祥伝社のノン・ノベルとして出ていたのですが、その後角川文庫や徳間書店からも出版されていて、書籍のタイトル、作品の組み合わせが異なることもあるそうです。以下のリストは、ウィキペディアに倣ったものです。

ちなみに、上掲のAmazonへリンクしている書籍リンク写真、楽天へのリンク写真などは、Kindl や Kobo といった電子書籍へのリンクになっています。通常書籍は古書としてしかないようで、電子書籍へのリンクとしています。

アダルト・ウルフガイ・シリーズ(完結)

  1. 狼男だよ
  2. 狼よ、故郷を見よ
  3. リオの狼男
  4. 人狼地獄篇
  5. 人狼戦線
  1. 狼は泣かず
  2. 人狼白書
  3. 人狼天使(第1部-第3部)
  4. 若き狼の肖像

ウルフガイ・シリーズ(完結)

  1. 狼の紋章
  2. 狼の怨歌
  3. 狼のレクイエム(第1部・第2部)
  1. 黄金の少女(全5巻)
  2. 犬神明(全10巻)

月光魔術團シリーズ(完結)

  1. 月光魔術團(全12巻)
  2. ウルフガイDNA(全12巻)
  3. 幻魔大戦DNA

ウルフガイ番外編 (完結)

  1. ウルフランド(狼の世界)
  2. 女神變生