ウルフガイシリーズ

満月の夜のおれ、犬神明を殺すことのできる者は、どのような手段によろうと、この世には存在しない。おれは犬神一族の生き残り、正真正銘の人狼なのだ。おれはルポライター。トラブルがおれのビジネス。トラブルはいつも向こうから飛びこんでくる。通りすがりの銀行にひょいと入っていくと、銀行強盗がオモチャのコルトを行員につきつけていたり、行く先々でジェット旅客機が墜落したり、追突した車のトランクからは全裸の美女の死体が転がり出す……。月齢が増すにつれ、おれの体臭は強くなり、力はみなぎる。おれは誇り高く心優しい狼男だ――。平井和正“アダルト・ウルフガイ”シリーズ第1作のノン・ノベル版が、生頼範義の表紙画&挿絵で復刻!( Amazon 内容紹介 より )

 

狼男を主人公とする、長編のハードボイルド小説です。

 

少々調べてみると、どうも単に「ウルフガイ」と言ってはいけないようですね。

私がお勧めしたいのは「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」と言わなければいけないようです。

 

確かに「狼男だよ」から始まる「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」とは別に、少年犬神明が主人公のシリーズがあったのは知っていました。しかし、その少年犬神明のシリーズが私が知っているより更に別なイメージで広がっているようです。

 

 

「月光魔術團シリーズ」以降は、その存在は知っていましたが、ウルフガイシリーズの作品だとは全く知りませんでした。勿論、と言っていいのか、全く読んでいません。

 

 

私がお勧めしたいのはあくまで「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」、それとごく初期に書かれた「ウルフガイ・シリーズ」です。

この頃の本作品は、どこか今のルパン三世にも似た能天気さがあり、しかしどことなくの哀しみを抱えたヒーローであり、読み始めたら、一気に最後まで読んでしまったものです。作者によると、アダルト犬神明は「アウシュビッツ帰りのジャン=ポール・ベルモンド」なのでそうです。

 

 

少年犬神明のシリーズも、当初の「狼の紋章」「狼の怨歌」「狼のレクイエム」あたりまでは面白く読んだ記憶があるのです。しかし、それ以降は知りません。何より幻魔大戦が変な方呼応に進み始めた頃からのこの作者の作品はお進めできません。

ちなみに、私が読んだ当時は祥伝社のノン・ノベルとして出ていたのですが、その後角川文庫や徳間書店からも出版されていて、書籍のタイトル、作品の組み合わせが異なることもあるそうです。以下のリストは、ウィキペディアに倣ったものです。

ちなみに、上掲のAmazonへリンクしている書籍リンク写真、楽天へのリンク写真などは、Kindl や Kobo といった電子書籍へのリンクになっています。通常書籍は古書としてしかないようで、電子書籍へのリンクとしています。

アダルト・ウルフガイ・シリーズ(完結)

  1. 狼男だよ
  2. 狼よ、故郷を見よ
  3. リオの狼男
  4. 人狼地獄篇
  5. 人狼戦線
  1. 狼は泣かず
  2. 人狼白書
  3. 人狼天使(第1部-第3部)
  4. 若き狼の肖像

ウルフガイ・シリーズ(完結)

  1. 狼の紋章
  2. 狼の怨歌
  3. 狼のレクイエム(第1部・第2部)
  1. 黄金の少女(全5巻)
  2. 犬神明(全10巻)

月光魔術團シリーズ(完結)

  1. 月光魔術團(全12巻)
  2. ウルフガイDNA(全12巻)
  3. 幻魔大戦DNA

ウルフガイ番外編 (完結)

  1. ウルフランド(狼の世界)
  2. 女神變生

平井 和正

青春時代が昭和30年代から40年代前半だという人なら殆どの人は知っている桑田次郎作画でヒットした名作「8マン」や、石森章太郎作画の「幻魔大戦」の原作者です。

SF作家として「メガロポリスの虎 」「アンドロイドお雪」など実に面白かった事を覚えています。当時私は中学生ではなかったでしょうか、狼男を主人公とした「狼男だよ」を読んで、その一人称のかっこいい文体に驚き、憧れたものでした。

はっきりとは覚えていないのですが、多分平井和正のどの本かのあとがきで大藪春彦について書いていたはずなのです。その文章で大藪春彦という作家と作品を知り、ハードボイルドという言葉も知ったと記憶しています。

愚か者死すべし

本書は沢崎シリーズの、第二期のスタートを告げる作品。大晦日、新宿署地下駐車場に轟いた二発の銃声とともに、沢崎の新たな活躍が始まる。(「BOOK」データベースより)

 

私立探偵沢崎は旧パートナーを訪ねてきた依頼人を、依頼人の父親が逮捕されているという警察署まで送ったとき、丁度出てきた依頼者の父親である暴力団組長銃撃事件の容疑者を狙撃しようとする車を見つける。

沢崎がその車に自分の車をぶつけたため容疑者への狙撃は失敗したものの、連行していた刑事が死亡してしまうのだった。

 

私立探偵沢崎シリーズの、第二期のスタート作品だそうです。昔第一期作品のうち何冊かを読んだ筈なのですが、書名やその内容は全くと言って良いほど覚えていません。ただ、いわゆるハードボイルドの典型的作品だと思った記憶だけあります。

実際、本作がそうでした。しかし、何か感情移入できない。昔読んだ原尞はこんな作品だったっけ、と思いながら読みました。

では面白く無いのか、と言われれば面白いというしかないのです。ハードボイルド小説を好きな人なら殆どの人がこの作家の名前を挙げるでしょうから、結局は私の好みとずれがあるということなのでしょう。

原 尞

日本でハードボイルド小説といえばこの作家、原尞を挙げないわけにはいかないでしょう。そのくらい正統派のハードボイルド作家として愛されてきた作家さんだと思うのですが、いかんせん寡作です。そのすべてが沢崎探偵の物語ですが、19年間で長編4作、短編1作、エッセイ集が一冊という出版数なのです。

この少ない出版数で第102回直木賞、ファルコン賞、第9回日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞を受賞し、第2回山本周五郎賞の候補に挙がっています。

どこか東直巳の畝原探偵を思い出しました。ただ、畝原探偵の方は家族を守ると言う意味も含めて生活臭が前面に出でいるのに比べ、沢崎探偵にはその匂いは全くありません。個人的には畝原探偵の方好みなのですが、正面からチャンドラーのような物語というと原尞作品になるでしょうか。

この作者はレイモンド・チャンドラーが好きなそうです。であればフィリップ・マーロウということになりそうなのだけれども、マーロウのような軽口は叩かないのです。まあ、そのような探偵であればフィリップ・マーロウものを読めばいいわけで、わざわざ原尞が同じような主人公を描く必要もないので、それは当り前なのでしょう。

蛇足ながら、原尞という人は元々フリーのジャズピアニストだそうです。この人のジャズを聴いてみたい気がします。

不夜城 [DVD]

新宿歌舞伎町を舞台に、愛と裏切りが交錯する馳星周のベストセラー小説を金城武主演で映画化したサスペンスアクション。劉健一は謎の女・夏美と出会い愛を信じようとするが、皮肉な運命が彼らを非情な結末へと導く。“<東映 ザ・定番>シリーズ”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

かなり昔に見た映画の筈ですが、内容をまったく覚えていません。

マンゴーレイン

タイ生まれの日本人、十河将人。彼はバンコクで再会した幼馴染から、中国人の女をシンガポールに連れ出す仕事を引き受ける。法外な報酬に、簡単な仕事。おいしい話の筈だった。だが、その女と接触した途端、何者かの襲撃を受け始める。どうやら女が持つ仏像に秘密が隠されているらしい―。張り巡らされた無数の罠、交錯する愛憎。神の都バンコクで出会った男と女の行き着く果ては。至高のアジアン・ノワール。(「BOOK」データベースより)

 

東南アジアを舞台に繰り広げられる長編の冒険小説です。

 

「雨期の訪れを告げる夕立」のことをマンゴーレインという、と本文中にありました。

本書は、ハードボイルドの定義にもかかわってくるのですが、ハードボイルドというよりも冒険小説と言った方が良いでしょう。

主人公の行動の客観的な描写という点ではそうかもしれませんが、主人公個人に対するこだわりよりも物語性に重きが置かれている感じがするからです。

 

骨太の、読み応えのある作品とは感じるのですが、何故か作品に距離を置いてしまいます。なぜか私の琴線に触れず、この作家の次の作品を読もう、とはなりませんでした。

軽くは読めません。そうではなく、きちんと書き込まれたノワールものが好きな人にはもってこいの作品ではないでしょうか。

不夜城

アジア屈指の歓楽街・新宿歌舞伎町の中国黒社会を器用に生き抜く劉健一。だが、かつての相棒・呉富春が町に戻り、事態は変わった。生き残るために嘘と裏切りを重ねる人間たちの危険な物語。(北上次郎)(Amzon内容紹介より)

 

新宿歌舞伎町を舞台に展開する名作と言われる長編のノワール小説です。

 

劉健一は歌舞伎町の中国系やくざの世界で生きていたのだが、かつての相棒呉富春が新宿に帰ってきたことにより、中国系やくざとの抗争が始まる。

 

これまでの日本やくざとの戦いという枠からはみ出した設定や、登場人物の徹底して情を排した生きざまなど、新感覚のハードボイルドと言われることの多い作家です。

でも、確かに新宿の裏社会を描き中国語が飛び交うという新しい設定ではあるのですが、どちらかと言うと、船戸与一などの雰囲気を感じました。

理由は良く分からないのですが、それは書きこまれた描写よるものなのでしょう。

 

この作品はそれなりに引き込まれて読んだ筈なのですが、何故か次の作品を続けて読もうとはしませんでした。やはり、相性が今一つだったとしか考えられません。

暗いトーンで人間の負の部分を描き出します。重苦しいとまでは言いませんが、明るいタッチを好む方には向きません。でも、人間の負の側面であってもじっくりと読み込もうという方は虜になるかもしれません。

 

本書は1998年に金城武主演で映画化されています。

 

馳 星周

1965(昭和40)年、北海道生れ。1996(平成8)年、日本ミステリ界に衝撃を与えた『不夜城』でデビュー、吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞する。1998年、『鎮魂歌―不夜城II―』で日本推理作家協会賞を受賞。1999年、『漂流街』で大藪春彦賞を受賞する。主な作品に『ダーク・ムーン』『生誕祭』『長恨歌―不夜城 完結編―』『トーキョー・バビロン』『弥勒世』『エウスカディ』『淡雪記』『光あれ』などがある。( 馳星周 | 著者プロフィール | 新潮社 : 参照 )

 

かなり前に『不夜城』という作品を読んだのですが、先日久しぶりに『マンゴーレイン』という作品を読むまでこの人の作品は全く読みませんでした。

その他の作品を今まで読んでいないということは、波長が合わなかったのでしょう。この作家の作品は殆どの作品がノワール小説だということですが、そのこととは関係は無い筈です。

馳星周はジェイムズ・エルロイが好きだそうですが、私がジェイムズ・エルロイには今一つ入り込めなかったので、やはり波長が違うというしかないのだと思います。

 

それに、この人の作品自体は第15回日本冒険小説協会大賞日本部門大賞や第18回吉川英治文学新人賞を受賞しているし、ベストセラーにもなっているのですから、一般的には面白い作品を書く作家だと評価されているのです。

マンゴーレイン』は面白いと思ったので、正確には当時の私と合わなかったと言った方が良いのかもしれません。

と書いてはいるものの、現在(2020年1月)に至るまで他の作品に手が伸びていません。やはり私の波長と合っていないという方がよさそうです。

 

追記: 著者は『少年と犬』という作品で、2020年下期の直木賞を受賞されました。

 

 

いわゆる動物ものの連作の短編集で、岩手から九州までを旅した一匹の犬の、旅の中での人々との出会いを描いた、2020年下期の直木賞を受賞した連作の短編小説集です。

ノワール物とは異なる、馳星周の新たな魅力が発揮された、決して明るい作品ではないものの妙に暗くならない、感動的な作品でした。

ちなみに、直木賞受賞に伴いあらためて馳星周という作家を調べると、馳星周というペンネームは、監督であり俳優でもある周星馳(チャウ・シンチー)からとっているということ、大学時代は日本冒険小説協会の創設者である内藤陳の「深夜プラス1」でアルバイトをしていたなどの事実に驚かされました( ウィキペディア : 参照 )。

化石の荒野 [DVD]

“西村寿行の小説を原作に映画化したサスペンスアクション。終戦前夜、5,000キロの金塊を積んだ1機の爆撃機がオホーツクで消息を絶つ。それから36年後、現職の部長刑事・仁科が殺人犯に仕立て上げられ…。渡瀬恒彦と夏八木勲の格闘シーンが見どころ。”(「キネマ旬報社」データベースより)

 

未見です。

黄金の犬 [DVD]

西村寿行の同名小説を元に描いたサスペンス。武器輸出に絡む汚職事件を背景に、その秘密を握る主人を失った猟犬の姿を描く。北海道標別岳の麓で主人を失った猟犬・ゴロは、通産省武器課長の永山勇吉に助けられる。“角川シネマコレクション 9月度”。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

かなり昔に見た筈ですが、内容は記憶にありません。